饒舌な混乱 4
あんまりSCPを出せませんでした。
露骨にたとえとかで出した方が面白いかなとは思うんですが、ネタ用に取っておきたいSCPが増えるといかんせんやりづらくなってしまってあまり出せていない状況です。
山のような大男は、片手に鉄球を持っていた。
モーニングスターのようなものとは違い、つかみやすく何か加工のされているまさに玉だった。
それを持ってこちらへとゆっくりと詰め寄ってくる。
投げるのか……?
そう思い俺は身構えた。
投げてくれるのであれば好都合だ。
いくつか思い描いていた策の中でも一番手っ取り早い方法で無力化できるうえに、命を奪うことはない。
しかし、その予想は裏切られることとなった。
轟音とともに、地面がえぐられる音を聞いたのが最初だった。
一瞬何が起きたかは把握しきれなかった。
俺の体は、きりもみしながら空中を飛んでいく。
「ゴッ……ウブェッ……」
一応何かに使おうと出場前にまとっていたSCiPが、よくあるありえないほどの硬さを誇っていてくれたおかげで身体内部に異常はなかったものの、痛みは肺の空気をすべて吐き出させ、恐れは足を麻痺させる。
一瞬意識が飛んだ時に切ったのか、気が付いた時には口の中が血液の味に染まっていた。
地面に手をつき、なんとか体を起こして体勢を立て直す。
何が起きたのかは今の少しの時間で分かった。
突進して、俺をあの鉄球で殴ったのだ。
油断をしていたとはいえ、一発目は不意すぎた。
予想外の攻撃に防御しきれなかった体は、ここまで痛いのかと久しぶりに実感する。
しばらく前にサイト主任になってから俺は、実験よりもサイト管理やDクラスの収容など博士という肩書すら必要ないのかもしれないほど管理職に寄っていた。
痛みには慣れているつもりだったのだが、そんな生活を続けていたせいか久しぶりの痛みには少し恐怖を覚えた。
しかし、恐怖も一瞬のみ。
痛みは怖いが、そんなものを怖がっていられるほどの状況でもない。
それに、昔を思い出すようで少し楽しくもなってくる。
Dクラスの実験に巻き添えになり、全身大やけどをした時なんてこの何倍もの痛みだった。
しかし、それによって得られた情報もあった。
その喜びを細胞に組み込んでいるからだろうか。
いつの間にか犠牲は報酬の対価として当然のごとく支払われるものだと思っていた。
だから今確信したのだ。
この勝負、勝ったと。
一撃で殺せなかったことは、つまりこちらの反撃を、そしてこちらの対処を許すことだと。
幸い相手はこちらを子供だと思っている。
観客も俺が立ち上がったことに疑問を抱いていない。
逃げるために立ち上がったとでも思っているのだろう。
今度は慎重に、相手の行動を感じ取って動こうと決めた。
あれは鉄球ではない。グローブだと考えるんだ。
手の長さからしてそこまで攻撃範囲が広いわけではない。
あいつはよけられる。
大きな衝撃が来る前、貯める動作もしなければならないはずだ。
慎重に、丁寧に見極める。
久しぶりに失敗できない実験をしている気分だ。
ああ、これが高揚感なのか。
ニヤリと俺が笑ったと同じタイミング、大男は構えの動作に入った。
隙が大量にある、しかし絶対に誰をも寄せ付けないその威圧的な銃弾は今まさに発射された。
俺もそう何度も食らうほど馬鹿ではない。
右手の鉄球は左側まで回ってこない。
俺はこの距離を大男が飛んでくる最大の時間を利用して、極力距離を取るように直角にダッシュした。
さっききりもみして飛んで行った人間にそこまでの体力が残っているとは思っていなかったのだろう。
大男はブレーキをかけきれずに壁に激突した。
ガラガラと崩れる壁。
その中から大男が出てきたとき、俺はもう反撃の準備に出ていた。
的は大きい。外すことはない。
そう頭に思い込ませ、手に持ったそれを投法に沿って投げる。
本来はウナギを投げる動作だったせいかあまり速度は出ないが、今飛ばしているのは弾丸よりも殺傷力の高いものだ。
それに、そこまで遠い距離というわけでもない。
確実に当たる。そう確信した。
空気の流れによってすこしそれたそれは、本来俺の想定していた足に当たるはずだったにもかかわらず大男の右手に当たってしまった。
手に持っていた鉄球を思わず取り落とし、大男はうめき声をあげる。
その手には数ミリほどの穴が開いていた。
「ギリギリ当たった……」
そうつぶやけるのは、飛んで行った鉛筆が手に当たるのが見えたからだ。
観客席からもどよめきが聞こえた。
こんな少年が大男相手に一矢報いているのだ。
まずありえない光景に息をのんでいる。
いや、興奮していると言った方が正しいのだろうか。
今にも殺されそうなネズミが、歴戦の猫を噛んだのだ。
遠く、観客席のさらに上、VIP席ではロットが足を踏み鳴らして怒っているのが見える。
ざまぁ見やがれと思うが、しかしここからこの状況を打破できるものは今のところない。
このままあの大男が突進してきたとして、残弾の無い俺はただの的だ。
よけ続けてもいずれ疲弊して食らってしまう。
いくらSCiPの強固性を身にまとっていようと、口の中を切っている事実がある以上どこかにほころびが生じて体内に損傷をおこしかねない。
どうしようかと構えていると、大男は鉄球を左手に持ち替えこちらをにらみつけてきた。
血走った眼はずっと話さない口元と違い怒りを露骨に表現している。
左手で持っている鉄球は、先ほどと違い手のひらにハンドボールのように収まっていた。
振りかぶる動作に入ったのは言うまでもない。
速度はそこまで出ないが、あんなものが飛んできたらひとたまりもないことは事実だ。
しかし、ここはひとつ受けて立ってみようではないか。
ピンチだと思わせることは、相手に油断をさせるということだ。
つまり、こちらの最大のチャンスでもある。
腰のベルトから、控室でナイフで細く削った棍棒を出す。
さぁ、マイク・トラウトも青ざめる場外ホームランとしゃれこんでやろうじゃないか。
今回はこの作品に基づいて書かせてもらいました。ありがとうございます。
"nekomiya_guu"様作「SCP-718-JP - 奇祭「鰻飛ばし」」
http://ja.scp-wiki.net/scp-718-jp
"Alias Pseudonym"様作「SCP-585 - えんぴつけずり」
http://www.scp-wiki.net/scp-585 本家
http://ja.scp-wiki.net/scp-585 翻訳版
"watter12"様作「SCP-439-JP - ホームラン量産法」
http://ja.scp-wiki.net/scp-439-jp
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対人スキル最強のはずなのに”肥育魔法”特化で何も殺せない呪いをかけられてしまいましたが、それでも頑張っていこうと思います。
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