遺物と異物 3
新しいキャラが出てきますが、まだまだ最初の場所から動いていなくてちょっと焦っています。
こんなにもキャラって動かないものなんですね。
ただ、その分より良くかけたかなと感じています。よろしくおねがいいたします。
部屋を出る前に、ケースの隠し場所を探す。
ベッドの下以外にもなにかないだろうかとサイドテーブルをあさってみた。
まず、とは言ったがここ以外には探すところがないほどにこの部屋は簡素ではあるのだが。
サイドテーブルの中にあった小さめのカバンくらいしかなかった。
カバンの中身は鉛筆とメモ帳だった。
「ラッキー」
俺はそうつぶやく。
片手に鉛筆を持ってとりあえず事細かく今の事象を書きとどめていこう。
後でインシデントレポートを書くときに絶対にあいまいな文言は許されないからだ。
ざくざくと書き連ね、書き終えるころには鉛筆の芯がほとんどなくなっていた。
しかし鉛筆削りはここにはない。
どうしようか、このままでは少し書きにくくなってしまう。
必要以上のメモが求められる今、この状態では少し不安が残る。
そうだ、こういうときにテストしてみればよいのだ。
この本のSCiPの能力は俺に引き継げる。
例えば……確かロシアの支部には鉛筆のSCiPがあったはずだ。
それに本部にもいくつか鉛筆削りのようなSCiPがあったはず。
正常な使い方ができるものは限られているだろうし、最初にふと思いついたあれは体まで引きずり込まれてズタズタに裂かれるから使えない。
際限なくとがらせることのできるSCiPがあったはずだ。
あれを使えるのであれば今のこの状況からは何とかできるだろう。
あるいはナイフを使えれば、物理的に鉛筆を削ることも可能なのではなかろうか。
どっかのオタク博士が応援していたSCiPは陰からのナイフを使った暗殺を得意としていたはずだ。
……いや、俺も対象を確認したことはあるがあれは包丁だったか。
とりあえず思いつく中では際限なくとがらせるものが一番楽だろう。
本を開き、ページをぱらぱらとめくって必要なものを探し出す。
あったあった。SCP-585だ。
メタタイトルなんてものをご丁寧につけているのはあの手紙の主の感性なのだろうか。
しかしあんな大量のものに名前を付けるかと聞かれると少し悩む。
どこからか引っ張ってきたか……?いいや、それだとすると財団のSCiPを全て把握している組織が居ることになる。
これも頭の隅に置いておかなければならないだろう。
やけにセンスが良いところがまたすこし感情に来た。
えっと、表紙裏に書いてあった方法でやってみるとするのなら……。
「SCP-585 えんぴつけずり」
そうつぶやくだけで能力が付与されるらしい。
俺の感覚で勝手に戻っていくので戻る方は念じるだけだ。
あと頭の中で念じることも可能ではあるらしいのだが、報告書を熟読して熟知していないといけないらしく、これはほとんど今の状況では必要のない方法だった。
この能力はしかしどこに付与されるのであろうか。
なんとなく手を筒状にし、鉛筆を削るような動作で動いてみる。
シャリシャリと音がして、鉛筆が削れた。
「おお、これは便利だ。この異常性から脱出できればこのSCiP候補は隠しておこうかな」
などとひとり呟く。見つかれば強制終了は確実なので絶対にしないが。
メモを終え、鉛筆を無事削り終えた。
削り終えたと感じたその瞬間に、俺の中から能力は消失したらしい。
削り終えた鉛筆を手に突っ込んでも、削れることはなかった。
カバンを抜いたサイドテーブルを見る。
流石にケースを入れられるほどのサイズではなかった。
ならば最高の隠し方はベッドの下しかない。
もう少し背丈があれば天井にも手が届いて、いろいろな策を練られたのだが今の俺の背丈ではこれが精いっぱいだ。
さて、やることもした。ここから脱出しようではないか。
よし……出て人に会ってもなるべく平常にふるまおう。
この体が今日まで過ごしてきた日々がどんなものだったのかはいまだに想像がつかないが、それでも相手の話に都合を合わせることはできるはずだ。
目深にキャスケットをかぶり、カバンを肩にかける。
どうやらこのかばんに本がすっきりと収まりそうだ。
他に入っていたものはズボンの方のポケットに突っ込んでおいた。
扉の前に立ってみたはいいがいかんせん背丈が低いためがドアノブの位置に違和感がある。
目の前にあるなんて光景は久々に見た。
手をかけてみて、開くかどうかを確かめる。
ドアノブは正常に動いてくれたが、それはドアノブだけの動作なのかもしれない。
ここで開かなければ死ぬしかない状況なのだと緊張はしたが、そんなことはつゆも知らぬといった風に普通に開いた。
「あぁ?ラッセルじゃねぇか。お前今日は闘技場の方で取材じゃなかったか」
扉の前には、青年が立っていた。
目の前の扉の前で突っ立っている。
とは言っても俺を待っていたわけではなく、丁度何かをしようとしていたようで足の向きだけは右を向いている。
「お、おはようございます。ちょっと寝坊してしまいまして……」
「なんだなんだ、えれぇかしこまってんな。疲れてるのか寝ぼけてるのかは定かじゃあないが闘技場で独占インタビューなんだろ?これで儲けて家賃、早く払ぇなよ。大家さんもさすがに二か月は待っちゃくれねぇだろうからな」
「えっと、ありがとう。これからどこか行くのかい?」
「おお、いつもの調子に戻ったな。俺はそうさな。昨日見た限りでは良いクエストが少々入っていたはずだからギルドの方へ向かう予定だ。一緒に行くか?闘技場はギルドの隣だったろ」
「ああ、そうしよう」
数度のやりとりで、俺は、いや俺のこの体はだれか持ち主が居ることが分かった。
そして、この住んでいるところは貸家なのだということ。
俺は何か記者であるということは分かった。
数分後、正面の扉に再度入っていった青年は準備を整えて出てきた。
腰には剣を携え、まるでファンタジー小説の登場人物のようだった。
いや、手紙の主によればファンタジーの世界なのだから当然のことではあるのだが。
「待たせたな。いやぁ、おめぇみてぇな新米記者様には分からねぇとは思うが、冒険者様には寝起きすぐに出立できねぇほどの準備ってもんがあるのさ」
「そうなのか。それにしては軽装だな」
なんとなく思ったことを口に出す。
「あ~?お前マジでどうかしたのか?そりゃあ軽装だろうよ。オレもおめぇもまだペーペーだろ?そんな高価なものは買えねぇよ。今日の依頼も街の周りのパトロールと、駆除依頼数件受けてくるだけさ」
「そ、そうだったな。すまない」
「いいってことよ」
剣を携えた青年は「さ、早くいかないとおめぇも俺も大変なことになっちまう」と言って俺の手を引いた。
「わっ」
つんのめるほどの力で引っ張られ、俺は若干強制的に走らされる形で外へと出たのだった。
「なぁ、ラッセルさんよ」
「ん?なんだ?」
出る直前に、青年が問いかける。
「オレの名前、言えっか?」
今回はこちらのSCPに基づいて書かれています。今回もありがとうございます。
作者不明「SCP-1150-RU 批評家」
http://scpfoundation.net/scp-1150-ru 本家
http://ja.scp-wiki.net/scp-1150-ru 日本語版
"Paul Henderson"様作「SCP-1307 - 人間削り」
http://www.scp-wiki.net/scp-1307 本家
http://ja.scp-wiki.net/scp-1307 日本語版
"Alias Pseudonym"様作「SCP-585 - えんぴつけずり」
http://www.scp-wiki.net/scp-585 本家
http://ja.scp-wiki.net/scp-585 日本語版
"home-watch"様作「SCP-835-JP - ゼノフォビア→消照闇子」
http://ja.scp-wiki.net/scp-835-jp
※SCP-835-JPはゼノフォビアに取り消し線が引かれ、矢印は存在しませんが表記の都合上このような形にさせていただいています。
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対人スキル最強のはずなのに”肥育魔法”特化で何も殺せない呪いをかけられてしまいましたが、それでも頑張っていこうと思います。
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