鼻高々簡単な浅はかさナンバーワン 3
色々と忙しい時期ですが、読んでいただけている方が多くいることが幸せです。
出来れば本家本元のSCP作品にも触れていただき、自分の好きなSCP作品を新しく一つでも見つけていただければ私がこれを書いている意味になると思いますので、そちらの方もぜひ。
ガサガサ、と分け入って道なき道を進みながら、カエルを探す。
「居た。準備できたか」
ハンドサインとともにシュバルが声を潜めて言った。先ほどよりも一回り小さく、しかしそれでも十分に大きなカエルがのほほんと水辺に座っている。
背中を一度軽くパンっと叩かれ、やるぞ、の一言が空気を一瞬で引き締めた。ナイフは右手にしっかりと握っている。鞘はシュバルに預けていた。
「こっちだ!!!!」
草を踏む音とともにシュバルが駆け出す。左方向へと走りながら、大きな声でカエルの気を引いていた。
俺はそれにワンテンポ遅れて、右へと走り出す。カエルはどちらを先に攻撃するか逡巡した後、シュバルの方へを目を向けた。俺はカエルの視界には入っているものの、比較的無視されている状況へと身を置く。ここでやっとカエルの目をまじまじと見つめることが出来た。
ここまで近くにいると、不意に目を逸らして逃げ出したくなるほどに生々しい。体表のぬめりは実際のそれを数万倍にしたために量も甚だしく多く、しかし地面にたれていないため膜のように覆いつくしている。
「目ぇ逸らすなよ、死ぬぞ」
シュバルはカエルと向かい合ったまま、こちらに一言なげかけた。それは鼓舞であり、死ぬことは無いというさっき聞かされた前提の下で成り立っている応援だった。ただその圧倒的さにどうしようもなく、一歩目が踏み出せない。じりじりとした緊張感をほぐしたのは、意外な一手だった。
『飛び込んでみてはいかがです?』
カインの言葉が緊張で張り詰めた糸の上を撫でる。糸電話の糸のように揺れるその緊張の糸を察知したのか、カエルは口を開け、舌を伸ばす予備動作を始めるところが見えた。
「今だ! いけ!」
そう言い終わるや否や俺は一歩、意識しない反射神経ほどの速さで俺の足は前へと自動的に走り出す。いくばくかの被害軽減のために地面を前転するという方法が賢明な判断だったかは定かではないが、とっさの判断を学ぶという点ではあの財団での恐怖の訓練も実を結んだのだと実感するほどに的確にカエルの懐へと潜り込むことが出来た。真上には、舌の根元。弱点だ。
振り向くとそこには、ピンクとも形容しがたい肉の色をしたカエルの舌がシュバルの槍とつばぜり合いになっていた。小さなカエルとはいえ力は相当あるのだろう。シュバルの足元には押された衝撃からかえぐれた地面が線のようになっていた。
「心配すんなって。こんなもん慣れてっから!」
『飛び込んだら、ほら。ナイフで切るか、あるいはですけど』
「あるいは?」
カインが含みのある一言を残す。
『SCPの力、使ってみてはいかがです? シュバルさんから見えない位置にいますよ、今』
シュバルの槍がカエルの舌をガン! とはじく音が聞こえた。つまり、タイムリミットが迫っているということだ。さらに言うのであれば、ここで次狙いを定められる相手といえば――俺。
「……やるしかない、か」
右手にナイフを持っていることも忘れてガシガシと無造作に頭をかく。まだ舌先はシュバルの元を離れていない。いささかの疲労感が逆に冷静な心持を取り戻させてくれた。
「まだ掴めてる! いけ!」
シュバルが叫ぶ。言い方からして舌先を掴んだまま綱引きのようなことをしているのだろうか。あの生々しい肉色をした舌先を握りこめるその精神力はうらやむべきだと考えさせられた。
『おすすめはSCP-117ですかね』
頭の中に響いてくる声であるからしてその必要はないにもかかわらず、カインは耳打ちするかのようにささやいてくる。
SCP-117……聞いたことがないものだった。しかし、今はその言葉を信じるしかない。
空気を吐く音が鼓膜にダイレクトに伝わってくる。息の音がクリアに聞こえるほどの集中力は久しぶりに感じるものだった。
「SCP-117……完全万能ナイフッ!」
知らないオブジェクトであるはずなのに、呼称が頭の中に浮き上がる。その声を聞き届けたかのようにナイフがぐにゃりと曲がり、気が付くと右手にはナイフではなく剣が握られていた。空間のゆがみを発生させるオブジェクトは報告書でしか読んだことが無かったが、このようなものなのだろう。
鉄製だろうか。黒光りし光沢のあるその刃は明らかにどこから取り出されたものでもなく、しかし手の中で鈍く使われることを待っていた。
驚く暇がないことは自負していた。それにこんな異常は日常だ。フッと軽く息を整えて見上げる。視線の先には舌を支える筋がまっすぐに伸びている。
踏み出す地面は、すでにえぐれていた。それが俺の足を固定する楔になってくれたことはうれしい誤算だった。
「うぉあらぁ!」
半分ヤケクソ気味にふるったその刃は、カエルの舌の根元に刺さった瞬間に瓦解した。バラバラと崩れ落ちるその刃はどうやら表面だけが鉄でできていたことを予測させるかのようにほとんどが石だった。
ボロボロと崩れる剣の中からナイフが出てきた光景を確認する暇もなく、頭から血をかぶってしまった。鉄の匂いはしなく、どちらかというと土くれのようなにおいが体中を覆っていく。
「はっはっはー! いやーびっくりだ。何か経験でもあるのか? ってくらいに遠慮が無かったな。サイコパスのケでもあるんじゃないか? なんて、冗談だよ」
そう言ってシュバルは懐から取り出した布切れで俺の頭、顔を拭く。疲れからかなすがままに俺はしばらく拭かれていた。
「あんまでも無理はしないでよ。一応死なないって言ったってミスったらシュバルだろうと打撲痕くらいは残るだろ」
「なんだー? 心配してくれてたのか。昨日今日知り合ったばっかりの赤の他人だってのにやさしいねぇトスクさんは。このシュバル様がワーテルトード討伐記念も兼ねて褒めて差し上げよう」
そう言ってシュバルは俺の頬の肉をこねくり回す。堰を切ったかのように安心感がどっとあふれて、その行為に対する怒りを行動に起こすことが出来るほどの元気は余力として出すことが出来た。
「いやー、すまんかったすまんかった。オレのお師様がこんなやり方やってたから。存外楽しいもんだな」
シュバルは抵抗した俺に掴まれた手首をいとも簡単に振りほどき、そのまま地面に取り落とした槍を拾う。
「次やったらナイフを目に刺すからな。あと一応中身はおっさんだぞ」
「見た目がガキなら基本的にゃガキよ。あと物騒なことは言うもんじゃないぞ。実際に起こりかねん」
シュバルは右手に持った槍を掲げてこちらに見せる。
「それに、ほれ。ワーテルトードの舌を受け止めてたのは柄の部分で、しかも先端だけ外れてんだろ? なんかあったらトスクを助けられるだけの準備をする余裕くらいはあるんだよ。冒険者なめんなよ?」
石突や柄についた粘液を瓶に詰めつつ、シュバルは言う。透明な小瓶の中が満タンになるほどに詰められた粘液は、その用途を想起できないほどにぬらぬらと照っていた。
折りたたまれた槍がシュバルの腰に収まるカチリという音が、ナツメグに依頼されたアイテムのうちの一つを無事手に入れることが出来たことを表していた。
地面に空いた俺の足跡型のくぼみにカエルの血が溜まっていたことに気が付かず、両足共に踏み込んでいたためか一歩一歩歩くたびに靴の中に不快感がつのる。
誰が善かは分からないが、ファンタジーの世界でなんとか生きていけそうな力の一端を身に着けることが出来た実感が逆にどっと疲労感を体中にかけ巡らせた。
今回参考にさせていただいたSCPはこちらです。
製作者不明「SCP-117 完璧万能ナイフ」
http://www.scp-wiki.net/scp-117 本家
http://scp-jp.wikidot.com/scp-117 日本語版
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対人スキル最強のはずなのに”肥育魔法”特化で何も殺せない呪いをかけられてしまいましたが、それでも頑張っていこうと思います。
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