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鼻高々簡単な浅はかさナンバーワン 2

iPadをしばらく前に購入したのですが、持ってみるともう二、三枚は欲しくなりますね。

そう言って買ったスマホを使っていないので結局はあきらめるのですが。

 店の前の通りには、ちらほらと通行人が歩いていた。ただ、この世界に来て初日に歩いたあの通りと比べればそこまでの通行人がいるわけではなく、しかし裏通りと言うほど人通りが少ないわけではなかった。


 そんなまばらな人の中をシュバルは俺を連れて進んで行く。しばらく歩いたのちに見えてきたのは、柵も塀もない、どこからかいつのまにか外になるような、そんな境界線だった。


「ん? どうした立ち止まって。なんかあったか? 腹? 頭?」


 そんな数瞬の戸惑いを感じ取ったのか、シュバルは振り返って俺の顔を観察してくる。


「いや、なんでもないよ。ただ柵もなにもないんだなぁって」


「あー、なるほど。そうか、常識だと思ってたんだがそうだな。交信して来た奴ならそれもありうるか。いや、なんも深い意味はないぞ。この世界は今のところ平和で、そんでもって住んでる人が全員何かしらの自衛手段を持ってんだよ。昔はいろいろあったらしいがな」


「なるほど。そういうことね」


 そうか、この世界はRPGの世界でも、ファンタジー小説のような冒険活劇が起こるような世界でもないのか。ただ、人々が平和に生きて……闘技場であったことは忘れるとして、表面上は平和に暮らしているらしい。


 そりゃあ暗い面はどこにでもある。財団にもあったらしいという話は何度となく聞いたことがある。都市伝説的で、主にSCP-001の話ばかりだったが。


「それこそギョウブのジジイみたいな店はオレらみたいな常連で成り立ってるから卸す武器もあんな感じだけどな、基本的に武器屋ってのは住んでる奴に自衛のためのアイテムを売ってる店だ」


 なるほど。銃社会を思えばよくできたルールなのだろう。


「あ、もしかして他国系の民族と先にコンタクト取ってみたかったとかあるか? あんまり時間かけすぎると姉御がうるせぇから先に頼まれたもんいくつか回収しとこうかと思ったんだが……」


「いや、そういうわけじゃないよ。大丈夫」


 ……正直言って見たいものが多すぎるが、あまり手を広げすぎたくはないというのが現状であった。


 消照闇子が言っていたことを思い出すなら、まだこの世界にはいくつかSCiPが潜伏していることになる。そいつらに感づかれる割合が「ワーテルトードの討伐」か「貿易商と会うこと」でどちらが高いかは言わずとも分かる。


「んじゃ、ワーテルトードの粘液の回収に行くわけだけども、だ」


 曖昧だろうと分かるほど明らかに街と外の境界線を越え、広い草原のような場所を歩く俺とシュバル。周囲には草食動物だろうか、こちらを歯牙にもかけないようなのほほんとした動物たちが草をはんでいた。


 シュバルはまとめられている槍の穂先の部分だけを外し、剣のようにして持ち歩いている。それに倣って俺もナイフを取り出した。


 店で見た時には分からなかったのだが、金属製のその刃は日の光に照らされて淡く玉虫色に乱反射している。緑のような、赤のような、青のような色が刃の溝の中を走っていた。


「はい! なんでしょうか教官!」


「教官って呼ばれるタマじゃねぇが、まぁいいか。んで、だ。トスクのその体はもともと新聞記者なわけだから、運動神経は下の下だといっても過言じゃない」


 なにかよく分からない闘技場で戦わされて、消照闇子とも死闘を繰り広げたから分かる。確かに俺のこの体は弱い。正直運だけでなんとかなっている気はする。


「んなわけで、この程度だったとしてもなんとかなるわけがない。ワーテルトードは正直クソ雑魚だが、それにしても一般人が簡単に勝てるもんでもないしな。ただ、そんなお前でも基礎さえ覚えてしまえば案外なんとかなりはする」


「そんなもんなんだ。意外っちゃ意外」


「そんなに驚くほどじゃねぇさ。ただ、攻略法さえ覚えれば子供でも倒せるってこと」


 段々と地面にこぶし大の石がゴロゴロと転がるようになりはじめ、さきほど歩いていたところよりも少し背の高い、腰ほどにまで伸びている草がぼうぼうと茂っている地形になり始めてきた。もうすでに草食動物の平和な空間は影も形も無くなっており、時折聞こえる重い足音が、何かがここに居ることを知らしめてくる。


「今の足音がワーテルトードだな。それじゃとりあえず一回倒してくっから、見てな」


 そう言ってシュバルは駆け足で歩いていた道を逸れるようにしてその草の中を走っていく。それに続くかのように俺もその後を追いかけた。


「……いた。あれがワーテルトードだ」


 そこには一匹の大きなカエルがいた。くすんだ緑色のその体は、生い茂った草に紛れ込むための物なのだろうか。しかしその予測に反して、その体躯は人間のそれと同じか、それ以上であった。少し開けた瓦のような場所で水浴びでもしているのだろうか。「大きい……」という声が口をついて出た。


 生物の進化には理由がある! と力説していたあの生物学者に見せれば大興奮間違いなしなのだろうが、あいにく俺の分野は生物学ではなかった。


「なんだ、トード種の大きさも常識じゃないのか。交信で来た奴と話したことは無かったが、そんなもんなんだな。んで、だ。こっから実践に入る。オレは今からあれを倒してくっから、良く見ときな」


「了解。ちなみにさっき言ってた攻略法って奴は……?」


「見てりゃわかるさ」


 シュバルは持っていた穂先の部分を腰に装着していた他の柄の部分にガチリ、とはめ込んだ。そしてそのまま、草むらから飛び出す。


 まず最初に動いたのはカエルの方だった。動物的本能が瞬発的な動作として「動くもの」に意識を向けたのだ。そこからカエルはこちらに気が付いたように舌を伸ばす。


 シュバルめがけて的確に伸びた舌は、しかしシュバルに当たることは無かった。シュバルが一手先を読むかのように右に数十センチ移動したからだ。


 ドゴっ、という音とともに舌の当たった地面から砂埃が舞う。


「ワーテルトードの舌は薙ぎ払うのには向いていない! 捕食時の捕獲に本来は使われるものだからな!」


 舌がカエルの口元に引き戻され、それと同時に走りながら大声でシュバルはこちらに言う。


「ほんでもって、ワーテルトードの急所が……ここ!」


 懐に飛び込んだのち、槍は舌の根元を貫いた。青黒い液体があたりにまき散らされ、カエルの目がグルンと後ろに開店する。


 カエルを蓑にして血をかぶらないようにしたシュバルが、カエルの舌から粘膜のようなものを採取した。


「とまぁ、こんな感じだ。舌に当たっても殴打くらいのもんだし、実際のところ何発あてられてもよほどじゃない限り死ぬこたない。毒もなければなんなら食える。なんかあったらオレも助けるしな。質問は?」


「なんで殺す必要があるんだ? 粘液だけなら舌でも切り取ればいいじゃないか」


「ん? そんなもんお前、こいつ食っちまうもん。農作物も、家畜も」


「あー、なるほど。実害があるタイプの雑食なのな」


「そそ、聞くことはそんだけか?」


「まぁ……ない、けど」


 正直、これ以上思い浮かぶことは無かった。だが、時間稼ぎはしたい。


 なぜならば、こんなもん勝てるわけがないからだ。毒がないとはいえ、一撃一撃は重い。砂埃が舞うほどの衝撃に耐えられる自信は、ない。


「じゃあ実践、習うより慣れろ、だ。オレが囮をやるから、トスクはまずとどめを刺す練習からだな」


「……それじゃシュバルが危険じゃない? 死ぬことは無いけど怪我はするだろうし……」


「そんなことはないぞ。ほれ、そこ見てみな。さっきの舌が地面にぶち当たったところ、砂埃は出ていたがえぐれてはないだろ?」


 にこにことした笑顔でシュバルは地面を指さす。確かにおおまかな検討はつくが、どこに舌が当たったかは分からないほどにクレーターのようなものは存在していなかった。


「それに、オレが万一にでもあたることは無い。一応冒険者やってんだぜ?」


 明るい笑顔は、安全を保障するという意味でエージェントや機動部隊の「応援に向かう」という冷酷で味気ない文面と比べると天と地ほどの差があった。


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