鼻高々簡単な浅はかさナンバーワン
SCP-1655を敵キャラにしようとしたこともありました。
「あーん? ナイフなんか使ってもあんまり意味はないと思うが……」
シュバルが俺の手に取ったナイフをのぞき込みながら言う。随分ときれいに磨かれているのか、その面にそって反射したいびつな形のシュバルがくっきりと見て取れた。
「あぁ、まだ駆け出しだしね。何があるかもわかんないし、シュバルについて回りつつ護身用の武器だけ持っておいた方が逃げやすいかなって」
「お、言うねぇ。オレを置いて逃げようとしたら道連れにしてやろう。名誉なことだと思え」
半分冗談、半分本気だとは口が裂けても言うつもりはなかった。後ろからガバッと覆いかぶさるようにしてシュバルが俺の頭を軽く小突く。
「茶番ならよそでやんな」
ギョウブはキセルをくゆらせながら、空いている手で俺とシュバルの方に杖を向けた。真っ赤な宝石が先にくっついているその杖はまるでRPGに出てくるようなまさにファンタジーのような代物だった。
「んだよー……って言ってもオレが使ってるのは槍とかだから、トスクには多分合わないしアドバイスもできないんだけどな。ま、ナイフでいんじゃねーの?」
俺から離れたシュバルは、頭の後ろで手を組んで腰からパイプの束のようなものを取り出す。それの一端を握り上に振り上げると一本の槍へと変化した。
「ほら、こんなん扱えないっしょ。トスクが交信前どんなだったかは知らないけど、今はその体躯だし」
シュバルは自分の頭頂部に手のひらをあて、そして二十センチほど下げたあたりで平行移動させた手のひらが俺の頭の真上にくる。
「年齢差、ってのもあるけど育ちと飯の問題だな。っつーわけでオレにアドバイスは無理だ」
「じゃあやっぱりナイフかな。扱いやすいだろうし」
「ほいならナイフじゃな。どんなのがええ?強度重視か、切れ味重視か」
「あ、オレから一つできるアドバイスあったわ。強度重視の方がおすすめ。色々やる上で万能だからな。あと安いし」
オレの使ってる槍もいろいろ使いようによってはナイフと同じように使えるから、物は使いようなんだけどな。と槍を折りたたみながらシュバルは付け加える。
「なんじゃい。高い、脆い、弱いの飾りナイフでも売りつけてやろうと思っておったが、邪魔だてしおってからに。ほれ、強度の高いやつじゃ。右から安い順に並べてやったんじゃから、身の丈よりちょっとでも良いモンを買っていきな」
ギョウブは立ち上がって店に置いてある樽や箱を探った。その中から十本ほどのナイフを取り出し、俺の目の前に並べる。
明らかに使いにくそうなものを除いて中央値のように真ん中に置かれているナイフを手に取ろうとすると、シュバルが俺の手首をつかんできた。
「ばーか、おごってやるから一本目はちょっと良いもん買っとけ。姉御には金を落とすとやべーがジジイに落としたらその分見返りはある」
そう言ってシュバルは俺の取ろうとしていた腕をグイッと左に動かし、片刃で刃渡り十センチ後半の大きさのナイフを選ぶこととなった。柄に滑り止めとして巻かれていたものが布ではなく、隙間なく巻きつけられた細い紐であることが特徴だった。
正直言ってこの大きさのナイフでさえ扱える自信はない。訓練をうけたと言っても、自己防衛のための必要最低限、しかも対人というよりも半分は”誰かを助ける”という名目の自己犠牲法がほとんどだった。だから、自爆特効のような使い方しか知らない。しかもサイトに常備してあるような銃火器で、である。
壊れにくいもの、というお題目で出されたものだが、このナイフは何製なのだろうか、あいにく鋳物も鍛治製法にも造詣は深くない。ステンレス製……なんて近代的なものではないことは確かなのだが。
OESがあれば成分分析でも可能なのだが、どうせ調べたところでいつものSCiPみたく異常なものがあるわけではなさそうだった。ファンタジーの世界なら純銀が悪魔にでも効くくらいか? そこにも疎い自分が歯がゆかった。
『そういえば、ナイフに異常性は付与できるんですかね? 鍵だのなんだのは宗博士の体で行われていたことですが』
頭の中でカインがひとりごちる。試してみる価値はありそうだったが、今ここで異常性を発露させるわけにはいかなかったので後回しにするしかなさそうだった。
「そういえばカイン、聞きたいことがあるんだが」
『はいはい、なんでしょう』
忘れていたことだ。なぜ忘れていたのかは分からないが、収容違反の時に見たじゃないか。なぜ今の今まで忘れていたのだろうか。
「カイン、あんたSCiP全部暗記していなかったか? 財団のトップ層が報告書にそう書いていたように記憶しているが……」
『あぁ、何事かと思いました。そうですよね、私を呼び出すときにもアレ、読んでましたし。それに財団日本支部において私とアベルの報告書漏れが起きたことも知っています。ですが何度も言いますけど、私、博識ですけど防衛できるほど万能ではないんですよねぇ』
「つまりは、忘れている……と」
『恥ずかしながら』
聞かなければならなかった重要情報を聞いていなかった自分にも、この状況に落とした畜生の用意周到さも、楽はできないという現状にも、頭を抱えるしかなかった。
「なに一人でブツブツいってんだよトスク。まだ時間あるから、とりあえずワーテルトードの粘液だけでも採取しに行くぞ。夕方までやることもあんまねぇしな」
カインと話しているうちに、意識の外ではシュバルが会計を済ませていたようだった。鞘に入った小ぶりのナイフをこちらに投げて渡してくる。
「利き手はどっちだ?」
「右だけど」
「じゃあ左で持っとけ。持ちにくいかもしれないが左持ち右抜きの癖付けは緊急時に助けてくれっから。あ、あとあんま剥き身で持つなよ。事故でも何かあったらまた牢屋行きだからな」
ベルトに挟む……というのが正解なのだろうが、あいにく今の服は簡素も簡素でどこにも挟める隙間が無かった。しょうがないので言われたとおりに鞘を左手で持つ。言われたほどの違和感はなかったが、それでも研究やら調査やらで持っていたものと根本的に用途が違ったために出る違和感に少し戸惑いがあった。
「ワシんとこで買った商品で捕まったら根性焼きじゃぞ。覚えときな」
ギョウブのキセルの先がこっちに向く。タバコなんかよりも数十倍恐ろしい怪我になりそうだと肩をすくめるしかなかった。
「ほいじゃ、交信後初の街の外だ。その、お前が戦った奴と比べたら大したことは無いかもしれんが、それでも一応モンスターだから気を付けていくぞ」
そのアドバイスのままに店を出る。町はすでに昼の日差しに包まれていた。
前書きのみですが今回参考にさせていただいたものは以下の通りです。
"Dmatix"様作「SCP-1655 - 悲哀のダニ」
http://www.scp-wiki.net/scp-1655 本家
http://scp-jp.wikidot.com/scp-1655 翻訳版
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対人スキル最強のはずなのに”肥育魔法”特化で何も殺せない呪いをかけられてしまいましたが、それでも頑張っていこうと思います。
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