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8話 シーサーペント

 さて、名前はともかく港ができたわけだが……、あとは、サンドワームの素材を干したり生活物資を置いてある拠点とこの港の間にはまともな道がないからな。そこを整備する必要がある。

 その辺りを今後の課題にしておこう。


「さて、そろそろ帰るとするか……、ん?」


 そのとき、かすかな殺気に気付く。


「なんだ……?」


 俺は、海の方へと視線を向けた。


「どうしました、マスター」

「構えろ、ルビナ。何かが海にいる!」


 ――ドパアァァァン!

 突如、海面が盛り上がった。


 俺の言葉とともに、入り江の奥から巨大な海棲モンスターが現れた。

 体長は五メートル以上あり、頭だけでも人間の胴体ほどの大きさがある。

 この前戦ったサンドワームよりも短いが、太さや威圧感はあのサンドワームと比べて遜色ないだろう。


 それは巨大な青緑色のモンスターであった。細長い身体にはあちこちにトゲの生えたヒレが突き出ている。

 そして、口元からはサメのような鋭い牙が生えていた。


「こいつは……、大海蛇、シーサーペントだ!」


 俺は思わず声を上げる。

 この近海に生息する海棲モンスターの中でも、かなり上位に位置する存在だ。

 なるほど、こいつが出没するからこの入り江には漁村ひとつなかったわけか。


「マスター! 後ろに!」

「ああ!」


 俺とルビナは、それぞれ杖と長剣を構える。

 俺が後衛、ルビナが前衛である。


 ――シギャアァ!

 シーサーペントは、鈍い黄色の瞳をギラリと光らせる。

 そして、大きく口を開け、こちらに向かって飛びかかってきた。


「させません!」


 ルビナはその動きを予測していたかのように、素早く前に踏み込む。

 同時に、右手に持った長剣を横薙ぎに振り抜いた。


 ――ガキィイインッ!! 甲高い金属音が鳴り響き、火花が散った。


 ルビナが振るった一撃が、シーサーペントの頭部を弾き飛ばす。

 しかし、奴はすぐさま体勢を立て直すと再びこちらへ向かって突進してきた。


 ――シギャアアァァァ!


 ルビナはそれを見越したように横にステップを踏み、紙一重で回避してみせる。

 そのまますれ違いざまに、今度はこちらの番だと言わんばかりに斬りつけた。


 だが、ルビナの斬撃は空を切る。

 シーサーペントは、まるで水のように首を波打たせて移動し、攻撃をかわしたのだ。


 そしてシーサーペントの喉元が特徴的な動きをする。

「あれは……、水ブレスだ! 《アースウォール》!!」


 俺は叫ぶと同時に、ルビナと俺を守るようにアースウォールを発動した。


 ――ドバアアァァン! 次の瞬間、凄まじい勢いで水が一直線に発射される。


 その水流は、俺の展開した土壁にぶつかって防がれたが、それでもなお威力は衰えず、俺たちの後方にある岩山を直撃した。

 轟音とともに、岩石が砕け散った。

 あんなものをまともに喰らえばひとたまりもない。


「ルビナ、気をつけろよ」

「はい、マスター」


 言うが早いか、ルビナは跳躍した。そして、空中からシーサーペントに狙いを定めて、長剣を振り下ろす。

 ――シギャアッ!? 予想外の攻撃だったのか、鼻先に一撃を受けたシーサーペントは悲鳴をあげる。

 その隙に、ルビナは着地するとすぐに追撃を仕掛けていった。


 ――シギャアァ! シーサーペントは、怒りの声をあげて尻尾を振るう。


「くっ……!」


 シーサーペントによって巻き上げられた大波が、ルビナを襲う。

 ダメージは小さいが、避けられない大質量にルビナの足元がぐらついた。


 好機とばかりにシーサーペントが大口を開け、ルビナに喰らいつこうとするが――


「《ストーンバレット》!」


 ――シギャアァ! 俺が放った石弾が、シーサーペントの横っ面に命中して怯ませる。

 そこへ、すかさず怯みから復活したルビナが長剣を突き刺す。


 ――シギャアアァァ!! シーサーペントは大きく仰け反り、身体を大きく震わせた。

 そして、口から大量の水を吐き出した。


「ぐあっ……!」

「きゃあぁ!」


 直撃こそ免れたものの、至近距離にいた俺たちはもろに余波を被ってしまう。

 全身びしょ濡れになってしまった。


「マスター、大丈夫ですか?」

「ああ、問題ない。……それより、そっちこそ平気なのか?」

「私は、この通り無傷ですよ。マスターのおかげですね」


 そう言って、ルビナは無表情のまま微笑んでみせる。


「よし、なら反撃開始といくぞ!」

「はい!」


 ――シギャアァ! シーサーペントは、再びこちらに向かってくる。


「跳べ、ルビナ! ――《ストーンピラー》!」

「……っ! はい!」


 俺は、石柱を作り出す土魔術、ストーンピラーを発動する。

 そして、すぐさま俺の意図を理解したルビナがそれを足場にしてジャンプし、シーサーペントの頭上まで飛び上がった。


 ――シギャッ? 突然のことに戸惑っている様子のシーサーペント。


 その顔面に向けて、ルビナは渾身の力を込めて長剣を斬り下ろした。


 ――シギャアアア!! シーサーペントが大きく仰け反った。


 ルビナは、そのままの勢いで回転しながら長剣を振り抜く。

 シーサーペントの顔面を両断とはいかなかったものの、横頬にあった巨大なヒレが寸断されて空を舞う。


「くらえ、《ストーンブラスト》!!」


 そこに、追撃として放った俺の攻撃魔法が炸裂した。


 ――シギャアァァァァァァ!


 激しく飛び散る無数の石弾を全身に受け、シーサーペントは再び悲鳴をあげ、よろめく。


 そしてシーサーペントは最後の力で暴れ回り、沖へと逃げようとする。


「逃がすか! 《ストーンピラー》!」


 ――シギャッ!?


 俺は、海底にストーンピラーを発動し、奴の逃げ道を塞いだ。


「とどめだ、ルビナ!」

「はい、マスター!これで終わりにします!」


 水滴をきらめかせながら跳躍する赤色の影。

 シーサーペントが背を向けるタイミングを見計らっていたルビナだ。彼女は落下と共に長剣を深々と突き立てた。


 ――ギャアアァァ…………!! ルビナの長剣は喉元に深々と突き刺さり、シーサーペントの巨体が、ぐらりと傾いた。

 そして、できたばかりの港に乗り上げるようにして倒れ伏した。


「やったな、ルビナ」

「はい、マスター」


 ルビナとハイタッチを交わす。


「そうだ、マスター。この港の名前ですが、ここを根城にしていたモンスターの名前を取って『ペンテイア』というのはどうでしょうか?」

「ペンテイア、いいね。それにしよう!」

「『シゴル港』よりはよほどよいかと」


 ルビナは、こちらをからかうようにそう言った。


「うるせえやい」

「ふふ」


 俺たちは笑い合った。


 こうして俺たちは、新たな拠点となる港を手に入れたのだった。



 ◆◆◆



「と、いうことがあったんだ」

「いや~、すまないすまない」


 俺は、整備が進んだペンティア港にて、再びリオンと会っていた。


 場所はペンテイアの中央にある屋敷の中、応接間として作った一室である。

 これまではデルポト郊外でひっそり立ち話をしていたが、これからは落ち着いて話せる、というわけだ。


 まあ、家具などは石造りの椅子とテーブルしかなく、いまだ殺風景なのは仕方ないとしよう。


「この入り江は、夜に陸地をひとりふたりで歩くぶんには本当に平和なもんだったんだぜ。まさか昼間はモンスターの縄張りになっているなんて思いもしなかったんだ。や~、本当に申し訳ない」


 リオンは苦笑しながら後頭部を掻く。


「まあ、モンスターの闊歩する南大陸の実情を知れたわけだし、いいってことよ」


 俺は、笑ってそう言う。


「そのぶん、シーサーペントの素材の買取価格に色を付けてくれよ?」

「はいはい、わかったわかった」


 リオンは、そう言って肩をすくめる。


「それじゃあ、どんどん船を手配してこの港に呼び寄せるぜ」

「ああ、頼む。向こうの目印をつけた倉庫に、モンスターの素材や、俺の作った陶器を運んでおくから、好きに持っていってくれ。頼んだぞ?」

「ん、了解了解。任せておけって。持っていったぶん、家具やら木材やらを俺の方で見繕っておく」


 俺の言葉を受けて、リオンは胸を張る。


 俺は、食料や生活必需品のほかに、この屋敷や建物を整備するための資材や家具などを取り寄せてもらうことにしたのだ。

 対価を貨幣で受け取ってもよいのだが、あいにくここでは使いみちがないからな。


「ところで、デルポトの町の方で最近話題になっていることはあるか?」


 俺は、国外追放の身であるためおおっぴらに町に行くことができない。

 そこで、代わりにリオンに情報収集を依頼していたのだ。


「ああ、そういえば、町はずれの鉱山の近くに、厄介なモンスターが出てな。懸賞金がかかっていて、冒険者たちが討伐しに行ったらしいんだけど、返り討ちにあったみたいでさ」

「ほう、どんな奴なんだ?」

「なんでも、体高が三メートルもある巨オーガだって話で、そいつが暴れまわっているせいで、採掘が滞ってるらしい」

「巨オーガか……、ふむ、興味深いな。ありがとう」


 俺は、リオンに礼を言うと、ペンテイアの屋敷を後にした。

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