5話 ダンジョン探索
俺は、俺が作った赤髪のゴーレム少女、ルビナ・アンティオークと魔物の討伐に出かけていた。
このあたり一帯は広大な砂漠地帯だが、それは生き物が少ないことを意味しない。
魔瘴風の影響を受け、魔力をエネルギー源とする強力なモンスターたちが闊歩する恐ろしい大地なのである。
俺はルビナは、モンスターがねぐらとしている枯れ遺跡(完全に探索され尽くし、得るものがないダンジョンのこと)に潜っていた。
――キシャア!
「ルビナ、そっちだ!」
「了解です」
物陰から突如として飛び出してきた巨大なサソリ型の魔物に対し、ルビナは長剣を振り下ろす。
ガキィンッ! という金属音が鳴り響き、弾かれた刃先が宙を舞う。
「くっ……」
サソリ型モンスターの持つ外骨格は硬い。ルビナの真っ向からの斬撃は弾かれてしまった。
「ルビナ! 弱点を付け! 甲殻の隙間だ!」
「はい、マスター」
指示に従い、素早く動いたルビナがサソリの右前脚を切り落とす。
サソリは悲鳴をあげ、のたうち回る。
その隙を逃さず、俺は魔術を発動させた。
「《ストーンバレット》!」
土属性初級魔法、石の弾丸を撃ち出す呪文。
放たれた岩塊の弾丸が、サソリの頭部に命中した。
――ギイィッ!
サソリが俺の方を睨み、欠けた前脚を無視して突っ込んでくる。
しかし、その隙を見逃すルビナではなかった。
「終わりです!」
振り下ろされた長剣が、サソリの頭、ストーンバレットで弱くなっていた頭殻を叩き割った。
「ふぅ……、お疲れさん」
「はい、お疲れさまでした」
戦闘が終了し、一息つく。
俺は、目の前にいる少女に話しかける。
「どうだ、長剣には慣れてきたか?」
「ええ、だいぶ。身体も馴染んできたように思います」
「そうか、なら良かったよ」
俺が生み出したゴーレムの少女、ルビナ。
彼女は俺の魂を分け与えられて生み出された存在であり、また俺の組み上げた魔術筋肉によってその膂力は人間離れしている。
しかし、その剣術のもともとの腕前は、あくまで俺の記憶に由来するものでしかない。
ここで、成長するゴーレム――、複製されつつも、別個の魂を持つ最大のメリットが発揮されるのだ。
彼女であれば、術者である俺という限界を超えて経験を積み、武術を極め、その身体に最適化された戦技を用いて戦うことができる。
本来、いかに強力な力を持つ巨大ゴーレムであっても、その身体の動かし方はひょろひょろの魔術師のものだ。
鈍重かつ単調な薙ぎ払い、踏みつけなどの動きしかできない。
ゴーレムが「単調な攻撃しかできない木偶」と冷遇されがちなのは、ゴーレムの動きが術士を超えられない制限にある。
それを考えれば、今はまだ発展途上にありながらも、着実に成長していくルビナはやはり別格の存在といえるだろう。
そんなわけで、俺たちは今、このダンジョンとなってる遺跡で戦闘経験を重ねているのであった。
「と、そうだ、《クリエイト・ウエポン》! ほらルビナ、さっきの戦いで切っ先が欠けていただろう。これを使え」
「ありがとうございます、マスター」
俺は、地面から一振りの長剣を取り出してルビナに渡した。クリエイトウエポンはアーススピアと硬化術の応用であり、付け加えた付与術式の影響で軽く丈夫である。
一息ついていたところで、騒音を聞きつけてきたのか新たなモンスターが姿を現す。
今度は岩でできた巨体を持つゴリラのようなモンスターだ。
「マスター、来ます」
「任せろ!」
俺は杖を構えつつ前に出る。
そして、迫りくる敵の拳を受け流しつつ、カウンター気味に《アースウォール》を地面から伸びさせる。
ゴキンッ! と嫌な音を立ててゴリラの腕がへし折れた。
「ウホゴァッ!?」
混乱する岩ゴリラに対し、ルビナが素早く飛びかかる。
狙いは脚のようだ。
「せいっ」
ルビナの長剣が、岩ゴリラの足を切り落とした。
たちまち、岩ゴリラはバランスを崩し転倒してしまう。
良い初動だ。経験が活きている。
「たっ!」
倒れる岩ゴリラへ、ルビナは飛びかかりながら蹴りを繰り出す。
盛大な衝突音をあげ、岩ゴリラの頭は遺跡の壁に突っ込んだ。
「良いぞ、その調子だ」
「はい!」
俺の言葉に応えながら、ルビナは残った腕を叩き割ってとどめを刺した。
「ふぅ……」
「お疲れ様です」
「ああ」
戦闘を終えた俺たちは、倒したモンスターの死体から素材を回収する。
この岩ゴリラから取れる甲殻は武具に使えるのだ。
他にも、サソリの毒針や爪などの有用な部位を回収していく。
「しかし、今日はなかなかの数を倒したな」
「はい」
「さぁてと、これだけ暴れていれば、そろそろ『ヤツ』が出ていていい頃合いだが……」
俺はそう言いながら、周囲の気配を探る。
その時だった。
――グオォォオオオッ!! 遠くの方で凄まじい雄叫びが上がった。
それと同時に凄まじい地響きが伝わってくる。
どうやら、俺の読み通り『当たり』を引いたようだ。
「行くぞ!」
「はい」
ついに、お目当てのモンスターが出てきたのだ。