1話 ゴーレム使い、追放される
「大罪人シゴル・アンティオーク! 貴様に判決を言い渡す!」
裁判長の無慈悲な声が、がらんどうの王立裁判所に響く。
すんでのところで壊滅は逃れられたものの、隠し難い先の敗戦の損害。
責任を取らせようのない王弟、責任を押し付けあった軍部と魔導部。
(――その責任の押し付け先が、俺というわけか)
「首席宮廷魔術師としての功績は大である。せれど、先の会戦における敵前逃亡、および命令無視によって我が王国軍を危機に陥らせた罪は重い!」
これはきっと、俺以外の全員にとっての予定調和なのだろう。
並びいる大臣たちは顔の色ひとつ変えていない。
「……よって、シゴル・アンティオークよ! 現時点をもって貴様を宮廷魔術師の任から外し、そして市民権を剥奪、国外追放とする!」
訳のわからないまま臨んだ裁判は、ろくな抗弁の暇もなく判決が言い渡された。
(父さん、師匠、すまない……)
こうして、フロウス王家直属の宮廷魔術師、その席次第一位、シゴル・アンティオーク……、すなわち俺は、このときをもって家無しの職無しになったのである。
◆◆◆
脇を衛兵に固められつつ、冷たい地下廊下を歩いていると、不意に後ろから声がした。
「くくく、いいざまだなァ、シゴル」
「テレウス!?」
振り返って見れば、勝ち誇ったように嗤う同僚――宮廷魔術師第二席のテレウス――の姿があった。
「テレウス……、お前なら知っているか。教えてくれ、これはいったいどういうことだ……?」
「どういうこと、とは?」
テレウスは、象牙色のローブをひらめかせて応えた。
「どうして俺が身分を剥奪されて、王国を追放されなきゃならないかってことだ!」
「どうしてって……、身分と実力にふさわしくない職から外された……。ただそれだけだろう?」
俺の質問に、テレウスはいやみったらしい笑みを浮かべる。
その笑みを見て、俺は勘付いた。
テレウスら火属性魔術派閥は、俺の属する土属性派閥と対立関係にある。まさかとは思っていたが……、こいつらが俺たちを軍部に売ったのか!?
「いいかいシゴル君、宮廷魔術師とは国王陛下に直に仕える名誉ある官職! たかだか小役人の子が就けるものじゃあないんだよォ!」
「テレウス……っ、貴様っ!!」
王都近郊の町で役人をしながら、けっして高くない給金を貯めて、俺に本を買い与えてくれた父の姿が浮かぶ。
俺が魔術師として歩み出せたのも、今は亡き父が本を買ってくれたおかげである。
俺の脳裏をカッとした怒りの熱さが支配した。
「平民風情が宮廷魔術師、それも俺を上回る首席魔術師だなんて! …………そんな不相応な位に能力不足な者が就いていたから先の戦争は負けたんだ」
「ばかな! あれは、あれは……っ!」
続けて放たれたテレウスの言葉に、俺は返しを迷ってしまった。
王国軍の総指揮官たる、王弟殿下の判断ミス。
おおっぴらに言える者は誰もいないが、ある程度戦場を知る者なら、知らぬ者はない周知の事実である。
だが、それゆえにここで言うことははばかられた。
俺は、むしろその判断ミスをリカバリーし、全軍の崩壊を防いだはずなのに!
ゴーレムを駆使する俺の魔術は、その気になれば数千人の兵士に相当する。失われれば回復の難しい本物の兵士、人命を救うため、俺は最後まで戦場に留まり、最後のゴーレムが砕かれて術者たる俺自身も危うくなるまで時間稼ぎに徹していたのだ。
それなのに、畜生……!
「さあ、君は宮廷魔術師には能力不足だったんだ。他国で相応の職につくとよい。まぁ、偶然だとしてもこの私に並んだくらいだから? どこぞの下級貴族の子飼いにはなれるんじゃあないかな?」
「テレウス、貴様……!」
「さあさ、首席魔術師殿。いや、もう君は首席魔術師ではないんだったなぁ。ただのシゴル君。さっさと荷物をまとめて出ていきたまえ」
「くっ………!!」
テレウスが合図を出すと、衛兵が俺を連れて歩き出す。
あからさまな嘲笑に、俺はただ耐えるしかなかった。
テレウスの笑い声は、薄暗い廊下に反響して消えていった。
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