二つの顔を持つ聖女。敵には容赦致しませんわ。
わたくしは聖女アリスティアと申します。今はこの国のトール王太子殿下と結婚をし、王太子妃となりましたが、この国の為に祈りを捧げ聖女としての仕事をしながら暮らしております。
トール王太子殿下はとても優しく、わたくしを気遣って下さり、幸せな日々を送っていたのですが。
「わたくしが次代聖女イレーヌ。平民出身の貴方は、王太子妃にふさわしくないわ。
わたくしは公爵令嬢。離婚してわたくしに王太子妃を譲りなさい。それでいいですわね?トール王太子殿下。」
イレーヌ・マテリア公爵令嬢が現れて、わたくしとトール王太子殿下に別れろと迫ります。
トール王太子殿下は、言って下さいました。
「私はアリスティアを愛している。別れる気はない。」
イレーヌが叫びます。
「トール様。元々、わたくしと貴方様は婚約関係でしたわよね。それを婚約破棄したのは貴方。わたくしはそれはもう傷ついて傷ついて。貴方は平民の女を聖女だからと選んだんですもの。ですから別れて頂戴。わたくしが次代聖女。この女は聖女の力が無くなり利用価値がなくなります。国を想う貴方は国を聖女に守って貰わないと困るでしょう?」
驚きました。この人がトール王太子殿下の元婚約者だったなんて。
「本当ですか?トール様。」
「ああ…イレーヌは私の婚約者だった女性だ。私としては不本意だった。彼女は浪費癖があって…しかし、まさかイレーヌが聖女だったなんて。」
ああ…どうしましょう。わたくしはもう少しで聖女としての力を失ってしまう。
聖女としての力があるから、トール王太子殿下はわたくしと結婚してくれたの。
聖女としての力が無くなってしまうわたくしは…
ああ…
「トール様。わたくしは貴方様と別れた方が良いのでしょうか?」
「私は君と別れたくはない。アリスティア。」
トール様はわたくしを抱き締めて下さいましたわ。」
イレーヌは笑っています。
「それならば、隣国へわたくし行ってしまおうかしら。そうしたら、この国は亡びるわね。
だって貴方だって、聖女の仕事が嫌になって逃げたじゃないの?聖女アリスティア。いえ、その前は聖女アルメリーダを名乗っていたわね。」
ああああああっ…そうだわ。わたくしはアルメリーダ。アルメリーダを名乗って国を捨てた事もあった。
それをトール王太子殿下が連れ戻して下さったのだわ。
わたくしの中のアルメリーダが囁く。
- この女をこのままにしておいていいの?
わたくしだって、トールを愛しているわ。
ほら…邪魔者は殺しなさい。アリスティア。わたくしが出て来てあげる。
だから…殺しなさい。-
でも…わたくしは…
「トール様。わたくしは、わたくしが原因で二度とこの国を苦しめたくはありません。
わたくしはこの国を出て行きますわ。」
「嫌だ。行かないでくれ。」
「お願いですから。どうか…イレーヌ様とお幸せに。」
わたくしは、少ない荷物を持って、夜、こっそりと王宮を出ました。
わたくしが出て行けば、トール王太子殿下はきっと…イレーヌ様と結婚なさるでしょう。
王宮の門を出た途端、背中に痛みが走りました。
胸からナイフが突き出ていて。
わたくしは刺されたんですわ。
こんな所で死ななければならないだなんて。
ああ…トール様っ…トール様…
「アリスティアっ。どこだ?どこだっ???」
「わたくしはここにいるわ。トール。」
「え??血だらけじゃないか。すぐに手当てを。」
ドレスの胸は血で真っ赤に染まっているけれども…
「大丈夫よ。わたくしはね。でもアリスティアは死んだわ。」
「何だって?それじゃ君は??」
「アルメリーダよ。双頭の聖獣の生まれ変わりのわたくし達は二つの命を持っているわ。
アリスティアは殺された。あの女にね。わたくしはあの女を滅ぼす。
わたくしの名は悪女アルメリーダ。いいわね?トール。」
「イレーヌは次代の聖女だ。」
「ふふん。でも人殺しよ。何が聖女よ。わたくしよりタチが悪いわ。だから殺す。」
情けないトール。彼は王太子にしては優しすぎるわ。
あの女はまだ聖女の力に目覚めていない。
だからこの手で殺してやるわ。このアルメリーダが…覚悟なさい。
イレーヌが住むマテリア公爵家にわたくしは忍び込んだの。
アリスティアと違って、わたくしは身体能力も高いのよ。
うふふふふ。さぁ、イレーヌはどこかしら。
イレーヌの部屋を探し当てて、忍び込んだわ。
ベッドの上のイレーヌは驚いていたわよ。
そりゃそうでしょうね。
殺した女が立っていたのだから。
「よくもわたくしを殺してくれたわね。」
「何で貴方生きているの?アリスティア。」
「違うわ。わたくしは聖女アルメリーダ。いえ、悪女アルメリーダよ。
うふふふふ。さぁ貴方を殺してあげる。アリスティアを殺したんだもの。
当然の報いよね。」
あの女は恐怖で顔を引きつらせておりました。
でも、わたくし容赦はしませんわ。
「うふふふふふ…チョウチョが飛んでるっ…」
イレーヌの様子がおかしいと、マテリア公爵から王宮に報告がありましたのよ。
それはそうでしょう。彼女の精神をズタズタにわたくしの力で殺してあげましたから。
もう、正常に戻る事はない。
次代の聖女?消えたからには、又、新しい聖女が現れるから心配ないわ。
トールがやって来たわ。
「君がやったのか。アルメリーダ。」
「貴方がもたもたしているからよ。」
「君って言う女は…」
「悔しくはないの?アリスティアは殺されたのよ。愛する女を守れない男はクズよ。」
「すまない…アルメリーダ。私は弱い人間だ。」
わたくしは笑ってやったわ。でも…ね…わたくしも貴方が好きなのよ。トール。
「仕方がないわね。アリスティアを返してあげる。」
「アルメリーダ?」
「わたくしの命をアリスティアにあげるわ。だから…お願い。今度、アリスティアが危ない目にあいそうになったら守ってあげて欲しいの。もう双頭の聖獣の命は一つしかなくなるから。」
わたくしはトールの頬にチュっとキスを落としましたわ。
ああ…わたくしも生きてトールの傍にいたかった。
でも、トールが愛しているのはアリスティア。あの子を返してあげましょう。
トールは涙を流して言ってくれたわ。
「有難う。アルメリーダ。」
「どうかあの子をお願いね…」
わたくしは…わたくしアリスティアが光を感じた時、心の中に大きな喪失感を感じましたわ。
「アリスティア。戻って来てくれたんだね。」
トール王太子殿下に抱き締められながら、わたくしは…涙を流したの…
アルメリーダはわたくしに命をくれた。
アルメリーダだってトール様を愛していたのに…きっと傍にいたかったでしょう。
わたくしは、貰った命を大切に、トール様の為に、国の為に使うわ。
本当に有難う。アルメリーダ。わたくしは貴方を忘れないわ…