表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜明けの光をあつめながら  作者: 白石ヒカリ
1章 星がふる世界
9/75

9.星がふる世界

伊織さんに『家まで送る』って言われたけど、私はそれを断った。

理由は、『行きたい場所』があるから。


だから今日は、伊織さんと夏帆ちゃんとは、待ち合わせしたショッピングモールの噴水前でお別れ。


伊織さんも私に手を振りながら、すごく嬉しい言葉を掛けてくれる。


「七瀬ちゃん、何かあったら、すぐに相談してよね。

こんな俺達だけど、力になれることはあるはずだから」


「はい、ありがとうございます。

ご馳走様でした」


私はそう言って頭を下げると、伊織さんは『笑み』をこぼして、夏帆ちゃんと一緒に歩いて行った。


その姿を見た私も歩き出し、『目的地』に向かう。

その『目的地』は少し遠いけど、散歩が好きな私だから、気にしない。


イヤホンを自分の耳につけて、好きな音楽を聞きながら、すっかり暗くなった街を歩き出す。


そして、ショッピングモールから歩いて三十分。


着いた場所は、全く人気のない海辺だった。

近くに古びて機能をしていない灯台があるだけ。


・・・こんなところにきた理由は、ただ一つ。


それは、『空』を見上げたかったから。

『通常では見えない世界』が、ここには広がっているから・・・・。



私が住む桜町。


ここは何もかも『中間的』な立地で、『北斗会』と言う裏社会の組織のおかげで、治安もいい。

『住居希望者も多数いる』と噂がある。

市長も『この桜町には力を入れている』って、大きくメディアで言ってくれたっけ。


そんな桜町だけど、実は九割以上の人間が知らない『秘密』がある。

まだみんなの知らない『桜町のいいところ』がある。


それは、『星がふる世界』と言われている、すごく神秘的な場所・・・・。


これは一部の人には、すごく有名な話なんだけど、『世界で一番綺麗なプラネタリウム』を映し出す、海外の施設の館長さんが言った言葉ある。


それは、『この世界で一番綺麗な星が見える場所は、日本の桜町だ。

それも、海辺近くの灯台のすぐ側だ。

まるで星が降ってくるように、一つ一つの星が輝いて見える』ってね。


その言葉を私に教えてくれたのは、その桜町に住む、私のおばあちゃんだった。

おばあちゃんもまた『星が大好きな人』で、私にも様々な星を教えてくれた。


実は私のおばあちゃんは昔、『星が大好きな星博士』だと、周りから言われていた。

おばあちゃんの職場であった『理容室ステラ』は、おばあちゃんと同じように『星好きのお客さん』が多く、理容室はいつも『星の話』で盛り上がっていた。


ある時は、おばあちゃんがお客さんに『星座の名前を当てるクイズ』を出したりして、クイズに正解したらたらお店で使える『クーポン』を渡して、お客さんを集めていたようだ。


でもおばあちゃんの『マニアックすぎる問題』に、お客さんはみんな苦戦。

お母さんの話だと、誰一人と問題を解いた者は、いなかったみたいだ。


だから『星のことなら詳し過ぎるおばあちゃん』に、『星博士』と名付けた人がいた。

巷じゃおばあちゃんの『星好き』は、結構有名だったらしい。


まあでも、これらは全て『私が生まれる前』の話だけど・・・・。

そんなおばあちゃんに『いいところがある』と言われて連れて来られたのが、この灯台のある桜町の海辺だった。


それは今から、十二年も前のことになる・・・・。


私は酷くお母さんに怒られ、ずっと『家に帰りたくない』と泣いていた。


私が泣いていた理由は、家族三人で外出した時に『欲しいぬいぐるみ』があったけど、お母さんは買ってくれなかったからだ。

大きなウサギのぬいぐるみ。

欲しかった理由は、ただ可愛かったから。


そしてずっと泣いていた私だったけど、『顔を上げてごらん』って、おばあちゃんに言われたから、私は言われた通り顔を上げてみた。


本心の見えないおばあちゃんの言葉に、まだ右も左もよくわかっていない四歳の私は、『空』を見上げる・・・・。


すると、まるで手を伸ばせば届きそうな、『幾千幾万の星々』が夜空に広がっていた。

プラネタリウムの施設の館長さんが言ったように、『星が降ってくる』ような夜空に浮かぶ、一つ一つの星達の輝き。


そしてそのあまりにも『衝撃的な光景』に、私は『泣いていること』を忘れていた。

目の前のただただ美しい世界に、私の涙は消えて、私に『笑み』が戻っていた。


初めて訪れた『星がふる世界』に、私は一瞬で『星の魅力』に取り込まれてしまった。


おばあちゃんが言う『自分がどんな最悪な状況に追い込まれても、星だけは綺麗に輝いて見える』って言葉を、当時四歳の私は『心』に刻みながら。


・・・・そして、あれから十二年。


今日もその『星がふる世界』にやってきたけど、目の前の光景は、『十二年前』と何一つ変わっていなかった。

言葉を失うような、夜空に輝く様々な星達。

流れ星だって、ここからだったら見ることが出来る。


本当に『異次元の世界』だと、私はいつも思う。

『どんなに辛くても、この輝きを見たら、一瞬で忘れてしまうんではないか?』って思わされるような世界。


私はここに来ると、いつも座っている大きな石に腰掛けた。


同時にまた夜空を眺めて微笑んだ。

『この場所を知っている私は、本当にラッキー』って、少し変なことを考えながら・・・・。


周囲を見渡しても、ここには人はいない。

こんなにも『綺麗な世界』なのに、ここには私だけ。


本当にこの街の住人は、この『星がふる世界』を知らないようだ。

『なんだかもったいない』って思う自分がいるけど、『逆によかった』って思う自分もいる。


だって、『こんな素晴らしい世界を知っているのは私だけ』って知ったら、なんだかすごく『得をした気分』だし。

なんだか『私だけの世界』って感じがするし。


・・・って、私は何を思っているんだろう。


まあでも、そんなことはどうでもいっか。

ここなら多少、『変なこと』を考えても許される気がするし。


何より今は、この『星達』を見て癒されたい。

最近ここに来れなかったし。


ちょっと『辛いこと』が続いていたし・・・。

おばあちゃんも、『最悪な状況』だし・・・。



「おや?

君も星観察?

なかなか『おしゃれな趣味』だね?」


無警戒だった私の耳に聞こえた、男性の声。


振り返ると、そこには大学生くらいの見た目の男性が立っていた。

短髪のイケメンさん。

この星に興味があるのか、何万円もしそうなカメラを首からぶら下げている。


プロのカメラマンの人で、星を撮りにきたのだろうか?


もちろん私は、この人の事を知らない。


「えっと・・・・」


私の言葉に続くように、彼は答える。

同時に彼は笑う。


「ただの『星好き』さ。

名乗るほどのものじゃないよ」


「はあ・・・」


なんて言葉を返していいのか、私にはわからなかった。

名前とか名乗ってくれたら、私も自分のことを少しでも話せたのに。


でも彼は私を気にせず、自分のペースで私に問い掛ける。


「君は星座の名前とか、わかるの?」


私は少し考えてから答える。


「あ、いえ・・・・。

星座とか、私には全くわからないです。

ただ私、星が好きなので。

星を見るのが好きなので」


本当だ。

おばあちゃんは『星座』について、なんでも知っていたが、私は違う。


私はただ星が好きなだけ。

おばあちゃんに星座について叩き込まれそうになったが、私は断った。


・・・・だって、私は『星を眺める』のが好きなだけだから。

無理矢理『星座』を覚えようとしたら、『星が嫌いになりそう』だと思ったから。


・・・・でも目の前の人は、どうなんだろう。

『カメラをぶら下げて星を見に来た』ってことは、相当星に詳しい・・・・ハズ。

家で撮った写真を眺めているのだろうか?


・・・・少し聞いてみよう。


「・・・・そう言うそちらの方は、星に詳しいのですか?」


「いや、全然」


「え?」


彼の即答に、私は少し混乱した。


もしかして、『最近星が好きになった人』だろうか?

だから、『まだ星に詳しくない』とか?

それとも、私と同じの『星空マニア』なのかな?


うーん、わからない・・・・。


一方の彼は、小さく微笑むと言葉を続ける。


「何か『変なこと』を言ったかな?

僕はただ星が好きなだけ。

こうやってカメラに星を収めるのが好きなだけさ。

まあでも、こうやって空を眺めて、『自分の目』で星を見ることの方が、好きなんだけどね」


・・・・って言うことは、『私と同じ』ってことかな?


私は彼のような高そうなカメラは持っていないけど、携帯電話で何度か夜空を撮っている。

実際に私の携帯電話の待受画面は、ここで撮った『夜空の写真』だし。

あまり上手くは撮れてないけど・・・・。


「・・・・さてと、僕はもう帰るよ。

君、まだ中学生か高校生でしょ?

親に心配されないように、早く帰るんだよ?」


『来てまだ三分くらいしか経過していないのに、もう帰るのか?』って思ったけど、私を心配してくれるような彼の言葉に、私も言葉を返す。


「あ、はい。もちろん!

すぐ帰ります」


そう慌てて私は言葉を返すと、彼は笑った。

そして彼は私に手を振って、この場を去ろうとする。


・・・・『意味深な言葉』と共に。


「じゃあね。星野七瀬ちゃん」


「・・・・・え?」


『どうして私の名前を知っているんだろう?』


そう思ったけど、彼の姿はいつの間にか消えていた。

温もりも何もない。


どこを見渡しても、彼の姿はない。


私は『有名人』ではない。

『習い事で賞を取った』とか、『中学の部活で輝かしい成績を収めた』とか、そう言うのじゃない。

運動は苦手だから、野球部の『マネージャー』のような役割だったし。


まあ一応『バスケットボール部』だったけど。

私がいた中学校はまだ『マネージャー』みたいなポジションはなかったから、ほぼ『ボランティア』みたいな形で野球部に参加していたし。


ちなみにバスケ部には、殆ど顔を出したことはなかった。

練習すらしない『ダメなバスケ部』だったから、逆に顔を出せば『驚いた顔』で部員に見られたし。


もちろん『バスケ部の大会』なんて、私は出たことがない。

って言うか、『部活』として機能していないから、『他の部員も大会には出たことがない』と思うし・・・。


・・・・って、そんな『私の中学時代の部活のこと』は今どうでもよくって。


「誰なんだろう、あの人は?」


結局、その言葉だけが、私の脳裏に残った。

その後も星を眺めて続けても、なぜだか彼の顔が脳裏に映し出される。


なんて言うか、『妙に気になる人』だったし。


でも『会った記憶』は無いけど・・・・。

『イケメン』だったから、 記憶に残ったのだろうか。


・・・・・って、そんなことはどうでもよくって!



・・・・それからも、私は星を眺め続けた。


『家に帰ったらおばあちゃんが待っているから帰ろうかな?』って思ったけど、この星を見続けたら、もうすっかり『帰ること』を忘れていた。

時々星空を携帯電話のカメラで撮ったり。


でも写真写りが悪いから、すぐに消したり。

『さっきの人のようなカメラを買おっかな?』って思ったり。


『でも我が家にはそんな余裕はないから、絶対ダメだ』って自分に言い聞かせたり。

でもやっぱり『カメラ欲しいな』って思ったり・・・・。


・・・・そんなことを考えながら、星を眺めていたら、かなりの時間が経ってしまった。

流石に帰らないと、お母さんに怒られる。


お母さんには『少しだけ星を眺めてから帰る』ってメッセージで伝えてあるけど、帰りが遅かったら意味がないし。

お母さんは怒ると『怖い』から、もう怒られたくないし・・・・。


・・・・帰ろう。

そう思った私は腰を上げた。


そして来た道を戻り、『早く家に帰って、今日もおばあちゃんと一緒に寝よう』と思った。


・・・・けど。


・・・・突然聞こえる、男の人の声。


それも少し怖い声・・・・。


「おい、そこに誰かいるのか?」


その声と共に『光』が見えた。

懐中電灯の光だ。


夜空の星がハッキリ見える程だから、この辺りはすごく暗い。

私も携帯電話のライトを使って、ここまで来たし。

さっきのカメラをぶら下げた人も、懐中電灯を使っていたし。


そしてその光を見続けていたら、『男の人』が現れた。


しかもその男の人はある意味、今一番出会いたくない人。


「あ、えっと・・・・」


目の前の男の人が『知り合い』とか、そう言うのじゃない。

ただ目の前の人の『職業』を考えたら、今からの自分の姿が『不安』に思ったからだ。


でも別に『悪いこと』はしていないと思うけど・・・・。


目の前の人は、『警察官』だった。

テレビや実際に見る警察官がよく来ている服装を、目の前の男の人は着ているんだ。

間違いない。


って、どうしてここに『警察の人』が?

私に用があるの?


でも・・・・どうして?


・・・・そんなことを思っていたら、私の中の『不安』が強くなった。

さっきの『綺麗な夜空』を忘れてしまいそうな、大きな不安。


私、どうなるんだろうか・・・・。


一方で、警察官は怒った声で私に問い掛ける。


「こんなところで何をしているんだ。

家出か?」


「ご、ごめんなさい!

えっと、『星を見に来た』って言うか・・・」


「何が『星』だ。

早く帰れ。

こんな時間まで外をふらつきやがって。

今何時だと思っているんだ?」


「ごめんなさい・・・・」


不安に押し潰されそうな私は、『謝る』しか選択肢はなかった。


同時に『早く帰ろう』と思う気持ちが強くなった。

さすがに『警察のお世話』にはなりたくないし・・・・。


この状況をあまり理解出来ていない私は、警察官に頭を下げて、この場を去ろうとした。

確かに携帯電話で時間を確認したら、夜の『十時』を回っている。


と言うか、もうすぐ『十一時』だし・・・。

伊織さんと夏帆ちゃんと、長く店内で話していたから、時間を忘れてしまったみたいだし。


でも『帰ろう』と、来た道を戻ろうとしたけど、なぜだか警察官に止められた。

私は警察官に腕を掴まれて、動きを止められる。


って、何するの?

まさか・・・・逮捕?


・・・・え?


「・・・・ちっ。

めんどくさいが、家まで連行する。

住所教えろ」


連行?

住所?


「あ、えっと」


「早くしろ!」


怒鳴る警察官の言葉に、私はまるで『糸の切れた人形』のように、おとなしくなってしまった。


そしてそれからの記憶は、あまりない。


でも気が付いた頃には、私はこの警察官の車に乗せられていた。

パトカーじゃないけど、車の向かう先は、間違いなく私の家の方向だった。

向こうも警察官一人だけみたいで、車の中には私と警察官の二人だけ。


ってか、この人はいったい誰なんだろう。


どうして私を?

どうして『私があの場所にいる』ってことを?


何一つ『現状』を理解出来ない私には、わからない・・・・。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ