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夜明けの光をあつめながら  作者: 白石ヒカリ
1章 星がふる世界
8/75

8.佐々木兄妹

少しおばあちゃんとお話しした後、私は家を出た。

向かった先は、またショッピングモール。


ショッピングモールの一階の入り口には、大きな噴水があるから、多くの人が待ち合わせに使っている。

ここの住人に『噴水前に集合』と言えば、みんなこのショッピングモールの噴水の前に集まる。


時刻は午後六時二十一分。


私はイヤホンで音楽を聴きながら、佐々木さんの到着を待った。

周囲を見渡しながら、時間をつぶす私。


ちなみにここに来て、『二十分』が経過した。


・・・・佐々木さんから連絡が来ていた。

『遅れるからショッピングモール内で時間つぶして』ってさ。


なんでも急に『用事』が出来たみたい。


佐々木さんの言う通り、ショッピングモール内で時間を潰しても良かった。


でも今日は『疲れた』のが本音。

歩き回るくらいなら、『自分の好きな音楽を聴きながら、ベンチに座っている方がマシ』だと思うし。


何よりちょっと眠い。

そして暑い・・・・。


今日も最高気温は『四十度』まで上昇した。

暑すぎる気温に『気力』を奪われ、何もしたくなっかった。


佐々木さんには悪いけど、帰って寝たい。

クーラーが効いているショッピングモール内は最高だから、気がつけば寝てしまいそうだ。


と言うか、半分寝てる・・・・。



・・・・待つこと更に十分。


佐々木さんがやって来た。

私の元まで小走りでやって来て、佐々木さんは申し訳なさそうに笑みをこぼす。


それと佐々木さんの隣、誰かいる・・・・。


「あ、お疲れ様です・・・・」


そう言って、私はベンチから腰を上げた。


佐々木さんも引き続き『申し訳なさそうな顔』を浮かべて、声を返す。


「ごめん、遅れちゃった。

んで、急遽『妹』が参戦することになったんだけど、いいかな?」


「わ、私は別に・・・・」


その少し緊張した私の声に、佐々木さんは隣の『妹』に視線を移す。


「よかったな夏帆カホ

挨拶しろよ」


夏帆。

その名前の少女に、私の視線が移る。


佐々木さんによく似た顔立ちで、ショートボブのとても可愛らしい女の子。

でもちょっと不機嫌?


ってか私、睨まれている?


「佐々木夏帆ササキ カホ

・・・・よろしく」


声も不機嫌そうに、妹さんは私に挨拶をしてくれた。

顔はさっきと変わらず、私を睨みつけるような不機嫌な顔・・・・。


確か朝の佐々木さんの話だと、『佐々木さんの七つ下』って言っていたっけ。

佐々木さんは『二十二歳』って言っていたから、妹さんは『十五歳の中学三年生』ってところだろうか。


ってか、私よりも『年下』だよね?

私、『高校二年生の歳の十六歳』だし。


・・・・それでタメ口?

・・・・あれ?


「星野七瀬です・・・。

よろしくお願いします・・・・」


『どうして私が敬語なんだ?』って疑問に思いながら、私は軽く頭を下げて妹さんに挨拶。


ってか私、この子に何かしたかな?

なんだか『もう嫌われている』ような気がするのだけど・・・・。


そしてその『変な関係』に、佐々木さんも気が付いてくれる。


「あれ?もしかして、もう喧嘩してる?

出会ってまだ『二十秒』くらいしか経過してないのに。

・・・・あれ?」


喧嘩までは行っていないと思うけど、『あまり良くない展開』ってことだけは理解した。

どう言うことかわからないけど、『嫌な予感』がする・・・・。


と言うか私、今日『無事』に家に帰れるだろうか?

帰り道に妹さんにボコボコにされて、ゴミ捨て場に捨てられないだろうか?


・・・・考えすぎかな?

でもなんか、怖くなって来た・・・・。



お腹を空かせた私たちがやって来たのは、このショッピングモールのレストラン街。

和洋中と色なレストランが並ぶこの場所は、たくさんの人で賑わっていた。

夏休みだから学生も多い。


って、最近『学生』しか見てない・・・・。


佐々木さんに『何料理が食べたい?』って聞かれたから、私は『なんでも良いです』と答えてしまった。

と言うか、さっきから夏帆ちゃんの視線が怖くて、思ったような言葉が出て来なかった。


この変なやり取り、いつまで続くのだろうか?


でも『食べたいものは、特にない』のが本音だ。

昨日食べたオムライス以外だったら、なんでも良いかも。


まあ別にオムライスでも良いけど。


・・・・結局自分達が、何が食べたいのかわからなかったから、私達はレストラン街を歩き回った。

そして足が止まったのは、少し値段の高い、とても美味しそうな中華料理屋さん。


佐々木さんの『ここで良い?』って言葉に、私と夏帆ちゃんは二つ返事。

と言うか、どのお店も並んでいるから、この中華料理さんしか、すぐに案内してくれなさそうだし。


私達はお店に入ると、すぐに席に案内された。

店内は空いていて、お客さんも少ない。


ってか『中華料理』って、あんまり人気がないのだろうか?

レストラン街にいるお客さんはみんな『寿司屋』や『焼肉屋』とかに並んでいるし。

私はお寿司や焼肉より、『中華料理』の方が好きなんだけど。


佐々木さんはとても『気配り』が上手な人だ。

席に座ると、私と夏帆ちゃんに向けてメニューブックを開いてくれた。

このお店じゃ、単品で頼むより『セット』の方がお得みたいだ。


「何食べる?

ってか、中華って久しぶりかも」


佐々木さんの言葉に、夏帆ちゃんが呆れた顔で言葉を返す。


「昨日ラーメン食べてなかった?」


「ラーメンは歴とした、『日本料理』だよ。

俺が言っているのは、『小籠包』とか『春巻き』とか、『麻婆豆腐』のことを言っているの。

って、『料理の違い』なんて、まだ『子供の夏帆ちゃん』には早い話だったな」


子供という言葉なのか、その佐々木さんの『挑発じみた言い方』に問題があるのか・・・・。

夏帆ちゃんは『お兄ちゃん』である佐々木さんを睨みつけた。

まるで、『喧嘩なら買うよ?』っていうような、夏帆ちゃんの怒った表情。


「うるさいな・・・・って痛い!」


でも『お兄ちゃんの力』によって、夏帆ちゃんの表情はすぐに崩れる。

柔らかそうな夏帆ちゃんの頬を、強くつねる佐々木さん・・・・。


「なんて言った?夏帆。

また『お兄ちゃんには逆らえない』ってことを、教えないといけないの?」


「ごめんごめん!

痛いのは嫌だから!」


「ごめんは一回だけ。

ホント、すぐに調子に乗るんだから」


そう言った佐々木さんは、夏帆ちゃんの頬から手を離すと、私を見て微笑んだ。

『生意気だけど、可愛いだろ?』って言っているような、佐々木さんの表情。


そんな佐々木さんの表情に、私も言葉を返す。


「仲良いんですね」


喧嘩するほど仲がいい。

その言葉をテレビで聞いた気がするけど、『まさしく今の二人にピッタリ』だと思った私は、そう言ってみた。


と言うか、『兄妹で外出するだけで仲がいい』と言える証拠にもなるはずなのに。


「どこが?このクソ兄貴」


でも私の言葉を、夏帆ちゃんは否定する。


まあでも私から見たら、それは『否定』と言うより『お兄ちゃんと仲がいいことを認めた言葉』に感じるけど。


ってか、『クソ兄貴』ときたか・・・・。

『怖い妹』は言葉通り怖い・・・・。


でもそんな『怖い妹』を沈めるのが、『伊織お兄ちゃん』だ。

また夏帆ちゃんの頬を掴んで、夏帆ちゃんを威圧する。


「・・・・夏帆ちゃん?」


「うっ・・・・、ごめんなさい」


夏帆ちゃんが素直に謝ったから、佐々木さんはすぐに手を離す。


そして佐々木さんは、再びメニューに視線を戻す。


「星野ちゃんは決めた?」


「あ、はい。

酢豚セットにします」


夜の時間しかやっていないという、『酢豚の定食』のようなセット。

白いご飯が付いて、中華スープに焼売と春巻きが一個づつ付いてくる、お得なセットのようだ。


と言うか、別紙で目に映ったから、それを選んでしまった。

何より私、メニューブックをしっかり見ていない・・・・。


「オッケー。

ってこれ、今期間限定で『白ごはん』を『炒飯』に変えれるじゃん。

せっかくだから、炒飯にしたら?」


「あ、その・・・・」


炒飯か・・・・。


正直言って、おばあちゃんが作った炒飯以外は、あまり食べたくないな。

あんまり『おいしい』と思わないし・・・・。


・・・・まあ、なんでもいっか。


「じゃあ・・・・、炒飯にします」


「はーい。

夏帆は何にする?

ザーサイ定食?」


ザーサイ。


それは『中国の漬物』のことだ。

美味しいらしいけど、日本人には好き嫌いが分かれやすい食べ物らしい。

ちなみに私は苦手。


ってか、ザーサイがメインの定食?

日本で言うと『たくあん定食』ってこと?


「ふざけんなこのクソ馬鹿兄貴。

早くクソして寝ろ」


他のお客さんが振り向きそうな、夏帆ちゃんの大きな言葉に、佐々木さんは嬉しそうな笑顔を見せた。

まるで『これからが楽しみだね』って言うような、佐々木さんの怖い表情・・・・。


って、佐々木さんは『この状況』を楽しんでいる?


「はい、帰ったらお仕置き決定!」


「ふざけんな!ばーか!

消えろ!」


「はいはい。

ホント、夏帆はお兄ちゃんのことが大好きなんだから。可愛いね」


「うるさい!」


真っ赤に顔を染め上げる夏帆ちゃんと、『不気味な笑顔』で夏帆ちゃんをからかい続ける佐々木さん。

その二人のやりとりに、私はいつも間にか『笑顔』をこぼしていた。


面白かったからだ。

よくわからない言葉で言い争って、『意味のわからない争い』をする。


なんて言うか、とても『普通じゃない目の前に兄妹』に、私の心はいつの間にか晴れていった。

あまり見たことのない光景に、私は笑っていた。


佐々木さんも、私の『笑顔』に気づいてくれる。


「お、やっと星野ちゃんが笑ったね。

『星野ちゃんの笑顔』って、初めてみたかも」


「え、そうですか?」


「そうだよ。

だって仕事中の星野ちゃん、いっつも『無表情』っていうか。

店長も『もう少し笑顔を見せて欲しい』って言っていたし。

他の子も『星野さんは年下なのに、すごく絡みづらい』って言っていたし」


・・・・そう言われたら、急に胸が苦しくなって来た。

何より『絡みづらい』は、少しショックかも。


私、まだ佐々木さんくらいしか、職場の人と仲良く出来ていないし・・・・。

同じ職場なんだし、『ギスギスした関係』でいるのは私も嫌なのに・・・・。


ってか『無表情』か・・・・。

やっぱりその言葉は、一番心に突き刺さる。


「・・・・・ごめんなさい」


その私の小さな声に、佐々木さんは苦笑い。


「謝ることないって。

星野ちゃんが『変わればいい』だけの話だから。

って、その『変わる』のが、難しいんだけどね。

俺も早く仕事覚えたいし」


「・・・・・」


「仕事の話になっちゃったね。

星野ちゃんは『彼氏』いないの?」


か、彼氏?

佐々木さん、『仕事の話』から急に飛びすぎてない?


・・・・え?


「か、彼氏ですか?

いないです・・・・」


さっき言われ通りの、『無愛想な表情』で答えたら良かったと、私は後悔・・・・。


動揺して、目を逸らして答える私の姿に、佐々木さんは『悪そうな笑み』を見せる。


まるで、『私の弱み』を握れたような、佐々木さんの表情・・・・。


「・・・・ほう。

ってことは、年齢イコール彼氏いない歴?」


・・・・言い当てられて、私の顔は赤く染まる。


『男の子の友達』は中学生の頃まではいたけど、そんな関係じゃなかったし。

ただの『友達』だったし・・・・。


「・・・・・」


私は何も答えてないのに、その私の反応で『全てを察した佐々木さん』は、今日一番の『笑顔』を見せた。

とても悪そうな、『悪魔』のような微笑み。

・・・・佐々木さんがすごく怖い。


でも、その『お兄ちゃんの姿』が気に入らないのか、夏帆ちゃんが助けてくれた。

相変わらずの『睨みつけるような視線』で、お兄ちゃんに答える。


「うわ、やりちんのクソ兄貴がセクハラしてる」


「夏帆うるさい」


やりちん?

・・・・え?


一応言葉を考えた。

でも、『もうどうでもいいや』と思ってしまった。

なんて言うか、『こんな私に彼氏がいる方が変』って思う自分が現れたし・・・・。


・・・・こうなったら腹を括ろう。


「彼氏はいないです・・・・。

過去に一度も」


「へえー。じゃあ男友達は?」


「小学生時代からの友達ならいます。

でも、中学を卒業してからは一度も・・・・。

もしかしたら『疎遠』になってしまったかもしれないです」


「え、もったいない。

まあでも、『社会人』と『学生』じゃ、『生きている世界』がまるで違うもんね」


社会人と学生か・・・・。


あまり気にしたことがなかったけど、言われてみたら、確かにそうかもしれない。

さっきの『アルバイトの話』だって、『社会人の私』だからこそ思った言葉なのかもしれないし・・・・。


『学生の私』なら、また考え方は変わってきたかもしれないし。


・・・・佐々木さんは続ける。

それも少し暗い話。


「星野ちゃんは、どうして『高校』に行かなかったの。

事情とかあるの?」


・・・・私は少し間を置いてから答える。


「私が選んだ道です。

お母さんがアルツハイマーのおばあちゃんを介護する時間を作ってあげたかったので。

未成年の私じゃ、まだどうすることも出来ないし。

何をしたらいいのか、わからないし・・・」


「もしかして、『家族を養うため』に星野ちゃんは働いているの?

お父さんは・・・・何しているの?」


「私が生まれて間もない頃に、両親は離婚しました。

だから私、お父さんの顔はわかりません」


私、変なことを言ってしまっただろうか?

佐々木さんの顔が曇る。


そしてなぜか、私に謝る。


「そ、そっか・・・・。

なんか聞いちゃいけない質問しちゃったな。

ごめん・・・・」


聞いちゃいけない質問か。

そんなことはないです。


「気にしていません。

『お父さんとの記憶』がないので、ある意味そこは割り切ってます。

私自身の問題は、おばあちゃんだけです。

幼い頃からずっと私を育ててくれた、大好きなおばあちゃんですから。

長生きして欲しいです」


「そう。長生きね・・・・・」


その時、頼んだ料理が来たようだ。

私は夜限定の酢豚セット。


夏帆ちゃんは麻婆豆腐のセット。

佐々木さんは、杏仁豆腐と胡麻団子。


・・・・ってあれ?

佐々木さんは食べないのかな?

それ、『デザート』だよね?


『佐々木さんがご飯を食べない理由』を聞こうと思ったけど、その前に再び佐々木さんの声が聞こえた。

それは私の心を付くような、とても聞き流していけない言葉。


「・・・俺らのおばあちゃんも『認知症』だったんだ。

去年亡くなったけど・・・・」


「・・・・え?」


認知症?

・・・・亡くなった?


・・・・・え?


・・・・佐々木さんは続ける。


「ホント、最悪だったな。

認知症だから、自分がどうして『深夜に寝ている』のか、理解出来ないでいたんだ。

だからおばあちゃん、深夜なのに一人勝手に家を出た。

そして死んじゃったよ」


・・・・あまり聞きたくはないが、もう少し深く聞いてみよう。

今日どうして佐々木さんが私を誘ったのか、理由がわかる気がするし。


「・・・・どう言うことですか?」


「車に轢かれちゃった。

即死だったよ。

運転手も暗い深夜だったから、おばあちゃんの存在に気付かなかったんだと思う。

しかもおばあちゃんを引いてしまった人、隣の家に住むOLさん。

そのOLさんも、おばあちゃんと仲良くしてくれたのにな・・・・。

ホント、何もかも『最悪な一日』だったよ。

俺らも目を覚ましたら、『おばあちゃんが死んでいる』って現実を聞かされたし。

夏帆と一緒に、ずっと泣いていたな。

『夢であって欲しい』って、何百回思っただろうか・・・・」


・・・・なに・・・それ?


佐々木さんの言葉を飲み込んだ私だけど、あまりにも『残酷すぎる』佐々木さんの過去の話に、私は気分が悪くなった。


家族であるおばあちゃんが亡くなって、そのおばあちゃんを轢いてしまったのは、おばあちゃんと仲が良かった隣の住人さん。


そんな現実、誰だって耐えれない。


もし私も『自分のおばあちゃんが死んでしまった』って考えたら、自分が自分でいられなくなりそうだ。


しかも『誰かに車で撥ねられてしまったら』って思ったら、もう・・・・。


「あーごめんごめん・・・・。

星野ちゃんにする話じゃなかったな。

本当にごめん・・・・」


そう言って佐々木さんは、笑顔で私の肩を二度叩いた。

幼い時に何度も見て来た、『私のおばあちゃんの笑顔』を連想させる、心優しい佐々木さんの笑顔。


そして、佐々木さんはこの場を盛り上げる。


「よし、じゃあ食べよう!

夏帆は麻婆豆腐一気飲みね」


佐々木さんの視線は、隣に座る夏帆ちゃんに移った。

一足先に料理に手を付けている夏帆ちゃんも、驚いた表情を見せている。


って、麻婆豆腐一気飲み?


「・・・・はあ?

火傷どころか、『大怪我する』って言うの。

馬鹿じゃないの?

脳みそ付いてる?」


・・・またお兄ちゃんを挑発する夏帆ちゃん。


さっきから思うけど、夏帆ちゃんの言葉の一つ一つが『鋭利な刃物』みたいだと私は思った。

中学三年生って、こんな怖い言葉を使うの?


でもお兄ちゃんの佐々木さんも、負けていられない。


「うるさいな。

じゃあ七瀬ちゃんは、そのスープ一気飲みね」


七瀬って・・・私?


って、スープ一気飲み?

この熱々の湯気が立ったスープを?


「え、それはちょっと・・・・」


「じゃあ炒飯早食い!」


早食い時たか・・・・。


どうやらなんとしても、佐々木さんは私に攻撃したいようだ。

場を盛り上げようと、佐々木さんの提案だろう。


その案は私も賛成だけど、ご飯はゆっくり食べたい。

おばあちゃんにも『ご飯はゆっくり噛んで食べなさい』って教えてもらったし。


・・・・だから私は反論する。


「い、いやだから、普通に、普通に食べませんか?」


本当に、普通に食べたい。

楽しい話を交わしながら、楽しく食べたい。


そしてそれは、夏帆ちゃんも同じみたいだ。

さっきまで私のことを『汚物』を見るような目で見ていた夏帆ちゃんだけど、私の『味方』になって、またお兄ちゃんに反論してくれる。


「人に強調するなら、まずはてめえが一気してみろや。

あ、お酒でもいいんだよ?

中国酒の『白酒』って、度数が高いお酒みたいだし。

ほら、このお店にもあるよ!」


お酒という言葉に敏感なのか、佐々木さんの表情が今日初めて曇る。


「お、お酒?

ってか夏帆、なんでそんな『無駄な知識』を知っているの?」


「いいから飲めや!」


「ヤクザか、この子は・・・・・」


これ以上私や夏帆ちゃんには強要出来ない。

そう感じたのか、佐々木さんはこれ以上私達に無理強いはして来なかった。


そして代わりに佐々木さんから聞こえてくるのは、『楽しい話題』だけ。


私や夏帆ちゃんを笑わせるような楽しい声で、私達のテーブルは盛り上がった。

ご飯を食べるペースも落ちずに、楽しい時間が進んでいく。


・・・・私の異変に気付くまでは。


「どうしたの?

炒飯食べないのか?」


酢豚やスープは全部食べたのに、一口しか手に着けていない私の炒飯を見て、佐々木さんは違和感を感じたようだ。


頼んだ私も、『一番突かれたくない現実』に、動揺を隠せない。


「あ、いえ・・・。その・・・・」


「ん?」


「・・・・あんまり、美味しくないなって・・」


『美味しくない』と言う私の言葉に、佐々木さんは驚いた表情を見せる。


「え、そう?

ちょっともらって良い?」


「あ、はい」


佐々木さんは自分のスプーンで、私の炒飯を口に運ぶ。


そして、思った感想を素直に言ってくれる。


「え、めちゃくちゃ美味しいじゃん。

口に合わなかった?」


「・・・・ですね。

すごく美味しいですよね」


「え?」


「・・・・・やっぱなんでもないです。

炒飯、頂きます」


「・・・・そう?」


何事もなかったかのように、私は炒飯を完食した。

パラパラの、とっても美味しいプロが作る炒飯。


本当に、すっごく美味しい・・・・。


炒飯を食べ終えた私は、店員さんがサービスに出してくれた『温かいジャスミン茶』で、今日の晩ご飯を締めた。

佐々木さんと夏帆ちゃんも、佐々木さんが注文した『杏仁豆腐』と『胡麻団子』を二人仲良く食べながら、ジャスミン茶で流し込む。


佐々木さんがデザートしか頼まなかった理由は、夏帆ちゃんが少食だからだそうだ。

夏帆ちゃんは頼んだ麻婆豆腐セットを少し食べると、残りを全てお兄ちゃんに食べてもらった。


そして仲良くデザートを奪い合う『仲良し兄妹』に、私の心はいつの間にか晴れていった。


ちなみに夏帆ちゃんは将来、お菓子を作る『パテェシエール』と言う仕事に就きたいみたいだ。

『ご飯より甘いお菓子の方が好き』って、目を輝かせて言っていた。


『夢がある』って、なんだかカッコいい。


ちなみにちなみに夏帆ちゃんの趣味は、大人向けの『極道もののドラマを見ること』だってさ・・・・。

最近は『シマ争いをする三つの極道が対決するドラマ』に夢中らしい。


だとすれば、『夏帆ちゃんの刃物のような言葉の意味』が、なんとなくわかる気がする。

『エンコ』とか、『ムショ』とか、聴き慣れない言葉で、佐々木さんに言葉を返していたし。


って、何そのドラマ・・・・。

『中学生』なんだったら、もっと違うドラマを観たらいいのに・・・・。


それから少し雑談をして、私達は席を立つ。


お会計なんだけど、申し訳ないことに、佐々木さんが全て出してくれた。

ホント、今日は朝から佐々木さんに、お世話になりっぱなしだ。


私もいつかこの『恩』を返せるように、もっと頑張らないと。


・・・・・あと、佐々木さんに怒られた。

『七瀬ちゃんも、俺のことを伊織って呼んで』って。


怒った顔ではないけど、まるで『もう俺達、友達でしょ?』って言わんばかりの笑顔で、そう言われた。


まあ、確かにそうかもしれないね。

そう言ってくれて、私はすごく嬉しかったし。

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