7.帰宅
時刻は五時になり、私は昨日同様に職場を後にした。
向かうのは私が住む家。
今日は電話がなかった。
だから家に帰っても、昨日のように玄関は荒れておらず、『お母さんと片付けたままの玄関の姿』だった。
おばあちゃん、今日は大人しく家にいてくれたみたい。
私はリビング上がると、昨日みたいにおばあちゃんに挨拶。
おばあちゃんもまた『昨日同様の言葉』を言っていたけど、私はまた『笑顔』で乗り切った。
そして次に台所で作業をするお母さんに、私は今日の出来事を伝える。
「・・・・と言うわけでお母さん。
今日職場の佐々木さんに誘われたんだけど。
・・・・どうしよ」
お母さんは答える。
「『どうしよ』って、七瀬はどうしたいの?」
私の意思か。
そうだね・・・・。
「どっちでも。
でもお母さんが『いい』って言うなら、少し行ってみたいかも。
佐々木さん、職場で浮いている私に優しく接してくれるし」
まるでその言葉を待っていたかのように、お母さんは私に『笑み』を見せてくれた。
そしてお母さんは、私の背中を押してくれる・・・・。
「じゃあ行ってらっしゃい。
それに明日は『休み』でしょ?
たまには『明日のこと』なんて考えずに、パーっと遊んできなさい。
もしかしたら、将来の七瀬には『必要なこと』かも知れないし」
「私の将来?
それ、どう言うこと?」
「さあね。
『将来のお楽しみ』ってやつ?」
「・・・・お母さんの意地悪」
子供の私にはまだ早い話。
そう理解した私はため息を一つ吐くと、ソファーに腰掛けるおばあちゃんの隣に座った。
同時にポケットから携帯電話を取り出す。
今は五時二十三分。
携帯電話の待ち受け画面には、そう表示されていた。
佐々木さんは今日は六時までの勤務だから、ご飯に行けるとなったら、それ以降かな。
私も行くんだったら、早く連絡しないと。
まあでも、あのカフェじゃ、勤務が終わってからじゃないと、携帯電話は触れないけど。
私は勤務先の連絡網である『グループ』を開いた。
ちなみにグループの名前は『トキワカフェ桜町店』だ。
私が勤める職場のお店の名前。
『トキワカフェ』も全国展開する大手企業だ。
『桜町』は私が住む街の名前。
そのグループのメンバーの中から、私は佐々木さんを探す。
確かローマ字で『iori』だったっけ。
佐々木さんはすぐに見つかった。
カップルのようなの自撮りの男女が映る、佐々木さんのアカウント。
男の子は一人は佐々木さんだとして、もう一人の佐々木さんに似た女の子は誰だろう。
そういえば佐々木さん、『妹がいる』って言っていたっけ。
だとしたら、この子は妹だろうか。
二人はすごく似ているし。
・・・・そういえば、『生意気な妹』って、佐々木さんは今朝言っていたっけ・・・・。
ってか『兄妹の自撮りをプロフィールにする』って、『すごく仲の良い兄妹』に見える。
でも実際に仲は良いのだろう。
妹さんとは、まだ会ったことがまだないけど。
その佐々木さんのアカウントに、私はメッセージを残す。
でもなんて言葉を残したら良いのか、わからない・・・・。
私には『友達』なんていないから、こんな風にあまり連絡は取らないし。
連絡する相手を強いて言うなら、お母さんくらい。
『お疲れ様です。
今日予定が空いたので、六時からよろしくお願いします』
スタンプも絵文字も使わない、無愛想な文。
『これは変だったかな?』って考えている最中、私の文字に『既読』がついた。
そして五秒後、返事が返ってきた。
『オッケー!噴水前で待ってて!』と言う、佐々木さんの文字。
しかもその後に、変なウサギの『本気出す!』と書かれたスタンプまで帰ってきた。
ってか、何に『本気』を出すのだろうか?
ちょっと意味がわからない。
ってか佐々木さん、『勤務中』に携帯触っている?
怒られない・・・のかな?
私は小さなため息を一つ吐くと、佐々木さんに返事を返すことなく、携帯電話の画面を消した。
そして隣に座るおばあちゃんの姿を確認する。
おばあちゃんは今日も笑顔だ。
まるで『今日は楽しいことでいっぱいだね』って、私の『明るい未来』を一緒に喜んでくれるみたい。
まあでも、『私の顔』を忘れてしまっているおばあちゃんのその『笑顔』に、何も『意味』なんてないんだけど。
・・・・って、私は何『最低なこと』を言っているんだろう。