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夜明けの光をあつめながら  作者: 白石ヒカリ
1章 星がふる世界
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5.一日の始まり

その日は晩ご飯を食べて、お母さんを手伝った。

力仕事ばっかりで疲れたけど、最後はおばあちゃんと一緒にお風呂に入って、『今日の疲れ』を流した。


そしておばあちゃんの『笑顔』を見ながら、私はおばあちゃんと一緒の布団で寝息を立てた。



翌日の早朝五時。


私は別室で寝ているお母さんに起こされた。

おばあちゃんに『異変』があったわけではない。


『仕事の時間』だから起こされただけだ。

毎朝六時から始まるカフェのアルバイト。

『モーニングタイム』も、常連さんばかりで結構忙しい。


私は『目覚まし時計』を鳴らせない状況だ。

私の耳元で目覚まし時計を鳴らすと、おばあちゃんが目を覚ましてしまうから。


だから『別室』で寝ているお母さんが目覚まし時計で朝五時に起きてくれて、お母さんは私を起こしてれる。

私の仕事がある日の星野家のルーティンだ。


・・・・まあでも、なぜかいつも、おばあちゃんは早朝になったら目が覚めるから、二日に一回はお母さんじゃなくて、おばあちゃんに起こされるけど・・・・・。

最近は深夜に起きて、またどこかに行こうとしているみたいだし。


私は顔を洗い、仕事に行く準備をする。


化粧はしない。

と言うか、したことがない・・・・。


お母さんにも、『七瀬は童顔だから、なんとかなる』って言われているし。

『男の人』にも『恋愛』にもまだ興味がないからこそ、『メイクはまだ早いかな?』って私自身も思っているし・・・・。


お母さんが作ってくれた朝食を食べて、私は家を出た。

この時点で、時刻は午前五時四十分。


職場まで歩いて十分の距離だから、余裕はある。

早く行っても、鍵を持つ社員さんが来てくれないと、店前で何分も待つことになってしまうし。


早朝の街は、とても静かだ。

走る車は少なく、歩いている人も少ない。


強いて言うなら、『終電』を逃して朝まで遊んでいた若者の姿が、あちこちに見える。

夏休み期間だから、いつもより人が多い気がする。


私が勤めるカフェがあるショップングモールは、十時からオープンする店ばかり。

朝六時までは表のシャッターが閉まっていて、通常の表口からは、カフェどころかショッピングモールすら入れない。


だから私達、早朝のカフェの従業員は、『ショッピングモールの裏口』から建物の中に入る。

早朝なのに、私達より早く勤務する警備スタッフに軽く頭を下げて、裏口の扉を手に取るのが、いつもの私の行動だ。


今日も早朝から勤務する警部スタッフに、軽く頭を下げようとしたけど・・・・。


「おはよ、星野ちゃん」


・・・・その私の名前を呼ぶ声に、私は振り返った。


目の前の人は、『知っている人』だった。

整った顔立ちに、茶髪のショートヘアの、私と同じカフェで働く男子大学生。


名前は『佐々木さん』だ。

昨日覚えた。

下の名前はまだ知らない・・・。


私は言葉を返す。

愛想のない言葉だけど・・・・。


「お、おはようございます・・・・」


「星野ちゃんがいて、安心したよ。

俺、この入り口から入ったことないし。

『間違っていたら、どうしよう』って思ってしまうし」


「そういえば佐々木さん、『モーニングタイム』は初めてですもんね?」


「そう言うこと。

だから、エスコートよろしく」


「『エスコート』って・・・・」


確か佐々木さんは、七月の下旬に入社した新人さん。

しかも基本的に『お昼の時間』と『夜の時間』しか入らないから、『モーニングタイム』は初めてなんだろう。


だとしたら、私が色々教えないといけないのかな?

教えるのは苦手だから、誰かに任したいけど・・・・。


私は佐々木さんと一緒に、裏口からショッピングモールの中に入って行った。

薄暗い道を歩きながら、目的地であるカフェを目指す。


そのカフェに着くまでの時間、私は佐々木さんと他愛のない話をした。


・・・・まあ『話をした』って言うか、一方的に話す佐々木さんの話を聞くだけなんだけどね。

『七つ下の妹さん』が最近言うこと聞かなくて、すごくお怒りみたい。

妹さんは『すごく怖い人』なんだろう・・。


怖い人は苦手だ。

だって『怒った顔』は、私は嫌いだし。


怒った表情で私を叱るお母さんを見て、私はそう学んだ。


まあでも、『その件』に関しては、全部私が悪いんだけど・・・。

前から『駄菓子屋さんに行くな』って言われたのに、おばあちゃんと内緒でよく駄菓子を買っていたし。


職場では『怖い人』はいない。

去年は、『全然仕事を覚えない私』をよく叱っていた『社員さん』がいたけど、その人は退職した。

『退職して嬉しい』とか、そう言う気持ちはない。


今は色んな人達に頼られて、淡々と仕事をこなしている。

私が入る前からいたメンバーはほとんど辞めてしまったから、今いる従業員の殆どは、私より後に入社してきた人達が多い。


佐々木さんもその一人だ。

七月にあまりの人手不足から、店長が『アルバイト募集』を決意したらしい。


結果、『ほとんどの新人さんが、私より年上の大学生ばかり』となってしまった。

まあでも、前も大学生ばっかりだったから、どっちでも良いけど。


私自身が『人と話すこと』が苦手だから、新人さんとはまだ少し『距離』があるし。


でも佐々木さんは別だった。

佐々木さんが初出勤の時も、私は出勤していたけど、その時から佐々木さんは私に声を掛けてくれた。

淡々と仕事して、愛想のない私に『違和感』を覚えることなく、積極的に声を掛けてくれた。


職場では少し浮いている私だから、佐々木さんの対応に、私の心は少し晴れた気がするし。


・・・・まあでも、私はその佐々木さんの名前を『昨日』知ったんだけどね。

自分から佐々木さんに話すことは、一度も無かったし。


お店に着くと、私と同じ時間に出勤する人達は、すでに来ていた。

このお店の二十代後半の女性社員さんと、四十代くらいの主婦の人。

その人達と私と佐々木さんを入れて、今日はお店を四人で回すみたいだ。


まあでも、社員さんは『裏方』で作業だけどね。

『早朝の裏方』は仕事が多く、カフェらしく『サンドウィッチ』や『焼き菓子』などを作るようだ。

他にもケーキのトッピングをしたり。


『表の作業』しか経験のない私だけど、いずれは私も『裏方』に回るのだろうか。

まあどっちでも良いけど・・・・。


私は社員さんと主婦の人に挨拶をすると、このお店の制服に着替える。


ちなみにここの制服は、白いワイシャツに黒のズボン。

それに黒の『ソムリエエプロン』という、レストランで店員が接客をする際に腰に巻いているものを身に着ける。


少し『かっこいい』と思ったりもするけど、私には似合っていないような・・・・。

見た目は『中学生』にも見える私だから、まるで『コスプレ』をしているみたいだし・・・。


タイムカード切ったら、私は社員さんの指示で、佐々木さんと一緒に行動して、『モーニングタイムの流れ』を教えることになった。

もう何度か出勤している佐々木さんだけど、『朝の時間の出勤』は今日が初めてみたいだし。


私も頑張ろう。


早速私は佐々木さんに『コーヒーマシンの起動の仕方』や、『レジの起動の仕方』などを教えて行った。

他にも『モーニングタイムに必要なもの』を揃えたり。


佐々木さんは初出勤じゃないから、覚えるのも早くて助かった。

まあでも、私が教えた中で『いくつか間違っている』と、一緒に準備をする主婦の人に苦笑いを浮かべられて、指導されたけど・・・・。


このお店のモーニングタイムは、『六時半』からだ。

『そんな朝早くから人が来るのか?』って思われ勝ちだが、意外とお客さんは来る。

仕事で『早番』を任せられている人や、朝が得意な年配の人で、店内はすぐに満席になる。


何より『喫煙スペース』があるのが、一番大きい。


ショッピングモール内は原則『禁煙』だから、『ショッピングモール内で、唯一タバコを吸える飲食店』として、このカフェに来てくれるお客さんが多い。

店長の話じゃ、『うちで提供するコーヒーやモーニングセットは、お客様にとっては二の次』だってさ・・・・。


なんだか少し悲しいかも。

タバコを吸う社員さんの話じゃ、『最近の喫煙者は、家でも満足にタバコを吸えない』と、この前聞いたことがあるし。


だとしたら、わざわざタバコ吸うために早朝から家を飛び出して、このカフェに来ているのだろうか。

なんだか『息苦しい世界』だ・・・・。


まあでも私はまだ『未成年』だし、家族でタバコを吸う人がいない我が星野家では、『別世界の話』になりそうだけど・・・・。


そのお客さん達を迎えるために、私達は準備を進めて行った。


気が付けばオープンの五分前。

後はこのお店のシャッターを開けるだけだ。

お店はオープンして、お客さんはやってくる。


同時に、『私達』も動き出す・・・・。


そして今日もまた、『私の一日』が始まる・・・・。

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