1.おばあちゃん
私の祖母はまるで、願いを叶えてくれる『魔法使い』みたいな人だった。
どんな願いでも、おばあちゃんは『笑顔』を見せて、私のために行動してくれた。
例えば『お腹が空いた』と言えば、おばあちゃんは『おいしいご飯』を作ってくれた。
おばあちゃんが作ってくれた『炒飯』はすっごく美味しいし、『おばあちゃんの炒飯は世界一だ!』と、私は自信を持って言える。
高級中華料理店の料理長ですら、おばあちゃんの美味しい炒飯を作る事は出来ないだろう。
それにおばあちゃんは、『すごく優しい人』だ。
私が『近くの駄菓子屋さんに行きたい』って言ったら、おばあちゃんは『痛む足』を引きずってでも、駄菓子屋さんまでついて来てくれた。
自身は長年『膝の痛み』と闘っていると言うのに、私に笑顔を見せ続けて、駄菓子屋さんで駄菓子をいっぱい買ってくれた。
もちろん、お母さんには内緒でね。
『無駄な出費』を抑えたいお母さんは、私が駄菓子屋さんに行くのを『反対』しているから、バレたらお母さんはすぐ私を怒る。
『優しいおばあちゃん』とは対照的に、『怒ると怖いお母さん』は少し苦手だったし。
まあでも、嫌いじゃないんだけど。
そんなお母さんに、怒られた時は、私はいつもおばあちゃんに守ってもらっていた。
優しいおばあちゃんだけど、自身の『娘』である私のお母さんには、『鋭い眼差し』を見せこともある。
お母さんから私を守るために、おばあちゃんはお母さんと何度も喧嘩していた。
そして二人の喧嘩に、私が『ごめんなさい』って頭を下げて謝るのが、いつものオチ。
まあでも謝っても翌日に、またおばあちゃんに『駄菓子屋に行きたい』って言う『学習能力のない私』だけど。
そんな『優しいおばあちゃん』と、『怖いお母さん』とずっと一緒に生きて来た私。
もちろん『幸せ』だ。
学校では『友達』は少なかったけど、おばあちゃんの『笑顔』やお母さんの『怒った顔』を見ていたら、どんな『辛い事』だって乗り越えられた。
ずっと家族が励ましてくれた。
何度も何度も、『家族に支えられて生きてきた、弱い私』だったし・・・・。
・・・・だから本当に、『家族三人』いれば、『幸せ』だった。
貧しい家庭で『裕福』なんて出来はしなかったけど、他の家庭には負けない『温もり』があった。
それだけで、私は毎日『幸せ』だった。
『かけがえのない日々』だった。
他のみんなに自慢できる、『私達の生活』だった・・・・けど。
でもそれは全て、私の『過去』の話。
私の知っているおばあちゃんは、もうここには存在しない。
『目の前でおばちゃんが私を見て笑っている』けど、その人はもう『私の知っているおばあちゃん』ではない。
・・・・・だって、『孫』である私のことなんて、とっくの昔に忘れられてしまったのだから。
十六年間側に居続けた『星野七瀬』の名前なんて、『アルツハイマー病』になってしまったおばあちゃんは、覚えていないだろう・・・・。
私の顔見て、何度も何度もおばちゃんは首を傾げているし・・・・。
だから私、今は『幸せ』じゃない・・・・。