38.錬金術師報酬に目が眩む
翌朝
「なにか来るにゃ!」
1階で朝食をとり部屋に戻るとミケが警告してきた。
こいつは臆病な分警戒心が高くて助かる。
スパイ映画さながら扉の脇に立つ俺。なんとなくビッグマグナムを構える。
うん、様になってる。
「そっちじゃないにゃ!」
「え?」
とミケを振り返ると空いている窓からブッシュが飛び込んできた。
勇者すごいな、ここ3階だぞ。
「昨日はすいませんでしたー!」
飛び込みざまにブッシュが土下座してきた。
この世界の土下座がどの程度の謝罪の意味があるのかわからんが。
あっけにとられている俺たちを無視してブッシュはそのままの姿勢でしゃべり続ける。
「兄貴!許してください。ほんの出来心で!決して兄貴を殺めるつもりなんかなかったんです!」
誰が兄貴だ。
「もういいから、とりあえず顔を上げてよ」
「兄貴!許して貰えますか!」
いや、許すとはいってないけど。
「じゃあマホギーさんの依頼は断っていいよね」
「兄貴!そこは俺の顔を立ててなんとか受けてください!」
なんでお前の顔を立てる必要があるんだ。
ただ話だけは聞いてやることにした。
「実はマカルーには俺のダチがいて。そいつと連絡が取れないんです。
俺は一人で行くつもりだったんですが、今マカルーにローツェの人間が行くなんて自殺行為だ。絶対にダメだと周りから止められてて。そこにアルカサルにすげーへんたいしんしがいるって話しを聞いたんです」
「錬金術士な」
「どうしてもマカルーに行くなら、そのへんたいしんしを連れて行けと、それでもだめなら諦めろといわれて」
「そうか、残念だったな」
「ただ、そのへんたいしんしなるものがどれほどのものか試してみたくて、昨日は手合わせ願いまして、え?」
「俺が行かなければ行けないんだろ?残念だったね」
「兄貴ー!そこをなんとか!俺が護衛しますから」
お前俺に負けてるよね。それが護衛しますって言い切るの図々しいよね。
「そもそもマカルーに行くのはマルボルクからじゃないと行けないだろ。流石にそこは通れないんじゃないか」
「そこは任せてください。秘策があります」
絶対信用できない。
「陸路ではおっしゃる通り、マカルーにはいけません。だから空から行きます」
「どうやって?」
「実は王都にグリフォンがいます。こいつに乗れば国を隔ててる山脈を超えてマカルーに侵入できます」
「ん」
「にゃ」
ピピとミケが反応した。
「行く」
「グリフォンに乗るにゃ」
君たちは命よりグリフォンの方が大事なのか。
「兄貴、お耳を拝借」
ピピとミケに聞こえないようにブッシュが呟く
『兄貴には娼館の無料利用証を報酬としてご用意しました』
なに、そ、そんなもので命と引き換えにできる、わけない、だろ、う。
『王都の娼館も含めてどこでも使える利用証です』
「ピピ、ミケ。かなり危険な旅になると思うがどうする」
「グリフォン乗る」
「そうだにゃー、危険だにゃー」
「じゃあ、ミケは留守番で」
「行くにゃ!ウチも行くにゃ!」
ということで俺たちはマカルーに向かうことになった。
ここからは隠密行動だ。
目立って敵に悟られると動きづらくなる。
すでに俺はこの街では有名になりすぎて噂の広がり方がすごい。
ただバーチさんには一言断っておいた。
「しばらく王都に行くことになりました。部屋はそのまま取っておいてもらえますか」
「もちろん、構わないよ」
「ありがとうございます」
しかしイケメン勇者のブッシュも十分目立つ。
「お前なんやかやで目立つよな」
「そうなんですよ。才気と才能が溢れ出ちゃうっていうか、なんでも華麗にこなせちゃうっていうか」
「なんかムカつく」
「なんで、こんなものを用意しました」
そういってブッシュが薄汚れたフード付きのマントを取り出した。
それを頭からかぶると流石にカリスマは感じられない。
あと両掌に包帯を巻いて、兄貴の戦闘奴隷ってことにすればいいとのこと。
あからさまに奴隷が町中を歩くのは忌みされるが、戦闘奴隷を連れて歩く金持ちはそれなりにいるらしく、その時は奴隷の焼き印が目立たないよう包帯で隠しているそうだ。
有無を言わさずそのまま旅立とうとするブッシュ。
「兄貴、馬に乗れますか」
「いや、乗ったことがない」
「そんなこともあろうかとこの街で一番早い馬車を用意ときました」
嫌な予感しかしない。
「旦那!また呼んでいただきありがとうございます!」
以前マルボルクに運んでもらったジェッエットコースター御者だ。
「待て、荷車にこれをつけてくれ」
こんなこともあろうかと、俺は鋼のバネを作っておいた。いわゆるサスペンションってやつだ。
どういう風につけるのが効果的かはわからなかったんで、荷車を二重底にして、その間にバネを4本を4隅に固定した。
「兄貴、なんですかこれ」
「ふむ、馬車の乗り心地をよくする工夫だ」
「こんなグルグルで乗り心地がよくなるんですか」
「あー、多分」
ピピは馬車に乗るのを断固拒否したため、ブッシュの馬に二人乗りさせてもらった。
正直俺もそっちがよかったがブッシュにしがみついてキャーキャーいうのもカッコ悪いんでピピに譲る。バネの力を信じよう。
結果的には俺のバネは思った以上の効果を発揮した。
ミケは揺れの少なさに不満げだったが充分揺れは軽減された。
何より揺れが少なくなった分、馬車のスピードが上がったことに、御者は大喜びだった。
以前は2時間弱かかったが、今回は1時間半くらい、しかも恐怖は半減していた。
「旦那!このばね?はこのままあっしが使ってもいいですか!」
「ええ、そのまま使ってください」
「ありがとうございます!」
マルボルクの街に入る際、ブッシュは止められていたが、俺が顔を出すと最敬礼のうえ、すんなりと通された。
この国の勇者ってそんなに有名じゃないのか?
マルボルクから王都まではさらに2日掛かるときいていたんで、どうするのかと思っていたら、グリフォンはマルボルクに連れてきているそうだ。
アルカサルまでグリフォンで来ればいいじゃんと思ったのだが、グリフォンは非常に珍しい魔法生物でその存在は国家機密レベルらしい。
グリフォンは2頭いて、鷹の上半身に獣の下半身。体長2mほどだ。顔がデカイ。嘴も怖い。
そのまま一気にマカルーまで行くのかと思ったが、ローツェとマカルーを隔てる山脈は国を隔てているだけあって相当険しいらしく、一旦王都までいって一度グリフォンを休ませてから山越えに挑むとのことだ。
こんなのに乗れるのかと思ったが、ブッシュのいうことはちゃんと聞くので、振り落とされなければ問題ないとのこと。
ブッシュとピピ、俺とミケでそれぞれ乗っかり王都に向けて飛び立った。
馬車なら2日掛かるところ半日で王都に到着。
空からみた王都はアルカサルより大きいのはもちろんだが、巨大な城が遠目からでもわかるほど立派だった。城は街の奥まったところ、険しい山脈を背にいかにも堅牢な作りだ。
城の裏手、山と城の間に降り立ったが、これって不法侵入じゃないだろうか。
ブッシュに宿屋を紹介してもらい、その日はそれで解散になった。
ブッシュも一緒に泊まるのかと思ったが、いろいろ用事があるらしく、その場で別れることになった。
「兄貴、これを預かってます」
そういって俺とピピの特級冒険者証を渡された。
「ん!」
「マカルーでも冒険者証は身分証として使えます。特級ならどこにいっても引っ張りだこなんで、動きやすくなると思います」
「にゃ!ウチのは?」
「お前にはまだ早い」
「にゃんでニャー!」
ピピはうれしそうだ。
王都をいろいろ見て回りたかったが隠密行動ということでその日は宿屋でおとなしくしていた。




