2.錬金術士荒地に立つ
2.錬金術士荒地に立つ
ということで俺はここにいる。
ここどこですか。
荒野ですか。
荒地ですか。
もっと町の近くの森的なとことかじゃないんですか。
やばい
非常にやばい
ここがどれだけ危険なところかわからないが
何かに襲われたらあっという間に死んでしまう。
そして俺の手には
「錬金術の手引書」
のみ。
せめてお弁当と水筒が欲しかった。
鍋はなくていいのか。
俺本当に錬金術士か。
水はともかく、錬金術で食べ物ができるとも思えんが
藁をもつかむ気持ちで手引書を開く。
基本編
まずは鑑定しよう。
気体編
液体編
固体編
え?
これだけ?
ペラペラとページをめくってみる。
金の錬成方法とか
エーテルの生成方法とかないの?
気体編とか液体編とか書いてあるだけで
その先ないし。
これを読む限り鑑定しないと何も始まらないってことか。
でも何を鑑定しろっていうんだよ。
この荒野で。
どっかに薬草でも生えてるかな。
これは困った。
頼みの錬金術が鑑定のみ。
それも鑑定するものもない。
そして鑑定の仕方もわからない。
とにかく何か鑑定しよう。
土とかでいいのかな。
いや
まて
気体編、液体編、固体編となってるな
ってことは空気を鑑定すればいいかな。
まあやってみよう。
なんとなく手を伸ばし、空気を掴むようにして言ってみた。
「鑑定!」
ぴろん
まぬけな電子音?とともに掌から半径30cmほどの透明な球のようなものが浮かび上がり一瞬で消えた。
窒素
酸素
聖素
魔素
その他
ぴろろん
『初めての鑑定に成功しました』
そうそう空気がほとんど窒素なのは知ってた。
そして酸素。
ありがとう酸素ちゃん
君がいないと俺は死んでた。
そして
聖素と魔素。
なんじゃこりゃー!
聖素はいいよ、たぶん。
でも魔素って絶対ダメそうなやつじゃん。
もう随分吸っちゃったよな。
なんかじわじわと魔物に変わるとかないよな。
角生えたりしないよな。
あ
でも別にそれはカッコイイか。
いや
角にもよるな。
いやいやダメだろ角。
絶対邪魔だろ。
まあ、心配ばかりしていてもしょうがない。
今のところ大丈夫そうだし。
さて手引書だが
基本編
【鑑定】
その物質がなにで構成されているかわかる。
・たくさん鑑定して熟練度をあげよう。
New!
鑑定した物質を抽出、格納しよう。
New!
じゃねえよ。
気体編とかどこいっちゃったかと思ったら
次頁に移ってた。
まあ、それはいい。
とにかくいろいろやらんとだめらしい。
「職業錬金術士。特技は空気の成分を言い当てることです」
なんて何の役にも立たないだろう。
しかし抽出して格納か。
試験管とかないけど格納できるかな。
へたに酸素格納して、そのまま窒息死とかないよな。
「鑑定」
ぴろん
「抽出、窒素、格納」
ぎゅん
『窒素の格納に成功しました』
ぴろろん
『初めての抽出・格納に成功しました』
なにか(たぶん窒素)が手引書に吸い込まれた。
基本編
【鑑定】
その物質がなにで構成されているかわかる。
・たくさん鑑定して熟練度をあげよう。
【抽出】
複合物から指定した物質を抜き取る。
【格納】
物質を錬金術の手引書に格納する。
格納された物質はいつでも取出し可能。
New!
格納した物質を取出してみよう。
親切設計といえば親切設計なんだろうが
もっとはじめからいろいろ準備されていてもいいのではなかろうか。
まさに0からはじめる錬金術。
まあ地道な作業は嫌いではないが。
気体編のページには
窒素
が追記されていた。
「取出し、窒素」
びー
『窒素を取出しました』
ぴろろん
『初めての取出しに成功しました』
きっと窒素が出てきたんだろう。見えないのでわからんが。
いつ何に襲われるかわからないので街的なものを探しながら
その後も鑑定、抽出、格納、取出しを何度か試してみた。
魔素を格納するのは少し怖かったが、今のところ問題ない。
空気以外もできるかと思い、地面を鑑定しようとしたら
『構成が複雑すぎて鑑定ができません』
とでてしまった。
植物っぽいものをみつけて
これも鑑定しようとしたところ
『生物の鑑定はできません』
とな。
このままだと錬金術士ではなくて
空気鑑定士だよ。
ちなみに両手で鑑定したら広範囲の鑑定ができることが分かった。
また鑑定できる範囲は少しづつ増えている。
最初片手で半径30cm位だった鑑定範囲が何度もやっていくうちに1m位まで広がっている。
取出す量の調整はできるようだった。
10%、50%とじか指定してみたが、きっとその通り取出されてるのだろう。
50%を2回取出したら『残量がなくなりました』とかでたからな。
そして文字が赤くなってた。
歩きながらも、格納してはそれを10%づつ位取出してを繰り返していたら新しい課題がでた。
New!
物質を変態させよう。
呼んだか?
いや俺はただの変態じゃない。変態紳士だ。
まあ、それはどうでもいい。
空気を変態させるってどういうことだ。
形をかえるのか?
そもそも形なんてないだろうに。
なんとなく手引書に慣れてきた俺は
何でもとにかくやってみることにする。
「変態、窒素」
ぼよん
『窒素を液化しました』
ぴろろん
『はじめての変態に成功しました』
初めての変態
なんだろうこの響きは
俺は本格的に何かに目覚めてしまったのか。
それは置いといて。
手引書の「液体編」に窒素が追加された。ただ青文字になっている。
液体は青文字なのか。
液体窒素のことは俺も知っている。
ものすごく冷たいやつだ。
これってこんな簡単にできるものか?
なんか錬金術っぽくなってきたな。
この勢いで液体酸素、液体聖素、液体魔素を作り
次は固体だと思って固体窒素を作ろうとしたら
『熟練度が足りません』
となってしまった。
固体を作るのはそんなに難しいことなのか。
空気を液体にできるようになったとはいえ
まだまだ空気鑑定士感はぬぐえない。
固体こそ作れないが錬金術の熟練度は上がっているみたいで
最初に空気を鑑定したときに「その他」になっていたものもわかるようになっていた。
窒素・酸素・聖素・魔素に加え
アルゴン・二酸化炭素・ネオン・ヘリウム・クリプトン・キセノン・水素・メタン・一酸化窒素などがでてきた。
てかアルゴンとかクリプトンって何?
これも異世界元素?スーパーマンとかでてきちゃう?
名前を触れば格納されている量もみることができた。
大量に格納した窒素を液体にしたらだいぶ体積が小さくなることもわかった。
そこらへんは物理法則に則っているんだろう。
クリプトンを大量に集めたらなんかすごいものができるかも
なんて考えたのだが、空気中のクリプトンはあまりに微量らしく
いくら格納してもほとんど増えていかなかった。
などと考えながら彷徨っていると洞窟のようなものを発見した。
ついつい夢中で錬金術(?)をやっていたがふと思い出した。
何かに襲われる可能性があったことを。
たまたまここら辺は安全だったのか、そもそもモンスター的なものがこの世界にいないのか(まさか他に生物自体が存在しないってことはないよね)わからないが
とにかくその洞窟らしきものに逃げ込んだ。
逃げ込みはしたが外よりこういうダンジョン的な方が実は危ないんじゃないか。
だがそんなことより
俺は喉が渇いたんだ。
さすがに液体窒素は飲めないし、液体酸素はよくわからないが、取出したとき液体窒素と同じくらい冷たそうだった。
冷たいというレベルではないだろう。飲む前に唇が凍る。
液体聖素と液体魔素はなぜか液体編の欄にはいっても酸素や窒素と違い黒文字だった。
そして取出したときも特別冷たいという感じもしなかった。かといって飲めるかというととても怖くて飲めない。
最後の手段として聖素は飲むかもしれないが魔素飲んだら悪くて死亡、よくても角が生えそうだ。