エピローグ
話を終えた時、ユキの表情は凍り付き困惑を顕にしていた。
どうやらにわかに信じがたいらしい。その困惑が、傍目から見てよく理解出来た。
「………えっと?その話は」
「ああ、本当の話だ。実際にあの男の記憶を覗いて知っている」
「……………………」
そう、俺は影倉ヨゾラの記憶を覗いている。だからこそ、その手記に書いていた事が一切の誇張も嘘もない真実である事を知っている。そして、手記に籠められた彼の想いの丈を。
俺は知ってしまった。知ってしまったからにはその責任が生じるだろう。そして、それを履行する為の覚悟は既に出来ている。
だから、俺は………
「俺は、今度こそ全てを解決する為にあの時代に行かないといけないんだ」
「………本当に、行くつもりなんだね?」
「ああ」
「もう、既に終わった事と割り切る事は出来ないの?過去に干渉するのは」
「知ってしまったからには責任がある。それに、俺自身が納得出来ないよ」
「……………………そう」
そう言って、ユキは俯いた。やはり、何処か納得出来ないらしい。その気持ちは正直なところ理解出来ない事もない。本当は理解出来るが、しかしそれでも———
それでも、知ってしまったからには俺自身が納得出来ないし。そもそも知る以前から既に真実を知る覚悟くらいは出来ていた。だからこそ、俺は全てを救うんだ。
出来る出来ないじゃない。俺がやるんだ。
そんな俺の意思に、ユキはしばらく考えた後顔を上げ俺を真っ直ぐ見た。その瞳は何処までも覚悟に満ち満ちている。その瞳に、俺は思わず息を呑んだ。
「クロノ君の考えは理解出来たよ。だったら———」
「……………………だった、ら?」
「だったら、私も一緒に連れていって!」
「っ⁉」
そのユキの言葉に、俺は思わず驚きに目を見開いた。
しかし、ユキの意思は固いらしい。真っ直ぐ俺を見詰めるユキの瞳は確かな覚悟が。
「私も、クロノ君と一緒にその時代に行く!」
「………良い、のか?これは俺のわがままなんだぞ?」
「それでも、私もクロノ君と一緒に居たい。私自身が一緒に居たいの!」
「……………………」
それに、と。ユキは僅かに笑みを浮かべた。
「責任というなら、私にもあると思うの。私は父様の娘だよ?だからこそ、私だってこの件に関わる責任が存在すると思うしその為の覚悟を決める必要がある」
「……………………」
「駄目、かな?」
そう言って、ユキは俺を見ながら苦笑を浮かべる。
葛藤はある。しかし、ユキの気持ちも十分理解出来た。理解出来たからこそ、俺はその気持ちを汲む必要があるのかもしれない。と、思う。
なら………
「分かった、ユキも一緒に連れていこう」
「ありがとう」
そうして、俺達はその日この時代この世界から共に消失した。




