プロローグ2
現在、俺は一種の居心地悪さを感じていた。いや、俺よりむしろユキの方がよほど居心地悪い気分だろうと思うけれどな。
俺達は今、グレンに連れられ外を歩いていた。外はやはりというか何というか、復興にかなりの時間を要するであろうくらいに酷かった。というか、ほぼ壊滅状態だ。
街を焼いていた炎は静まり、比較的落ち着いてはいる。
しかし、それでも。いや、だからこそ被害の酷さがより際立って見えていた。
「……………………」
「……………………っ」
そんな中、俺達に。いや、ユキに向けて周囲からの殺意や憎悪や怒りなどの負の感情が向けられ痛い程に突き刺さっていた。その視線が、ユキを怯えさせる。
そもそも俺に向けられた視線ではない。それは理解している。
けど、それでも俺にも理解出来るくらいにはその殺意は濃密だった。
先程から、ユキは俺の背後に隠れたままずっと俯いている。俯き、小刻みに震えている。
けど、ある意味それは仕方のない事なのかもしれない。ユキはそれだけの事をしたんだ。
「———あの子供だろう?世界を滅茶苦茶にしたの。本当、どっか行ってくれねえかなあ?」
「けど、その傍に居るのは確かあれを止めてくれた子だろう?一体どういう関係なんだ?」
「知らねえよそんなの。けど、本当に滅茶苦茶してくれたもんだ。クソッタレが」
周囲から聞こえる悪態。その怒りや憎しみが、余計にユキを怯えさせる。きっと、今後その言葉が絶える事は決してないのだろう。それだけの事をしたのだ。
本当に、それは仕方がないのかもしれない。けど………
「けど、それでも俺はそんなユキの罪を一緒に背負うって決めたんだよな………」
そう言って、俺はユキの手をぎゅっと強く握る。一瞬だけ驚いた顔をしたが、それでもユキは俺の手を握り返してきた。その顔には、僅かに笑みが浮かんでいる。
どうやら少しだけ緊張がほぐれたらしい。まだ、完全に落ち着いてはいないだろうけど。
それでもマシにはなったらしい。
そんな俺達を見て、グレンは穏やかな笑みを浮かべていた。
そんな中、周囲の人間と明らかに異なる視線を俺は感じた。明らかに俺に向けられた、
「……………………」
そちらにこっそりと視線を向ける。瓦礫の陰に隠れる五匹の獣が、其処に居た。
白蛇、大蜘蛛、蜥蜴、猿、猫。五匹の獣が俺に向けて様々な感情の視線を向けている。恐らくあの崩壊した世界において王と呼ばれた獣達だろう。
憎しみではなく、怒りでもなく、ただ単純に品定めするような。恐らくは俺の人物像を見定めるために観察しているのだろう。そんな視線だった。
「………まあ、今はそれで良いのかもしれないな」
「………?クロノ君?」
「何でもないよ」
それだけ言って、俺はユキに笑みを向ける。
あいつ等にはそれぞれ人間を憎むだけの理由がある。それだけの事をされてきたんだ。
なら、今は無理矢理距離を詰める必要はないだろう。
そう思っていると………
「付いたぞ?此処だ」
そう言って、グレンが立ち止まった。俺とユキも立ち止まる。
其処にはあまり目立たない、至って平凡な家が建っていた。




