エピローグ
ある一室、一人の女性がベッドに寝ていた。
その女性は、何処となく白川ユキとそっくりの容貌をしている。ユキが少しばかり成長したような大人びた姿形だろうか?ともかく、ユキとそっくりだった。
しかし、身体はとても細く不健康そうな身体つきをしている。それだけで、彼女がとても病弱な存在なのだと理解出来るだろう。そう、彼女は生まれつき病弱なのだ。
彼女こそ、白川ユキの。いや、星のアバターの姉。影倉ヨゾラの子供、影倉カグヤだ。
もう一度言おう。彼女は病弱だ。本来、元気に動き回れる身体ではない。
だが、彼女は酷く穏やかな、一切の影を感じさせない笑みを浮かべベッドに寝ている。
彼女の居る部屋は一見すれば病室のような内装をしている。しかし、よく見てみればそこが断じて病室ではない事は明らかだろう。
その理由は明らかだ。室内には一切の窓が無い。恐らくは、地下室なのだろう。何処となく閉塞感のようなものを感じるのは決して気のせいではない筈だ。
彼女はこの室内にずっと居る。いや、この室内こそが彼女の世界なのだ。
カグヤは幼い頃から病弱だった。心臓の病気だ。故に、ずっとこの室内で過ごしていた。
しかし、そんな彼女にも心の支えがあった。大空グレンと、彼との間に生まれた子供。その存在があればこそ彼女はきっと笑顔のまま安らかな気持ちで居られたのだと思う。
大空グレン。彼は、彼女の専属医の息子だった。幼い頃から、彼女の傍に彼が居た。
一言で言えば、彼女にとって父親以外の異性だった。恋に落ちるのも当然の話だろう。
カグヤはそっと、部屋の隅でベビーベッドに眠る赤子を見る。赤子は安らかな、とても安らかな寝息を立てて寝ている。とても、安らかな寝顔だった。
そして、そっと安らかな笑みをカグヤは浮かべた。
「大丈夫、きっと全て上手くいく」
そう言って、カグヤは再びベッドに身体を預けた。病弱な彼女には、ほんの僅かな身じろぎすらとても大きな負担となる。だから、今はゆっくりと休んでいる必要があるのだ。
彼女は待つ。きっと、二人は此処に来る。グレンが必ず連れてくると言った。なら、彼女はそれを信じて待つだけだ。二人、白川ユキと遠藤クロノの二人を。
「ああ、とっても楽しみ。妹に会ったら何を話そう。妹の彼に会ったら、何を話そう」
彼女は夢を見る。妹の彼と、妹を巡って喧嘩とかしてみたい。
妹の彼と、妹を取り合ってみたい。それは、きっととても楽しいだろう。
そんなささやかな夢を見つつ。楽しそうに微笑んだ。
きっと、それはとても楽しいと思うから。




