7,真実への鍵
それからしらばく、ユキは俺の腕の中で泣き続けた。
泣き続けた、のだが。どうやら父さんが戻ってきていたらしい。泣きじゃくるユキを抱き締める俺の姿に少しばかり困惑していた。
「………えっと?これは一体どういう状況だ?」
「…………さあ?どういう状況でしょうね?」
俺とユキの状況を見て、父さんは困惑の表情を浮かべ母さんは苦笑を浮かべている。うん、少し気恥ずかしくなり二人してそっと離れる。いや、実際かなり気恥ずかしい。
というか、かなり気まずい。
………いや、まあ確かに二人だけの空気を作っていたの認めるけど。
実際恥ずかしいけどさ。うん………
「二人とも、一体何時の間に其処まで仲良くなったんだ?」
「………いや、頼むから其処はあまり掘り下げないでくれ」
これは、恥ずかしさだけで死ねる自信がある。ユキなんか顔を真っ赤にしているし。流石に俺もやりすぎたと反省しているから。少し調子に乗り過ぎたって反省しているから。
頼むからこれ以上掘り下げるのを止めて下さいお願いします。
「と、ところで父さん。さっきまで何処に居たんだ?」
「ん?そうだ、お前に客が来ているぞ?」
俺が露骨に話を逸らすと、父さんが今思い出したように答えた。というか、客?
「客?」
「ああ、客だ」
父さんがそう言った直後、部屋のドアから一人の男が入ってきた。いかにも気の優しそうな黒髪黒目で高身長の青年だった。
何処かで見た事があると思ったら、すぐに思い出した。崩壊した世界でクラウンの側近をしていたシラヌイと顔立ちがそっくりだ。という事は、だ………
この青年の正体は………
「初めまして。君が遠藤クロノ君だね?僕は大空グレン、其処に居る彼女の義兄かな?」
ユキの義兄。その言葉に、父さんと母さん、そしてユキ本人も驚いている。
まあ、確かにそうだろう。実際、ユキ自身も姉の存在を知らなかったみたいだし?
「義理の兄、という事は貴方はユキのお姉さんの?」
「はい、一応婚約者になります」
ユキの姉の婚約者。つまり、影倉ヨゾラの義理の息子という事になるか。
つまり、それは———
「待って!もう少し待って!それはどういう事?私の姉って?」
俺とグレンの話の間に、ユキが割り込んできた。どうやらかなり混乱しているらしい、というより困惑しているという感じか?ともかく、思考が付いていけないようだ。
まあ、それもそうか。いきなり姉が居ると言われてそう簡単に信じられる筈もない。もう少し落ち着くのを待つ方が良いかも知れない。
グレンもそう判断したらしく、苦笑しながら頷いた。
・・・・・・・・・
少しして、ようやく落ち着いたらしい。ユキは少し恥ずかしそうに俯いている。
ユキが落ち着いたのを確認した後、グレンが改めて名乗った。
「改めて名乗りましょう。僕は大空グレン、彼女の姉である影倉カグヤの婚約者です」
グレンが物腰丁寧に頭を下げる。どうやら、そういう性格らしい。
温和というか、温厚というか………
ユキの姉、名前は影倉カグヤというようだ。グレンはそのユキの姉の婚約者に当たる。つまりは彼女の義理の兄に当たるだろう。恐らく、だからこそ俺に会いに来たのだろう。
ユキの父親。つまりグレンの義理の父親を倒した俺に会う為に。
それを察した母さんが、不安そうにグレンに問う。
「………あの、息子に一体何の用事で?」
その不安そうな顔に、グレンは苦笑を浮かべた。
「ああ、別に手荒な真似はしませんよ。むしろ義父を止めてくれて感謝しているくらいで」
「………そう、ですか?」
「ええ、用事というのはまあ。今から私と一緒に来て欲しいというか?カグヤが、婚約者が妹と其処に居る彼に会いたがっているようですし。カグヤは身体が弱くてね?」
そう言って、俺の方を見た。どうやら、嘘ではないらしい。
ヨゾラを止めた事を感謝しているというのも、どうやら嘘ではないようだ。彼の瞳には一切の怒りや憎しみが存在しなかった。つまり、俺に憎しみは抱いていないようだ。
しかし、一応聞いてはみる。
「………けど、良いんですか?俺は一応貴方の義父を倒したんですよ?」
「…………そうかもしれません。けど、それは決して憎しみや正義感からではなかった。貴方は心から義父を止める為に戦っていた。違いますか?」
「………………まあ、そうだけど」
「そんな貴方だからこそ、カグヤは貴方に会いたがっているんです。会ってくれますね?」
そう言って、グレンは俺に笑みを向けた。まあ、俺自身に会わない理由の方が無いけど。
そっと、ユキの方を見る。ユキは静かに頷いた。まあ、そうだろうな。
「分かりました、会いましょう」
そう言って、俺はグレンと一緒にユキの姉に会いに行く事になった。




