表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新時代の英雄は終焉世界を駆け抜ける~無限と永遠の英雄譚~  作者: ネツアッハ=ソフ
無価値の怪物編
75/100

1,炎に包まれた街の中で

「っ‼?」


 唐突に襲ってきた頭痛に、私は思わず額を押さえる。今、何か奇妙な記憶(きおく)が脳裏を掠めたような気がしたけど気のせいか?何か、胸の奥が引き()かれるような奇妙な感覚もするけど。


 まあ良い。私は所詮、父様に造られた兵器(へいき)でしかないのだから。所詮、私は世界を滅ぼす生体兵器でしかないのだから。こんな感情など不要(ふよう)だろう。


 そう思い、私は再び世界を滅ぼす為の破壊活動を繰り返す。しかし………


「……………………」


 本当に?本当に、私はただの兵器なのか?こうして、自分の()り方に疑問を覚えて。


 いや、それは………それ、は………


 私は。私、は?


 そんな私の前に、一人の少年が(あらわ)れた。その少年を見ると、何故か胸の奥が高鳴るような疼くような不思議な鼓動を感じる。何故(なぜ)


 ()からない分からない。何も分からない。そんな私を前に、少年は言った。


「ようやく、()えた」


          ・・・・・・・・・


 ようやく会えた。そう思い、俺は心の奥から安堵(あんど)するような気分が()いてくる。


「………貴方、(だれ)ですか?ようやく会えたとは?」


「ああ、そうか。先ずは其処(そこ)からだな………俺の()は遠藤クロノだ」


 俺は名乗(なの)りを上げる。そんな俺に、彼女も自身の名を名乗る。


 彼女自身に(あた)えられたであろう、名を。


「そうですか、私の名は星のアバター。父様から与えられた名です。それで、ようやく会えたとはどういう意味でしょうか?」


「ああ、それを説明する為にまずはこれを()てくれ」


 そう言い、俺は彼女に向け手をかざした。その手から、(ひかり)が生まれ………


 やがてその光は大きく(まぶし)くなり。


 ………それは、俺が未来(みらい)の世界で彼女と出会ってからの軌跡(きせき)。俺の中にある、白川ユキという少女に関する記憶の全てだ。それを、彼女の中にインストールする。


 崩壊した世界で出会った時の事。文明崩壊の()き金を引き、それに後悔する毎日。


 罪を清算(せいさん)する為だけに生きてきた事。そんな彼女を救う為、動いていた王たち。


 最後、俺に殺される為だけに(ふたた)び人類と敵対した事。架空大陸での決戦。


 そして、その最期(さいご)………


「………っ⁉これ、は…………この記憶は…………?」


「それは、遥か未来での(きみ)に関する俺の記憶だ」


「それは………でも、これは…………」


 どうやら、困惑(こんわく)しているらしい。しかし、それでも俺は()まる訳にはいかない。此処で止まればもう彼女を救う機会など二度と()いだろうから。


 だからこそ、俺は此処(ここ)で立ち止まる訳にはいかない。もう二度と、何も失わない為に。


 いや、全てを取り(もど)す為に俺はこうして戻ってきたんだ。


「もう、分かっている筈だ。この先には後悔(こうかい)しかないぞ?」


「でも、それでも私は………」


「ごちゃごちゃうるさい。俺を(しん)じて付いてこい」


 そう言って、俺はこの手を()し出した。彼女は、ユキは僅かにためらいながらそれでも俺の手を取ろうとその手を()ばして………


 そして、俺の背後から銃声が(ひび)いた。俺の視界が真っ赤に()まる。


          ・・・・・・・・・


「くくっ、ひひひ………ひひひゃははははははっ…………」


 (こわ)れたような笑い声が、背後から聞こえる。どうやら、俺は()たれたらしい。


 血が止まらない。再生(さいせい)が追い付かない。どうやらただの銃弾では無いようだ。恐らく、再生を阻害して対象を殺すような性質を持つ特殊弾だろう。


「クロノっ!」


「っ、お前………!」


 背後から、知っている声が二つ()こえる。


 どうやら、両親が追い付いてきたらしい。撃たれた俺を見て(いか)りの形相を浮かべている。


 しかし、両親が動き出す前に俺がそれを()めた。


「待って、くれ………その前に、こいつには………聞きたい事、がある…………」


「し、しかしクロノ!お前、血が!」


 何かを言おうとする両親を、俺は敢えて無視(むし)しそいつと向き合った。


 相変わらず、(くる)ったような壊れたような笑い声をそいつは上げている。


「何故、こんな事をしたんだ?お前は何に絶望し何を憎悪(ぞうお)しているんだ?」


「ひ、きひひひっ………何に絶望したかだと?お前如きに理解(りかい)出来るのか?所詮、何も知らない小僧如きが俺の絶望と憎悪を理解出来るというのか?」


「それを聞きたいんだ」


「ガキが理解する必要は()えよ!馬鹿がっ!」


 そう言って、そいつは俺に再び銃弾を()びせてきた。一発や二発ではない。何十発も雨あられのように俺の身体へ銃弾を浴びせてきた。


 明らかに、手に持っている拳銃の装弾数を無視した連射(れんしゃ)だった。恐らく、こいつ自身が何らかの異能を獲得しているのだろう。この特殊弾も、その異能の効果(こうか)か。


 母さんの悲鳴(ひめい)が上がる。父さんの怒号(どごう)か響く。彼女の、ユキの悲鳴が聞こえる。


 しかし、俺は大丈夫だ。この程度、問題はない。


「そうか。それが、お前の回答(かいとう)か?」


「………何だと?」


 訝し気な声を、男は上げた。


 ゆっくりと、俺は立ち上がる。俺の身体(からだ)には傷一つ無い。先程まで銃弾を雨あられと喰らった傷がただの一つとして無い。それは、異常(いじょう)という他に無い光景だろう。


 実際、俺を撃った筈のその男は驚愕に表情を(ゆが)めている。あり得ない物を見たとでもいわんばかりのそんな表情だった。まあ、実際此処に来て俺自身(あき)れ果てている事だけど。


 そんな事はまあ良い。心底どうでも良い。


「何故、何故貴様は傷一つ無いんだ?あれだけの銃弾を()らっていながら」


「お前も(すで)に知っているんじゃないのか?こんな馬鹿げた事象(じしょう)を引き起こせるモノを」


 それを聞いて、男はギリっと歯を食い縛った。どうやら、思い(いた)ったらしい。


「架空塩基、か。しかし、それでもそれを想定(そうてい)したからこその特殊弾だというのに。あれには再生阻害能力と存在否定能力が(そな)わっている筈だ!」


「だから、アレを喰らった瞬間存在を根幹(こんかん)から否定されるような怖気(おぞけ)が走った訳だ?」


 なるほど、ね?納得する。


 しかし、男の方は納得出来ていないらしく(はげ)しい形相で食い掛ってくる。


「答えろ!小僧、アレを喰らって何故傷一つ負っていない‼」


「………別に、俺の力が全ての因果律(いんがりつ)を上回った。それだけの事だろう?」


「っ、因果律干渉能力?いや、それどころじゃない。因果律崩壊能力か」


 そう、俺の力は因果律すら凌駕(りょうが)する。簡単に言えば、あらゆる因果を崩壊させる。


 俺の力は、既に既存(きそん)の世界法則すら超越しているのだから。


 しかし、そんな時———俺と男の会話に()り込む声があった。


「そんな事などどうでも()いです」


 俺と男の会話に割り込むように、ユキが話しかけてきた。彼女の視線は、不安と焦燥が入り混じりもうどうしようもない状態と化している。あるいは、恐怖(きょうふ)か。


 ユキは縋り付くような視線で父親に問い掛ける。或いは何かに期待(きたい)するかのような、知りたくもない事実を認めないような。そんな不安定極まりない視線だった。


 まるで、知りたくもなかった事実に気付いてしまったような。そんな視線で。


 ユキは()う。


「父様にとって、私は一体何ですか?父様は私を必要(ひつよう)としていたのではないのですか?」


「下らねえな。お前は所詮、世界を滅ぼす為の人類の(ごう)でしかねえ。いや、そもそもお前は俺からすれば一切の価値(かち)も無いナマモノでしかねえんだよ」


「そ、んな………」


 それは、あまりにも(ひど)い言葉だった。彼女にとって、ユキにとっては彼は何処まで行こうとも父親でしかないのだろう。故に、これは(すが)り付いた手を振り払われたに等しい。


 (くず)れ落ちるユキ。俺は、そんな彼女にちらりと視線を向け男の方へ向き直った。


「………ずいぶんと酷いな?それでも父親(ちちおや)か?」


「何を思っているかは知らないが、ソレに対して我が()だと認識した事は一度も無い」


「………そうかよ」


 泣きじゃくるユキ。俺はそんな彼女の方へ視線を()け、言った。


「何をしている?このまま言われ続けたままで()いのか?」


「…………え?」


 ユキは驚いたような、(ほう)けたような顔で俺を見る。


 そんな彼女に、俺は言った。


「あの男は言った。君に対して我が子と認識した事は一度も無いと。君に価値(かち)など無いと」


「……………………」


「けど、ならばこそ君は自身の価値を父親に(しめ)すべきだ。無価値(むかち)なままでいるような器じゃないとそう示してやるべきだろう?」


「…………っ」


 目を見開き、ユキは俺をじっと見た。そんな彼女に、俺はそっと手を差し()べる。


 彼女に、道を指し示す。彼女の()を呼ぶ。


「行こう、ユキ。今度こそ君は(すく)われるべきだ」


「………うん」


 そうして、彼女は今度こそ俺の手を()った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ