プロローグ
架空大陸ムー………中央の玉座にて、少女はひたすら待ち続けていた。
白川ユキ。その名と役割を放棄し、星のアバターとして人類の敵対者として返り咲いた。後は遠藤クロノに自身を殺して貰うのみ。それできっと、全ては終わる。終わると信じている。
未だ、自身を内部から苛む苦痛は治まらない。それは、クロノの内側から奪い去ったよく分からない何かが原因である。そう、これは分からないモノだ。理解の及ばない何かだ。
よく分からない何か。人類では、否———人類を超越した自身ですら理解の及ばない何か。
これを理解する事は、恐らく自己の破滅に直結する。それは、死より尚恐ろしい終焉だ。
故に、これを理解しようとする事自体が間違いなのだ。これを理解してはいけない。
故に、少女はそれを決して直視しない。それと向き合わない事で、少女はその永遠にも等しい苦痛から逃れていたのである。
己を内部から苛む苦痛は治まらない。地獄のごとき苦痛は止まない。しかし、それを少女は一切向き合わない事で意識から逸らし逃れている。
つまり、意図的に苦痛から意識を外しているという事だ。
そして、それこそがこの理解出来ない何かに対する明確な最適解でもある。
「………大丈夫、きっと…………これ、で終わる。全て」
そう呟く。呟いて、笑みを浮かべる。それは、決して強がりなどではない。
少女は待つ。待ち続ける。きっと、クロノはそんな少女の事すら助けようとするだろう。そんな少女の事ですら救おうとするだろう。彼は、優しいから。何処までも優しいから。
少女は待つ、少年の優しさを知るが故に。自身の前へ必ず来ると信じてる。
そして、妄信しているのだ。きっと、彼ならば己を罪と罰から解放してくれると。あの少年ならば必ず死という救いを自身に与えてくれると。信じている。
けど、少女は一つだけ間違いを犯していた。一つだけ、誤認していた。
少年が、どれほど少女を愛しているか。そして、少女がどれほど少年を愛しているか。
そう、少女と少年は一切の虚飾や装飾が不可能なレベルで互いを愛していたのだ。
少女は少年の事が大好きだった。少年も、そんな少女の事を愛していた。
そのたった一つの間違いが、大きな計算違いを起こす事になる。少女の計画は、最初から破綻しているのを彼女自身が未だ知らないのだ。
或いは、その少女ははじまりから破綻する運命だったのか。世界を破壊する生体兵器として生み出されたその瞬間から、彼女は既に破綻の道しか無かったのか。
それは誰にも分からない。ある存在以外には。
・・・・・・・・・
直後、架空大陸全土を揺るがす爆撃があった。




