番外4,大兎の心情
吾輩は大兎である、名前など無い………なんつって。
改めて、僕は大兎。怪物種の中でも準王級に位置付けられる希少種だ。けど、僕自身は別段そんな自覚などありはしない。僕はあくまで僕として割かし気ままに生きてきたつもりだ。
けど、そんな僕に人間の友達が出来た時は嬉しさのあまり舞い上がったけどな?まあ、それは別に大した問題ではないだろうけど。問題は、僕が約束通り兵器の素材となった後だ。
僕自身はそんな事、気にしていない。形が変わっても僕は僕だからね?
けど、どうやらレンの方は結構気に病んでいるらしい。
どうやら、レンは一か月以上もの間飲まず食わずでふさぎ込んでいたらしい。らしいというのは研究者たちが会話しているのを兵器となった僕が傍で聞いていたからだ。
僕とジャバウォックが戦っている間、何も出来なかった自分に責任を感じている。
そして、友達を結局兵器にしてしまった事にも責任を感じているようだ。
………レンは相変わらずらしい。全てを自分の責任にする、優しい人間なのだろう。
優しすぎるからこそ、全てを自分のせいにするのかもしれない。
優しすぎて、逆に生きづらいタイプという事か。それは確かに病んでしまうかもな?
うん、初めて出来た友達の悩みだ。友達として何かしたいとは思っている。
果たしてどうしたものだろうか?そう思っていたら………
ある日、剣となった僕を研究施設から盗み出した者が居た。その正体に思わず僕は驚く。
シンシアだった。
どうやら、彼女は僕をレンの許へと連れ出す気でいるらしい。うん、分かってはいたけど僕は一応兵器なんだけどな?果たして、僕を連れ出してどうするつもりなんだろうか?
………久しぶりに見たレンは、随分とやつれていた。
やつれてはいたけど、剣となった僕を見て酷く驚いた顔をしていたのは理解出来た。恐る恐ると僕へとその手を伸ばし、抱き締めると何かの箍が外れたように大泣きした。
ごめんなさい。ごめんなさいと繰り返し泣きながら謝っていた。
滂沱と涙を流し、謝りながら強く僕を抱き締めていた。
シンシアも、そんな彼を抱きしめて泣いている。うん、はっきり言って僕はこんな時どうすれば良いというのだろうか?聞いた事があるぞ?これをデバガメというんだろう?
二人の間に挟まれて泣かれてもなあ?後、結構苦しいんだけど。意思と肉体が同化しているから二人に挟まれている感覚が丸わかりなんだよ。暑苦しい!
………うん、まあ良いや。それはまあ良い。
けどさ、さんざん僕を挟んで大泣きしておいて急に変な空気を作るのは止めようよ。
何なの?何でそんな、チラチラとお互いを見て赤面しつつ変な空気を出してるの?というかおい何をしているんだコラ、そんな僕の居る前で………あ!
うん、ボクハナニモミナカッタ。ボクハナニモシラナイヨ?
………まあ良いや。とりあえず、レンとシンシアはそれからしばらくして結婚した。
どうやら、結婚したその次の日には二人の間に子供が出来たらしい。元気な女の子と大人しい男の子の双子らしいけど。ずいぶんと幸せな生活を送っているようだ。
とりあえず僕から言える事は一つだけだ。爆ぜろ(笑)
それから僕は色々と見てきた。一度僕を使おうと鞘から抜こうとした奴がいたけれど、それは僕自身が抵抗した事で結果的に失敗していた。失敗して、とぼとぼ肩を落として帰っていったそいつの顔はかなり笑えたけれどな?HAHAHA!
けど、僕が何より驚いたのはレンとシンシアのひ孫が旧アメリカの大統領になった事か。
まさか、あの二人の子孫がねえ?うん、世の中分からない物だと思う。
しかも、ゴリゴリの武闘派大統領だし?世の中本当に分からないものだと思う。
武闘派過ぎて、どう考えても戦闘力が人外レベルだ。こいつ、本当に人間なのか?どう考えてもこいつ一人で王を相手取れるんだけど。コイツなら、ジャバウィックなんて瞬殺じゃね?
うん、考えないようにしよう。細かい所は良いんだ。
それよりも、問題は旧日本へ向かうという話が出た事だ。僕は思う、その旧日本にこそ僕が兵器として生まれ変わる切っ掛けとなった人物が居ると。
だからこそ、僕は自分も連れていけとばかりに少し強めに自己主張した。
………そうして、僕はようやく出会った訳だ。僕が兵器となる切っ掛けとなった人物。見た目はかなりひ弱そうな体型をしている。けど、僕は見た目に騙されない。
僕は分かる。この少年の内に秘める異能の強さと内在エネルギーの異常な高さを。
レンは最後まで全てを自分の責任にしていた。他人のせいにするくらいなら、自分が責任を被る方がまだマシだと思うような人間だったけど。それでも僕は思う。
僕が兵器の素材としてバラバラに解体された事も。最後は一振りの剣になった事も。レンは全て自分の責任として重く受け止めていた。けど、それでも僕は思う。
最終的に、僕がクロノと名乗る少年の力となる事は間違いではなかったのだと。
一目で理解したんだ。このクロノ・エンドウこそが世界を救う救世主となると。




