表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新時代の英雄は終焉世界を駆け抜ける~無限と永遠の英雄譚~  作者: ネツアッハ=ソフ
世界会談結束編
62/100

番外3,怪竜ジャバウォック

 瞬間、盛大な爆音と共に街から黒煙(こくえん)が上がった。


「「っ⁉」」


「なっ‼?」


 僕とシンシア、そして大兎は同時に()り返る。其処には黒煙と共に火柱(ひばしら)が上がっていた。それはまさしく現実化した地獄絵図だった。其処にはまさに地獄が(ひろ)がっていたのだ。


 そして、その地獄の中からのそりと一体のドラゴンが(あらわ)れる。ひょろりと異様に細長い胴体に手足を付けた(みにく)いドラゴン。その頭部は(ほお)のこけたネズミのようにも見える。


 全体的に見れば西洋のドラゴンに見えるが、その姿はあまりにも醜悪かつ(おぞ)ましい。女子供が見れば悲鳴を上げて卒倒するだろうまさしく怪物(モンスター)の理想像が其処にあった。


 その醜悪に過ぎるその姿に、僕は絶望と共にその()を吐き出した。


「か、怪竜………ジャバウォック………。この世で最も危険(きけん)な、準王級………」


「そうだ、我が名はジャバウォック。王に()ぐ権威と力を持つ上位種なり」


 怪竜ジャバウォック。その危険度(きけんど)だけで王に次ぐとされている、準王級の中でも最上位に位置する危険生物にしてドラゴンの名を(かん)する希少種。


 この世にたった二体しか存在しない、ドラゴンの一体。


 其処に存在するだけで未曾有の地獄を()む、天空(アマ)駆ける災厄。


何故(なぜ)、こんな事を………?」


「何故だと?下らんな。貴様等下等な人類種など、我ら上位種に蹂躙(じゅうりん)されるのみよ。そも我ら上位種の思考が下等種たる人類(ゴミ)に理解出来るのか?」


「……………………何だって?」


 僕の問いに、ジャバウォックがそう答えた。最初から人類を下等生物と見下(みくだ)している。


 そんな理由で、そんな理由で僕達の街は………


「そもそも、だ。貴様等人類種と末席とはいえ準王級(じゅんおうきゅう)としての力を持つ筈の貴様が仲良く友情などと笑わせてくれるものだ!実に滑稽(こっけい)極まりない!」


 そう言い、ジャバウォックは大兎へと視線を向ける。視線を向けられた大兎は、牙を()きだしにして激しい怒りを(あらわ)にする。それもその筈だ………


 僕達の友情を、こいつは腹の底から馬鹿(ばか)にしたのだ。(ゆる)せる訳が無い。


 気付けば、僕の足は自然と駆け出していた。


 ジャバウォックからすれば、あくびが出る程に(おそ)いだろう。しかし、それでも………


「ふざけるなっっ‼‼‼」


 殴り掛かろうと拳を(にぎ)り締める。例え、こいつに欠片ほども()かなくても。それでも一発殴らずにはいられないのである。こいつだけは(ゆる)してはならない、絶対に。


 それでも、ジャバウォックは笑う。哄笑(こうしょう)を上げる。しかし、


「ぬ、ぐぅ………」


 苦悶(くもん)の声を上げたのは、意外にもジャバウォックの方だった。


 それもその筈だ。ジャバウォックの腹部を、まるで弾丸(だんがん)のような勢いで突進した大兎の頭部が深くめり込んでいたからだ。ジャバウォックの体内で、何かが(きし)むような音がした。


 僕の隣を、大兎が一瞬で()い抜いてジャバウォックへと突進したのである。


「貴様、たかが名無(なな)しの準王級風情で………」


「僕の友達(ともだち)を、馬鹿にするな………っ‼」


 地獄の底から(ひび)くような声。そんな大兎の声を、僕は初めて聞いた。怒りに()ちた声だ。


 ジャバウォックは後ろに数歩ほど後退(こうたい)する。かなり効いたのか、表情(カオ)には苦悶の色が。


「良い………だろう。貴様がそのつもりなら、我が牙と爪で微塵に引き()いてくれる‼」


「それは僕のセリフだっ‼」


 こうして、準王級同士の激しい戦闘が幕を(ひら)いた。


          ・・・・・・・・・


 とはいえ、戦いは終始ジャバウォックの優勢(ゆうせい)だった。同じ準王級同士であっても、それでもその力には大きな(へだ)たりが存在する。


 その危険度だけで最上位に君臨(くんりん)しているとはいえ、ジャバウォックは準王級でも上位の位置するだけの力を単独で保有(ほゆう)している。例え、特殊な異能は持ち合わせていなくても単純な力だけで大陸全土を()るがすだけの力は持ち合わせているのだ。


 それに(くら)べ、大兎は準王級でも単純な力関係で言えば最下級だろう。希少な異能こそ持ち合わせてはいるが戦闘ではほぼ役に立たない。せいぜい、意思の力を多少の強化(きょうか)に回せる程度だ。


 その強化だって、王であるセイテンタイセイに比べれば微々(びび)たる力でしかない。


 彼の王は強化という単純な異能だけで天空(てん)を引き裂き大陸(だいち)を微塵に砕けるのだから。


 意思の力だけで無制限に肉体(にくたい)を再生出来る大兎であっても、準王級で最上位に位置する暴威を前にして成す術などありはしない。純粋な力だけで、天と地ほどの隔たりがある。


 文字通り、その差は歴然(れきぜん)としているのである。歴然としてはいるが、


「ひゅー………ぜひゅー………っ」


 大兎の瞳には(いま)だ絶望の色も諦観(ていかん)の色も無い。大兎はまだ、諦めてはいない。息を切らして意思の力もそろそろ限界に近付いている。極限の集中状態に(くわ)え、その集中力の全てを常に再生能力へと回し続けていたのである。何時限界が来てもおかしくは無いだろう。


 意思の力も無尽蔵(むじんぞう)ではない。極限の集中状態を維持し続ければ何れ()きる。そして一度尽きた意思の力は再び回復するのにかなりの時間を(よう)するのだ。


 しかし、それでも大兎に絶望も諦観も無い。後退などありえないとばかりに敵を(にら)む。


 その意思の力に、あまりの気迫(きはく)に、ついにジャバウォックも後ずさった。その瞬間、


「っ、く………ぁ‼」


 ジャバウォックの断末魔(・・・)は、意外な程に(しず)かだった。


 ほんの一瞬だった。刹那の一瞬、大兎は自らの牙に残る力の全てを注ぎ込み()んだ。


 全力で強化されたその牙により、ジャバウォックは首を()り落されたのである。決着にはほんの一瞬だけあれば良いだろう。ほんの刹那(せつな)の間だけあれば、首を狩る事など造作もない。


 その刹那ほどの隙を見逃(みのが)さなかった、大兎の勝利である。


 しかし………


「……………………」


 ドスンっ、と大きな音を響かせ大兎は地面へと(たお)れ込んだ。大兎もまた、力の全てを使い果たして限界を迎えていたのだから。無理(むり)もない話である。


 だが、僕達からすればそんな事は関係が無い。(あわ)てて、大兎へと駆け寄る。


「っ、ウサギ‼‼‼」


 駆け寄った僕の顔を見て、大兎は心底から安堵(あんど)した———ような気がした。


 僕達が友達になってから今まで短い時間だったけれど。それでも大兎との友情(ゆうじょう)は本物だ。


 そう、僕達の友情は決して(いつわ)りではなかった。それ故に、大兎が泣きそうな僕の顔を見て笑みを浮かべるのが僕自身には理解出来た。心底から安堵しているのが理解出来た。


 僕には自分の表情は分からない。けど、自分が今(ひど)い顔をしているのは理解出来る。理解出来るからこそ余計に泣きそうになる。くしゃりと(ゆが)んでいく。


「ふふっ、酷い………顔…………」


「ふざけるなよ。こんな、こんなことで………」


「泣か………ないでよ………。元々、僕達が友達で居られる時間は………(かぎ)られ、て———」


(ちが)うっ‼」


 それは違う。断じて違う。


 大兎の言葉を遮って僕は(さけ)んだ。顔は、きっと(なみだ)でぐしゃぐしゃになっているだろう。けど僕は叫ばずにはいられなかった。そんな事はないと、叫びたかった。


「僕と大兎はずっと友達だ‼例え、話せる時間が(かぎ)られていたとしても。それでも僕と大兎が友達である事実だけは絶対に()わらない。永遠(えいえん)にだ‼」


 永遠に、その事実だけは変わらないし変えはしない。変わってたまるものか。


 そう、渾身(こんしん)の力で叫ぶ僕に大兎は力の無い()みで笑った。


「ふふっ………永遠なんて、(うそ)でも………言うものじゃない、よ………けど」


「……………………っ」


 けど———


「け、ど………(うれ)しいな………うん、確かにそう………あって()しい、な———」


「っ‼?」


 言って、大兎はそのまま息絶(いきた)えた。いや、息絶えた訳ではないだろう。限定的とはいえこの大兎は不滅の肉体を保有している。つまり、欠片でも肉体が残っていれば(いず)れ復活するだろう。


 けど、それでもやはり。それでもやはり、友達が息絶えるその姿を見るのは(かな)しい。


 見ると、シンシアも止め処なく涙を流していた。涙を流し、()いていた。


 どうやら大兎の姿に思う所があったらしい。僕と彼女はしばらく()き合い、涙した。


          ・・・・・・・・・


 それから(とき)が過ぎ、一年後———


 僕とシンシアは周囲の人達から祝福(しゅくふく)を受ける中、結婚(けっこん)した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ