表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新時代の英雄は終焉世界を駆け抜ける~無限と永遠の英雄譚~  作者: ネツアッハ=ソフ
世界会談結束編
61/100

番外2,芽生える友情と葛藤

 大兎(うさぎ)と友達になって、そろそろ一週間が過ぎる頃。僕は奇妙な感覚を(おぼ)えていた。


「……………………」


「どうした?僕の顔に何か()いているのか?」


 大兎は首を(かし)げ、僕の方を見てくる。いや、まあ僕が大兎を凝視(ぎょうし)していた訳だが。


 うん、どうした事だ?何だかもやもやするような、或いは逆に安堵(あんど)しているような不可思議な感覚が胸の奥を渦巻いている?流石に訳が分からず困惑(こんわく)してしまう。


 だが、まあ………


「いや、何でもないよ。少し(かんが)え事をしていただけだ」


「そうか?何だか(つら)そうな顔をしていたけれど、何か(なや)みがあるんじゃ………」


「はははっ、別に悩みなんて無いさ」


 とは言ったものの、流石に無いと言い切れる保証(ほしょう)は何処にも無かった。


 そもそも、自分でもこの感情の根源(こんげん)に何があるのか理解出来ていないのだから。流石にこれはマズイのではなかろうか?自分でも不安になってくる。


 少し、一人になった時にでもゆっくり考える必要があるかもしれない。


「まあ、でもありがとう。友達に心配してもらえると(わる)くない気分だ」


「うん、僕も友達が出来て少しばかり()い上がっているぞ?」


 ちくり———


 胸の奥に、何かが()さるような感覚がする。いや、これは錯覚(さっかく)だ。そんな感覚などほんの少しもしてはいない筈なのに。その、筈なのに………


 こんな………こんな………?


 僕は、今何を考えようとしていたんだ?今、何を思考に(かす)めさせた?


 分からない。分からない。何も分からない。


「………レン?やっぱり何か悩みを(かく)しているんじゃないか?」


「そんな事は、無いよ………?」


 言っていて、自分でも疑問(ぎもん)に思う。()たして僕はどうなってしまったのか?


 この気持(きも)ちの悪い感覚はどういう事だ?まあ、ともかく………


「今日も中々楽しかったよ。うん、友達(とも)が出来るというのも悪くはないな」


「うん、僕もだ。また(あそ)ぼう」


「おうっ」


 そう言って、僕と大兎はその日(わか)れた。


          ・・・・・・・・・


 そうして、家に帰る途中。ふと考え込む。


「………まあ、少し相談(そうだん)する程度ならな」


 ぽつりと誰にともなく呟いて()り道する事にした。シンシアの家に。


「レン、どうしたの?」


「うん、少し相談があってね」


「相談?何かあったの?」


 シンシアは、僅かに表情を(けわ)しくして聞いてきた。まあ、彼女は僕が大兎との交渉に行く時も心底から反対していたからなあ?少し(おも)う所があるのだろう。


 とりあえず、僕は彼女に最近の近況報告と共に自身に起きた不可思議(ふかしぎ)な感覚を話した。彼女に話せば何かヒントくらいは()かるかもしれないし?


 まあ、分からないかもしれないけどさ。其処は期待(きたい)してはいない。


「……………………それ、って」


「うん?何か()かったのか?」


「いや、何でもないよ。うん、何でもない」


 そう言って、シンシアは慌てて両手を()りながら否定した。何だか、微妙にはぐらかされたような気がしないでもないけれども。まあ()いか。


 分からないなら自分で考えるだけだろう。そう思い、僕はシンシアに(わか)れを告げて今度こそ自分の家に帰る事にしたのだった。


「……………………」


 何故(なぜ)か、シンシアが僕を見送る視線が()っ掛かったけれど。今は気にしない。


 ………そう、思っていたのだが。


 事件が起きたのは、その日の夜だった。


 家でのんびり書類の作成をしていた頃、ドンドンとドアをノックする音が(ひび)いた。はて、こんな夜遅くに一体誰だろうか?のそりと立ち上がり、ドアへと(あゆ)み寄る。


 ドアを開くと、其処にはシンシアの父親が(あせ)った様子で立っていた。


「えっと、どうしました?何か用事(ようじ)でも?」


「それどころではない!シンシアが、娘が一人で大兎の(もと)に向かったんだ!どうやらたった一人で大兎に立ち向かうつもりらしい!」


「っ⁉」


 僕は、考えるより先に家を飛び出した。流石に(ほう)っておく事が出来ない。


 家を飛び出し、街の外に出て、そして大兎の住処(すみか)である小高い丘へと走っていく。やがて大兎とシンシアの姿をその視界に捉えた。どうやら、どちらも無事(ぶじ)らしい。


 ちくり、と胸が(いた)む感覚がする。やはり、何処か引っ掛かりを覚えている。本当に、一体この感覚は何だというのだろうか?僕は、一体何に痛みを(おぼ)えている?


「シンシア!大兎!」


「っ、レン⁉」


「ん?おお、レン‼」


 シンシアと大兎が、同時に僕の方を見た。まだ、どちらも傷一つ()っていない。


 どうやら僕は間に合ったらしい。真っ直ぐ、息を整えてシンシアを見据(みす)える。


「シンシア、どうしてこんな事を………」


「う、うぅっ………ううぅうっ…………」


 問われて、彼女は()き崩れた。その瞳から滂沱(ぼうだ)と涙を零して泣きじゃくる。


 ………え?


「えっと、シンシア?」


「全部、全部この大兎が悪いんだからっ!全て、レンが(くる)しんでいるのは………っ」


「…………どういう、事だ?」


 僕の()いに、彼女はぽつりぽつりと話し始めた。


「レンは、ずっと私と一緒に()ごしてきたの。けど、代わりに他の人達とは一定の距離を保ちあんまり関わり合おうとすらしなかった」


「……………………」


 確かに。僕はシンシア以外の人とは一定の距離を保ってずっと()きてきた。別に人間の事が嫌いな訳では断じて無いのだけれど。他の人とは一定以上近寄(ちかよ)らないようにしてきた。


 けど、それは………


 別に誰のせいでもない。全て、僕が原因(げんいん)だ。


「別に、レンが悪い訳ではないよ。ただ、私にずっと()わせてくれていただけ」


「それは、どういう事?」


 大兎がシンシアに()う。しかし、シンシアの方は一瞬、大兎を(にら)み付けた。


 まるで、親の(かたき)でも見るような鋭い視線だった。


「けど、レンに初めて友達(ともだち)が出来た。人間以外だけど、怪物種だったけれど。きっとそんな事はほんの些細な事でしかないんだろうと思う。重要(じゅうよう)なのは、レンにとって初めての友達だった事」


 そして、その友達が兵器として利用する為に最後は(わか)れる事が確定している事。そうシンシアは血を吐くような呪詛を吐くような声で()げた。


 そう、僕にとって初めての友達だった。人生で初めて友達が出来(でき)た。


 きっと、それが全てだったのだろう。僕の中で、(とげ)がようやく抜け落ちた気分だ。


 ああ、そう言う事か。だから、ずっと僕の中に引っ掛かり続けていたのか。


 安堵の理由が理解出来た。同時に、もやもやしていた理由も理解出来た。


 そう、これは———


「レンは、大兎に対して。怪物種に対して本気で友情を(いだ)いていた。だからこそその友情に対して戸惑い悩み続けていたの‼何れ兵器にしてしまう事に(もう)し訳なさを感じていたのよ‼」


「それ、は………」


 大兎は、僕に確認するように視線を()けた。僕はゆっくりと頷いた。


 そうだ。僕は大兎(かいぶつ)に対して友情を感じていた。だからこそ、彼を何れ兵器として変えてしまうその事実に対して申し訳なさを感じていたんだ。


 ああ、そうか。それを理解したからこそ、シンシアは。彼女はその責任(せきにん)の所在を大兎へと向けたんだろうと僕は推察(すいさつ)した。しかし、何故(なぜ)


「全部、貴方のせいよ。貴方さえいなければ、レンが思い(なや)む事もなかったのに。レンがこんなに苦しむ事も無い筈だったのに。全部、全部………っ」


「何故、そんなにシンシアが?」


 僕の事で(おこ)るのか?何故、シンシアが僕の事でそんなに思い悩むのか?


 その疑問に対し、シンシアは簡潔(かんけつ)に答えた。要は至って簡単な理屈(りくつ)だ。


「………ずっと、レンの事が好きだった。レンの事を(あい)していた。貴方一人が居れば、レン一人が居ればそれだけで満足(まんぞく)な筈なのに。その、筈だったのに………っ」


 ああ、そうか………


 思わず納得した。これも、つまり僕が原因だったという訳だ。全部全部、僕が原因だ。


 つまり、シンシアはずっと不安(ふあん)だったのだろう。僕がシンシアから(はな)れてしまう事を。


 シンシアから離れて、大兎との友情を取る事を不安に思い(おそ)れていたのだろう。


 だからこそ、僕が大兎との友情で戸惑い悩んでいるその責任を大兎へと向け、弾劾(だんがい)する事で僕を取り戻そうとした訳だ。


 すとんと、心の奥底でずっと引っ掛かっていた物が落ちたような感覚がした。


「それは(ちが)うよ。シンシア」


「………え?」


「僕は、本当は(うれ)しかったんだ。本当に嬉しかったんだ。だからこそ、その友達を失う事を心の底から恐れていたんだと思う。ただ、それだけの事だったんだ」


「それ、は………」


 けど、と僕は(つづ)けて言った。


「けど、その友情の為に愛する人と友達が相争うような事は断じて許容(きょよう)出来ない。それは、僕の望むような状況ではないんだよ」


「っ⁉」


 驚いた表情(かお)で僕を見るシンシア。


 今度こそ、僕は彼女に本音(ほんね)を語る。ずっと、僕が彼女に(だま)っていた本音を。


「ずっと、シンシアの事が大好きだった。愛していたんだ。だからこそ、それ以外何も()らないし必要が無いと思っていたんだ。ずっと、思っていたんだ」


 けど、


「それでも、僕に友達が出来た。無二の親友が出来た。かけがえのない友情を()った」


「…………」


 きっと、僕は優柔不断なのだろう。


 どちらかを(えら)ぶ事の出来ない、わがままの過ぎる子供(ガキ)なのだろうと思う。


 けど、それでも………


「僕は、その友達が出来た事を何よりも(よろこ)んでいる。そして、シンシアの素直な気持ちを知れて本当に嬉しいと思っているんだよ」


「………っ」


「シンシアは、そんな僕を(なさ)けない。優柔不断だと(おこ)るか?」


 問い掛ける。僕の問いに、彼女は首を左右に振った。


 しばらく考え込む仕種(しぐさ)をした後、真っ直ぐと僕の目を見て(うす)い笑みと共に言った。


「ずるいよ。そんな質問、本当にずるい………」


「かも知れないな。ごめん」


「うん、私の方こそごめんなさい。少し混乱(こんらん)していたよ」


 そして、僕は大兎の方へと視線を向ける。


「大兎も、ごめん。(きみ)を何れ兵器へと変えてしまう事になってしまうけど。そんな自分自身をふがいなく思うけれども、それでも僕の事をまだ友達(とも)だと思ってくれるか?」


「ああ、勿論(もちろん)だよ」


 そう言って、僕達は笑い合った。しかし、それはまだ(あらし)の前のほんの些細なこじれでしかないと知るのはもう少し後の話だった。


 そう、本当(ほんとう)の嵐はもう少し後の話だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ