表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新時代の英雄は終焉世界を駆け抜ける~無限と永遠の英雄譚~  作者: ネツアッハ=ソフ
滅亡世界編
6/100

5、この世界を生きる者

 目を()ませば、其処(そこ)は知らない室内だった。俺は古びたベッドの上に寝ている。起き上がろうとしてすぐに気付いた。俺の腹部を(まくら)に、もたれ掛かりながらユキが寝ていた。


 すやすやと安らかな顔で眠るユキの姿に、俺は少しだけ気が(ゆる)んだ。うん、可愛い。


「……………………」


 俺はしばらく考えた後、そのまま諦めてベッドに再度寝転(ねころ)がる。どうやら、ずっと彼女が傍に居続けてくれたらしいと。俺はそう理解(りかい)した。


 理解して、少しおかしくなり笑みを浮かべた。そのままユキの頭に手を置いて()でる。


 さらさらの髪。流れるような(つや)やかな髪は撫でただけで心地良い。


 そのままずっと撫でていたくなるが、そうもいかないらしい。ユキの目が(わず)かに開いて。


「……………………?」


「起きたか?ユキ」


「………?………っ‼っっ⁉」


 ユキはくわっと目を見開(みひら)いた。見開いて、俺をじっと見た。(わず)かな混乱。


 がばっと起き上がる。目を白黒させ、そのまま俺の顔をじっと見詰めるユキ。何だ何だと思い俺も目を見開いて彼女の顔を見詰め返した。互いに見詰め合う形……


 それが一体どれくらい(つづ)いただろうか?しかし、やがてユキはその目から涙を流し始め、


「……へ?」


「良かった。うっ……本当に、もう目を()まさないんじゃないかって………ひっぐ」


「ええっ⁉俺、そんな重傷だったのか‼」


 こくりと頷くユキ。俺は自分の身体(からだ)をあらためる。しかし、身体中に包帯が巻かれて若干血が染み付いている意外は何の異常(いじょう)もない。どう見ても健康体だ。


 しかし、ユキが言うには俺はかなりの重傷を()っていたらしいのだが?少し、怖くはあるが一体どの程度の負傷だったのだろうか?()いてみる事にした。


「えっと?聞いてみるけど、どの程度(ひど)い怪我だったんだ?」


「えっと……身体中に甲殻バジリスクの牙や爪での傷がたくさん。それも、割と(ふか)くて何本か骨が折れていた上に内臓(ないぞう)も多少傷付いていたらしいよ?」


 ………はい?


「……は?え、マジで?」


 ユキは再び涙目になりながら(うなず)く。どうやら本当らしい。


 そっかー、と俺は呟き老朽化した天井を(あお)ぐ。本当、よく生きていたなと思いたくなる。


 再度、俺は自身の身体をあらためる。俺の身体には(とく)に異常といえるものは見られない。やはり血染めの包帯が巻かれているだけだ。(いた)む部分も特にない。


 一体どうなっているんだ?不審に思うが、まあ良いと一度思考を()る。


 その瞬間、そっとユキの手が俺の身体に()れる。優しい、羽毛が触れるような手つき。


「本当に大丈夫?何処も(いた)くない?」


 心配そうにずいっと近寄りながら聞いてくる。すぐ目と鼻の(さき)にユキの顔が。思わずドキリと鼓動が高まり、俺は視線を()らしてしまう。何か勘違いをしたのか、ユキの表情がくしゃりと(ゆが)む。


 泣きそうになるユキの顔に、俺は無様に(あわ)てた。どうも気が狂う……


「ああ、大丈夫大丈夫。何処(どこ)も痛くはないから。気にしないでくれ」


「…………本当に?」


「ああ、本当だって」


 大丈夫‼と俺は拳で胸のあたりを思い切り(たた)いた。うん、少し痛い。強く叩き過ぎた。


 ようやくユキも俺が元気である事を信じたのか、良かったと涙を(ぬぐ)い笑顔を見せる。その笑顔に俺は再度ドキリと鼓動が高まった。うん、何故(なぜ)だろう?ユキと話しているだけでドキドキする。


 ……顔が熱い。ユキの顔がまともに見られない?


 と、その時。唐突にドアが(ひら)いて中に一人の男性が入ってくる。歳の頃は大体二十代後半くらいという所だろうか?無精髭を生やした、気だるげな白衣(はくい)の男だ。


 よれよれの白衣を着た、髭のおじさんといった所だろうか。うん、ずいぶんとまあ。


「……えっと?」


 俺が何かを言おうとした時、男は俺の姿を見て驚いたように目を大きく見開(みひら)いた。


 一体何なのか?男は口を(ひら)き……


「お前、何でぴんぴんしているんだ?」


 いきなり酷い事を言われた。何でって………


「何でって……」


「あれだけの重傷、この時代じゃあ(なお)す為の機材すら無いってのに……」


 そう言えば、と。俺は改めてこの時代の事を思い出した。


 そうだ。この時代は文明が崩壊(ほうかい)した後の世界だった。つまり、怪我を直すにしても手術をする為の機材すら無いのだった。何で俺は無事(ぶじ)なんだ?


 そう思ったが、俺はすぐに理由に思い(いた)った。そうだ、俺は今普通(ふつう)の人間じゃなかったんだ。


 俺はコールドスリープの装置に入っている間に、架空塩基という人造の因子(いんし)を遺伝子の中に組み込まれたんだった。恐らく、俺の覚醒した異能(いのう)が何らかの作用をしたのだろう。


 思い出す。アインは確か、俺の意思の強さに比例(ひれい)して力を与えると言っていたか?それはつまり俺の意思の強さにより力は増大(ぞうだい)していくという事だろう。


 問題はその力の内容が何なのかだ。しかし、今はそれは置いておいて男の質問に答える。


「えっと……とりあえず気合(きあい)?」


「いや、気合でどうにかなる負傷じゃねえ‼」


 思わず(さけ)ぶ男。しかし、俺自身理由がいまいち解っていないのだから()いじゃないか?


 そう思うが、男にはいまいち納得出来ないらしい。納得の出来ない表情で(うな)る。


「ぐぬぬ………まあ良い。良くはないが、まあ良い。それよりも俺はお前に(はなし)があったんだ」


「はぁ……」


 話、ねぇ……?


 俺は気のない返事を(かえ)す。しかし、有無を言わさない声音で男は言った。


「とりあえず、先に名乗っておこう。俺の名は川上(せんじょう)ヤスミチだ」


「遠藤クロノです」


「じゃあクロノ。単刀直入に言う、お前は何者(なにもの)だ?」


 そう言い、ヤスミチは俺を睨み付ける。それは一切の嘘偽りを(ゆる)さないという強い意思の現れでもあるのだろう。少しでも嘘を言おうものなら、此処(ここ)から叩き出すと。


 事実、文明が滅びた世界に生きる者の覚悟(かくご)をこの男は持っていた。故に、俺はじっくりと考え込んでから俺なりの答えを(かえ)した。返す事にした。


「俺は、ヤスミチさん達から見てかつて滅びた文明の遺物(いぶつ)なんだろう。俺はずっと装置の中で眠り続けていた事になる。俺からしたら、つい最近になってようやく目覚(めざ)めたところだ」


「……………………」


 沈黙(ちんもく)


 唖然(あぜん)とした表情で、ヤスミチさんは俺を見る。何だよ?


 とりあえず、俺もヤスミチさんの顔をじっと見る。はたから見たら俺達は(にら)み合っているように見えるのだろうか?まあ、それは()い。


 やがて正気に戻ったのかヤスミチさんは首を左右に振った。そして、訝しげに()う。


「……それは、本当の話なのか?」


「ああ、本当の話だ。それと出来ればこの話はあまり言いふらさないで貰いたい」


「あ、ああ。(わか)った……じゃあ、最後の質問だ」


 そう言って、ヤスミチさんは表情を元に(もど)して俺に問う。


「お前はこの時代で(なに)をしたいんだ?お前はこの世界で何をしようと思っている?」


 その質問に、俺はゆっくりと考えを(めぐ)らせた。


 この時代で何をしたいか、か。さて、どう答えた物かな?正直目覚めたばかりの俺にはこの時代で何をしたいかなど明確な目的(もくてき)がない。しかし……


 俺はやがて思考を切ると俺の考えを(こた)えた。


「しばらく俺は文明の崩壊の原因を調(しら)べたいと思っている。どうして、あの大災厄は起きたのかを俺は知りたいと思う。それが生き残った俺の責任(せきにん)だと思うから……」


「…………」


「……………………」


 この回答には、ヤスミチさんだけではなくユキも(だま)り込んだ。沈黙が室内を満たす。


 しかし、その沈黙はヤスミチさんによって(やぶ)られた。


「……ぷっ、あはははははははははははははははっ‼そうか、責任か。なるほど?(たし)かに生き残りであるお前にはそれを()る責任があるのかも知れないな。ははははははははははははっ‼」


 何だか(ふく)みのある言い方である。それと、先程からユキがずっと黙り込んだまま真剣な表情で俺を見ているのは何故だろうか?どうも、何かを(かんが)え込んでいるような?


 しかし、それを聞く前にヤスミチさんがバンバンと俺の(かた)を叩いてきた。少し痛い。


「俺はお前の事が気に入った。良いぞ?今日からお前は俺達の仲間(なかま)だ」


「は、はぁ………」


 俺は、そんな風に曖昧(あいまい)に返答する事しか出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ