1,集う代表たち
急遽発表された西欧の代表による声明。それにより旧日本で会談が行われる事となる。
ヤスミチさんは何故いきなりと盛大にぼやいてはいたが、しかしその暇も無い。どうやらもうじき各地の代表達が旧日本へ到着するらしい。
流石にぼやいている暇が無くなった。なので、文句を言いながらもヤスミチさんと俺達は早急に会談の場となる会場を確保する為に駆けまわっている。
会場はもちろん、旧神奈川の廃墟街に作るしかない。時間など無いのだから。
ちなみに、賓客扱いである大統領は仮設のテントで休んでもらっている。
こればかりは流石にどうしようもない。急いで場所を確保し会場をセッティングする。
そして、それより気になる事が一つだけあった。
「なあ、ヤスミチさん?」
「あ?何だよ………今忙しいからさっさと話してくれないか?」
俺が話しかけると、ヤスミチさんはさも面倒そうに首だけ振り向いて言った。
そんな彼に、俺は問い掛ける。
「西欧の代表、クラウンは一体どんな目的があって会談を申し込んできて、そしてどんな目的で此処旧日本をその会場に選んだんだ?」
「………知らん。だが、」
一瞬だけ、ヤスミチさんはその手を止め考え込む。しかし、やがて考えを纏めたのか自身の推測をぽつりぽつりと語り出した。
「恐らく、旧日本でなければならない理由があったんだろうな。或いは、旧日本に目的となる何かがあるのかもしれない。例えば、お前とか?」
「……………………」
「お前は、旧文明の生き証人だ。だからこそ、この時代においては他の何より価値がある」
「………そう、か」
なるほどな、と。俺は思わず納得した。
納得し、そして改めて気を引き締める。それはつまり、意味としては一つだろう。
———即ち、俺が持つ旧文明の情報及び大崩壊当時の情報。
「気を付けろよ?奴等がどんな目的で何を仕掛けてくるのか正直分からんからな」
———そう、ヤスミチさんが言ったその直後。
「ずいぶんと警戒された物だな?別に大した事はせんよ」
瞬間、いきなりその場に強大な気配と共に声が聞こえた。慌てて振り返ると、其処には金髪の青年を筆頭に複数人の男女が出現した。本当に、何の前触れもなく其処に現れたのである。
金髪の青年の背後には、色の黒い少女と白い少年が。中華風の衣装に身を包んだ女性とそれに付き添うように控える青年が。それぞれ超然とした態度で立っていた。
流石に、俺もヤスミチさんも驚愕を顕にした。特に、ヤスミチさんは目に見えて動転しているのがありありと理解出来る。動転したまま、混乱のままに叫ぶ。
「空間転移だと⁉それも、何の前触れもなくこの人数をこの距離で運んだというのか!」
「………ふむ、少し訂正しよう」
動転するヤスミチさんを前に、まるで何でもないかのように話す青年。
まるで、ほんの些細な話でもするかのような気軽さだった。
「これは厳密に言えば空間転移とは法則が異なる。より正確に言うと、空間偏在という」
「空間偏在?」
思わず、俺は問い返した。対する金髪の青年は俺に笑みを向けた。まるで、王族でも相手にしているかのような高貴さが自然と青年から溢れ出ている。
その気配に、ある種の畏敬すら覚える。しかし、俺はそれを呑み込んで見返した。
そんな俺の態度の何が面白かったのか、青年は盛大に笑う。その笑い声すら様になる。何処までも優雅で高貴さに満ち溢れた気配を身に纏っていた。
「………なるほど?君がクロノ・エンドウかね。私の名はクラウン、西欧の代表だ」
「貴方が、クラウン?西欧の代表の………」
「まあ、別に其処まで身構えなくても結構だ。私はただ、旧文明の崩壊について君に一つの真実を伝えに来ただけなのだからね。其処まで大した時間は取らせんよ」
「真実、だって?」
「そうだ、その前に紹介しておこう………来い」
クラウンがそう言った瞬間、またも何の前触れもなく一人の男が現れた。
俺はその男を見て、僅かに目を見開いた。何故なら、彼は明らかに東洋人だったから。狐面で顔を隠してはいるものの、その身に纏う和装に黒髪黒目、肌の色は東洋人特有の物だ。
「紹介しよう。彼はシラヌイ、君と同じ旧文明の生き証人だ」
その紹介に、俺は思わず目を剥いた。しかし、俺以上にヤスミチさんが驚いていたようでこれ以上なく動転した様子で声を荒げた。
「馬鹿な!クロノ以外に旧文明からの生き残りが居ただと⁉」
「別に不思議な話でもあるまい?クロノという生き証人が居る以上、他にも同じようにして生き残りが居る可能性もあるのではないかな?」
「……………………」
ヤスミチさんが何も言えずに黙り込む。
確かに、その通りだろう。確かに、俺がコールドスリープという方法で生き残ったなら他にも同じ方法で生き残りが居た可能性は考えておくべきだったのかもしれない。
つまり、このシラヌイという男も俺と同じくコールドスリープでこの時代まで眠っていた人物という事になるのだろうか?
と、その直後………
痺れを切らしたのかクラウンの背後に居た色の黒い少女と白い少年が割り込む。
「失礼、そろそろ会談をはじめませんか?積もる話もあるでしょうが、それは全て会談で話すべきだと私は思いますが如何に?」
「そうだね、僕もそう思うよ。事態は急を要するんだし、そろそろ始めるべきだと思う」
その言葉に、クラウンは僅かに苦笑を浮かべた。
「ふむ、確かにな。クリシュナ殿やアルジュナ殿もそう言うのならそろそろ始めるべきか」
………どうやら色の黒い少女がクリシュナ。色の白い少年がアルジュナというらしい。
しかし、彼等は兄妹なのだろうか?顔立ちがそっくりだ。
そんな俺の思考を切るように、中華風の衣装に身を包んだ青年が口を開いた。
「では、世界会談を始めるとしましょう。と、その前に自己紹介を。私の名は王五竜、其処におられます旧中国の代表であられる飛一神の護衛になります」
中華服の青年、王五竜の自己紹介に旧中国の代表こと飛一神は優雅に一礼した。
しかし、この旧中国の二人かなり強いな?隙が全く無い。
そして、続いて黒い少女と白い少年の二人が名乗る。
「私の名前はクリシュナ。旧インドの代表の片割れになります」
「僕の名前はアルジュナ。同じく旧インドの代表、その片割れだ」
どうやら彼等は旧インドの代表らしい。しかし、彼等は護衛を付けなくて大丈夫なのか?
少しだけ、疑問に感じた。
「では、私は先程言った通り西欧の代表であるクラウンだ。そして傍に居る彼が私の護衛として共をするシラヌイという。どうぞよろしく頼むよ」
そう言うと、クラウンは周囲を見回して全員を確認した後頷く。
そして、優雅な笑みを浮かべて一言。
「では、世界会談をはじめよう」




