プロローグ
西欧、旧フランス領———とある屋敷にその男は居た。
西欧を統べる。いや、今や旧ヨーロッパ全域を統べる総代表。クラウンその人である。
見た目は至って簡素な衣服を身に纏った、それでいながら輝く黄金のように煌びやかな高貴さを身に纏う金髪の美丈夫である。静かに読書をするその姿は、まるで一枚の絵画のよう。
しかし、やがてクラウンは書物から視線を外し虚空に声を掛けた。
「ふむ、来たか………シラヌイ」
「ただいま世界中に声明を発表しました。現在旧日本に向かう準備を整えております」
瞬間、誰も居なかった筈の空間に一人の青年が現れる。
狐の仮面を被った黒髪に和装の青年。仮面から除く瞳の色は髪と同様の黒。肌の色から推察するに東洋人である事がうかがえるだろう。いや、どう見ても東洋人にしか見えない。
それも当然の事。彼は生粋の日本人なのだから。
「………どうだ?君としては故郷の地なのだろう?何か感慨のような物でもあるのかね?」
「いえ、やっぱり特に実感はありませんね。私としてはずっと眠っていた訳ですし」
「ふむ、それは残念だ」
そう言い、クラウンはゆっくりと立ち上がる。
「では行こうか。旧日本に居る君の同胞に、エンドウ博士の子に会いに」
「御意」
そう言って、クラウンとシラヌイを名乗る青年は部屋を出た。
物語は、新たな局面を迎える。




