エピローグ
「時を………越える………?」
思わず、といった具合にヤスミチさんの口からそんな言葉が漏れる。無論、他の皆も同様に愕然としている様子である。俺は、自分の異能について理解があったから驚きは少ないが。
しかし、多少は驚いていた。なるほど、時を越えるか。確かに、俺の異能を使えば時を越える事くらいは十分に可能だろう。いや、この場合は時を遡るか。
俺の異能は言ってしまえば完全制御された反エントロピー。即ち、時の流れを逆流させる。
………時間の矢という概念がある。時間の流れを示す重要な概念ではあるが。
簡単に説明をすれば、時間の流れは過去から未来に向けて一方向にしか進まないという。しかし俺の異能はその時間の矢を反転させる事が出来る。つまり、過去への回帰だ。
それを利用すれば、恐らく大崩壊そのものを未然に防ぐ事も容易いだろう。しかし、
「本当に良いのか?それをすれば、この時間軸は………」
「うん、この時間軸は新たに生まれた時間軸によって消滅するでしょう。或いは、別の可能性として分岐するだけなのかもしれないけど」
「本当にそれで良いのか?それは、都合の良い世界に逃げているだけでは………」
俺の言葉に、ハクは首を左右に振った。
その表情は何処か悲しげで、もうどうにもならない現実に対し諦観のような感情が見えた。
「貴方は多分、何処までも優しいのでしょう。だからこそ、その道を選ぶ事が出来ない」
「………それは」
違う。そう言おうとしたが、言葉に詰まって言えなかった。
対するハクは話を続ける。
「けど、違うの。そうじゃない………この世界はどの道もう滅びるしかない。詰んでいる」
「そんな事———」
そんな事はない、と。
そう言おうとした。その瞬間———
突然空間を越えて戦闘機のような何かが出現した。それは流線形のフォルムをしたステルス機のような形状をしており、しかしそのカラーリングはステルス機にあるまじき派手さだった。
ドラゴンに剣が突き刺さった図柄、その下に英語でジョン・スミスと書かれていた。
………何だ、これは?
その中から、一人の青年が出てくる。何処か慌てた様子だ。
「どうした、フィリップ=クロス補佐官?」
「た、たた………大変です大統領!西欧の代表、クラウンが世界中に声明を!」
「………それで、クラウン代表は何と言っているのだ?」
若干緊張を帯びたような声で、大統領は問う。どうやら、かなり大事らしい。
フィリップ補佐官は何とか気を落ち着け、ゆっくり呼吸を整えた後言った。
「最終決戦の時は来た、世界中に居る我が同胞達よ集結し結束せよと」
「ふむ………」
僅かに考え込む仕種を見せる大統領。しかし、次にフィリップ補佐官が言った言葉に思わずその耳を疑う事となるのだった。
無論、俺達も………
「それから、もう一つ………決戦の前に、話したい事があると。場所は旧日本でと」
「っ、何だと‼」
思わず、ヤスミチさんが驚きに声を上げる事になる内容だった。




