閑話、その頃架空大陸にて
その頃、架空大陸ムー………中央の玉座にて。
星のアバターこと白川ユキは玉座に座した状態で耐えがたい苦痛にあえいでいた。その身体からは絶えず陽炎が立ち上り、周囲を焼き尽くす業火となって現れている。
まるで、ユキの身体を地獄の業火が焼き尽くさんと顕現しているかのよう。しかし、それでもユキはその苦痛を渾身の気合で押し留め身体の損傷を即時修復する。
しかし、それがかえって大きな苦痛に繋がっているのが現状であった。
再生しては焼かれ、そして焼かれては再生しの繰り返し。永遠の痛苦。
「クロノ、君は………これほどのモノを今まで…………」
そう、この状態はクロノの中からアイン=ソフ=オウルの人格を奪った事で起きていた。
彼女は知っていた。クロノの中に、異能とはまた異なる異質な何かが宿っていた事を。
彼女がやったのは端的に言って、その異質な何かを彼から摘出し奪い去った事だ。
しかし、彼女はついぞその異質な何かを理解する事が出来なかった。一体何だこれは?こんなものが果たして存在するのか?存在して良いのか?理解出来ない。分からない。
何処までも異質で異形な何か。理解の範疇を超えた、理解すること自体が間違っているようなありえない事象の具現が其処にあるような。何処までも理解不能なアンノウン。
恐らく、正面から向き合えばそれだけで狂ってしまうような。そんな存在だった。
それを、ユキは一切向き合わず理解を放棄する事で何とか抑え込んでいた。
これは駄目だ。こんなものは存在してはいけない。この物質界に存在すべきではない。これが現れればそれだけで世界の全てが歪んで狂ってしまう。そういう存在だ。
ユキは知らなかった。この存在をかつて、ある人物が予見し言及していた事実を。
かつてとあるギリシャの哲学者が言った、???という名の理論を。
・・・・・・・・・
自身の主、母の苦痛を前にしてオロチは思わず息を呑んだ。
母である星のアバター、その苦痛に気圧されたのではない。それ自体に思う所はある。しかしそれをおして余りある程にオロチは感じていた。彼女の決意と覚悟の固さを。
自ら死へと向かう。贖罪の為に、自ら死に向かうその姿を。
「母よ、貴女はそれほどまでに死にたいというのか?それほどまでに死にたかったのか?」
オロチは悔しかった。悲しかった。自身が救いたかった母が、何より死を望んでいた事を。
もう、既に彼女は死ぬしかない状態にまで追い込まれていた事実に。その事実にオロチは何よりも悲しく辛く悔しかった。それを理解出来ていなかった自分自身に腹が立った。
「………欲しい、力が。母を救えるだけの力が欲しい。こんな理不尽など断じて」
断じて、こんな理不尽など認めてなるものか。その憤りは、声にならぬ声となって。




