7,クロノの異能と大統領の登場
「お前が、ツチグモだな?」
「そうだ、俺がツチグモだ。会いたかったぞ我が仇敵」
ツチグモは俺に敵意を漲らせながらそう告げた。まるで、親の仇に会ったような。
或いは、ついに獲物を見つけた肉食獣のような殺意と敵意。
仇敵、ね?やはりこいつも、俺の事を許せないと心から思っているのだろうか。ユキを無意味に苦しめ苦悩させる敵であると。そう考えているのだろうか?
だとしたら、俺は彼に対してどう答えるべきなのだろうか?俺は果たして、彼とどう向き合いどう語り合うべきなのだろうか?考える。
しかし、次にツチグモが言った言葉は俺にとって予想外な言葉だった。
「………勘違いしないで欲しい。俺はお前に対して一目置いている。いや、はっきりと言えば一目置いてはいたの間違いか?ともかく、俺はお前に対してある種期待していたのだから」
「………何だって?」
期待?王が俺に期待だって?それこそ俺は理解出来ない。
というよりも、これほどの敵意を向けていながらそれでも期待していたと?
訳が分からない。しかし、興味はあった。だからこそ、俺はツチグモの話に耳を傾ける。
それは他の者達も同様らしい、他の皆も黙って聞いている。聞いていた。
が、次の瞬間ツチグモの態度は激変した。
「しかし、今ははっきり言って失望している。何だ、この体たらくは?ふざけるな!貴様は本当に母を救う気があるのか?本当に母を救う覚悟があるのか!」
「な………っ‼」
静かに怒りを漲らせるツチグモ。俺は、僅かにその怒気に気圧された。
しかし、一体何を言っているのか?俺が、ユキを救う気が無い?その覚悟が無いだと?
それは一体どういう事だ?
「一体、お前は何を………」
「貴様には失望した!母を救えるだけの力を持ちながら、それでいてその力をそのように振るおうとしないその甘さに俺は何より失望しているのだ!ふざけるなっ‼」
「っ⁉」
「貴様は………貴様の力は………」
「其処までだ、兄弟よ。今はそれ以上言うべき時ではない」
瞬間、其処に現れた第三者によりツチグモの言葉は止められた。しかし、その第三者の出現は俺達からすれば更なる地獄でしかないだろう。
何故なら、その第三者の正体とは………
「っ、ドラゴン………だと?」
「りゅ、竜王ゲオルギウス‼な、何故旧アメリカを巣食う王がこんな場所にまで‼」
俺の驚愕の後、ヤスミチさんが更なる驚愕を以ってその正体を答えた。
竜王ゲオルギウス。この世に存在する怪物の王。その中の一角。
こうしてみると、なるほどこれは異形だ。一体どのような進化を辿れば、このような異形の姿になれるというのだろうか?少なくとも、俺には分からない。
しかし、その異形のドラゴンからはなるほど強大無比なエネルギーが感じられた。恐らくだが彼が軽く暴れたただそれだけで未曾有の大災害となるに違いない。
全ての王は、一撃で大陸を沈めるだけの威力を持つ。なるほど、彼の竜王を見ればそれが納得出来るだけの力とエネルギー量を感じる事が出来る。それが、肌で分かる。
それが、否応なく理解出来る。
「ゲオルギウス、貴様一体何の用だ?」
「母からの言伝だ、さっさと私の許へ帰って来いと」
その言葉に、ツチグモは僅かに考える仕種をする。
そして、
「もう少しだけ、こいつと話す事が出来ないか?」
「駄目だ、母はこうも言っていたぞ?私の目を盗んで遠藤クロノに手を出す事を許さない」
「……………………分かった」
しばらく考え込んだ後、ツチグモはそう言ってゲオルギウスと共に去ろうとした。
しかし、それを俺は引き留める。断じてそのまま引き下がらせる訳にはいかない。このまま引き下がらせては絶対にいけない。
「待て、さっきツチグモが言っていた事はどういう事だ‼」
「……………………」
「……………………そのままの意味だ。今はもう話す事はない、何もな」
何も言わないツチグモに代わり、ゲオルギウスが答える。しかし、それで俺がのこのこ引き下がる訳にもいかないだろう。此処で引き下がる訳には断じていかない。
一体ツチグモは俺に何を期待している?俺がユキを救える明確な方法があるのか?
しかし、ツチグモとゲオルギウスは取り合わない。そのまま俺を放って去ろうとした。
その瞬間、
「っ⁉」
「む‼」
それはあまりにも静かな襲撃だった。静かに、空気すら引き裂いて王に迫る。
遠い彼方から、一条の閃光がゲオルギウスとツチグモに飛来した。その閃光は、まるで空間そのものを引き裂かんばかりの勢いで王に迫る。
しかし、それを見たゲオルギウスは嬉々とした笑みを浮かべ謎のエネルギーで防いだ。
謎のエネルギー、それは本当に正体不明の力場で防いだような感覚だった。
そして、何故か歓喜にも似た声で彼の竜王は叫ぶ。
「貴様か!ついに貴様が腰を上げたか、キングス=バード‼」
「俺の事は大統領と呼べと、そう言っただろう?ゲオルギウスのドラゴンよ」
ゲオルギウスの声に応えるその言葉。そちらの方を見ると、其処には………
無骨極まりない巨大なアンチマテリアルライフルを持った、異形の全身黒鎧が居た。その異形極まりない姿に俺達はしばし呆然と立ち尽くす。
そんな俺達を他所に、ゲオルギウスと大統領を名乗るその甲冑姿の男?は語り合う。
「こんな場所まで一体何をしにきた?竜の王よ」
「別に貴様に話す分には不都合はないだろう。我らが母が、ついに帰還なされたのだ」
「ほう?貴様の母というと、星のアバターか?」
星のアバター、その言葉に俺を除いた他のメンバーが一斉に身構える。
星のアバター。白川ユキ。全ての怪物種の母。全ての王が母と呼ぶ怪物の女王。
そして、ゲオルギウスの方は更に嬉しそうに嬉々として答えた。まるで、女王の帰還を心底喜ぶかのように喜悦と共に宣言した。
「おうよ!我らが母、星のアバターがついに我らの女王としてご帰還なされた。我らはついに母の許に集う時が来たのだ!我らが待ちわびた、我らが母の帰還だ!」
「………ほう?」
あまりにも低い、殺意と敵意に満ちた声。発したのは無論大統領だ。
そして、大統領キングス=バードはそのままゲオルギウスに銃口を向けた。瞬間、再びその銃口から発射される極大の閃光。それは、例え単独で大陸を崩すだけの力を持つ王であれ容易く葬るだけの威力を持つ無双の一撃に違いない。
しかし、それを前にしても尚ゲオルギウスは嬉々とした笑みを崩さない。それどころかより喜悦に満ちた笑みを浮かべてその牙を剥いた。竜王が、その大顎を開く。
その開いた口内に収束するのは、プラズマにも酷似した正体不明のエネルギー。
謎のエネルギーが彼の竜王の口内へと収束していき、やがてそれは極限の威力を生む。
極限の威力を生んで尚、更に収束していくエネルギー。一体どこまで収束するのか?やがて限界まで収束し圧縮されたエネルギーは遠く離れていても理解出来る恐るべき高威力を宿す。
其の名は———
「ドラゴンブレスか‼面白い‼」
「受けてみよ!我が必殺のブレスを!」
瞬間、大統領の放つ閃光と竜王のブレスが巨大な衝撃と共にぶつかり合う。
衝突する閃光と閃光。エネルギーとエネルギー。そのせめぎ合いに、まるで大地が火山地帯に変貌したかのような地獄へと変わる。大地が赤熱し、空気すらも喉を焼く。
そんな中、せめぎ合いはやがて終息し大きく炸裂した。
その大爆発の余波により、廃墟の瓦礫は軒並み吹き飛ばされ巨大なクレータを生んだ。それのみに留まらずそのクレーター内は地獄もかくやと言わんばかりにドロドロのマグマと化して。
最終的に、其処に立っていたのは大統領の方だった。其処にゲオルギウスの姿は無い。
しかし、それは決してゲオルギウスが死んだことには繋がらない。
「しかし、今は貴様と戦っている場合ではない。我らは一度退くとしよう」
「………次こそは、次こそ決着を付けよう。ゲオルギウスのドラゴン」




