表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新時代の英雄は終焉世界を駆け抜ける~無限と永遠の英雄譚~  作者: ネツアッハ=ソフ
滅亡世界編
3/100

2、白川ユキ

「私の名前は白川(しらかわ)ユキ。貴方の名前は?」


 しばらくして、俺達は互いに自己紹介する事になった。まず自分の名前を名乗(なの)る少女。どうやら彼女は白川ユキというらしい。俺は、脳内で何度も名前を反復(はんぷく)する事でそれを(きざ)み込んだ。


 そして、どうやら今度は俺の番らしい。俺が名乗るのをユキはじっと()っていた。


「………俺の名前はクロノ。遠藤(えんどう)クロノだよ。よろしく」


「遠藤……クロ、ノ………?」


 ぴくりとユキの片眉が(わず)かに動いた。それはほんの一瞬の事ではあったが、とても奇妙な反応のように俺は感じた。まるで、一瞬だけ(なに)かを思い出したような。怪訝な表情だった。


 そんな彼女に俺は僅かに違和感(いわかん)を感じる。しかし、今はそれは置いておく。その違和感の正体を俺は知る事が出来なかったからだ。だからこそ(いま)はそれは置いておく。


「どうかしたか?ユキ……」


「ううん、何でもないよ。それより君は何処(どこ)から来たの?この辺じゃ見かけない顔だけど」


「……………………」


 俺は僅かに黙り込む。さて、其処はどういう返答をすれば()いのか?普通に話しても頭のおかしい変質者のように思われかねないし。けど、(うそ)を吐く理由も特にない。


 考え込む俺。そんな俺を、今度は彼女が不審(ふしん)に思ったのか怪訝な顔をして俺を覗き込む。俺に対する印象が不審者に変わりつつあるらしい。これはいけない、のか?


 ユキは怪訝そうな声で俺に()う。


「そういえば、その服装(ふくそう)もここら辺では見かけないよね?クロノ君、貴方は一体……」


「…………はぁ、まあ良いか。あまり言いふらさないで()しいんだが」


 俺は観念して正直に(こた)える事にした。初対面だが、不用意(ふようい)に言いふらしたりしないだろう。


 多分、彼女はそんな人物ではないと思う。そんな性格はしていないだろう。


 ……そう(しん)じたい。少なくとも、俺の第一印象では彼女はそういう人物だった。


「俺はつい最近まで(ねむ)っていたんだよ。コールドスリープって解るか?」


「コールドスリープって、人体を冷凍保存するあれ?」


 彼女の言葉に俺は静かに頷いた。まあ、俺もその技術については(くわ)しいわけでもない。しかし大体はその認識で正解だったはずだ。細かい技術(ぎじゅつ)までは俺も知らない。


 そもそも、俺はこの時代の事だって詳しく知らない。この時代は俺の()た時代からどれくらい先の未来なんだろうか?一体、父さんと母さんはあれからどうなったのか?


 少なくとも、都市(とし)が遺跡化する程には未来の筈だ。研究所内もある程度は古びていた。恐らくはかなりの時間が()ぎている筈だと俺は認識(にんしき)している。


 俺は何も知らない。だから知らないといけない。生き残った者の義務(ぎむ)として。


「そうだ、俺は多分崩壊した文明の生き残りなんだと思う。まだ目覚(めざ)めたばかりで俺自身解らない事だらけだけれどもな」


 そう言って俺は話を()めくくった。俺自身解らない事だらけだ。けど、解らないことを解らないまま放置しておくのは俺の性に合わない。少しずつ調(しら)べるとしよう。


 そう思っていると、ユキは何かを考え込むようにぶつぶつと呟き思考に(ふけ)っていた。


「なるほど……確かに彼は。いや、でも……いや、だからこそ。でも……」


「えっと、ユキ?」


「っ、え?いや何でもないよ‼うん、何でもないから……」


 慌てるユキの姿に、俺は軽く首を(かし)げる。ユキは更に慌てる。


 何だろう?何か様子が(へん)だ。しかし、だからと言って俺に彼女の事が解るわけがない。俺は別に彼女の事を(ふか)く知る訳ではないし。むしろ初対面だ。


 それに、あまり深く詮索(せんさく)するのも無粋な気がする。そう結論を下した時……


 彼女の腰にさげた無線機がけたたましく()り響いた。その音に、今度は俺が驚く。


「はい、白川です。何かありましたか?」


『何かありましたか?じゃねえ‼あれほど単独行動は(ひか)えるように言っただろうが‼』


 無線機から男の声が響く。いかにも面倒そうな、それでいて(あき)れ果てた声音だ。ユキはたははと頬を掻きながら空笑いする。どうやら、彼女(ユキ)は命令違反をしていたらしい。


 俺は呆れた視線をユキに向ける。少しだけバツが悪そうな顔をするが、しかしそれでも全く反省の色が見えないところ彼女は常習犯なのだろう。やれやれだ。


 俺は僅かに苦笑を()かべた。


『それで?そっちは何かあったか?』


「それなんですが、身元の()れない人物を一人保護(ほご)しました」


『何だと?』


 無線機から聞こえてくる声に、怪訝な色が()もる。どうも不審に思っているらしい。


 それを(さっ)したのか、ユキは補足説明を入れた。


「けど、かなりの戦闘能力を持っているのは確かですね。甲殻(こうかく)バジリスクの首を刀の一振りで断ち切るほどですから。我々の戦力に(くわ)えても良いのでは?」


「おい、ちょっと()て……」


 俺は反論をしようとする。しかし、それはさらっと無視(むし)された。


 何だろうか?いきなり何の話をしているのか?


『いや、けどの意味が(わか)らねえ。しかし、あの甲殻バジリスクを一太刀か……』


「はい、きっと大戦力になると思いますよ?」


 何だか、とんとん拍子に話が進んでいくような気がする。流石にこれは(まず)いのでは?


 そう思っていると、無線機の声が俺に向く。


『おい、その大戦力とやらは其処(そこ)に居るか?居るなら返事をしろ』


「………はい、何でしょうか?」


『お前、ユキに何かしたんじゃないだろうな?厳密(げんみつ)にはいかがわしい事とか?』


「「はい?」」


 突然の言葉に、俺とユキの言葉が(かぶ)る。純粋な疑問符(ぎもんふ)だ。


 しかし、無線機の向こうの男は胡散臭そうに話すばかりだ。若干疑わしげでもある。


『いや、だってユキだぞ?あのユキが早々に相手を其処まで(ふか)く信用する筈が……』


「あの、私は(おこ)ってもいいですよね?ヤスミチさん?」


 みしいっと、ユキが(にぎ)る無線機が悲鳴を上げる。


 ユキの声音に僅かな怒気(どき)が混ざる。表情こそ笑っているが、どうやら怒っているらしい。これは恐らく怒らせてはいけないタイプなんだろうな。そう、俺は内心で判断(はんだん)した。


 そして、無線の相手であるヤスミチもそれは重々理解(りかい)しているらしい。心底面倒そうにしながらもユキに対して謝罪の意思を見せた。声には相変わらず反省(はんせい)の色が見えなかったが。


『わりいわりい、別に其処まで怒らせる気はないんだよ。ただ俺だって気になるんだ』


「…………」


 胡散臭そうに半眼を虚空(こくう)に向けるユキ。しかし、流石に俺も(だま)っている訳にはいかない。流石に少女相手に何かをするような輩と誤解されるのも純粋に(いや)だ。


 ……というか、俺は一体どういう印象を受けているのだろうか?少しだけ気になる所だ。


 なので、此処で俺は無理矢理話に()り込む事にする。


「あー、別に俺はユキを相手に何もしてませんよ?いかがわしい事も全くしていません」


『む、そうか?それにしては随分と信頼(しんらい)を受けているようだが………』


 ………本当に、随分と疑われたものだ。少しこの男の脳内を覗いてみたい気分になった。


 しかし、それは黙っておく。それは言わぬが花だ。男を怒らせる趣味は俺にはないので。


「そこまで信頼されるような(おぼ)えはありませんがね、俺も。ただ、俺は彼女がその甲殻バジリスクに襲われているのを見て咄嗟(とっさ)に助けただけで………」


 ん?と、其処で無線の奥から疑問の声が()れる。ぎくっとユキが僅かに(おび)えの色を……


『……ちょっと待て、甲殻バジリスクに(おそ)われていた?』


 急に雰囲気が怪しくなった。ユキはびくりと肩を(ふる)わせる。


 何かあったのか?と、少し怪訝に思う俺だが。既に後の(まつ)りだった。無線の向こうから雷が落ちたような激しい罵声(ばせい)が飛ぶ。その声に俺とユキは同時に(ひる)んだ。


『馬鹿野郎っ‼あれほど油断するなと言っただろうが‼‼‼』


「っ⁉」


『お前、以前もオオムカデに(おそ)われたばかりだろう‼なのにまた襲われるとは一体何事だ‼』


「す、すみません……」


『すみませんじゃねえっ‼‼』


 こんこんと説教(せっきょう)が続く。完全に涙目のユキ。どうやら、以前も怪物に襲われたらしい。一体何回怪物に襲われるのだろうか?彼女(かのじょ)は……


 完全にヒートアップするヤスミチ。流石の俺も(ほう)ってはおけなかった。というか、単純に見ている事が出来ないだけかもしれないけれど。(だま)っている事が出来なかった。


 無理矢理話に()り込むように俺は間に入った。


「あー、とりあえず其処(そこ)まででいいですか?」


『む?』


「クロノ君……」


 怪訝な声を上げるヤスミチと、救世主(メシア)を見るような目を()けるユキ。


 ………まあ良い。俺はそのまま(つづ)きを言った。


「その話は後ですればいいじゃないですか。今はもっと他にする話がある筈でしょう?」


『……そうだな、その話はあとでじっくりする事にしよう』


 ほっと胸を()で下ろすユキ。其処まで安心する事なのか?とりあえず、ユキにとっては安心する事なのだろうと俺は納得した。少し苦笑する。まあ、後でじっくりと(しぼ)られるのだろうが。


 そして、そのままヤスミチの矛先(ほこさき)は俺に向く。


『で、だ………今は特に何も言わない。しかしお前が身元不明である事に()わりはない。だからこれからお前には直接俺の許に来て話を聞かせて()しいと思う』


「話を……?」


 ああ、とヤスミチは同意した。同意して、鋭く射貫(いぬ)くような声音を俺に向ける。


『とりあえず、お前の身元は其処でしっかりと話してもらう。くれぐれも嘘やごまかしは言わないよう気を付ける事だな……正体不明(アンノウン)


 直後、無線機は切れた。どうやら話は()わったらしい。


 しかし、正体不明ね。本当に随分とまあ剣呑(けんのん)な世界になったようだ。まあ、文明が崩壊して怪物がそこら中に闊歩(かっぽ)するようになったのだから当然なのだろうけど。俺はそっと溜息を()く。


 ユキは苦笑を浮かべながら俺に手を合わせてきた。何か、(あやま)るようなしぐさだ。


「……えっと、何だ?」


「今の(うち)に謝っておくよ。ごめんなさい」


 いや、何が?とは言えなかった。それを言う前にユキは続きを話す。


「多分、ヤスミチさんにはかなり警戒(けいかい)されたと思うから。これから気をつけてね?」


「ああ、うん………」


 少し気分が重くなる気がした俺だった。全く、やれやれだ。僅かに苦笑を()らした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ