プロローグ2
その者は、始まりからしてヒトではなかった。ヒトとは呼べない魔であった。
人の子でありながら、始まりから極大の魔をその身に宿していたのだ。故に、彼はそもそも始まりからヒトとは呼べない存在だったのだ。
或いは、ヒトである事を望んでいたならばまだ人と呼べたのかもしれない。しかし、彼は何処までも異形で異質であった。異形な魂を持って生まれてきた。魔物だった。
それは、彼の父も理解していた。故に、父はある日自分の子である彼を教会に呼び出し、面前と彼を悪魔であると呼んだ。或いは、それは父なりの慈悲だったのかもしれない。
本来、実の親が我が子を悪魔などと呼び蔑むなど言語道断だろう。
断じて、そんな事はあってはならない。あってはならないのだ。
しかし、父はそれでも期待していたのだ。我が子ならば、或いは自身の内にある魔を退け真に自己を目覚めさせてくれるのではあるまいかと。そう期待していたのだ。
しかし、その思惑は見事に裏切られる結果となった。
彼は、嗤っていたのだ。何を今更と、むしろ気付くのが遅すぎるとすら嘲笑していた。
彼は、実の父親を愚鈍であると嘲笑ったのだ。実の父を、さも滑稽そうに嘲笑っていた。
その者は、始まりからしてヒトではなかった。極大の魔をその身に宿し、極限の邪悪と醜悪を世界に振りまく悪魔であった。人の子として生まれながら、それでいてヒトとは呼べない魔。
それが彼、影倉ヨゾラの———全てを無価値にする者の本質であった。
・・・・・・・・・
ああ、この手記を読む者が居るならば。その者はどうか善良な者であって欲しいと願う。
善良で、心根の清い者であって欲しいと願う。
私は我が子が魔に侵され、悪魔へと変質していくのを止める事すら出来なかった。そんな私が何かを言うのは間違いなのかも知れない。私は、我が子を面前と悪魔と罵倒したのだから。
だが、それでも許されるのならば。或いは………
どうか、彼を止めて欲しい。魔に侵され、世界を無価値へと変えようとするあの悪魔を。
我が子であった筈の、あの魔物をどうか止めて欲しいと願う。
それが、それだけが私の願いです。あの悪魔を、ヒトの皮を被った魔物を止めて欲しい。
どうか、世界を無価値にはしないで欲しい。あの子を、無価値な存在へと
………手記は、其処で終わっていた。




