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新時代の英雄は終焉世界を駆け抜ける~無限と永遠の英雄譚~  作者: ネツアッハ=ソフ
オロチ襲来編
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4、覚醒《めざめ》

 意識が覚醒(かくせい)した。何だか(なつ)かしい夢を見ていた気がする………


 しかし、思い出せない。思い出せないが懐かしい気がして胸が痛む。郷愁(きょうしゅう)だろうか?


 此処は何処(どこ)だろうか?見た所洞窟のようだが。身体(からだ)を動かすと、どうやら鎖につながれているらしく金属の擦れ合う音が洞窟内に反響し(ひび)いた。


 意識が完全に覚醒してゆき、徐々に状況が()み込めてゆく。どうやら、此処は洞窟内にある牢屋のような場所らしい。昔に使われていた牢屋(ろうや)を利用したのか?鉄製の檻が見える。


 今は蛇達は何処かに出ているらしく、姿が見えない。チャンスではあるのだろうが。


 ………本当に、誰も()ないのか?ふと疑問(ぎもん)に思う。


 少し、腕を拘束(こうそく)している鎖を壁に(たた)き付ける。甲高い音が鳴り響いた。すると、物陰から蠢く影が僅かに見えた気がした。どうやら、こっそり(かく)れて監視しているらしい。


 見た所、どうやら二~三匹程度の数が監視しているようだ。ならば問題ない。そう思い、俺は全力で手足を拘束している鎖を引っ張った。


 今の俺なら、この程度の鎖など紙を(やぶ)くように簡単に引きちぎれるだろう。


 甲高い音と共に、鎖が引きちぎれる。全力で異能を発動した余波(よは)のようなものだろうか?俺の身体から燃え盛る炎が()き出している。恐らく数千度は(くだ)らないだろう高温の炎。それが俺の身体から噴き出しているのである。


 しかし、その炎が俺を()く事はない。むしろ、その灼熱の炎は俺を(まも)っているようなものだ。


 炎の塊と化した俺は、そのまま鋼鉄の檻を破り物陰から呆然と俺を見る蛇達を瞬殺した。


 焼き尽くされる怪蛇。だが、今の物音を()いたのかわらわらと蛇達が出現する。しかし、そのような物量など今の俺には物の数には入らない。取るに足らない雑兵(ぞうひょう)だ。だからこそ、俺は怪蛇達を次から次へと正面から倒してゆく。焼き()くしてゆく。


「貴様!まだそのような力を………ぐあぁっ‼」


「くっ、この化物(ばけもの)め………ごあっ‼」


「脱走だ!捕虜(ほりょ)が脱走したぞ!………ぐわっ‼」


「くっ、()るなああああああああああああっ‼………げひゃっ‼」


 次々と、怪蛇達を()き殺してゆく。しかし、キリがない。キリがないが、それでも俺は怪蛇達を只管殺して焼き尽くしてゆく。まだだ。まだまだ俺は行ける。まだまだ俺は(さき)へ行ける。まだまだ俺は先へ()けるから。もっともっと先へと‼


 際限なく加速してゆき、俺は一つの流星(りゅうせい)と化す。灼熱の炎を(まと)う、炎の流星。


 真っ直ぐと突貫(とっかん)して、俺は怪蛇を焼き尽くしてゆく。焼き殺してゆく。


 ズズウゥンッ………‼


 鈍い音が、振動と共に俺の許に(ひび)いてきた。どうやら何処かで何かが起きているらしい。ならば俺は其処へと向かう。真っ直ぐ、真っ直ぐに()れの発生源へと向かう。


 確たる確信がある訳ではない。しかし、其処(そこ)に行けば何かがあると思ったから。だから俺はそちらの方へと疾走してゆくのだ。疾走して、()けてゆく。


 外の光が見えた。瞬間、俺は(まよ)う事無くそのまま外へと駆け出した。


 ………其処には、無数の怪蛇の死骸(しがい)と共に対立する。ユキとオロチの姿があった。


          ・・・・・・・・・


 時間は(さかのぼ)る。


 ユキは走っていた。恐らくはオロチが根城(ねじろ)にしているであろう場所に、地下大空洞へと向かいユキは急いで駆け抜けていた。でなければ、クロノの命はない。


 ユキは信じていた。クロノなら、きっとまだ()きていると。信じている。だからこそ急いでオロチの根城まで全速で駆けていた。一陣の(かぜ)と化し駆け抜けた。


 仲間達は救出には消極的だった。それほどまで、仲間達はオロチを恐れていたのだ。


 そもそも、クロノが生きている保証(ほしょう)など何処にもありはしない。(すで)に死んでいると判断するのが妥当だと思われたからだ。そもそも、オロチからすれば生かす道理など何処にも無い(はず)だから。


 しかし、ユキは信じていた。クロノの事を信じていた。


 彼ならまだ生きていると。まだ、生きてくれていると。ユキは信じていた。


 だからこそ、仲間達の制止(せいし)を振り切りユキは単独クロノの救出へと向かった。


「クロノ君………必ず助け出すから。()っていて」


 急いで向かうその先、ユキの目前に地下大空洞へと(つな)がる洞窟があった。其処には、一匹の怪蛇が待ち受けている。頭部に二本の(つの)を生やした白蛇。


 怪物の王。旧日本に巣食(すく)う大怪蛇。オロチだ。


「我が主。全ての(おう)たる始祖よ、待っていた」


「………クロノ君は何処(どこ)?」


「奴はまだ生きている………というより、(ころ)す事が出来なかった」


「殺せなかった?」


 オロチは、首を(たて)に振り再度ユキに言った。


「我らが主、アバターよ………」


「………その名で()ばないで。私の名前は白川ユキよ」


 ユキのその言葉に、オロチは歯を(きし)らせた。その感情は、焦燥(しょうそう)。怒り。


 しかし、その行き場のない感情を(おさ)え込みオロチは言った。務めて丁寧な口調で。まるで王に仕える臣下のような態度で。(おや)の機嫌を伺う子のような態度で。(つと)めて丁寧に。


「しかし、貴女は本来我らの側に居るべき存在ではありませんか。何故其処まで(かたく)なに人間どもの味方をするのですか?貴女は我ら超越種(ちょうえつしゅ)の主たる星のアバターではありませんか」


 その言葉に、首を左右に振りオロチを(にら)む。


「だから、その名で呼ばないで。私は(もと)より人間だから。貴方達の味方になんてなれない」


「何故だっ!何故其処まで我らを(こば)む。人間よりも優れた力を持ちながら、それでいて何故未だ人間で居る事に(こだわ)り続けるのですか?教えて下さい、(はは)よ‼」


 オロチは憤りと焦燥を()めて叫ぶ。しかし、それでもユキは首を縦には振らない。


 (かな)しげな顔で、それでもオロチを真っ直ぐに見て言う。


「私の人生は間違(まちが)いだった。もう、人間を(ほろ)ぼそうなどと思えない。だから、これは私の。私としての贖罪でもあるの。私は罪を(つぐな)う」


「それは詭弁(きべん)だ。誰も貴女を(ゆる)しはしない。貴女の味方は我らしか居ないのだ‼」


「それでも、私はもうあんな間違いは犯したくないの」


 そう言い、ユキは(かま)えた。もう、二度と間違いは犯さない。今度こそ人間の味方で居る為。その為にユキはオロチへとその拳を向ける。自らの(つみ)と向かい合う為に。


 そんなユキの悲壮(ひそう)な覚悟を前に、オロチは叫んだ。それは、まるで泣き叫ぶ子供のような悲痛で悲壮な悲鳴でもあった。そして、それを感じていたからこそユキは覚悟を()めたのだ。


 泣きそうな悲しげな表情で。それでも覚悟を決めて。


「オロチ。私は貴方を()つ」


 洞窟からわらわらと、夥しいまでの数の怪蛇が現れる。それを、ユキは不可視(ふかし)の刃で切り捨て次から次へと討ち倒してゆく。そんな彼女の姿に、オロチは絶叫を()り返す。


「何故だ!何故貴女は其処(そこ)までして———‼」


「私は人間(にんげん)だ!人間として、罪を(つぐな)ってゆくの‼でなきゃ、死んでいった人達にっ………」


「それでも、貴女には我らしか………我らには貴女しか居ないのだ‼」


「それでも、それでも私はもう二度とあんな間違いは犯したくないっ‼‼‼」


 悲痛なまでの絶叫が木霊(こだま)する。それに呼応するように、大地が鳴動(めいどう)する。嵐が吹き()れる。


 大陸すら()るがしうる巨大な大嵐。それが局地的に圧縮され極大な大災害となる。しかしそれすらもユキは不可視の刃で切り()せ怪蛇達を討ち倒してゆく。


「オオッ、オオオッ………オオオオオオオオオオオオオオオッッ‼‼‼」


 オロチのその声は、もはや悲鳴に近かった。()き叫ぶような、行き場のない悲しみに満ちた声が周囲一帯に響き渡る。しかし、それでもユキは()まらない。止まってはいけない。


 もう二度と、間違いなど犯したくはないと。だからこそ、ユキは戦う。刃を()るう。


 そして、ついにその場にはユキとオロチのみになった。その時………


「ユキっ‼」


「っ、クロノ君‼」


 洞窟(どうくつ)の入り口に、遠藤クロノが()っていた。

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