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新時代の英雄は終焉世界を駆け抜ける~無限と永遠の英雄譚~  作者: ネツアッハ=ソフ
オロチ襲来編
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2、悪夢の日

 必死に()け回った。住民の避難誘導をし、戦闘員をかき(あつ)めた。その間にも、オロチの軍勢の居る場所からは絶え間なく火柱と大嵐が()き起こっている。間違いない、クロノ君が戦っている。


 オロチの力は強大だ。その力の前には、如何(いか)にクロノ君であろうと太刀打ち出来ない。故に、急がねば間に合わないと理解している。理解しているからこそ、急がねばと逆に(あせ)る。


 急がねば、急がねば、急がねば。焦りが目立って上手く事が(はこ)ばない。早く加勢に行かねば間に合わないと理解しているだけに余計に焦りが(つの)る。急げ、急げ、急げ⁉


 火柱と大嵐は更に激しさを()してゆく。戦いは佳境へと入っているようだ。


 と、そうこうしている内にひと際巨大な大嵐が発生した。


 それは、まさしくこの旧日本を一撃で(しず)めかねない程に巨大な大嵐。(おう)の御業だ。


 その大嵐が発生した後、シンと静まり返る。あまりにも不気味な静寂。その静寂に、私は嫌な予感を覚え急いで現場に急行した。果たして、其処(そこ)には………


 其処は、凄惨な戦闘の傷跡があった。


 ガラス化した大地。大嵐により、周囲の大地ごと(えぐ)られねじ切られた大木。


 周囲には蛇の怪物達の死骸(しがい)が横たわっている。全て、クロノ君が倒したのだろう。


 そして、戦場の中央に突き立った一振りの刀は根本から()れている。


 そして………ガラス化した大地を(いろど)る赤、赤、赤。


 その赤の正体は、そう———


「い、いや………」


 私は、思わず膝から(くず)れ落ちた。それは、あまりに悲惨で凄惨な光景だった。そして、それが表す意味は一つしか無いだろう。そう………


 クロノ君の、敗北(はいぼく)だった。


「いやあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ‼‼‼」


          ・・・・・・・・・


 ———時は少しだけ遡る。


 一体、何匹ほど(たお)しただろう?地面には蛇の怪物達の焼死体が横たわっている。しかし、俺も決して無事ではないだろう。俺の身体には、蛇達の(きば)による傷が幾つも刻まれていた。


 毒による物だろうか?先程から身体が重い。全身が(しび)れてくる。しかし、それ等を俺は気合と根性論だけで振り払い戦い続ける。死にすら一切頓着(とんちゃく)しない。


 刀身に渦巻く炎は徐々に熱を()してゆく。その熱量はもはや、大地をガラス化させる程だ。しかしまだまだこんなものではない。もっとだ、もっともっと。もっともっと(たか)まれ!


 でなければ、敗北は必至だと俺は知っている。そう、俺は(さと)っているから。


 だから、俺は意思の力を爆発させ更に高みへと上り詰める。もっともっと高みへと(いた)れ!


 まだまだまだまだ、まだこれ以上。もっともっと(はる)か高みへと!


 しかし、それをじっと見ているオロチは口の端を(ゆが)めて嘲笑う。遥か高みから、嘲笑う。


 それは、頂点に立つ者の余裕(よゆう)に他ならないだろう。


「ふん、所詮(しょせん)はこんな物か………」


 瞬間、まさしくその瞬間旧日本を(しず)めかねない巨大大嵐が発生した。それは、まさしく天変地異の具現とも言うべき力の(うず)だ。その巨大な力に俺は僅かに()えたが。


 巨大竜巻。激しく叩き付ける局地的豪雨。強烈な落雷。それ等が一斉に(おそ)い掛かる。


 俺の根性論など嘲笑うかのように、大嵐は俺を紙屑のように()き飛ばした。そんな中、それでも我武者羅に振るおうとした刀は根本から折れ………


 俺の意識は暗転する。黒へと()み込まれる。


          ・・・・・・・・・


 声が聞こえる。俺を()ぶ声が、声が俺を呼んでいる。


『………い。おい。…………おい、……早く目覚めろ!宿主(あるじ)よ‼』


「っ‼?」


 その声に、俺の意識は急速に()き上げられた。其処は、俺の心象世界だった。


 という事は、俺を呼んだのは?


『ようやく目覚(めざ)めたか。宿主』


「………アイン?」


 アイン=ソフ=オウル。俺の異能。或いは俺の英雄像を(かく)として生まれた第二人格。


 俺の中の、英雄の理想像。


 ………そうだ、思い出した。俺は、オロチとの戦いに敗北して奴の攻撃を()けたんだ。だとすると俺はもう死んだのか?いや、此処に俺が居るという事はまだ()きているのか?


 俺の疑問に、アインは即座に(こた)える。


『宿主はまだ生きているよ。そして、まだ()けてもいない。奴の攻撃を受けた後、奴の気まぐれにより生かされ()らえられたんだ』


「生かされた………。いや、だとしても俺は———」


 俺が弱音を吐こうとした瞬間、それを見抜いたらしいアインに(にら)まれる。どうやら、アインからすればまだ俺は負けてはいないらしい。負けていないなら、()ち上がれと。立ち上がるべきと。


 そういう事らしい。


『だとしても、何だ?宿主はずいぶんと腑抜(ふぬ)けた事を言う。お前は(くや)しくないのか?奴に侮られたまま生かされ放置されて、それでお前は悔しくないのか?俺は、悔しいぞ?』


「………っ⁉」


『少なくとも、俺は悔しい。殺す価値もないと(あなど)られ、生かされた。悔しくない筈がない‼』


 アインのその瞳は、怒りに()ちていた。ああ、そうか。これが、彼の英雄性か。


 この、怒りこそが………


『お前は悔しくないのか?殺す価値もないと侮られたままで()いのか?』


「良い筈が無いだろう‼」


 だから、俺も怒りを()き出した。ああ、それで良い筈がない。(すく)いたい者も救えない。守りたい者も一切守れないで。それで何が英雄(えいゆう)だ。何が理想だ‼何がっ‼


 そんな事、俺は(ゆる)せない!許せる筈がないだろう!


『ああ、それでいい。それでこそ、我が宿主(あるじ)だ』


 そう言い、アインは(わら)った。瞬間、俺の意識が急速に浮上(ふじょう)していった。

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