エピローグ
白蛇の襲撃から数日の時が過ぎた。
まだ街の復興は終わっていない。しかし、それでも人々は必死に生きている。そう、人々は今を必死に生きているのである。それを、俺は感じる事が出来た。いや、感じさせられたか?
ともかく、俺達は今を生きている。そう、生きているんだ。
それをしっかりと脳内に刻みながら、俺は現在とある墓に向かっていた。街の外れにぽつんと一つだけ立つ石造りの簡素な墓。明影タツヤとその妻の墓だ。
元々、その墓は彼の妻の為に建てられたものだった。しかし、せめて死後くらいは一緒の場所に眠らせてやりたいとの声が多く出た。その為に、彼も同じ墓に埋葬したのだと。
………墓の前に着くと、其処には既に先客が居た。ユキだ。
ユキに声を掛けようと近付く。しかし、俺はすぐに足を止めた。
ユキが、肩を震わせて泣いているのが解ったからだ。
「ごめん………なさい。ごめん、なさい………」
「…………」
ユキは、泣きながら謝罪していた。何故、とは思わなかった。ただ、泣いている彼女を見て胸が引き裂かれるような痛みが奔った。それ程に、彼女の謝罪は悲痛だったから。
他に、人の気配は無い。今、ほとんどの人は街の復興に出払っている。
そんな中、ユキは一人墓の前で謝罪していた。
「ごめんなさい。私が、私のせいで………」
俺は、何も言ってやる事が出来なかった。何も言う事が出来なかったけど。それでも俺は静かにユキの近くに歩いていった。その足音に、びくっとユキの肩が震える。
しかし、関係ない。俺は、ユキの隣にそっとしゃがみ込み墓に手を合わせた。
「……………………」
「……………………」
俺が黙って手を合わせるのを、ユキは呆然と見ている。そんな彼女に、俺は静かに言った。
「俺は、きっと英雄になりたかったんだ」
「………え?」
きっと、ユキには何を言っているのか解らない事だろう。けど、俺は関係なく続ける。
俺は、英雄になりたかったと。そう、俺は英雄になりたかった。
「俺は、きっと英雄に憧れていたんだと思う。そんな俺だからこそ、あんな異能が宿った」
「…………」
「ユキ、俺は決めたよ。俺は英雄になる。英雄になって、この世界を救って見せる」
「…………あっ」
それは、俺の偽りようのない理想そのものだった。俺は今、俺の理想を語っているんだ。俺自身の偽りのない夢を語っている。そして、それを絶対に叶えてみせると覚悟を決めた。
だから、
「俺は、お前や他の皆を。この世界を完膚なきまでに救ってみせる。英雄になってみせる」
この世界を、ユキを、皆を救うと決めた。これは、そんな俺の英雄譚だ。




