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新時代の英雄は終焉世界を駆け抜ける~無限と永遠の英雄譚~  作者: ネツアッハ=ソフ
無限と永遠の英雄譚編
100/100

番外、銀河大戦

 宇宙新暦2995年———白川ユキは自身の拠点(きょてん)であり移動研究室でもある宇宙船シラカワヨフネの中で仲間達と共に研究に明け()れていた。


 しかし、そんな日々は突然の緊急通信により妨害(ぼうがい)される。いつも通り、黙々と根源への道を探る研究を進めていたユキ達だった。そんな中、若干(あわ)てた様子で室内にマキナが入ってくる。


 何時(いつ)も思うが、やはりマキナはロボットとは思えない。人間(にんげん)よりもよほど人間臭い。


「マ、マママ………マスターっ‼キングス大統領から緊急通信が入りました‼」


 キングス大統領。天の川銀河全域を()べる大国アークの大統領だ。


 その名に、マキナの(あるじ)である神薙ツルギは怪訝な表情(かお)をした。


「緊急通信だって?それも、大統領?随分と物々(ものもの)しいな。内容は?」


「はい、今(つな)ぎます‼」


 そして、虚空に巨大なモニターが投影(とうえい)されキングス=バードの顔が映し出される。映し出された彼の表情はかなり緊迫した状況らしく、端的に言ってかなり(あせ)っている。


 その様子に、よほどの状況であるとユキ達は気を引き()め直した。


「大統領直々に何か用ですか?よほどの状況であると(さっ)せられるのですが………」


「状況が状況だ、端的に要件(ようけん)だけを伝える。中立国家シモン及び宗教国家エリアルが消滅。その後軍事国家ライが宣戦布告(せんせんふこく)をした」


「なっ‼?」


「一体それはどういう事だ‼どうしてそのような状況になったっ‼」


 大統領の明かした事件の概要に、ユキとヤスミチが愕然とした声を()げる。


 その二人に対し、ツルギは状況を整理(せいり)出来たのか。或いは何か思い当たる事でもあるのか大統領にとある質問を投げ掛ける。


「もしかして、最近開発されたという概念兵器と関係(かんけい)がありますか?」


「流石に耳が早い。その通りだ、概念兵器を手にしたエリアルが()ずシモンを攻撃、シモンの存在する銀河系丸ごと消滅させたらしい。そして、それをライが粛清(しゅくせい)という名目で攻撃したと」


「……………………」


 その内容に、ユキ達は思わず(だま)り込む。それもそうだ、つまり、()っ掛けが何なのかは知らないが先ず誰かが誰かを攻撃し、それが切っ掛けで他者の軍事介入を(ゆる)した。


 切っ掛けが何だったにせよ、これでは泥沼の戦争(せんそう)に発展しかねない。いや、或いは既に。


 ユキが、恐る恐るという様子で()い掛ける。


「何か、作為的(さくいてき)なものを感じるんだけど………切っ掛けは何だったの?」


「それは…………」


 大統領が言葉を(にご)した。次の瞬間、通信に()り込みが掛けられる。


 通信の相手は連合国家代表のクラウンだった。その表情は、いつになく真剣(しんけん)だ。


其処(そこ)から先は、私が話そう………」


「クラウン代表、貴方(あなた)まで………どういう状況ですか?」


 連合国家代表。それがクラウンの肩書(かたが)きだ。それは文字通り、複数の国家が集合した超国家連合を差している文字通りの大国の総代表だ。


 そんな彼まで腰を上げた。つまり、これはそれほどの大事(おおごと)という事になるだろう。


 ユキの問いに、クラウンは静かに(うなず)いて答えた。


「先ず、概念兵器が開発(かいはつ)され世界各国がそれを手にした事は知っているな?無論、我らの国もそれを手にしてはいるが。我らはそれを全て廃棄(はいき)している」


「ええ、余りにも得体(えたい)の知れない兵器でしたので。(すべ)て廃棄したんですよね?」


「そうだ。しかし、どうやらそれを廃棄しなかった一部の国家がその三国(さんごく)らしい。いや、或いは叩けば他にも廃棄していない国がまだあるかもしれんが」


「……………………」


 クラウンの言葉に、ユキは(いた)い頭を押さえた。まさか、このような事態に発展しようとは流石の彼女も考えもしなかった。


 概念兵器は(たし)かに強力だ。いや、あまりにも強力すぎる。だからこそ、流石に使いどころが無さすぎるという理由で実際に使われる事はないと(たか)をくくっていた。


 しかし、実際に使われたのだ。それも、銀河規模の被害が(すで)に出ている。


 頭痛(ずつう)に頭を押さえるユキに、クラウンは更に詳細な情報を()げた。


「これは()が連合の諜報部が入手した情報だ。どうやら、(うら)で動いている人物が居ると」


「裏で動いている?」


 ユキが()い返すと、クラウンは静かに頷き話を続けた。


「ああ、先ずエリアルは概念兵器を使用する直前に中立国家で兵器(それ)を秘密裏に使用しようとしているとの誤報を受けていた事が判明している。そして、その誤報と(とも)に国家元首をそそのかした者もどうやら存在するらしいな」


 裏で動く黒幕の存在が居る。その言葉に、ユキは目を鋭く(ほそ)める。


 つまり、意図的(いとてき)に戦争を起こそうとしている者が居ると。そういう事らしい。


 なら、或いは全宇宙(ぜんうちゅう)に概念兵器をバラまいたのも意図的なのかもしれない。


 (かんが)えすぎかもしれないが、或いは………


「代表、それは本当の事ですか?確実(かくじつ)な情報なのですか?」


「ああ、まず間違いない。諜報部が手傷を()いながらも何とか手にした情報だ」


「そう、ですか………ではクラウン代表とキングス大統領の二方(ふたかた)には頼みたい事が」


 そうして、ユキは二人に対して一つ二つほど頼み込んだ後その場を(はな)れた。


          ・・・・・・・・・


 場所は変わって、軍事国家ライ。首都、ステラジア———総合闘技場にユキは()た。


 ユキの目前には、一人の男が。


「それで、何故(なぜ)貴方はこんなご時世(じせい)に宇宙戦争なんて起こそうとしたんですか?ロイ将軍」


 ユキの目前には体格の()い、短い黒髪をオールバックにした大男が居た。その男こそ、この事件の裏で糸を引いていた黒幕(くろまく)。軍事国家ライの将軍ロイだ。


 彼はどこか残念(ざんねん)そうだが、それでも薄く()みを浮かべて問いに答えた。


「何故だと?簡単な話だよ。肌がひりつく戦争(せんそう)がしたい。途方もなく巨大(きょだい)な戦乱に身を浸していたいとそう欲しただけの話だよ」


「それは、そんな事の為に二つの国家をわざわざ(ほろ)ぼしたというのですか?」


「うむ、これで全ての国家は私という黒幕にやがて辿り着くとともに私を滅ぼさんと(いど)んでくるだろうとそう思い楽しみにしていたのだがな。どうやらそれも少し(くる)ってしまったらしい」


「ええ、私が知り合いに頼んで裏で根回(ねまわ)しして貰いましたから」


 そう、ユキが頼んだ事とはいわば根回しだ。各国首脳への説得(せっとく)と概念兵器の回収(かいしゅう)


 それにより、ロイ将軍が望んだ宇宙戦争は最初の被害のみで回避(かいひ)された。しかし、自身の思惑とは大きく離れてしまったのにも(かか)わらずロイはそれでも笑みを浮かべている。


 何故か?そんな事、ユキは既に理解(りかい)していた。


「しかし、それで私がむざむざと諦めるような。そんな程度(ていど)の男に見えるかな?」


「思いません。むしろ私一人の犠牲(ぎせい)を以って再び戦争を仕掛ける動機(どうき)にするでしょう」


「私はな、永遠(えいえん)に戦争がしたいのだよ。肌のひりつくような、熱い戦乱に身を焦がしたい」


「なら、私はそんな貴方を全力を以って()めましょう」


 きっと、ユキの()る遠藤クロノならそうするだろうと信じて。


 彼ならば、きっと全ての(おも)いに全力で向き合い()け止めるだろうと信じて。


 そして———


 次の瞬間、ユキの身体があまりにも軽々(かるがる)しく吹き飛んだ。


「っ、ぐぅっ………‼‼‼」


 何とか、ぎりぎりの所で防いだ。ユキの手には、激しい雷霆(らいてい)を宿した金剛杵(ヴァジュラ)が。


 特殊な異能(いのう)の類ではない。何ら特殊な力が働いた訳でもない。ただ、単純な力押し。ロイの手には一振りの長剣が(にぎ)られているのが見えた。


 そう、ただロイは長剣を力任せに()るっただけだ。ただそれだけなのだ。


「それ、ほどの力をどうして………」


「簡単な話よ‼架空塩基の力は意思(いし)を物質界へ伝える人造因子。なら、強い意思の力さえあれば特殊な力なぞ無くとも全てを()ぎ払えるとも思わんか‼」


「それ、は………」


 そう、彼は特殊な異能など何一つ持ち合わせていない。しかし、彼には強い意思がある。


 強い意思の力のみで、彼は最強(さいきょう)ともいえる力を獲得(かくとく)したのだ。


 脳筋(のうきん)だと、ユキがそう感じたのも無理はないだろう。事実、その通りなのだから。


 しかし、事態はそう簡単な話ではない。むしろかなり危険(きけん)な状況だろう。何故なら、彼はつまり意思の強さだけで特殊な能力も無く最強の座に()いているのだから。


「そら、もっと本気(ほんき)を見せろ‼貴様の力はその程度では無かろう‼星のアバターと呼ばれた異能を有する貴様の力はその程度(ていど)ではない筈だ‼」


「ぐ、ああっ‼」


 ユキは、本気で行かねば流石にまずいと察したらしい。今まで(おさ)えていた異能の力を、久しぶりに全力行使する事にした。


 周囲の空間が、環境(かんきょう)ごと歪んで変質してゆく。


「召喚———其は混沌(こんとん)を焼き尽くす、雷霆(らいてい)の王。ゼウスっっ‼」


 激しい雷霆と共に、髭面(ひげづら)の大男が現れる。惑星(わくせい)規模の環境操作能力。それは言い換えれば即ち星の環境を神話の世界へと変質させる事すら可能とする。


 そして、ユキはその応用(おうよう)として一度神話世界の環境へと変質させた世界から特定の生命或いは武具や現象そのものをこの世界へと召喚する(わざ)を得意とする。


 つまり、それは架空の世界を統べる(かみ)の如き力の行使という事に他ならない。


 しかし、そのような神の如き力の行使すらロイは嘲笑(あざわら)う。


 まるで獣の如き、獰猛(どうもう)な笑みで笑う彼の姿にユキの身体は(ふる)えた。


(ぬる)いっ!あまりに温すぎるぞ‼」


 そうして、混沌宇宙すら焼き尽くす雷霆を司る神が一切の抵抗(ていこう)なく切り伏せられた。それはあまりにも呆気ない光景だった。


 技や冴えなど、彼の剣にありはしない。しかし、彼が剣を振るうそれだけで嵐風(らんぷう)のように斬撃が吹き抜け全てを切り伏せてゆく。全てを、()ぎ払う。


 力の差があり過ぎる。あまりにも出鱈目(でたらめ)だ。


 しかし、それでもユキは諦めない。諦める事だけは絶対(ぜったい)にしない。


「まだだ、まだ諦めない。クロノ君は絶対にこんな所で諦めたりしない。(かれ)なら、絶対に途中で諦めるような無様なんて(さら)さない。絶対に!」


「そうか、素晴らしいな。是非(ぜひ)とも彼とも戦いたかったものだ」


「くっ‼」


 そう言って、ユキに向け剣を振るうロイ。しかし、


其処(そこ)までだ、彼女は絶対に()なせない」


 その言葉と共に、ロイの剣が受け止められた。受け止めたのは、王五竜の剣だ。


 見ると、その(そば)には飛一神の姿も。


 いや、彼等だけではない。ヤスミチ、ツルギ、エリカ、アキト、マキナの姿もあった。


 そう、皆がユキを助ける為に()け付けてくれたのだ。


「みんな………」


「助けに来たよ、ユキ。皆、ユキの味方(みかた)だからね」


 ユキの手を引っ張り()こしながら、エリカが笑みを浮かべた。そう、皆がユキ一人の為だけに助けに来てくれたのである。ユキ一人を助ける為に、此処に皆が(あつ)まったのだ。


 それに、思わずユキは()きそうになる。


 しかし、それをユキは寸でで(こら)え再度ロイに向き直る。ロイは相変わらず笑っている。


「素晴らしい、素晴らしい絆だ。ならば、私もそれに(こた)えねばなるまい」


 そう言って、再びロイは意思の力を(たか)めた。極限にまで高まったその力は、もはや銀河どころか宇宙すら一刀の許に切り()せかねないだろう。


 しかし、それでも誰一人として諦める者は居ない。皆不敵に笑っている。


 諦めない精神は、勇気は、覚悟は全て一人の少年から(おし)えられた。全て彼のものだ。


 だから、誰一人として諦める者など居はしない。


「行くよ、最終決戦だ」


 そう言って、ユキは再び金剛杵を(かま)えた。


          ・・・・・・・・・


 戦いは、それでも熾烈を(きわ)めた。軍事国家ライ所属の将軍ロイ。彼は文字通り最強の座に相応しいだけの戦闘力を単独で保有していた。文字通り、かつての無価値(むかち)にすら匹敵するだろう。


 それだけの戦闘力があった。()の暴力を体現する者。それこそが、ロイだった。


 全てを切り伏せ(くだ)すだけの力を単独振るいながら、一切(つか)れる様子を見せない。


 そう、文字通り彼は意思の力だけで無限(むげん)に力を引き出す事が出来るのだ。永遠に戦いを続けたいという戦乱に生きる一体の修羅(しゅら)。その姿が、そこにはあった。


 だが、それでも戦いは終わる。(いず)れ戦いは終結するものだ。


 様々な異能による怒涛(どとう)の波状攻撃。それをロイは剣で一息に薙ぎ払う。その一瞬の隙を突いてユキが金剛杵からの雷撃を(たた)き付ける。


 しかし、それでもロイは意思の力だけで()えてみせる。


 其処に王五竜と飛一神が同時に切り掛かった。が、それでもロイはそれを容易く(はじ)いた。


「まだだ!まだまだ、まだ()わらんぞ‼此処で終わらせてなるものか‼」


 吼える。その咆哮(ほうこう)が、物理的な波として周囲を破壊する。皆が、その音波と衝撃波により吹き飛ばされ一気に戦闘不能に。だが、それでもロイに(いど)む者の姿が其処にあった。


 ユキだ。


「はああっ‼」


「はははっ、()い‼」


 そして、交差する長剣と金剛杵。一瞬の静寂(せいじゃく)が場を流れた。


 ゆっくりと(くずお)れる。倒れたのは、ユキの方だった。


 振り返り、(わず)かに笑みを浮かべたロイ。しかし、そんな彼の身体に衝撃が走った。


 気付けば、彼の胸元から一振りの(やいば)が。見ると、其処に長剣を握るユキが。倒れている方のユキはまるで霧か何かのように(かす)んで消えてしまった。


「………なるほど?ははは、まやかしだったか」


「マキナの投影機能だよ。貴方が見たのは、限りなく本物に(ちか)い立体映像」


 直後、ロイはゆっくりと(くず)れ落ちるように(たお)れた。


無念(むねん)だ。まさか、目的も()たせずに倒れる事になろうとは。しかし、」


「……………………」


「しかし、満足だった。(たの)しかったよ」


 そう言って、ロイはそのまま力尽(ちからつ)きた。誰も、何も話さない。


 勝利に湧く事もない。一種の虚脱感。或いは(むな)しさとでも呼べる感覚が襲っていた。


 そんな中、言い知れぬ感覚を(あじ)わいながらユキはロイを見下ろし()げた。


「将軍ロイ、貴方の事は今後絶対に(わす)れはしない」

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