78 里へ 後
昼食を摂り終え、全員が眠れていなかった為に休憩を兼ねて出発を遅らせる事になったのだが、後片付けをしている途中で何故か一人空を見上げていたマナがこちらに背を向けて川へと歩いて行くアルへチラリと視線を向けた後、徐に僕へと言葉を掛ける。
「・・・先程のお話なのですが、鳥ですよ。」
「え?マナ、鳥がどうかしたの?」
何の脈絡も無く、余りに突然だったために思わず聞き返してしまったのだが、そう言えばマナはさっき例の里を見張っている人が行っている事に心当たりがあると言っていた。
鳥とその事に何か関係があるのだろうか?
「はい。森でわたしは、侵食を受けた鳥を目として使っていました。熊と狼、それに猪もです。偶にわたしの支配下から外れてしまう個体もおりましたが、わたしは全身を侵食された個体にわたしの一部も取り込ませる事である程度の指令を出す事ができます。恐らくその者も似たような事が出来るのではないでしょうか?」
僕達が会話を始めた事で、片付けをしていたマーサさんやサリーナも手を止めこちらに集まってくるのだが、アルは洗い物をする為に川の方へ行っているので、まだこちらの様子に気付いてはいないようだ。
あの時マナはどう形容したら良いか判らないと言っていたけれど、アルがこの場から離れたのを確認して話し始めた事を鑑みるに、マナ自身に関わる話をアルに聞かれない状況を待っていたからなのかもしれない。
何故なら僕達がアルに承認の話や、マナ自身がどういう存在なのかについて、敢えてまだ詳しく教えていない事をマナは知っているのだ。
なので、マナは僕やマーサさんの意図を汲んだ上での行動だったのだろうけれど、実のところ今日これまで話していて正直僕はアルにも話すべきなのでは無いのかと思い始めている。
これまでは王都に行く事になる僕と違い、騎士団に居るアルは近い内に僕と行動を共にしなくなる可能性が非常に高く、鉱石を研究する施設の駐留部隊に志願をしているのだから何れ村に戻る事にもなると考えていた。
だがこの先魔人達と戦うような事態になった際、アルやサリーナの力が他の使用者達と明確に違う事が魔人を操っている連中に伝わる可能性が高く、僕やマナと一緒にいた人物としてこの先身の危険が無いとも限らない。
そうなると、アルに黙っている理由が無くなってしまう。
マーサさんが承認された事をアルには教えない方がいいと以前言っていたのは、最初アル自身の身の危険を危惧したからだろうけれど、此処まで来てしまったら寧ろ黙っている方が危険なように思えるのだ。
だから、この事はアルにも伝えなくてはならない。
・・・それに、これ以上隠し事をしたくもないから。
しかし今のマナの話が本当ならば、あの洞窟に向かう時僕が撃ち落とした鳥や、洞窟前の熊や狼達を操って居たのはマナだったという事か。
そう言えば僕が初めて遭遇した黒化した猪も執拗に僕だけを狙っていたから、恐らくアレがマナの言う支配から外れた個体だったのだろうし、今になって思い返せば討伐戦の際に命令を受け付けないとか、マナが言っていたような覚えもある。
僕は何でそんな大事な事を忘れていたのだろうか・・・。
いや今は後悔するより、聞いていて気付いた事を確かめなくてはならないな。
「・・・魔人は、皆そんな事が出来るの?」
もし、魔人達全てがマナと同様の事が可能なのだとしたら、そもそもがこんな人数だと太刀打ち出来ないのではないだろうか?
そんな最悪に近い想像をしながら問い掛ける僕に、マナは首を横に振りつつ答える。
「いえ、ナノマシンには近くにある他のナノマシンに指令を出す上位のモノが小数存在しているのです。丁度わたしを構成しているナノマシンもそれに当たるのですが、その者は偶然にも上位のモノを取り込んでしまったのでしょう。」
「上位の、ナノマシン?」
よく解らないが、機械達の中にも役割の違うモノがあるという事だろうか?
まぁ、ナノマシンとやらも僕は正直理解しきれては居ないのだけれど。
「ええ。・・・尤も、わたしの身体を構成しているモノはわたし達によって手を加えてもありますので、変質しております故に全く同じではないですし、人間ではわたしのように視覚を直接接続するような事までは出来ないとは思いますが、間違いないでしょうね。」
マナの身体が特別だという話は確か以前にも聞いているけれど、例の人はマナの言う上位の機械達に侵食されてしまった為に、似たような手段を使って里の守りを一人で担えているという事だろうか?
なるほど、だから相手も迂闊に手を出す事が出来ないのかもしれない。
・・・待てよ?そう言えば、僕の中にあるモノも機械達に指令を出す事が出来るのではなかったか?
だとしたら、その人を侵食しているモノは僕の中にある機械達と同じという事?
いや、そうなるとやはり僕が黒化していないのはどう考えてもおかしいし、以前に聞いたマナを構成するモノとは違うという話とも食い違ってくる。
という事は僕の中のモノはその上位のナノマシンとやらとは違うのだろうが、念のために聞いておくべきだろう。
「そのナノマシンは、僕の身体の中にあるという機械達とは違うんだよね?」
「ええ、詳しくは分かり兼ねますが旦那様の中にあるモノとは、明確に違いますね。例えて言うのであれば、旦那様の中にあるモノはキラン、わたしの身体を構成するモノはジーナに該当すると言えるでしょう。」
その例えでは間に幾つか階級が存在する事になってしまうし、更に上位が存在する事になる気もするが、マナは余り人の階級制度には詳しくはない筈なので、見知っている人物を偶々例に挙げたのかもしれない。
・・・よくよく考えれば僕はマナを停止させられるそうだから、マナを構成するモノと違うのは当たり前か。
だがこうなると、里の周囲には黒化した何かが潜んでいるという事になるのだけれど、今回も僕が襲われる様な事態になる危険性があるのではないだろうか?
里全体を侵入者から守っているのだから、そのナニかは何体も存在している可能性の方が高い。
複数の黒化した獣に突然襲われでもしたら、一体一体の動きを止めている間に他の獣に襲われてしまうだろうから、どの道この人数ではひとたまりもないだろう。
「アレ?だとしたら、あの洞窟の前での出来事や繭と戦ってる時みたいに、またイーオだけが襲われちゃうんじゃないの?」
どうやらマーサさんも僕と同様の考えに至ったようでマナに問い掛けたのだが、またしてもマナは首を縦に振る。
「いえ、あの時操っていた獣達は旦那様達が仰る繭の一部を使って侵食を行っておりましたので、繭同様に仕掛けの所為で旦那様が接近した際に命令を受け付けなくなったのだとわたしは考えています。ですから、お母様が考えられた様な危険性は低いとは思いますよ。とはいえ確実とは言えませんので、念のためわたしが鎧となって旦那様をお守りした方が良いかもしれませんね。」
なるほど、そういう事だったのか。
動けない繭がどうやって動物を黒化させていたのかは気になるが、繭が黒化した獣を生み出していたのなら以前マナが言っていた施された仕掛けとやらの為に、あの獣達も僕を狙ったという事だろう。
それならまだ安心は出来ないが、また僕だけが襲われるという事も無さそうだ。
「色々教えてくれてありがとう。でも、鎧については威圧感を与えるのも良くないと思うから、マナが危ないと判断した時だけにした方がいいかもしれないよ。」
マナが鎧に変化すると全身が真っ黒になる為に、かなり威圧感のある姿になってしまうので、里の人に警戒されてしまうのは想像に難くない。
だから申し出は有り難いけれど、今回は危険が迫っているとマナや僕が判断した時だけに限定するべきだろう。
・・・決して、あの真っ黒の鎧が恥ずかしいからという理由ではない。決して。
「では、わたしは旦那様のお側から離れないように致しますね。・・・サリーナの様に、抱きしめて頂いても構いませんよ?」
「イーオさんはあたしが守りますので、マナは後ろから襲撃に備えてください。」
「イヤです。今回旦那様の隣はわたしの役目です。サリーナがそうしてください。」
マナを纏うという提案を無難に躱しつつ僕が答えると、マナはニヤりと笑みを浮かべたかと思えばチラリとサリーナに視線を向けサリーナを煽るような言葉を放つ。
すると、それを受けムッとしたような表情を浮かべたサリーナが言い返して、いつものように二人で言い争いを始めてしまった。
その光景を見てやれやれと思いながらも、僕はマーサさんに視線を向け先程は言えなかった提案をする事にする。
「・・・マーサさん。実はさっきからずっと考えていた事があるんです。」
「なになに?どうしたの急に。何か気になる事でもあった?」
マナとサリーナの様子をニコニコしながら眺めていたマーサさんは、僕が改まって話し始めた事でやや驚きながらも先を促す。
「魔人達と戦うならば、マーサさんもアルや父さんやサリーナのように、鉱石を扱えるようになった方がよくはありませんか?」
「・・・マナの言う認証、だっけ?」
「ええ。」
「うーん・・・。」
僕の提案を受けたマーサさんは眉を寄せながら腕を組み頭を悩ませる仕草をみせる。
「何か問題でもあるんですか?」
マーサさんが何について悩んでいるかが解らなかった僕は、何かあるのだろうかと思い疑問を口にすると、マーサさんは僕に視線を向けながら言葉を続けた。
「いやね、ワタシもそれを考えなかった訳じゃないんだよ?でもさ・・・。」
マーサさんも僕が言うまでもなく、自分の鉱石を扱う力が増す〝認証〟を受ける事について考えてはいたらしい。
だが、何かがそれを躊躇わせていた為に今までこの話を自らする事をしなかったのだとマーサさんの様子から気付く。
何が引っかかっているのだろうか?
「でも?」
「・・・前に実験、したでしょ?」
「え?・・・あ、はい。しましたね。それがどうかしましたか?」
マーサさんのいう実験とは、あの館の裏庭で行ったマナの力を確かめる実験の事だろう。
「あの時、ワタシは正直・・・怖いって、思っちゃったんだよね。」
「怖い・・・ですか?」
「そう。勿論、マナの事じゃないよ。・・・前々から思ってはいたんだけど、あの実験を目にした時から余計に怖いって思うようになったの。」
「え・・・?」
「ねぇ、イーオ?キミは怖いって思わなかった?自分の理解が及ばない力に・・・、その力が目の前に存在してしまっている事に、怖いって思わなかった?」
「それは・・・。」
正直、考えた事もなかった。
人に向けていい力では無いと思いはしたけれど、その力について恐ろしいだなんて考えもしなかった。
ただ存在しているのだから、そういうモノなのだとしてありのままに受け入れてもいた。
鉱石の力はまだまだ未知数で、これまで色々な人から聞いてきた話をまとめると、殆ど解明されてはいない筈だ。
それなのに更に力を引き出す事が出来てしまう〝認証〟について、僕は深く考える事をしてこなかった。
確かに、人を簡単に殺めてしまうような力は恐ろしい。
しかも剣等の武器とは違い、僕を含め何故それを扱えてしまうのかを殆どの人は理解すらしていないようにも見える。
「そりゃね?魔人からイーオ達を守れる力がワタシにあったならって思うよ?ワタシがつい命を賭けてでもなんて言っちゃったから、イーオが心配してそう言ってくれたのも理解してる。・・・でもね?」
力を持つという事は、それを正しく運用する責任と義務があるのだと、幼い頃から父さんは僕に剣の稽古をつけながらそう教えてくれた、
当時の僕は、剣を人に向けるべきではないのだろうという程度にしか考えていなかったけれど、今になって考えれば多分、いつか僕が貴族として生きる事になるのを見越して話していたのだろうとは思う。
だが、何もこれは権力に限った話という訳でも無い。
「だからって、よくわからない力に頼ろうだなんて考えは、ワタシには無いんだ。だから、シュウに籠手を作って貰う時にも、ワタシは相手の動きを阻害する最低限の能力を望んだんだよ。」
恐らく僕に鉱石を扱う力や、認証する力を持たせたのはノアだ。
きっと、それは僕を守る為だったのだろう。
なら、僕はこの力の有り様をもっと考えなくてはいけない。
彼女や父さんに顔向け出来ないような事をしてはいけないんだ。
「だから・・・イーオ。ごめんね。そう言って貰えるのは嬉しいんだけれど・・・。」
「いえ、僕も色々と気付かされました。この力が異様なモノだと知っては居ましたけれど、それについて深く考えてはいませんでした。・・・言われてみれば確かに、恐ろしいモノですね。」
例えば、もしこの認証の力を使いサリーナの剣や、アルの弓のような力を扱える騎士団を作り出してしまったら、恐らく騎士団間どころか国家間の力の均衡は崩れ、争いの火種にすらなりえるだろう。
考えが飛躍しすぎかもしれないけれど、そういった事も不可能ではないのかもしれない。
これはそういう類の力なのだという事を、忘れないようにしなければ。
「うん。ワタシが誰にも言わない方がいいって言ったのは、それもあるんだよ。人質をとって、イーオに認証をさせたりする事だってあり得るでしょ?」
「確かに、魔人を生み出すような連中ならば、あり得ない話ではありませんね・・・。」
言われてみれば、その発想もなかった。
だけど、人を人とも思っていない連中なのだから、十分以上に考えられる話だ。
マーサさんは色々な事を知っていたが故に、マナから認証の話を聞いた時僕に忠告してくれたのだろう。
「だから、イーオの力が連中に伝わらないようにする為にも、まずは間者を見つけないとね。じゃないと、みんなの黒化を止めて貰う事も出来ないから。」
やはり、彼女の言う通り何を成すにしても、まずは間者を見つけない事には話を進められない。
僕はマーサさんの言葉に大きく頷き短く同意を返した後、先程からずっと考えていた事についても相談する事にした。
「はい。・・・マーサさん、さっきから考えていた事なのですが、アルにも認証の話を伝えるべきなのでしょうか?尤も、話すならば無闇に鉱石を使わない方がいい事も話そうと思ってはいるのですが・・・。」
「・・・そっか。その辺りはイーオに任せるよ。ここまで来たら、確かにアルドに黙っている理由はあんまり無いからね。それと、無闇に使わない方がいい事についても賛成だよ。勿論、イーオやサリーナもね?」
「そうですね、わかりました。・・・マナ曰く、アルさんは元々鉱石を扱える可能性が非常に高かったらしいですから、イーオさんの力だけでは無いという事も忘れずに伝えた方がいいかもしれません。」
僕の言葉に、マーサさんだけでなくサリーナも困ったように眉を寄せながら、こちらを見つつ補うようにそう告げる。
この様子ではどうやら、知らなかったとはいえアルを勝手に認証してしまったという後ろめたさを抱えている事に、二人は気付いたらしい。
・・・そんなに考えている事が顔に出てしまうのだろうか?
二人に考えている事が見透かされた気恥ずかしさから、僕は顔が熱くなるのを感じながらつい俯いていると、突然後ろから声をかけられた。
「どうしたんだ?皆でまた集まって何を話していたんだ?・・・イーオ、どうした?」
気付けば結構な時間が経っていたらしく、木製の食器を入れた桶を持ったアルがいつの間にか川から戻ってきており、不思議そうな表情を浮かべながら僕の様子を伺ってくる。
「何でもないよ。」
「そうか?」
「それより、アル。・・・話があるんだ。」
「何だ?またか?」
「ごめん。実は、まだ伝えてない事がある。」
結論から言うと、認証についてアルはとっくに気付いていたらしい。
尤も、厳密に認証について知っていた訳ではないらしい。
というのも、何故サリーナが騎士団に入れないのかをキランさんに尋ねた事があるらしく、サリーナが鉱石を扱えない事をアルは知っていたようだ。
そこで、あの騎士団の面前で求婚してしまった件の際、もしかしたら僕が自分にも何かをした為に鉱石を扱えるようになったのではないかと考えるようになったのだとか。
「周りと明らかに違うんだから、そう考えるのは当然だろ。まぁ、元々才能があったらしいという話は、正直驚いたが。」
「・・・本当に、ごめん。」
「謝る意味がわからんな。」
「でも・・・。」
「そんな事より、さっさと寝るぞ。」
「・・・うん。」
「・・・気にするな。」
アルは短くそう告げると、僕の隣で地面に引いた毛布の上に寝転がった。
マーサさんとサリーナは馬車の荷台で既に寝息を立てており、マナは眠る必要が無い為か、僕の話を補う為に僕を挟んでアルの反対側にちょこんと座っている。
「・・・実は、戦うとなると足を引っ張るんじゃないかと思っていたんだ。だから、俺も魔人とやらに対抗出来るのなら、寧ろ有難い。」
「アル・・・。どうして、そこまで?」
自分がやろうとしている事に親友を巻き込んでしまっている現状が、どうしても納得出来ていなかった僕は、ついそんな事を口走る。
あれだけ言い争っておきながらまだ腑に落ちていないなんて、我ながら頑固だとは思う。
でも、命が掛かっているのだから当然だろう?
「・・・お前は覚えてないかもな。」
「何を?」
「昔、村に熊が現れた事があったろ?」
「うん。でも、それってそんなに珍しい事でもないよね?何年かに一度ある事だし。」
「まぁ、そうなんだが・・・。いや、そうじゃなくてだな。俺たちがまだ小さかった頃だよ。俺たちの目の前でキース様が剣一本で熊を倒した時だ。」
「あぁ・・・うん。覚えてる。」
基本的に父さんは動物相手でも無益な殺生を好まないので、少し傷つけて追い払う程度にしていたのだが、偶に興奮状態や飢餓の為か怯まずに向かってくる事があり、やむを得ず殺める場合が何度かあった。
その時も、確か傷つけられた事で興奮状態になった熊が逃げなかった為に、仕方なくトドメを差した筈だ。
「・・・情けない話だが、あの時全てが終わるまで怖くて動けなかった俺を、お前が庇ったのも覚えてるか?」
「・・・うん。」
何故そんな状況になったのかまでは覚えてはいないけれど、あの年は森の中の果物があまり採れず、お酒が作れないと父さんがボヤいていた記憶がある。
普段から村の小さな子供は畑を手伝っていたから、その時も多分アルは収穫した野菜等を抱えていた為に、熊に襲われてしまったのだろう。確か秋だった筈だから。
「正直言うと、昔はお前の事が嫌いだったよ。大人の顔色ばかり伺っていい子を演じてるようにしか見えなかったからな。」
「・・・僕も、アルに嫌われてるとは、思ってた。話もしてくれなかったしね。」
昔のアルは、猟師の頭領の家系という事もあってか大人からも可愛がられており、自然と子供達の中でもまとめ役になっていた。
とはいえ、今と然程変わらずぶっきらぼうではあったが乱暴ではなく、誰かを悪く言うような事もなく、どちらかと言えば似ているとすら感じた程だ。
でも、幼い頃は何故か避けられていたんだ。
そう言えば、その出来事の後ぐらいから少しずつアルの方から歩み寄ってきてくれた覚えがある。
「まぁ、今思えば同族嫌悪ってヤツだな。・・・でも、多分根本が違う。俺は自分の為だったが、お前は本気で誰かの為にって行動していた。じゃないと、子供が自らを盾にしようだなんて出来る筈がない。」
「・・・買い被りすぎだよ。」
僕は今も昔もそんなに変わってはいない。
そうしなければ、自分の居場所が無くなるとすら何処かで考えていたかもしれない。
「違わないさ。今のお前も、誰かの為にって・・・昔から、何も変わってない。だから、放っておけないんだよ。」
「僕が危なっかしいって事?」
「ああ。」
「・・・またそれか。なんだよ、それ。」
「・・・もう寝るぞ。今夜も移動だからな。」
不満気な声を上げた僕へアルは話を打ち切るかのようにそう告げると、それっきり何も語らず暫くして寝息をたてはじめる。
一人先に寝てしまった親友を横目に少し釈然としない感情が湧きながらも、仕方なく僕も目を閉じた。
少しして、寝ていなかった為か僕もうとうとし始めた頃、誰かに頭を撫でられるような感覚を感じたので薄ら目を開けると、マナがまるで赤子をあやすように僕の頭を撫でている。
人の肌とも違う少し不思議な感触。
ややひんやりとしていて、気持ちいい。
いつだったかわからないが、この感じには覚えがある。
何処か安心するような、もっと撫でて欲しいような、そんな心地良さにも似た感覚に包まれながら、僕は眠りへと落ちていった。
陽が傾いた頃、僕が自然と目を覚ますと既にマーサさんは起きており、丁度僕達を起こそうとしている所だった。
「おはよー。さぁ、出発するよー!」
起き出した僕に気付いたマーサさんは、何時も通り変わらない様子で声をかける。
いよいよ、明日僕達は里へとたどり着く。
目論見通りにいく保証は何処にもない。
でも、やれる事は全部やろう。
寝ぼけているサリーナに何とか出発の準備をさせながら、僕はそんな事を考えていた。




