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いつか、どこかで  作者: 眠る人
81/86

77 里へ 前

「最初に・・・謝らなくちゃ、いけないの。本当に・・・本当に、ごめんなさい。」


 僕とアルが戻り、既に簡単な昼食の用意を整え終えていたサリーナの側に僕が腰掛け彼女にも謝罪をしたのを確認すると、マーサさんはそう告げた後に頭を下げた。


「突然どうしたんですか!?」


 全く予想もしていなかったマーサさんの謝罪に思わず慌てて尋ねると、彼女は顔を上げた後僕達全員を見回してから重々しく口を開く。


「・・・このままだと里に行くだけでほぼ間違いなく、危険な目に合わせる事になるから・・・。だから本当に、ごめんなさい。」


 似たような事を昨日も謝られた筈なのだけれど、マーサさんはまだその事を気にしているのだろうか?


「里へ行く事が危険なのは、これまでや昨日の話でも解りましたよ?」


 僕は不安気な表情で前日と似た事を告げたマーサさんにそう返したのだが、彼女は首を横に振る。


「・・・ううん。実はまだ話してない事があるの。危険なのは寧ろ、その話してない方の所為。ずっとワタシ一人で出来ないかを考えてたんだけど、どうやっても無理だって結論にしか辿り着かなかったんだ。そして、その事を黙ったままで連れて行くのは良くないって、さっきイーオ達を見てて気付いたの・・・。」


 まだ話していない事って何だろう?


 沸いた疑問をそのまま投げ掛けるようかとも思ったのだが、マーサさんの表情が辛そうだった為に僕が声を掛けられないでいると、少し間を空けてから彼女は続けた。


「・・・でもね、これ以上里へ行くのが危険な理由を話しちゃうと、イーオ達がマホを助ける為の協力をしてくれなくなるんじゃないかって・・・。それがどうしても怖くて・・・、今まで話せなかったんだ。ワタシはズルいんだよ・・・。だから、責められたり、怒られたりするのは仕方ないの。」


 そこまで言い終えるとマーサさんは、顔を伏せ少し肩を震わせる。


 その様子に他の三人も何と声を掛けていいのかを迷っていたらしく、数瞬の沈黙が流れた後でマーサさんは顔を上げ、何かを覚悟したような表情で再び口を開く。


「・・・きっとこれから話す事を含めて全部を成し遂げるには、イーオ達の協力が必要だから・・・。だから、聞いた上で里へ行くかどうかは、イーオ達に任せるよ・・・。」


「昨日聞いた事以外にも、まだ何かあるって事ですね?」


 僕達の力が必要だと言われはしたものの、本題が見えない事には判断のしようがないと思いマーサさんに続きを促すのだが、次の瞬間にマーサさんの口から出た言葉は僕を酷く困惑させるモノだった。


「うん。今回の目的について・・・、だよ。ワタシがこの話を聞いた時、イーオ達に伝えるかは任せるって言われたんだ。」


「えっ?」


 どういう事だ?


 今回僕達が里へ行く目的は、里の人達にウィンザー領へ移住してもらう為の説得じゃなかったのか?


 マーサさんも聞かされたって事は、他の誰かの思惑も絡んでいるって事だ。


 一体、誰の?それにいつの間に?


 そんな幾つかの疑問が僕の頭の中で湧いてきた直後、マーサさんは少し言いづらそうに告げた。


「えっとね・・・、ワタシ達の目的そのものには何の変更も無いんだけど、実はエリアス様にはもう一つ・・・正確には、エリアス様とシュウにはもう一つあるんだよ。それが、偽装が必要だった本当の理由なんだ。」


「もう一つ、ですか?それに、シュウさんって・・・?」


 そんな話を叔父上からは事前に聞かされていなかったので、マーサさんの様子を伺いながらも再度問いかけると、彼女は頷きながらも続けた。


「・・・うん。実は・・・、シュウの研究資料の回収、若しくは破棄をしなくちゃいけないの。連中に渡さない為に。まぁ、エリアス様曰く破棄は最後の手段なんだけどね。色々と偽装しなくちゃいけなかったのはその所為。じゃないと、里へ行くのも危険になっちゃうから。」


「シュウさんの、資料?」


 ・・・言われてみれば以前、里に資料を隠してあるとシュウさん本人からも聞いてはいたが、回収か破棄をしなくていけない程に大事な物なのだろうか?


 いや?


 そう言えばシュウさんと最初に会った時、役人を経由して貴族に資料を押さえられたと言っていなかったか?


 その時に、本当に大事な物はそこには無かったとも聞いた覚えがある。


 確かシュウさんが追われるようになったのは、その没収された分の資料が原因だった筈だ。


 という事は、シュウさんが言っている事が本当なら里にある資料は没収されてしまったモノ以上に重要という事になる。


 であれば、破棄や回収が必要になるのも頷けるだろう。


 だが、その所為で僕達が里へ向かうのすら危険になるって、どうしてなんだ?


「ワタシも詳しくは知らないし、最近聞かされたからどんな物なのかはシュウに聴いてみるしかないんだけどね。でも、ヤツらにとってそれは必要なモノらしいのは確かなんだ。シュウが里に着いた途端に襲撃を受けたのはその所為なんだよ。」


「なるほど・・・。」


 確かに里へ向かう事の承諾を貰う際に、シュウさんが里へ着くなり襲われたという話は叔父上から聞かされていたけれど、成る程その資料とやらが原因だったのか。


 ・・・しかし、何か違和感がある気もする。何だろう?


「うん。皆の説得の他にできればそれらも実行しなくちゃいけないんだけど、大きな問題があってね。里にはかなりの確率で・・・。ううん、十中八九連中の間者が紛れ込んでるんだよ。でも、この事を里の人は知らないみたい。」


「そうだったんですね・・・。」


 最初は何で間者なんて奴らが居るのかが理解出来なかったけれど、漸く合点がいった。


 此処までの話を聞いた上での推測だが、ウィンザー領に間者が居る可能性があるのは、多分叔父上がシュウさんの後ろ盾になったからだ。


 叔父上の庇護下に入ってからのシュウさんは、余り騎士団の兵舎からは出ていなかった筈だから、相手も動向を探る為に出入りの商人等を装い間者を差し向けた可能性は大いにある。


 同様にフランドル伯の領地も、シュウさんが最初に里へと赴いた切っ掛けは伯の依頼だったらしいので明確な繋がりがあると言えるから、フランドル領に居る可能性は言わずもがなだ。


 こちらに関しては、里がある大森林を抱えている領地なのだから、動向を探る為に騎士団にすら居た可能性もある。


 だから、素性のハッキリとした者がどうこうとシャロンさんが言っていたのだろう。


 しかし、里が監視されているだけではなく間者まで潜んでいるとなると大分話が変わってくるけれど、やはりまだ何かが引っかかるような・・・?


「多分、元々は里に何か起きたらそれを伝える為だろうけど、今はシュウの資料の隠し場所を探る為でもあると思う。でも、それが誰かは判って無いんだ。なんせ、ワタシも里にいる間者の存在に気付いたのは、出発前だからね。」


 何か違和感がある事はとりあえず置いておくとして、マーサさんがさっき里へ行くのも危険だと言っていた理由は、僕が叔父上の書類上とは言え嫡男であるからか?


 もし、間者経由でフランドル領にシュウさんを召し抱える貴族の嫡男が居ると相手側に伝わっていた場合、その僕が真っ直ぐに里へ出向きでもしたら、資料の回収に来たのだと相手に思わせてしまう可能性は、非常に高いと思われる。


 そうなると、里へ僕達が行くのを妨害する為に何かしらの行動を起こす事は想像に難くない。


 だから、偽装が必要だったんだ。


 しかし、里にも間者が居るとなれば、迂闊に里の人達を説得する事も出来ないな。


 相手に保護をする事が伝わる危険性は、昨日馬車の中で話していた段階でも分かっていた事だから。


 ・・・でも、だからと言って僕にはマーサさんを責める気は起きない。


 考えが間違っていなければ、僕達が行こうとした時点で襲撃や妨害を受ける事はほぼ確実で、この話を予め知っているかどうかとは関係無い訳だし、事前にその対策を打ってくれてもいるからだ。


 それに、ここ迄の話を聞いて色々と腑に落ちた部分もある。


 昨日馬車の中で僕が感じた不安にも似た感覚は、抜けている情報のせいで無意識に違和感を感じた為だったのだろう。


 強いて言えば、もう少し早く教えてくれても良かったのではと思わなくもないが、最初に考えていたより厄介な事に巻き込んでしまった事で話しづらくなったマーサさんの気持ちも、分からなくはない。


 ・・・あれ?ここまでは理解したし納得もしたけれど、何で里にも間者が居ると判ったのだろうか?


 監視が居るとは聞いていたが、此処までの話の流れでは里にも間者が居るかどうかまでは解らないような気がするのだが?


 マーサさんも気付いたのは僕達と共に出発する直前みたいだけど、何故それが判ったのかを聞いておくべきか?


 そこから何か得られるかもしれないし。


「どうして里にも間者が居ると気付いたんですか?里が監視されているとは聞いては居ましたけど。」


「・・・これは、籠手を作って貰う時にシュウ本人から聞いた話なんだけど、シュウが使っていた家が荒らされてたみたい。里の人に聞いても知らなかったらしくて、それで面識のあったワタシにも聞いたんだって。でも、最初は意味がわからなかったよ。だってその時点だと、ワタシは資料の事はまだ知らなかったからね。」


 シュウさんがマーサさんに尋ねたのは多分、マーサさんに探りを入れたのだと推測出来る。


 この言い方だと元々そこまで親交は深くないようだし、彼も資料の事で疑心暗鬼になっていたのだろうから、マーサさんを疑うのも仕方ないだろうな。


「で、此処に来る時にエリアス様に許可を貰ったでしょ?あの後もう一つの目的をワタシは聞いたんだけど、色々あってそれで里に連中の間者が居るんだなって気付いたの。勿論、エリアス様にも伝えたよ。まぁ、エリアス様も気付いてたみたいだけどね。」


 なるほど。資料の事とシュウさんの状況を聞けば、間者が里に潜んでいると結論付けてもおかしくはないか。


 〝色々〟の部分は気にならなくはないけれど、確信を持って言い切っているのだから、何か根拠があるのだろう。


 ・・・でも、それを知った上で僕達を里に行かせてくれたのだとしたら、叔父上はどんな気持ちだったのだろうか?


 マーサさんの様に、僕なら出来ると考えたから?


 いや、あの叔父上がそんな事で許可を出すとは到底思えない。


 僕を試そうとした、とか?・・・うーん、それも何か違う気がする。


 まぁ、これでサリーナが里へ行くと言った際に叔父上がかなり強く反対していたのも解った気がした。


 僕の真意を確かめたのも、同じ思いからなのかもしれない。


 あの時は今ほど状況を知ってはいなかったけれど、寧ろ今の方がより詳しく里の状況を教えて貰っている分、どうにかしたいと思う気持ちは強くなっている。


 だから、資料の事も含めてもっと詳しい話をマーサさんから聞かなくては。


「ん?でもさ、他の人の家を荒らすようなヤツが紛れてたら、里の人達も普通気付くんじゃないか?」


 そんな風に僕が自らの想いを強くしている最中、アルは疑問に思った事を遠慮なくマーサさんに尋ねる。


 アルの疑問は尤もだと思う。明らかに不審な行動だから、普通に考えたら人目につく筈だ。


 だが、その問いかけにマーサさんは眉を顰めながら返す。


「ワタシが厄介だなって思う理由はそこなんだよ。シュウが里の人にも聞いて回ったって言ったでしょ?それでも誰も気付いてはいなかった。」


「確かにさっきそう言ってましたね。」


「うん。という事はね、里の人達の行動を常に把握してるって事なんだよ。里で暮らしてる人達は少人数だけど、それ故の結束があるから誰にも気取られないのは考えにくいし、ちょっと理由があって外部から気付かれないように中へ入るのも難しい。だから、本当に厄介なんだよ。」


 確かに、小さな集落で誰にも気取られないように行動するのは案外難しい。


 これは僕が髪を隠して生活をしていて気付いた事だけど、沢山の人が暮らす街では意外と他人を見ていないので、シュウさんの家と似たような状況であった場合、物盗りの犯行が発覚するまでに時間がかかる事もある。


 だが、里のように少人数だと恐らく共同生活に近く人の繋がりが濃い分、同じ様な行動を取るとそれが誰の家かを皆が知っているのだから、他の人が何度も出入りでもしようものなら、すぐに発覚する筈だ。


 これまでの話が本当なら資料は未だ発見されていない訳だから、入られたのが一度とも考えにくいので尚更だろう。


 これは周囲に気付かれないよう出来る事ではない。確かに、マーサさんの言う通りかなり厄介だな。


 しかし、里の中に気付かれないよう入るのが難しいとは?


 この様子では、外からの侵入者の犯行では無いと確信しているのだろうが、まさかそれがさっき言っていた〝色々〟の理由?


 これは聞くしかないな。


「外部からの侵入が考えにくいのは何故ですか?」


 監視をしている連中に気付かれないよう里へ入るのが困難と言うならばともかく、里の人に気付かれないように内部へ入るのが困難というのは全く理解が出来ない。


 どういう事なんだ?


 里側から監視するにしても、少人数なのだから確実に発見出来るとは限らないと思うのだけれども。


「うーん・・・。里の中に侵入者が入らないように、ずっと見張ってるヤツが一人いるから、と言えばいいのかな?」


「そんな事が可能なんですか?たった一人で?」


「みたいだよ。どうやってるのかまでは教えてくれないんだけどね。まぁ、このまま進めばそのうち判るよ。」


 一人で全体を見張るなんて、普通ではあり得ない。


 でも、困ったような表情で答えているマーサさんの様子から察するに、実際それを可能としているとしか思えない。


 そして恐らくこれが、マーサさんが間者が居ると判断した最大の要因なのだろう。


 でも、どうやって?マーサさんも教えて貰ってはいないようだが・・・。


「それについては、わたしに心当たりがありますよ。恐らく、わたしと同じ様な事が出来るのだと思いますが、どう説明すべきなのかがわかりませんので少々お時間を頂けますか?」


 マーサさんに聞いた事で別の疑問が浮かぶも、彼女も答えられないのは理解しているので、どうやったらそれが可能なのかを自分なりに考えていると、これまで口を挟まなかったマナが唐突にそう告げる。


 似たような事って何だろう?


 マナが出来る事って、巨大な鉱石として扱える事ぐらいしか思い浮かばないのだが、まさか魔人も同じ事が出来るのだろうか?


 いや、身体の全てが微細な機械の集合体であるマナならまだしも、鉱石を取り込んだだけの人間にそんな事が可能だとは思えない。


 他にも何かあるのだろうか?


「・・・なぁ、マーサさん。他にも気になったんだが、何で今までに資料を持ち出そうとしなかったんだ?機会はあったんじゃ無いのか?」


 今は判らない事を考えても仕方ない。マナは時間が欲しいと言っているのだから、待つしかない。


 それよりも現状はアルのように質問をして、出来る限り情報を共有し整理するべきだ。


「ワタシがそういうのがあるって知ったのは、さっきも言ったようについ最近だけど、知ってたとしても無理だよ。これまではね。」


「これまでは?」


 アルはそう聞いたけれど、マーサさんが持ち出しようがないのは当然として、シュウさんが持ち出さなかったのは、資料の件を相手が知るまでその必要が無かったからだろう。


 だが、知っていたとしても無理だというのはどうしてだ?それに、これまではって・・・?


「里にいる間者は当然だけど、里を見張っている連中も魔人だからだよ。じゃないと不測の事態が起きた時、対処が出来ないからね。だから、今までは持ち出せなかった。里が安全じゃ無くなるまでは持ち出す方が危険だしね。」


 ・・・それもそうか。


 不測の事態に対処出来ない人員を置く理由は、確かに余りないだろう。


 国境が曖昧な大森林な上に、余り大っぴらに出来る話でもないので少人数を置いているとは聞いていたから、当然だ。


 だとしたら、マーサさんの言う通り気付かれるまで里から動かすべきではない。


「それがこれまでは、という事ですね。でも、今回は違うと?」


 ならば、これまでとは何か違う要因が今回はあると言っているのだろうと考え尋ねると、マーサさんは真っ直ぐに僕を見つめながら頷く。


「うん、今回はイーオとマナが居るからね。それにサリーナ達の力だって、多分ヤツらに通じると思う。ワタシの体術じゃ歯が立たない相手なんだよ。ワタシが鉱石を使うぐらいじゃ、多分届かないとも思う。魔人とは一度戦ってるから、わかるんだ。あの時は、手加減されてたんだって。」


 僕達の・・・力?


 マーサさんの言い様だと、サリーナが扱った何でも切断出来るような力が、鉱石を埋め込まれた相手だと必要になる・・・という事か?


 あんな異様な力が魔人とやらを相手にするには必要、だと?


 それに人相手に体術が通用しないという言葉の意味も正直理解出来ないのだけれど、一度戦った相手というのが前に言っていたマホの母親なのだという事だけは解る。


 ・・・さっきの話といい魔人については昨日マーサさんが言っていた様に、シュウさんから詳しく聞いてみる必要があるだろう。


 以前に人の黒化について尋ねた時の様子から考えて、恐らく彼は何かを知っているのだろうし、資料の事もある。


 でも、こうなるとマーサさんもサリーナ達のように認証をした方がいいのかもしれない。


 これについては、マーサさんに後で話してみるべきだ。


「なら、シュウさんが今まで無事に里を行き来出来たのは何でだ?言っちゃ悪いけど、シュウさんは鉱石も剣もロクに扱えない筈だ。襲われないワケが無い。」


 僕が考えを巡らせている間にマーサさんを認証する必要性に思い至った時、またしてもアルが質問を投げかける。


 確かに、言われてみればその点は気になるな。


 シュウさんの資料が流出した時期は解らないけれど、前に本人や叔父上から聞いた話だと、つい最近という訳でも無さそうだし。


 ・・・それにしてもアルの質問を聞いて、先程よりも何かが強く引っかかる気がする。


「それはシュウにかなり懐いてる奴が居てね、結構前からそいつが街の近くまで送り迎えしてるらしいんだよ。そして、そいつの力がちょっと他の里の人達と違うから、手が出しづらいんだと思う。あ、ソイツがさっき言った里を見張ってるヤツね。」


 まぁ、今はいい。


 それにしても、例の見張っている人がシュウさんを送り迎えしていたのか。


 一人で里の警備が出来るような人なら、確かにシュウさんが安全に行き来できるのも頷ける。


 いや?ちょっと待て。里から街へ送るのは解るけれど、その例の人とやらはどうやってシュウさんの迎えが必要になる機会が解るのだろう?


 シュウさんが手紙を出しているのか?


 でも、里の特性上人の出入りが多いとも思えないので、正直手紙は有り得ない。


 それに、訪れる時期を合わせるにしても、毎回同じ日付ともいかない気もするのだが?


 まさか、マナがさっき言っていた事と関係が?


 ・・・いや、分からない事を考えても仕方ない。


 多分、マーサさんもこの疑問には気付いてるだろうけれど、さっき言っていたように把握していないだろうから、それよりも話の続きを聞くべきだ。


「それなら、その人に頼めばシュウさんでも持ち出せるのではないですか?」


 今は尋ねるべきではないと、湧いて出た疑問を振り払い続きを聞こうとマーサさんに視線を向けた時、サリーナも別の事が気になったようでマーサさんに問いかける。


 言われてみれば、そんな人が居るのならサリーナのように考えるのが普通だろう。


 だが、マーサさんはそんなサリーナの問いかけに首を横に振ってから答えた。


「資料を持ち出さないのは、多分そいつを巻き込みたく無いからだね。確か、イーオ達と同じぐらいの歳だから余計にかな?持ち出したらきっと、連中も犠牲とか構わずに襲って来るのは想像に難くないから、資料の事を知らない里の若者を巻き込めないんだよ、多分。」


 ・・・なるほど。


「シュウさんは優しい人ですからね・・・。」


 僕がそう呟くと、マーサさんは軽く頷いて同意する。


 言われてみれば、シュウさんは里の人達が魔人とやらに無理矢理されてしまった事に激しい怒りを覚えるような人だ。


 そして優しいが故に恐らく、資料を貴族に見られるという自分の失敗が引き金となって引き起こされた事態に、他人を巻き込みたくなかったのかもしれない。


 自分を慕ってくれている人物となれば、尚更だろう。


「それに、森を出てからもアイツに護衛させるのは無理なんだよ。ちょっと説明し難いんだけど、見た目のせいで騒ぎになっちゃうもん。」


「見た目のせいで・・・って、そんなに問題があるんですか?」


「うん。これについては、きっと里の人に会えば解るよ。ワタシの判る範囲でだと、ソイツの見た目の特徴としては、服の上からでも右腕が異様に太いんだけど、普通に考えたらそんな奴目立ちすぎるでしょ?」


 里の人に会えば、魔人がどういうモノかが解る?


 この口振りでは、魔人とやらになってしまうと普通の人とは姿が変わってしまうのだと捉える事も出来るが、今まで見た黒化した獣だとそんな事は無かった筈だ。


 まさか、人が黒化した場合は違うのか?


 ・・・今はよく分からないけれど、これはマーサさんの言う通り会って自分の目で確かめるしかないだろうな。


「よくわからないが、だから俺達が協力するって事なんだな・・・。今更かもしれないけど、そんなに大事な資料なのか?」


 どうやら、アルもマーサさんが言っている意味を測り兼ねたようで、それ以上深く聞く事はせずに最も根本的な質問をする事にしたようだ。


「らしいよ。あの籠手とかはその成果みたい。どうも、里にシュウの師匠がいたらしくて、その人が作った資料もあるようだから、シュウもその全てを把握してる訳じゃないって聞いてるよ。隠し場所も、元々はその人が使っていたモノらしいし。」


 なるほど。籠手や父さんの義足は研究や、彼の師匠の資料のおかげなのか。


 僕には武器や人の意思で動かせる義肢がどう魔人と結び付くのかまでは判らないけれど、どちらも鉱石を使用しているのだから何か関係があるのだろう。


 なら、やはり資料が渡ってしまうのは阻止しなくてはいけない。


 ・・・あれ?


「なら、資料を捨ててからシュウさんの師匠という人を連れ出せばいいだけなのでは?」


 それならばシュウさん同様に、その人も領地で保護をすれば話が早いのではないかと思い問うと、マーサさんは直ぐ様首を横に振る。


「それは無理なの。ワタシが里に初めて行った時よりも大分前に亡くなってるらしいから。」


「そうですか・・・。」


 だから、シュウさんの研究の為にも資料の持ち出しが必要という事か。


 シュウさんが把握しきれていないのなら、資料の価値はまだまだ未知数と言える訳だし。


「それに、エリアス様も言ってたよね?魔人を作っている連中以外にも他国からの干渉も増えているから、あんまり時間の猶予も無いと思う。シュウの資料はこの国の連中は勿論だけど、他国にも渡しちゃダメだよ。」


「だから、最悪資料の破棄をしなくてはならないと?」


 そう言えば忘れていたけれど、他国も里に興味を持ち始めたという話もあった。


 今は魔人達だけが資料を狙っているようだが、いずれは他国も資料の事に気付くかもしれないと考えれば、確かに余り時間の猶予が無いだろう。


 ・・・状況はかなり悪いな。


 シュウさんの資料に、里へ関与し始めた国が気付く前になんとかしなければ。


 勿論、魔人達にだって渡せない。


「うん。里の人達だけじゃなく皆にも危険が及ぶようなら、破棄して人命を最優先にするようにってエリアス様は言ってたよ。これは里に着いてからシュウにも伝えるつもり。・・・話せてなかった部分も含めて、詳しい状況はこんな所かな?」


 でも、だからと言って僕達だけで全てを解決出来るとは思えないし、資料について何をしたらいいのかもわからない。


 そんな思いからか、僕はついマーサさんに尋ねてしまう。


「それで、僕達はどうしたらいいんですか?」


 口走ってから自分がどう行動するかを委ねてしまうような発言だった気付くが、彼女はそんな僕を見て少し悩むような表情で言葉を返す。


「イーオのやりたいようにしたらいいと思うよ。どうしたい?」


 一見すると僕に判断を任せるようなその問い掛けで、最初に話を聞いた上でどうするのかは僕達次第だと言っていた事を思い出す。


 ・・・そうだった。


 マーサさんも一人でどうにかしようと思い悩んだ結果、どうしても僕達の協力が必要なのだという結論にしか辿り着かなかったのだ。


 なら、僕が今するべきは今の自分の素直な気持ちを話した上で、マーサさんの考えを聞く事だろう。


「わかりません。その資料がどういう物かも詳しく知りませんから・・・。でも、里へ行く事も彼らの説得もやめるつもりはありませんよ。」


「・・・なら、ワタシの考えを聞いてくれるかな?行くかどうかは、それを聞いてから判断したらいいよ。」


 真っ直ぐにマーサさんを見つめながら自らの決意を口にすると、彼女は僕が尋ねたい事を察したらしく、自らの案を聞いた上で改めてどうするかは僕達に任せると告げたので、僕は彼女を見据えながら頷く事で応えると、マーサさんも頷き返してから続ける。


「ワタシの考えだと、里でシュウと話すのが説得する為の近道になると思うんだ。」


「シュウさんと・・・?もう少し詳しく聞かせて貰えますか?」


 此処までの内容でシュウさんと話す必要性は感じているが、それが最善手になる?


 どういう事だろう?


「うん。これには里の皆を連れ出すって目的を隠す意味もあるんだけれど、外から来た人物が突然シュウと接触をすれば、ワタシ達の目的を資料の回収と誤認させられて、間者のあぶり出しが出来ると思う。里の皆の説得はそれからでも遅くは無いよ。」


 ・・・つまりは、敢えて火中の栗を拾うって事か。


 確かに、このままでは里の人達を連れ出す話をする訳にはいかないとはさっきも考えていたけれど、もし誤認させたとして相手が何もして来なければ、本当に資料の回収や破棄しか出来なくなる可能性もある。


 そうなってしまうと、僕達が本当に達成したい事が出来なくなってしまうだろう。


「そんなに上手く行くとは思えませんが・・・。」


 希望的観測だけで物事を進める訳にいかないと考え、僕がそのまま言葉にすると、マーサさんも僕の考えた事は理解しているようで軽く首を縦に振りつつ後に続ける。


「かなり難しいとは思うね。正直危険だとも思う。でも、どの道間者を捕まえてからでないと里の人達を連れ出す話は出来ないんだよ。間者を放置して情報が筒抜けになっちゃうと、ヤツらは実験する事をやめて犠牲を払ってでも証拠の隠滅を図る筈だから。」


 証拠の隠滅・・・。


 実験の場である里を、そこに住む人達毎抹殺するという事か?


 どうやら、昨日僕が危惧していた間者に情報が漏れると碌な事にはならないという事を、マーサさんも充分すぎる程に解っていた為の結論だったらしい。


「資料だけと思わせておけたなら、相手が里を潰しにかかる可能性が低いって事ですね。」


 だとすれば、今僕が考えるのは上手くいかなかったらでは無く、どう自分を美味しそうな釣り餌に見せるかを考えるべきだ。


「多分としか言えないけどね・・・。だけど、間者を捕らえてしまったら資料が回収されたと判断されて持ち出しの有無に関わらず、恐らく里からの帰りに必ず何処かで戦わなくちゃいけなくなるとは思うんだ。」


「それでも里が壊滅するよりかはマシって事か・・・。」


 そう呟いたアルに、マーサさんは真剣な表情で頷く。


「うん。これは賭けになると思う。でも、安心して?もしイーオ達の力ですら魔人に及ばないって判断したその時は・・・、ワタシが皆を命に代えても守るよ。それが、巻き込んだワタシの責任。」


「マーサさん・・・。」


 普段は笑顔を絶やさないマーサさんが、自らの結論を話し始めてから酷く真剣な表情だったのは、命を賭ける覚悟を既に決めていたからなのだと今になって漸く気付く。


 ・・・でも、そんなのダメだ!


 父さんが目覚めた時に、マーサさんには隣に居てあげて欲しいんだ!


 それに、僕だってマーサさんをお母さんだって思っているから。


 マホだってきっと・・・。


 だから、絶対にそんな事させはしない!


 これはやはり、マーサさんにも認証の話をするべきだ。


 まだアルにはそこまでは話していないからこの場では言えないが、後で必ず聞かなくちゃいけない。


 マーサさんが命を賭した決意を口にした為にまたしても誰も何も言えなくなると、彼女は少し気不味そうに頭を掻きながら言葉を続けた。


「・・・兎も角、見慣れない人物が里でシュウと接触をすれば、ほぼ確実に連中の方から何かしらの反応があると思う。だから、里でシュウと何かを話すなら、戦う覚悟をしなくちゃいけない。」


「戦う覚悟、か・・・。」


 僕だけじゃなく恐らくサリーナも今更引く気は無いだろうけれど、先程事情を知ったばかりのアルは予想もしていなかった展開に思わずといった様子で零す。


「エリアス様が言っていたように、先にイーオの素性だけを明かすのも手かもしれないね。それなら確実に目的を誤認させられるし、間者も行動しなくちゃならなくなるから。」


 アルの呟きはマーサさんに聴こえて居たかは判らないが、彼女から続けて告げられた言葉で僕がとるべき行動が少し見えた気がした。


 確かに、それならば相手を混乱させる事が出来るかもしれない。


 僕達がフランドル領に入った事が伝わっているかどうかまでは判らないけれど、突然現れた人物が貴族の子弟を名乗るのだから、間者の方から素性を探る為にも接触してくる事は充分に考えられる。


 まさか、これを見越して叔父上は素性を明かせと言ったのだろうか?


 ・・・あり得なくは、ないな。


「・・・なぁ、それならいっそ見つからないよう里に入って、資料だけ回収するとかはどうだ?それなら戦わなくて済むんじゃないか?」


 僕の隣に腰掛けていたアルも先程呟いてから何かを考えていたらしく、マーサさんの後に少し間を置いて再び問い掛けるのだが、僕は思わず口を挟んでしまう。


「アル、それは無理だよ。」


「どうしてだ?」


「監視がいるからだよ。里の中と外で連絡を取り合ってるなら、そこまで離れていない所で監視をしてる筈なんだ。だから、それはかなり難しい。回収するにはシュウさんと接触もしないといけないしね。それに、僕達の目的は里の人達をウィンザー領に移住させる為の説得であって、シュウさんの資料が最優先でもないよ。」


 出来る限り危険を避けようとするのは間違ってはいないけれど、僕達の目的はそちらでは無いのだからアルの案に乗る訳にもいかない。


 実際、これまでの話が正しいのなら気付かれないようにするのは不可能な様だし。


 それに、どうしても行かないといけない理由が僕やサリーナにはあるのだから、誰にも勘付かれずに里へ入る意味も無い。


「そうか・・・、確かにな。すまん、愚問だった。」


 僕の述べた説明を聞きアルは納得したらしく素直に謝罪を口にすると、マーサさんは漸く少しだけ笑みを浮かべた後、再び僕達全員に視線を向けつつ口を開く。


「イーオの言う通りだね。ワタシ達が里に行く目的はあくまで里の人達を安全に移住させる為だよ。資料は可能ならでいいと思う。人の命には変えられないからね。・・・だから、引き返すなら今が最後だよ。此処で引き返したとしても誰も文句は言えないし、言わせない。だから、良く考えて決めて欲しいんだ。」


 これ以上は後戻りは出来ないと、何度目かの確認を僕達にマーサさんはするのだが、色々な話を聞かされても僕の答えが揺らぐ事は無かった。


 此処に至るまでに、貴族としてどうあるべきかを示してくれたニールさん達や、協力をしてくれたフランドル伯の厚意を無碍にしない為にも、僕は前に進む。


 そう、決めたんだ。


「・・・さっきも言いましたが、僕は行きます。僕に貴族として生きる事を教えてくれた人達や、僕になら救えると信じてくれたマーサさんの為にも。それにきっと・・・、父さんだって僕にしか出来ない事をやれと、そう言ってくれると思います。」


 そして、今の僕にその記憶は無いけれど昔の僕の大事な人の一人だったマホを救う為にも、行かなければならない。


 何故かはわからないけれど、心の奥底からそう強く感じるんだ。


 ・・・いや、どうしてこう感じるのかはわかってる。


 僕の中にある昔の僕の想いが、行かなくちゃいけないって言ってるんだ。


 サリーナを連れて行くと決めた時と、同じ様に。


 そんな様々な思いを何とか言葉にしながらサリーナへと視線を向けると、彼女も僕の方へ目線を寄越しつつ、軽く頷き応えてから口を開く。


「あたしも、行かなくちゃいけない理由があるんです。だから・・・、行きます。」


 だから、マホ・・・。


 サリーナと一緒にもうすぐ迎えに行くから、待っていてね。


「・・・友達が覚悟決めてるんだ。今更自分の言葉を曲げられないよ。」


 僕とサリーナの言葉を聞いたアルも、仕方ないなと言わんばかりに苦笑しながらそう告げると、続けて何かを考えている様子だったマナも口を開く。


「わたしは、旦那様と共にある為に此処に来たのですから、旦那様が参られるのでしたら何処へでも付いていきますよ。」


 どうやら、マナは考えながらも話をきっちりと聞いていたらしい。


 マナならそう言うだろうと思っては居たけれど、彼女の言葉は今の状況だと頼もしくすら感じる。


 だが、マナやアルの言葉を当たり前だと考えてはいけない。


 マナの想いに報いるのは正直今の僕には出来そうにもないけれど、それに甘えてしまうのは人として間違っている。


 だから、せめて向き合う事だけは忘れないようにしないと。


 アルに対してもそうだ。


「ありがとう・・・。」


 こんな僕の隣に居てくれる人達を大事にしなくてはいけないと強く感じ、僕の心の中で里の件が片付いたら皆に何か恩返しをしようと思い浮かんだ直後、酷くか細い声でマーサさんが俯きそう呟いたのが聞こえた。


 考え事をしていたので気のせいかとも思いチラリとサリーナやアルを見ると、二人も少し照れたような表情を浮かべていたので、恐らく聴こえていたのだと思う。




「・・・これまでで幾つか気になったんですけど、いいですか?」


 それから少しの沈黙が流れ、話がひと段落したのでそろそろ具体的にどう行動するかをマーサさんと相談しようかと考え始めた頃、徐にサリーナがそんな事を言い始める。


 何が気になるのだろうか?


「どうしたのサリーナ?」


 余りにも突然で思わず問い掛けてしまうと、サリーナはマーサさんや僕に視線を向けてから続きを話し始めた。


「シュウさんは普段里に居ませんよね?それなのに、どうして相手は資料を見つけられないんでしょうか?あたしでも思い付くような場所なら、探されていないとはとても思えないんですよ。・・・それと、言い方は悪いですが何故暗殺や誘拐をされなかったのかも分りません。」


 ・・・あっ!


 この話を初めてからずっと引っかかっていた事はこれだ!


 どうしてシュウさん自身が今まで無事で、且つ資料も隠し通せているのか?


 さっきアルが質問した時に、やけに引っかかるモノを感じたのはこれだったんだ。


 素直に考えれば、魔人の情報や研究資料の件が他の貴族や国に流出しないよう暗殺を計るのは不思議な話ではないし、誘拐については叔父上が逃亡に手を貸していた節があるので何とも言えないが、既に家探しはされているのに資料が奪われてもいない。


 これらは何故か?


 相手も資料回収に本腰を入れ始めたのが最近だから?


 いや、多分そんなに簡単な話じゃないな。


 里に資料の隠し場所があると突き止めるまである程度シュウさんを自由にさせていたにしろ、隠し場所自体は既に判明しているけれど彼以外に開けられない等の理由でなければ、今まで無事でいる筈は無いと思う。


 もしカギが必要な程度だとしたら、物騒な話だがシュウさんを殺してから奪えばいいのだから。


「それは、ワタシもほんっっとにわかんないんだよね。実際シュウは無事なワケでしょ?」


「そうですね。」


 どうやらマーサさんもサリーナと同様に疑問には思っていたらしい。


 資料をしまっているのが物語に出てくるような隠し扉だとしても、そんな物は家の構造を調べればすぐにバレると父さんから聞いた事もある。


 なら、どうやって隠しているのだろう?


「うん。サリーナの言う通りワタシも地下室作ってたぐらいじゃ、不在の間に家探しされてるとは思うんだよ。でも、エリアス様は資料が無事みたいな話し方だった・・・。どうなってるんだろうね?」


「そうなると、本人に会って確かめる以外に無いですね・・・。」


 多分この謎が、シュウさんを暗殺から守っていたのだ。


 シュウさんの話や叔父上が関わっている事から考えても、里に資料を隠していないなんて事は無いと思う。


 こればかりは、本人に確認する以外にはない。


「うん。・・・ねぇ、皆。大事な事を色々話さないまま連れて来てしまってごめんね。でも、キースの家で話した時、イーオなら里を救えるかもしれないって感じたのは、本当なんだ。だから・・・」


 マーサさんも同様に考えていたらしく僕の言葉に同意をしてから、また僕達全員を見回してから少し間を置き謝罪をし、以前にも言っていた言葉を告げると、徐に僕達に向けて頭を下げる。


「手を貸してくれるって言ってくれて、本当にありがとう。」


「そんな!顔を上げてください!それに、まだ何も成し遂げてはいないんですよ?」


 最初はマーサさんから頼まれた事だったけれど、今は僕自身がそうしたいと望んでいる事なのだからそこまで畏まられる必要は無いと感じたので、慌ててマーサさんに頭を上げるように告げた時、サリーナも僕に同調してくれる。


「イーオさんの言う通りです。大変なのは、寧ろこれからですよ。それよりも、そろそろお昼を食べませんか?沢山お話をしましたから、あたしお腹空いちゃいました。腹が減っては何とやらとも言いますしね。」


「・・・うん。そうだね。ワタシもお腹空いちゃった。」


 サリーナの言葉にマーサさんは少し笑みを浮かべながら同意すると、漸く場の空気が少しだけ和んだ。


 こういう時、サリーナが居てくれて本当に良かったと思う。


 多分、僕だけではこんな風に気を紛らわす事も、色々な疑問も湧いては来なかっただろうから。


 だからきっと、この先にある困難も僕達ならば解決出来るのではないかと、雰囲気が良くなったおかげで少しずつだけど思えるようにもなった。


 勿論根拠は無いが、余り深刻に考えすぎるのも良くない。


 今はまだ、推論や想像ばかりなのだから。


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