表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつか、どこかで  作者: 眠る人
69/86

67 イーオ 2

切る所を間違えてしまいましたm(_ _)m

「本当に、よろしいのですか?」


 一通りの話を終えた後、僕は本当にこれでよかったのかと伯爵に確認をする。今更ではあるが、火中の栗を拾うようなモノだから、どうしても不安になってしまった為だ。


「構わないさ。」


「しかし、この伯爵家に不利益をもたらすのでは・・・?」


 直接懸念をぶつけなくても、伯爵なら僕の言いたい事はこれで伝わるだろう。勿論そこには、伯爵やリズ達の身の危険も含まれている。


 伯爵を信用していないのとは、まるで違う。この人に任せておけば、その辺りもきっと大丈夫だとは思うけれど、皆大事な人達だからやはり心配ではあるんだ。


「領民や、私達自身を心配してくれているのかい?」


「はい・・・。」


「問題はないよ。寧ろ、不利益どころか利益の方が大きいとすら私は考えている。襲撃者を差し向けた連中の目星はついているし、既に証拠集めの指示は出している。それらが集まれば〝色々な〟交渉の際有利に働くのだよ。なんせ、ソイツらとは、そう遠くない内に顔を合わせるのだからね。」


 そう笑いながら伯爵は言ったのだが、やはり不利益自体は承知の上だったらしい。


 それでもこんな風に言うという事は、対策についても既に決めているのだろう。

 だとすると、これ以上僕が心配をするのは失礼にあたるよね。

 それなら、僕は伯爵を信じて精一杯自分の出来る事をしなくては。


 ・・・それはそれとして、今の発言の最後が少し物騒に感じるのは、きっと気のせいじゃないのだろうな。



「それにね・・・何よりも、一番嬉しかったのは・・・イーオ、キミが私を頼ってくれた事だ。」


 先程は不穏な笑みを浮かべていた伯爵が、少し間を取った後、今度は嬉しそうに呟く。


 伯爵を頼った事が・・・、嬉しい?

 僕自身は、今までもこれ以上無い程に甘えていたと思うのだけれど・・・。


「僕が、ですか?」


「あぁ。それに私が考えていたより、随分と成長しているのだと知る事が出来た。その一点が私にとって、最も大きな利益なんだ。だから、安心しなさい。」


 僕の成長が一番の利益って、どういう意味なのだろう?よく分からないな・・・。


 発言の意図が掴めずにいる僕の様子が余程可笑しかったのか、伯爵はクスクスと控えめに笑うと、再び真剣な表情になりながら話を続けた。


「さて・・・、余談もこれくらいにしておこうか。今回イーオは、私の名代として討伐に助力してもらったニール達の領主へ書簡を届けつつ謝辞を伝える、というのが表向きの理由になる。」


「はい。」


「本当の目的は言うまでもないが、里の状況確認と、彼らの説得となる。まぁ、説得はマーサやシュウがもいるので大丈夫だろう。シュウが移住の提案をしていたという事は、少なからず彼らにもその意思があるのだろうからね。ただ、余り日程に猶予はないから、出立は数日以内にしなければならない。」


 学院に行く為の用意もあるから、確かに時間はギリギリかな。

 移住に関しても、いきなり全員を連れて来るというのは物理的にも難しいし、受け入れる側の用意も整える必要がある。それに何よりも、まずは前段階としての説得は確かに必要だ。


「皆は、ただ平穏に暮らしたいだけたがら、誰かに保護される事自体は、反対しないと思うよ。ただ相手が貴族だと、伯爵が里の皆を利用したりしないって、理解して貰う必要はあると思うけど・・・。」


 うん。マーサさんの言う通りだ。

 僕だって、突然こっちに移住しろ、だなんて話をされれば、まず疑ってかかるだろう。

 彼らが、どんな状況なのかを考えれば、特に。


 伯爵もそれは解っているようで、特に表情を変える事なくマーサさんの後に続ける。


「そうだろうね。私が彼らの立場でも、いきなり現れた人間をおいそれと信用は出来ない。無論、私に彼らを利用しようなとという考えはないがね。そこでだ・・・、イーオはイヤかもしれないが、彼らを説得する際はきちんと身分を明かした上で、事に当たって欲しい。」


「叔父上の名代、という事ですか?」


 身分?今の僕にそんなもの無いと思うけれど・・・。

 強いて言えば、今回なら伯爵の代理、だろうか?


「いや、そちらではないね。自分が伯爵家の後継だと伝えるんだ。それを証明するための書状もキミに持たせるつもりだよ。」


「え?ちょっと待ってください!・・・僕は、後継者では無い・・・のでは?」


 伯爵の口から、初めて直接後継者だと言われた為、僕は思わず狼狽えてしまう。


 何故なら、僕はディランが後継者だと思っていたというのもあるが、今までは可能性を匂わす程度だった伯爵が、ニールさん達もいるこの場でハッキリと言葉にした事に、酷く驚いてしまったからだ。


 身内以外の貴族が居る場で、後継者と明言する行為がどのような意味を持つかは、言うまでもない。


「養子といえど、伯爵家の長子はキミなのだよ?それに、ゆくゆくはうちの娘達の内の誰か、もしくは全員を娶る事にもなる。・・・まぁ、その話は今はやめておこう。兎に角、現状はイーオが後継者筆頭なのだから、嘘ではないさ。」


「は、はぁ・・・。」


 リズかフィー、若しくは両方を・・・って、それについては以前にも言われたけれど、伯爵はこの様子だと本気でそう考えていたんだ・・・。

 いや、今その事について考えるのはよそう。明らかに思考がズレている。

 きっと、まだ動揺しているんだ。落ち着かなきゃ。


「大丈夫!イーオが伯爵家を継いでも、ワタシとキースの子供には変わりないから!」


 いえ、マーサさん・・・そんな話では無いんですよ。

 僕は、伯爵家の長子として扱われる事にまだ違和感を感じているんです。


「不満かい?でも、貴族から酷い仕打ちを受けてきた彼らを説得するには、最初に自分がどういう地位に居る人間なのかをハッキリさせた上で、キミ自身の気持ちを伝える事が、私は一番確実で誠意ある対応だと思うのだよ。」


 僕が落ち着く前に話が進み、表情に出ていた事が違う風に受け取られてしまうが、僕はなんとか頭を切り変えながら肯定の言葉を吐き出した。


「それは、そう・・・ですね・・・。」


 確かに落ちついて少し考えれば解る事だけど、貴族に虐げられてきた人達なのだから、当然貴族の事なんて信じてはいないだろう。だから、伯爵は敢えて身分を明かせと言ったんだ。


 この地で保護をする大前提として、まずこちらを信じて貰わなければならない。だから、僕自身の立場を明確にして真っ直ぐに向き合う必要がある。


「正直危険は考えられるし、恐らくだが彼らから心無い事も言われるだろう。その覚悟はあるかい?」


「・・・はい!」


 今更そんな事で、僕は自分の思いを曲げたりなんてしない。これがただの自己満足だったとしても、知ってしまったからには、他の誰かが父さんのようになってしまうのを、ただ黙って見ているなんて・・・イヤなんだ。


「勿論、ワタシも協力するよ。シュウもイーオの事気に入ってるみたいだから、きっと協力してくれる!だから、きっと上手くいくと思うよ!」


「はい!ありがとうございます!」


 マーサさんの元気の良さは、本当に心強い。

 彼女がいなかったら、僕はまだ父さんの事で塞ぎ込んでいただろうから。そこについては、サリーナさんの存在も大きいのだけれども。




「さて、イーオ・・・。まだ話があるのだが・・・。」


「はい。なんでしょうか?」


 方針も纏まりこれで漸くひと段落かと思いきや、突然伯爵が口にした言葉に怒気が含まれているように感じた僕は、居住まいを正しながら返事を返す。


 伯爵がこういう態度をとる心当たりは、ある。


「その子も・・・サリーナも連れていくと、マーサが言っていたのだが、本当かな?」


 やはり、その事か・・・。


 昨日の報告の場では、マナの事があったからサリーナさんも同席するのは不思議ではなかった。彼女も一緒にマナから話を聞いていたのは、マーサさんを通じて伯爵にも伝わっていたと思われるので、当然だろう。


 だけど今日、マナに関しては勝手について来ただけなのだが、サリーナさんが僕やマーサさんと同じ様に伯爵から呼び出されていたのは、通常あり得ない。


 これまでのような話をするのなら、彼女がこの場に居る必要が無く、普段であれば使用人としての仕事をこなしているか、僕の部屋や廊下で待機している筈だ。


 それなのに、今彼女がこの場にいるという事は、僕達が伯爵との約束を破ろうとしたから、次は無いと警告されたにも関わらず、同じ過ちを繰り返そうとしたからだとしか思えなかった。


 だから、こうなる事自体予想はしていたのだけれど、いざその時が来てしまうと、すぐには言葉が出なくなる。


「伯爵様、ご無礼かと存じますが・・・」


「サリーナ、キミは黙って居なさい。私は今イーオに聞いているのだよ。」


「申し訳・・・、御座いません・・・。」


 何も言えなくなっている僕の様子を見兼ねて、後ろに控えていたサリーナさんが助け船を出そうとするのだが、発言を遮られた上に伯爵の剣幕に圧された為か、彼女は押し黙るしか無かった。


 そんな彼女の悲しそうな表情が目に入り、チクリと自分の胸が痛むのを感じる。


「討伐に赴く前に、言っただろう?彼女は、あくまで侍従だ。彼女の身を預かる者として、戦地になる可能性のある場所に、むざむざと行かせる訳にはいかない。前回は、給仕係として前線に立たない事を条件に、特例で認めたに過ぎないよ。」


「伯爵様!サリーナもワタシの弟子だよ!キースから、剣も教わったよ!それでも、ダメなの!?」


 続く伯爵の言葉に、今度はマーサさんがサリーナさんを見兼ねて会話に割り込むのだが、伯爵は表情すら変えずに答えた。


「ダメだ。侍従としての領分を逸脱しすぎている。それに、以前した約束を反故にしようとしたのは、キミ達だ。それを押し通そうとするならば、その結果も甘んじて受け入れるべきだろう。」


 確かに。余りにも正論すぎて、言葉も出ない。


 このままだと伯爵は、本気で僕とサリーナさんを二度と会わせないようにするつもりらしい。確かに、伯爵とそういう約束をしていた。だから、それを破ろうとすればこうなる事ぐらい、解っていたじゃないか。


 それに、彼女の身の安全を考えれば、此処に居るのが一番なのは僕にだって、解っていた筈なのに・・・。


 そう考えた瞬間、胸の奥底が疼く。

 ―――いやだ!はなれたくない!


「そんな・・・!それじゃ、サリーナやイーオの気持ちは・・・!?」


「マーサも少し黙っていてくれないかな?それに、感情の問題ではないよ。・・・イーオ、次こういうような事があれば、彼女を側に置いておく訳にいかなくなると、キミ達の為にならないと、私はそう言った筈だよ?」


「・・・はい。覚えています。」


 僕達は、間違えてしまったんだ。

 伯爵は、僕達を尊重してくれていたからこそ、お互いの領分を超えず、無駄に周りを心配させるべきではないと、そう僕達を諭すつもりで約束したのだろう。


 なのに・・・、それなのに、僕達はそれを無視して突き進もうとした。

 だから、この状況は・・・自業自得、かもしれない。

 ―――かのじょとあえなくなるなんて、いやだ!


「あれは、身分を弁えろだとか、貴族の嫡男だからだとか、そんなくだらない理由で君達に言ったのではない。分別をつけろと言ったのだ。それぐらいは、解るね?」


「・・・はい。」


 短く答えながら、僕はサリーナさんに視線だけを向けると、彼女は酷く悔しそうで、悲しそうな顔で俯き、今にも涙を流しそうになっている。彼女自身も、伯爵が正しいと理解してしまったのだろう。


 ・・・何時だっただろうか?彼女のこれと似た悲痛な表情を、ずっとずっと昔に僕は見た事がある気がする。


 そう感じた刹那、僕の中に強い後悔の念が湧き、更に胸が締め付けられた。

 ―――かのじょにこんなかおをさせるのは、いやなんだ!


「ならば、何故だね?彼女は、キミの想い人なのだろう?」


「それは・・・。」


「違うのかな?」


「違いません。」


「・・・私はね、イーオが成長していると感じたからこそ、判って欲しいんだよ。」


「・・・理解は、しています。」


「では、何故彼女を危険に晒そうとする?安全な場所で待っていて貰う方が、キミ達にとってもいいと私は考えるよ?」


「・・・僕は・・・」




 伯爵の言う通り危険な場所へ連れて行く事で、サリーナさんを永遠に失ってしまう可能性。

 正直それが、一番怖い。


 でも今、それと同じくらい辛い事がある。

 彼女が、側に居ない事。

 少しの間でも、離れてしまう事だ。


 正直、ただの我儘だとは思う。


 でも、そんな相反する思いが、混ざり合い溶け合ってぐちゃぐちゃになりながらも、僕の中に存在している。


 一度は、伯爵との約束もあり連れて行く事を躊躇った。少しでも彼女が傷付く事が怖かったんだ。それは、決して嘘じゃない。


 それなのに、今の僕は彼女と離れ離れになってしまう事を少し考えるだけで、心臓を鷲掴みされたような耐え難い程の苦痛を感じる。


 それが、なんなのかは考えるまでもない。


 あの夢を、見たから・・・。

 今の彼女の辛そうな表情を、見てしまったから・・・。


 夢を見た時に今の僕へと流れ込んできた、昔の僕とサオリの記憶の欠片達が、今の彼女の表情を見て呼び起こされたから・・・。


 二人の思い出の残滓達が、彼女をどんな事があっても離すなと、僕になる前の僕が彼女と片時も離れたくないと、強く強く訴えているからなんだ!



 だからこれは、誓い。

 ―――覚悟を、決めろ!



 何がなんでも、僕はサリーナを傷付けさせない!

 そして、二度と離れもしない!


 その二つを、必ず成し遂げる。


 いや・・・、それだけじゃ足りない。

 守るのは、彼女だけでは足りないんだ!


 物語の英雄が、最後に自分の命をかけて巨悪を倒す事がある。そして、人々の中で永遠に語り継がれるという、三文小説によくある終わり方だ。


 でも、それは物語の中だけ。

 現実にそんな事が有れば、残された人はどうなる?


 そんなの、残された人にとっては、悲劇でしかないじゃないか!

 だから!サリーナにそんな思いをさせない為に、僕自身も無事でいなくちゃいけない!


 だから、僕は誓う!

 頼りない僕だけれど、もう彼女を泣かせない!


 二度と悲しい思いはさせない!



 そう、誓うんだ!自分自身に!サリーナに!

 ―――今度こそ、必ず!



 自分が間違っているのは、解ってる。


 だから、ごめんなさい。


 此処から先は・・・僕達の、我儘です。





「誰が何と言おうと、彼女を連れて行きます。例えそれが、叔父上であっても、です。」


「イ、イーオ・・・さん。」


 僕の言葉に、サリーナの諦めの籠った声が聞こえたので、少しだけ彼女へ顔を向けてから、小さく声に出して伝える。


 ―――そんなに怯えなくて、大丈夫だよ。

 ―――僕に任せて。


 伯爵が嫌がらせでこんな風に言っているのでは無い事ぐらい、とっくに理解している。伯爵が正しいんだ。


 だけど、僕はもう迷わない!彼女が諦めたように、寂しそうにしている姿なんて、二度と見たく無い!


「だから、それはキミ達の我儘だと、そう言っているのだよ。」


「はい。ワガママです。」


 どう言われようが、これは僕とサリーナが望んでいる事だ。

 だから、僕はこれから・・・この状況を覆す為の、唯一とも言える切り札を切る。


「・・・認めるのは潔いが、それを通す訳にはいかないな。」


 僕がハッキリと言い切った事で、伯爵は苛立ちを隠せなくなってきたようだ。

 これでいい。


「ワガママを通すのではありません。必要だから、連れて行くんです。・・・彼女は・・・サリーナは、鉱石が扱えますから。」


 サリーナが、鉱石を扱えるようにする。

 これが、僕にだけ可能な・・・切り札。


 マナにその事を教えられてから、まだ試してはいなかったけれど、父さんやアルが初めて鉱石を扱った際、僕はその場にいた。そして、確かに願ったんだ。


 それならば、彼女にも同じ事をすればいい。

 今の今まで、正直乗り気ではなかったけれど伯爵に連れて行く事を認めさせるには、コレしかない。


 だから、本当に出来るのか?なんて、考えない。

 寧ろ、出来ると確信しているからこそ、やるんだ。


「何っ?そんなバカなっ!?扱えない筈だろう!?サリーナが騎士団に入る為の条件として、彼女は鉱石を扱う試験を受け、そして落ちた筈だ!だから、私は入団を認めなかったのだ!すぐバレる嘘を言った所で、試せばわかる事だぞ!?」


 想定外の言葉に、伯爵は執務で使っている机を両手でパンっと音を立てて叩きながら、立ち上がる。


 なるほど・・・。

 あんなに強いのに、サリーナが騎士団に入れなかったのは、その所為だったのか。

 恐らく、伯爵がトレントンさんやアーネストさんを気遣ったか、あるいはどちらかに頼まれでもしたのだろう。


 その二人は、どちらとも伯爵と親交があったのだから、充分にありえる話だ。


 初めて会った時点で訓練所で見かけた人達よりも、彼女の腕は確かだったから、不思議だったのだけれどこれで納得がいった。

 なら尚更、こうする以外に今となっては道がないだろう。


 ・・・でも、トレントンさんとアーネストさんには、僕から直接話をしに行かなければならない。

 ケジメはつけないと。


 それは、ワガママを貫こうとする僕達が負わなければならない、義務だと思う。


「なら!これから試して頂ければ、本当だってわかります!」


 だから、今はわざと伯爵を煽る。

 これしかない。もっと冷静さを失わせないと。


「そんなあり得ない話、信じる訳がないだろう!時間の無駄だ!」


 僕やアル、父さんが一人だけで適正試験を行った事例を鑑みて、騎士団の入団の際にしか鉱石の適正試験は行われないのだろう。


 実際、それ以外に訓練所で試験が行われている所を、僕は見た事がない。何ヶ月も通っていたのだから、偶々というのも考えにくい。


 最初の段階で訓練の編成を決めた後は、多分鉱石を扱える人達に関しては変える事が無いのだと思われる。事実、アルに何かを教えていた人達はいつも同じだった事からも、それは間違いない。


 とすると、伯爵の今の言動から推測するに後々使えるようになった事例が、今の所無いのだという事は察しがつく。


 なら、褒められた方法では無いけれど、再試験をやる方向に話を持っていけさえすれば・・。。


「何故、無駄だと決めつけるのですか!?叔父上が直接見た訳では無いのでしょう!?なら、せめてご自身の目で確かめてみては如何ですか!?」


 伯爵が声を荒げはじめたので、僕も同様に大きな声で食いかかる演技をする。

 そう、もっとだ!


「よかろう!そこまで言うならば、用意させようではないか!だが、もしデマカセだった場合、わかっているな!?」


「はい。勿論です。どんな罰でも、甘んじて受け入れます。ですが、もしサリーナが鉱石を扱えたなら、連れて行く事をお認めいただけますか!?」


 これは賭けだ。

 伯爵が冷静でない今なら、売り言葉に買い言葉で乗ってくるかもしれないという、賭けなんだ。


 冷静な状態なら多分、扱えたとしても他の人でいいという結論になる。


 だから、ワザと伯爵を怒らせ、煽り、今一度の試験を行わせる事に賭けた。

 頼む・・・、上手くいってくれっ!


「まだ言うかっ!?あり得ない話だが、その時は好きにするがいい!」


 ・・・よしっ!言質を取ったぞ!


 伯爵の性格を考えれば、発言の撤回はしない筈。

 ニールさん達もこの場にいるのだから、証人になって貰う事だって出来る。


 これなら・・・!


「ありがとうございます!」


 僕の・・・。いや、僕達の・・・勝ちだ!





 その後の伯爵の行動は早かった。

 頭に血が昇っていた所為もあるのだろうけれど、元々物事に余り時間をかけないという性分もあるのだろう。


 会話の後、部屋の外に待機させていた自身の従者をすぐさま呼びだし、怒鳴り声で訓練所の用意を整えるよう指示を出す。


 これは・・・やりすぎたかも。

 従者の人、ごめんなさい。

 完全に、とばっちりです・・・。


 伯爵の指示を受けた従者は、慌てた様子で執務室を後にした。それでも、彼が礼節を保っていたのは流石としか言いようがない。

 その後、時間にすると10分にも満たなかったが、その彼が戻ってくるまで執務室は息苦しいまでの沈黙に支配される。


 オロオロしながら僕と伯爵を交互に見るマーサさんと、苦い表情でこちらを見るニールさん達には申し訳なかったけれど、僕も引く訳にはいかない。


 サリーナは、何かを決意したような表情で、ただ黙っていた。多分、僕と同じ様にもう後には引けないと、覚悟したのだと思う。

 マナに関しては、何を考えているのかわからなかった。


 それから、用意が出来た事を伝える為に伯爵の従者が戻ってくると、執務室にいた全員で兵舎へと移動する。

 ニールさん達は何も言わずに立ち上がっていたから、多分結果がどうあれ、どちらの証人にもなるつもりなのだろう。巻き込んでしまって、ごめんなさい。





「ねぇ、イーオ・・・。本当に、大丈夫なの?」


 前を歩く伯爵のすぐ後ろにニールさん達が続き、さらに少し離れてマーサさんとマナが、そしてそのすぐ後を追う形で僕とサリーナが並びながら、訓練所へと向かっている最中、マーサさんがこちらに顔だけを向けつつ小声で話しかけてきた。


「わかりません。」


 僕も、前を行く伯爵達に聞こえないぐらいの声量で、彼女に短く返す。

 実際のところ、本当にどうしたらいいのかがわからない。


 此処まで人を怒らせるような真似をわざとした事がないので、終わった後はどう行動するのが正解なのだろうか?と、悩んでいたからだ。


「わからないって・・・、そんな無責任な・・・!サリーナと、一緒に居られなくなっちゃうかもなんだよ!?」


「マーサさん、あたしはイーオさんを信じていますから、大丈夫です。」


 マーサさんが聞いていたのは、どうやらサリーナと僕の事だったらしく、非難の籠った口調で問い詰められる。


 隣を歩くサリーナが、それを見て慌てた様子で割って入るのだが、正直な話そちらの心配はしていないというよりかは、出来ると確信しているから不安はない。


 ただ、成功しても伯爵との関係が拗れてしまった場合、大問題になるだろうけれど・・・。


 その為にも、何とかして伯爵と仲直りしなくちゃならない。さっきは、明らかに僕自身も冷静さを欠いていたから、その事は本当に申し訳ないとは思っている。


 それに、伯爵に嫌われたくないという気持ちだってある。こんな僕を家族だって言ってくれた人だし、僕自身も伯爵を父さんと同じぐらい、信用だってしているから。


 だから、なんとかしなければと考えてはいるのだけれど、何も思い浮かばないんだ。


「ごめんね、サリーナ。相談も無しに勝手な事をしてししまって・・・。それと、すみませんマーサさん。その心配は余りしていませんでした。どちらかというと・・・」


 僕は、続く言葉を口にする事が出来なかった。


 そんな僕の発言にサリーナは、一瞬少し驚いた表情をした後、何故か頬を染めながら控えめに僕の手を握る。

 やはり、彼女も不安なのだろうか?


 でも、大丈夫。必ず上手く行くから。


 そう敢えて言葉には出さず、大丈夫だと伝わるように彼女の手を少し強めに握ると、サリーナはそれに応えるよう握り返してきた。


 そんな僕達の様子を、マーサさんは少し寂しそうな表情で見つめつつ、短く息を吐き出してから僕の言いかけた言葉の続きを促す。


「・・・どちらかというと?」


「・・・伯爵に、どう謝ったらたいいのか、わからないんです・・・。」


 僕がそう告げると、マーサさんは少し考える素振りをした後、穏やかな笑みを浮かべながら返した。


「それこそ、大丈夫だと思うよ。イーオが素直にごめんなさいってすれば、伯爵様は許してくれるよ。」


「本当に、そうなんでしょうか・・・。」


「自信、ない?」


「はい・・・。」


「伯爵様が、何であそこまで怒ったか、わかる?」


「いえ・・・。」


 多分、僕が煽るような言い方をしたからだと思うのだけれども、マーサさんのこの言い方だと、違うのかな・・・?


「そっか・・・。なら、ワタシからは教えない。それは、イーオ自身が身をもって知らなきゃいけない事だからね。だから、ちゃんと全部終わったら、すぐに謝るんだよ?」


「は、はい・・・。」


 怖い・・・。

 伯爵に、ちゃんと謝らないといけないのは僕も解っている。

 でも、怖いんだ。大事な人達だから、失くしてしまうかもしれないって・・・、そう考えただけで、どうしようもない程に、怖い。


 なんて馬鹿な事をしたのだろう。

 確かに、サリーナの事については僕にだって譲れないモノがある。それ自体を後悔はしていない。


 でも、だからといって、伯爵との約束を軽視していい筈がないんだ。どうしたらよかったのかな・・・。


 ・・・いや、迷うな。

 もう、迷わないって決めたんだろう?なら、こうなってしまった事を悔やむより、これからの事を考えろ。


 まずは、必ず成功させる。これは、何をするにしても絶対条件なんだから。





「準備はいいかね?」


「はい。」


 眉を潜めながら問いかける伯爵に、僕と手を繋いだままのサリーナは短く答えた。


 訓練所までは数分の距離なので、到着までに手を離そうとしたのだが、彼女はそれを拒む。

 その時僕は、思わずサリーナの顔に視線を向けたのだが、ふと微かに彼女の指先が震えているのを感じたので、僕は安心をさせる為にも寧ろ、彼女の手を握り続ける事を選ぶべきだと感じた。


 ・・・そうだ。

 これは、サリーナだけの話じゃない。

 僕達の、問題なんだ。


 だから、二人で乗り越えるべきなんだ。


 そして、そのままの状態で訓練所に到着をした時、それを見た伯爵は何も言わず溜息だけをつく。

 流石に、呆れられてしまったのだろう。


 尤も、これ以上伯爵の不況を買った所で、既に怒らせてしまっているのだから、今更なのかもしれない。


 そうしてサリーナと僕、二人での試験が開始された。


 ちなみにそれが許されたのは、例え片方が鉱石を扱えたとしても、実際に発動させる側に適正が無ければ発現しないという、ニールさんの助言があったからではある。

 僕自身も、訓練では遠隔で発動させられた事がないし。


「では、始めたまえ!」


 僕達から少し離れた場所に移動した伯爵の声が、訓練所に響く。


 槍の訓練等にも使われる木と藁で作られた人を模した人形から、僕とサリーナは少し距離を取った位置で立ち、僕は空いた右手で胸にあるお守りを服の上から握り、サリーナは空いた左手を中空に突きだす。


 そのまま視線だけを彼女に向けると、緊張の為かやや強張った表情で、同じく僕へと目線を向けたサリーナと目が合った。


 ――やっぱり、キミは綺麗だ。


 その瞬間、そんな風に感じてしまう。

 我ながら、少し不謹慎すぎやしないか?


 でも、意思の強そうなその目も、綺麗に首筋辺りで切り揃えられたその翠玉色の髪も、そしてやや色素の薄い肌も・・・。

 何もかも昔のままの彼女が、とても愛おしくて。


 だから、側にいて欲しい。もう、僕から離れないで欲しい。


 そんな想いを込めながら僕は、ひたすらに願った。


 ――ずっと彼女と、一緒にいさせて欲しい!

 ――僕には、彼女が必要なんだ!


 ――本当に僕達を見守ってくれているなら、どうか彼女の願いを、叶えてあげて欲しいんだ!


 ――サリーナも、キミに会いたがっているんだよ!だから、お願いだ!彼女が望む、力を!


 強く、強く、願いを込めつつ首から下げているお守りをぎゅっと握りしめる。


 それに呼応するかのように、痛みを感じる程サリーナも僕の手を握りしめた。


 すると、耳鳴りにも似たキーンという音と共に、お守りが熱を発し始める。

 これは、もしかして・・・。


 その音はサリーナにも聴こえていたらしく、僕が軽く頷くと彼女は小さく頷き返し、サリーナは瞳を閉じてから大きく息を吐き出す。


 直後、突き出した彼女の左手の指の隙間から光が漏れ出し、やがて溢れ出した薄緑色の光は刃渡り80センチ程の大きさの剣へと形を変えた。

 いつも訓練で使っていた、短剣を模した木剣程の長さだから、サリーナにとっても扱いやすく、想像もし易かったのかもしれない。


 ただ一つ気になるのが、さっきのキーンという音とは別の高い音が聞こえる事だ。これは何の音なのだろうか?


 最初のは、恐らくだけどお守りからなのだろうが、今聞こえている音の発生源は、サリーナの手にある剣・・・から?


 アルや父さんの時に、こんな音はしていただろうか?


 まぁ、何はともあれ、成功はしたんだ!


 伯爵に啖呵を切った手前、はしゃぐ訳にもいかずに内心一人で喜んでいると、周囲からどよめきがおきはじめた。

 恐らく、彼女が鉱石を扱えない事を知っている人物が何人か居るからだろう。前例がないのだから、無理もない。


 後ろを振り返ると、伯爵だけではなくニールさん達も驚きを隠せないようだ。

 そちらを見ながら、謝る事も含めてどう伯爵に声をかけようかを僕が悩んでいると、隣にいるサリーナが小声で話しかけてくる。


「イーオさん・・・。こ、これ、どうしたらいいんですか?」


「投げる・・・と、アルみたいに建物まで壊してしまう・・・かも?」


「では、どうしましょう?」


「と、とりあえず・・・、アレを切ってみたら?」


「わかりました。」


 彼女は僕の言葉に軽く頷き、繋いでいた手を離すと木人形にゆっくりとした足取りで近づいてから、上段に構え、袈裟よりもやや横に薙ぐ。


 すると、刃は音もなく人形を通過し、霧散する。

 それと同時に、耳鳴りのような音も消失した。


 あれ・・・?

 何も、起きない?

 どういう事だ?それに、何で音もしなくなったのだろう?

 アルの時は、かなり派手に破壊していたと思うのだけれど。


 見た所何も変化が無かった事を不思議に思いながら、僕も木人形に近寄り表面を確認した所、剣が描いた軌道通りの形に黒い線が走っていた。


 これはなんだろうか?

 その部分に、軽く手の平で触れる。

 すると、鈍い音と共に人形の上半身が地面に転がり落ちた。


 まさか、アレで切れていたのか?

 何の音もしなかったのに?


 余りにも現実離れした光景に、僕は呆然としながら地面に転がった人形の上半身へ、視線を落とす。

 そこでふと、断面がまるでヤスリで磨いたかのように綺麗な事に気付いた。


「サリーナ、一体キミは何を想像したの・・・?どうやったら、こんな切れ方になるの・・・?」


 それがどうしても理解出来なかった僕は、彼女へ顔を向け、恐る恐る尋ねてみる。


 木の芯を使った藁束を両断する事自体は、修練と剣自体の切れ味が優れていれば可能だが、叩き切るような鋳造で作られたナマクラでは僕でも一撃では不可能に近いし、鍛え上げられた名剣でも此処まで綺麗な断面にはならない。

 それに何より、切った際の音も無ければ、人形が揺れもしなかった。僕には、ただ剣がすり抜けただけにしか見えなかったんだ。


「むー・・・簡単に言えば、よく切れて高熱を発生させる短剣、ですね。一緒に見てたアニ・・・いえ、絵物語に出てくる武器です。超高速で振動する剣・・・と、でも言えばいいんでしょうか・・・?ですが、発生する熱で焼き切るものなのだと教えられていたので、燃えるかなと思っていたんですけれど・・・。」


 以前言っていた、動く絵物語ってヤツかな?

 でも、振動する剣とはなんなのだろう?

 なによりも、切った本人が一番困惑している所を見るに、あの切れ方は想定していなかったようだし。


 これは一体、何が起きたんだ?


 ま、まぁ、とりあえず今はいいや。これでサリーナを問題なく連れていけるのだから、深く考えるのはよそう。僕の頭だけでは、理解出来そうにもない。

 これについては後で、マナを交えてもう一度聞いてみればいいのだから、まずは先にやるべき事をやらなければ。


 今の光景が余りにも衝撃的すぎた為か、先程まであったざわつきすら消え、唾を飲み込む音すら聞こえてきそうなくらいの静寂が辺りを支配している中、僕は覚悟を決めると振り返って伯爵へと歩み寄った。


 近づいてみると、伯爵も顔が引き攣っていたのだが、剣に多少の覚えがある人ならば、こういう反応になるのは仕方ないだろう。

 ・・・いや、今はそんな事を考えるよりも、サリーナを連れて行く事を伯爵に認めてもらわないと。


「叔父上・・・、これで認めて、頂けますか・・・?」


「あ、ああ、そういう、約束だからね・・・。」


「認めて頂いて、ありがとうございます。」


 お礼を言いながら、僕は深々と頭を下げる。

 顔は似ているのに、父さんなら意地でも絶対認めないだろうなと思いつつ顔を上げ、一度真っ直ぐ伯爵の目を見つめた後、意を決して叫びながら再度伯爵に頭を下げた。

 マーサさんが言っていた事だけど、終わった後は素直に謝れ、だよね。


「そして叔父上、我儘を言ってしまい・・・本当に申し訳ありませんでした!自分が間違っているのも重々承知しています!でも、彼女の事はどうしても譲れないんです!だから、サリーナを僕にください!」


 ただ謝るだけでは意味がない。自らの否を認めた上で、自分の意思を伝えなくてはならない。そう考えて、彼女を自分の庇護の元におきたいという意思を伝えた。


 だが、頭を下げたまま少し経っても伯爵の反応がなかった為、僕は頭を上げ伯爵の様子を確認すると、呆気にとられたような表情をしている。


 ・・・何か、言い方を間違えた気が?


 これ以上迷惑をかけないように、僕が彼女を雇用すれば解決するかもしれないと考えていたので、その事を伝えようとしていたのだが、伯爵の反応を見て漸く自分が何を口走ったのかに気付く。


 しかし、どう表現するのが正しいのかがすぐに思い浮かばず、とりあえずの訂正もしないままに考えを巡らせていると、伯爵は深く溜息をついた後で、仕方ないなと言わんばかりに口を開く。


「結婚の申し込みは、私ではなくトレントンとアーネストにするべきだろうに・・・。まぁいい、どの道こうなってしまった以上、二重の意味でサリーナを侍従として雇い続ける訳にはいかなくなった。・・・まさか、こんな手段を考えていたとはね・・・。流石に驚いたよ。」


「え・・・?」


 け、結婚?

 何か、僕の考えとは違うような?


 全く予想していなかった言葉が伯爵の口から出た為、僕の思考は停止する。

 だが、そんな僕を置いてきぼりにしたまま、伯爵は言葉を続けた。


「確かに伯爵家の嫡男であるイーオが彼女を娶るか、婚約をすれば、その時点で侍従ではなく伯爵家の係累に入ったとみなす事も出来る。そうすると、彼女にも貴族としての義務が発生するけれど、自分の意思でイーオについて行っても何の問題も無くなるだろう。戦う為の力もあるのだからね。これは、イーオの考えた通り、サリーナが市井の出だからこそ出来る手段だ。」


 なるほど、そんな方法があるのか。

 ・・・って、なんでそうなるの?


「しかし、キミ達はまだ若い。今は婚約で良いのではないだろうか?これならば、サリーナも花嫁修行の為にイーオと共に学院へ通う事も出来るから、卒業し二人が一人前と認められた後で、正式に籍を入れるといいだろう。無論、私はその為の協力を惜しまないよ。」


「いや、あの・・・そうではなくて、ですね・・・。」


 僕の考えとは、余りにも違う方向に話が進み、伯爵も何故か乗り気になっていたので、何とかして発言の意図を説明しようとするも、混乱からか上手く言葉に出来ない。

 だが、そんな僕を尻目に、伯爵は不思議そうな表情で再び口を開いた。


「うん?違うのかい?何か、他に考えがあったのかな?私はてっきり、イーオが自分の立場を上手く利用しようとしたのかと思ったのだが?・・・でも、どうやらサリーナは、もうそのつもりのようだよ?」


 そう伯爵が言い終わるや否や、突然後ろから誰かにそっと抱き寄せられる。

 いや、誰かなんて考えるまでもない。間違いなく・・・彼女だ。


「ほ、本当・・・ですか?あ、あたしを・・・また、お、お嫁さんに、して、くれるんですか・・・?」


 漸く紡ぎ出したような、か細い声が背中から聞こえ、胸元に回されたその引き締まりつつも細い腕からは、微かに震えているのも伝わってきたので、僕は彼女の手を優しく包み込むようにして自らの掌を添えながら、どう応えるのかを思案する。


 ・・・ノアに会う事や、父さんの事も含め全てが終わったら、いつかは伝えるつもりだったんだ。それが、前倒しになったってだけの話だろう?


 それに、彼女をくださいって言ったのは僕だ。今更訂正なんてしたら、きっとサリーナを傷付けてしまう。


 だから、大事な人もそれを望んでくれているのなら、僕の答えなんて決まっているじゃないか。


「うん。こんな僕で良ければ・・・、ずっと一緒にいて欲しい。」


「こんな、沢山の人の前でプロポーズなんてしたら・・・もう、取消しは、効きませんよ?」


「そんな事、しないよ。」


 そう短く返した後、身体を離し、向き直る。そして今度は僕からサリーナを抱き寄せると、胸の辺りから短く小さな悲鳴が聞こえた。


「ごめんね。人前じゃ恥ずかしいよね。でも、今はこうしなきゃって、感じたんだ。だから、もう少しだけ我慢してくれないかな?」


 その言葉に、サリーナは耳までも朱色に染めながら、潤んだ瞳でこちらを見上げてから、瞳を閉じる。

 

 サリーナが何を望んでいるのか、判るよ。

 僕も、同じ事を望んでいたから。


 そうして二人の唇が触れた瞬間、彼女の頬を伝い暖かいモノが一雫溢れ、僕の頬にもその温もりが伝わってきた。


 これは・・・、泣かせた内に、入るのだろうか?


前作を読んでいないと、わからない表現が多くなってしまっています。申し訳ありませんm(_ _)m


身長体重を計る習慣がない為、欄外で主要なキャラの身長を乗せておきます。(初登場時の為変動する可能性あり)


イーオ 181cm(微妙に成長中)

サリーナ 172cm


マナ(ノアのすがた) 110cm

マーサ 145cm


リズ 140cm(成長中)

伯爵 183cm

ノエリア 158cm

ディラン 130cm


キース 179cm

アル 175cm


マキ 145cm(成長中)


※更新に当たり、関連する部分の一部修正を行なっております。※


60 僕の成すべき事 2


修正箇所に関しましては、該当話の後書きをご参照ください。m(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] まさかの高周波ブレード……なんちゅうもんを……。 今回はサリーナを泣かさなかった……のかな? まあでも、変な傷つけ方しないでよかった。前作は色々拗らせちゃったから……。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ