66 イーオ
「そう、シュウを迎え入れる事になったのは・・・その隠れ里とは無関係では無いね。そして、イーオもシュウから隠れ里についての話を聞いた事がある筈だよ。」
そう言えば以前、父さん達と一緒に此処でシュウさんから鉱石の話を聞いた時に、そんな話が出ていたような・・・。
「という事は、シュウさんの言っていた隠れ里と、今回僕達が行こうとしている隠れ里は・・・」
「あぁ、同じ場所だね。」
そうだったんだ・・・。
でも、それならばシュウさんの口から出た人の黒化の話についても合点が行く。
隠れ里で実際にその惨状を見てしまったから、あんなにも怒りの籠もった表情をしていたんだ。
「実は、シュウが此処に来てから相談を受けていたのだよ。隠れ里の後ろ盾になって欲しいと。正確に言えば、隠れ里の場所をどうにかしてこちらの領内へ移動させられないかと、ね。」
「このウィンザー領に、ですか?」
「その通りだ。彼が私にそんな話をしたのには理由がある。それは、隠れ里のある場所が政治的に不安定な場所だと言う事と、現在状況が変わってきている為だろう。」
「状況が?詳しく話して頂けますか?」
確か、場所については貴族が表立って手を出させないようにする為に友好国との国境付近かつ、この国の二つの貴族の領地に跨るような所に作った・・・ってマーサさんが言っていたような気がする。
その事が政治的に不安定さを招くというのはわかるけれど・・・、状況が変わってきたとはどういう事だろう?
「・・・やっぱり、里の人達が言っていた追手が増えてるって話、間違いじゃなかったんだ。」
「そうらしい。シュウに休暇がてら里へと行って貰っているのだが、手紙での報告によれば貴族の中に他国と手を結び共同で研究を行なっている勢力が現れ始めたらしく、その勢力が国内からだけでなく他の国を経由して刺客を差し向け始めている。そのせいで、隠れ里の住民の被害が増えているのだそうだ。」
「もしかして、今シュウさんは隠れ里にいるのですか?」
「そうだ。理由は、シュウが到着して早々に襲撃があったようでね。幸いにも、怪我人は出なかったそうなのだが、その際に襲撃者の持ち物等から情報を得て、その結論に至ったようだね。だから、他の国も関与し始めたのはまず間違いないのだろう。」
「皆無事だったんだ・・・。よかった・・・。でも、このままじゃ・・・。」
襲撃を受けたと聞いた瞬間、僕の隣に座るマーサさんの表情が強張ったのが見えた。だが、続く伯爵の言葉に一瞬安堵した表情を浮かべた後、他国が介入を始めたという言葉を聞き、今度は酷く暗い表情で呟く。
確かに、このままだと里の人達が危ない。
自分が想像していたより遥かに、事態が逼迫しているのだと焦りの感情が湧き上がるけれど、そんな僕の胸の内を知ってか知らずか、伯爵はこちら一瞥すると言葉を続ける。
「何故、他の国も関与をし始めたのかについてシュウの見解では、里の人間を捕らえ調べる事で研究の進捗度合いを調査する目的もあるのではないか?と書いてあった。襲撃者の装備が国によって大分違うらしく、他の国からの場合、この国の貴族が差し向けた追手に比べ大分貧弱なのだそうだ。・・・情報の共有はまだ上手く出来てはいないのだろうね。」
「そんなに状況が悪化してるなんて、知らなかったよ・・・。出来る限り滞在するようにはしてたけれど、偵察も頻発にしてるみたいで、ワタシが居る時は襲撃して来ないんだよね・・・。ワタシの素性はもうバレてるみたいだから、撃退された時に身元が割れないようにする為だと思う。」
「マーサの名は裏で知れ渡っているから、仕方ないだろうね。里の者達も戦闘能力は高いらしいが、元々は訓練をしているという訳ではないのだろう?そうなると、やはり頻度が増えればそれだけでは対処が難しいと、私は考えているよ。」
「そうなの・・・、元々が貧民や身寄りの無い人達だから、皆が皆戦える訳じゃないの・・・。子供はマホだけだけど、中には進行しすぎて動けなくなってる人が何人も・・・」
そんな・・・。
だから、マーサさんは助けて欲しいって言った時、あんなにも必死だったのか・・・。
何か出来る事は無いのだろうか?僕には無理でも、伯爵なら何か方法を知っているのではないだろうか?
「叔父上、どうにか出来ないのですか!?」
焦燥感の為か、そんな身勝手な感情がつい口を突いて出てしまう。
「移住であれば、この領地の北部なら他国と面しては居るが、そこは北方の険しい山脈を超えた先にある遊牧民族の国故、この領地なら彼らを保護する事自体は難しくないだろう。だが・・・」
伯爵の表情は、この話を始めてからずっと険しかったのだが、より一層険しさを増しつつ言い淀む。
続く言葉を選んでいるというよりは、自らの心情とは違う言葉を紡ぐ事への抵抗感がある為なのかもしれない。
何を口にしようとしたのかは、冷静さを欠いている今の僕にだってわかる。
彼らを迎え入れるという事は、この領地の住民にまで危険が及ぶのは想像に難くない。もしかしなくても、他の領地の貴族を敵に回す結果に繋がるのだから。
だから、迎え入れる事は出来ないと。そう言葉にされるまでもなく、わかってしまう。
それがわかるから、一人を除きこの場に居る誰もが口を開く事が出来ないのだろう。・・・マナを除いては。
「旦那様はどうなさるのですか?」
「・・・僕が、どうするか?」
「はい。お話は聞かせて頂きましたが、わたしにはよく判りません。事情につきましても、わたしには関係ありませんので。わたしは旦那様に従うだけですから。それで、旦那様はどうなさりたいのですか?」
マナが重い沈黙を破り、唐突に口にした言葉に全員の視線が僕へと集まる。
僕がどうしたいかだって?
伯爵の話を聞いたら、簡単に助けたいだなんて言える筈がないじゃないか・・・。
でも、だからと言って黙って見過ごすなんて事も、出来そうにはない。僕にしか出来ない事だってあるのだから。
それじゃあ、僕は一体・・・どうしたらいいのだろう?
「貴方は、貴方がたの言う神様に愛されているのですよ。だから、なさりたいようになさって下さい。わたしも、貴方が望むのでしたら貴方の為に力を振るいますよ。」
「マナが?」
「えぇ、わたしは貴方と共に歩む為に、此処に来たのですから。それに、お母様と約束されたではありませんか。」
「マナ・・・。」
「イーオさん、あたしも・・・」
「サリーナさん・・・。」
・・・そっか。うん、そうだよね。答えなんて、街に帰る前にもう決めていたじゃないか。
助ける為のいい方法は、正直思い浮かばない。今の僕に出来るのは、里の人達が獣と同じようになるのを防ぐ事だけ。僕が状況を変えられるだなんて、思えもしない。本当の意味で襲撃から守るには、伯爵の力が必要だろう。
でも・・・、それでも、僕は行く。
僕ならなんとか出来るんじゃないかって言ってくれたマーサさんや、父さんと同じような状態にされてしまった隠れ里の人達の為にも、僕は僕が出来る事を精一杯しよう。
伯爵だって、言っていたじゃないか。
貴族は、民あってのものなのだと。なら、貴族の責務として、貴族として生きると決めた僕の責務として、里の人達も、この領地の人達も守る義務があるんじゃないのかな?
なら、伯爵の力も借りないといけない。僕に、そこまでの力は無いから。
「叔父上!僕は・・・!」
「イーオ、言わなくていいよ。キミの気持ちはわかった。」
「えっ?」
僕が言いかけた言葉を遮るように、伯爵は僕を真っ直ぐに見据えながら口を開く。予想外の反応の早さに、僕は思わず間の抜けた返事をするが、伯爵は気にも留めずに言葉を続けた。
「すまない、イーオ。その表情を見ればわかるよ。キミは里の者達を保護したいのだろう?」
「は、はい。叔父上は反対かもしれませんが・・・。僕は、僕にしか出来ない事をやると決めたんです。だから・・・、お願いします!力をお貸しください!僕には、困っている人を見過ごすなんて、出来ないんです!」
「キミの育った村も、危険に晒す事になるかもしれないよ?それに、キミはその髪や瞳の色の所為で、沢山の人達に気味悪がられていただろう?それなのに、そこまでして他人を助けたいと思うのかい?」
村が・・・?確かに、あの村はこの領地でも最北にあるし、山脈にも近い場所にあるから、人目につかない場所へ移住してもらった場合、あり得ない話じゃない。
でも、伯爵の協力さえ有れば、それも抑える事が出来る筈だ。村の近くには、騎士団の駐屯地が作られるのだから。
あれ?そう言えば、伯爵が僕の髪の色について何かを言うのは初めてのような気がするな。まぁ、正直なところ髪の色の事はもうどうでもいいとすら思えてる。確かに嫌な事は、沢山あった。その所為で、人と向き合うのが怖くて落ち込んだりもした。
けれど、この街に来て伯爵を含めそんな周りと違う僕を受け入れてくれる人達と沢山出逢ったんだ!
忌まわしいと思った事すらあるこの髪を・・・綺麗だって、そう言ってくれる人達とも出会えた!
なら、その人達に顔向け出来ないような事を、僕はしたくない!
「・・・確かに、僕は人と接する事が怖かった、です。」
「そう、だろうね。」
僕の答えに伯爵の表情が僅かに歪む。この人も優しい人だから、僕が陰口を言われ続けてきた事に、考えが及んだのかもしれない。
でも、違う!伯爵に伝えたい事は、そんな事じゃない!
「それでも!僕は此処に来て沢山の人に出会えました!こんな僕を、認めてくれる人達と・・・、沢山!沢山、出会えたんです!だから!僕は!僕を認めてくれた人の為にも!僕に出来る事を精一杯やりたいんです!だから、お願いします!力を貸してください!」
僕は叫びながら立ち上がると、伯爵へ身体を向け勢いよく頭を下げる。
正直、僕にはなんの力もない。
それなのに、僕は自分のやりたい事に伯爵を巻き込もうとしている。しかし、事を成し遂げるには伯爵の協力は必須だ。
だから、せめて僕の誠意を伯爵に見せないといけない。
どうしたらいいかよく分からなくて、こんな風にしか出来ないけれど。
それでも、ただ口で言うよりかは遥かにいいと思う。
頭を下げた体勢のまま少し時間が流れ、その間誰も何も言葉を発しなかったのだが、沈黙を破るように突然トマスさんが優しい声色で呟いた。
「若いなぁ。うん、イーオ君。キミの勝ちだ。」
「えっ・・・?」
予想していなかったトマスさんの発言に、僕は思わずそちらに顔だけを向ける。すると、並んで座っているニールさんとトマスさんは優しい表情で僕を見ていた。
「説得・・・には、なっていませんけどね。」
「うーん・・・。でもイーオ君って、年齢の割に異様なくらい落ち着いていたから、寧ろこのぐらいの方が僕はいいと思いますけどね。」
「まぁ、確かに歳相応には見えませんね。私達が同じぐらいの頃は、ここまで思慮深くはありませんでしたから。」
「僕達も歳をとったって事なのでしょうか?」
「えぇ、40は初老ですからね。」
「・・・僕は、まだ40にはなっていませんよ?二つ違います。」
「いえ、その程度なら余り変わらないでしょう?」
・・・いや、なんなのだろう、この会話は?
突然、ニールさん達が和やか?な雰囲気で話をし始めた為、僕は呆気に取られていると伯爵が軽く咳払いをしたので、頭を上げそちらに顔を向ける。
「こうして、きちんとお願いをされるのは、初めてだね。」
「あっ・・・!も、申し訳ありません叔父上!」
伯爵の発言に、僕はハッとしてすぐ様謝罪の言葉を口にする。
しまった・・・。つい感情だけが先走り、何の説明も無いままに伝えてしまった。
何て不躾なお願いをしてしまったのだろう。どう弁明すれば許して貰えるのだろうか?
そんな焦りが頭を駆け巡り、言葉を上手く紡ぐ事が出来なくなった僕を他所に、伯爵は少し嬉しそうな表情になりながら口を開く。
「怒っているのではないよ。寧ろ、心配をしていたくらいだね。」
「な、何かご心配をおかけするような事を、僕はしていたのでしょうか?」
想像していなかった言葉に、思わず聞き返してしまったけれど、僕の慌てる様を見た伯爵はこちらを落ち着かせる為か優しげな表情で語りかけてきた。
「そんなに怯えなくてもいい。私が心配していたのは、イーオがただ状況に流されているだけなのではないかと、それだけが心配だったんだ。キミは良くも悪くも、余り自己主張をしないからね。」
「僕が、ただ流されてる・・・ですか?」
僕自身は、充分自己主張をしているつもりだったのだけど、周りからはそう見えていた、という事なのだろうか?
「そう。誰かに頼まれたからというだけで赴くには、獣の討伐も含め危険すぎるのだよ。私が言うのもなんだが、前回は鉱石が扱えるキミの力が必要だった為に私からも協力を依頼した。しかし、今回の話はそうではない。それに、キミの事だ・・・マーサにお世話になっているから・・・とか、考えていそうだとも思っていたんだよ。」
最後に関してはあながち間違いでは無いので、何とも言えない部分はある。・・・でも、助けたいという気持ちは、紛れもなく僕自身の想いだ。
「そういう気持ちが無い訳でもない、という顔だね?」
「はい。恩返しがしたい・・・という気持ちが、ない訳ではありません。」
「うん。正直でよろしい。だが、どうしてそこまでしようと思ったんだい?」
「それは・・・。僕が、僕だから・・・です。」
「どういう意味かな?」
説明になっていない僕の答えに、伯爵は不思議そうな表情で聞き返す。その問いに、僕の意思をどう伝えるのが正解なのか、わからない。
正直に話せない事もあるし。
だけど、僕は僕の意思で動きたいって事だけは、きちんと伝えないといけない。
「僕にしか出来ない事があります。詳しくは言えませんが・・・少なくとも僕には、里に行かなければならない理由が確かにあるんです。」
マーサさんが先に街へ帰る前、僕が黒化の進行を止められたり、他人が鉱石を扱えるように出来るという話は、あの時あの話をしたあの場に居た四人だけの秘密にするという事になった。
討伐の際の事については、繭の暴走を鎮めたのは父さんの功績であって、僕は繭の核を破壊してその機能を最終的に停止させた、とキランさん達には説明したから、多分問題無いとは思う。
僕達以外はマナの話が理解出来なかったのと、僕が行った事の説明が出来なかったから、納得してもらうにはそう伝えるしかなかったんだ。
我ながら、少し苦しい話だとは思うけれども。
だから、伯爵達は何も知らない筈だ。伯爵にだけは、本当の事を話してもいいのかもしれないけれど、此処にはニールさん達も居るし、外には伯爵の従者も居る為、この場ではやめておいた方がいいだろう。
「理由は、話せないのかな?」
「はい・・・。今はまだ・・・。」
「そうか・・・。」
僕の答えを聞いた伯爵は、腕を組みながら逡巡するように目を瞑る。
やはり、ちゃんと伝えなきゃ駄目・・・なのかな?
でも、僕の秘密は僕だけじゃなく、僕に近しい人を守る為でもあるのだから、今はこれ以上伝えようが無い。
僕の秘密が漏れ広まった場合、恐らくだけど近しい人達が人質にされたりする危険がある。
これ自体はマーサさんが言っていたのだけれど、話を聞いていると相手がそれぐらい平気でしてしまう事ぐらいは僕でも想像がつく。下手をすれば命を奪われるような事だって考えられる。まぁ、人を黒化させる実験を平気でしているような輩だから、間違いなくそうなるだろう。
「わかった。」
「・・・よ、よろしいのですか?」
「あぁ、イーオのやりたい様にやりなさい。」
どうすれば、伯爵に伝える事が出来るかと考えを巡らせていると、伯爵は目を見開き短くわかったと答える。
僕は、それに思わず確認をしてしまうが、伯爵は僕がやりたいようにすれば良いと、柔らかく笑いながら告げた。
「元々、私は反対などしてはいない。マーサから事前に里へ赴くという話を聞かされた際、これは私達が関わるべき話だったのだと、そう感じたくらいだよ。・・・ただ、私は気がかりだったんだ。」
気がかり?もしかして、さっき言っていたように周りが僕にそうするよう誘導していると、伯爵は考えていたのだろうか?
「そこに、イーオ自身の意思はあるのか。それだけが本当に気になっていたんだ。キミは聡い。だから、周りが期待をすれば、出来る限り応えようともする。でもそれは、私から見ると少々歪にも見えるんだよ。」
正直思い当たる節は、ある。だけど、それがそんなに駄目な事だとも思えない。程度の問題じゃないのかな?
「そうですね。短い間でしたが、私達も共に討伐隊に参加してそう感じました。私達が、キミと同じ歳の頃にそこまやろうとしただろうか?と、そんな事も思いました。」
ニールさん達にも伯爵と同様に見えていたのか・・・。
「私はね、キースにしてしまった事を、キミにもやらせようとしているのでは無いかと、少し恐ろしくなってしまったんだよ。・・・でも、それは少し違ったらしい。キースは、自分のやりたい事を押し殺してでも、私に仕えようとしていた。それが、自分の役目だからと。」
「伯爵様のおっしゃる通り、昔のキースなら恐らく今のイーオ君のような事は言わないでしょう。」
「だから、今回の事に関して、私からは現状の説明をする事だけに留めた。尤も、色々と顔や言葉に出てしまっていたようだがね。」
やけに伯爵の表情が険しいと感じたのは、その所為だったのか。父さんが、若くして領主を継いだ伯爵を支えようと自らを犠牲にしていた話は、僕も以前聞いた。伯爵が、その事を後悔している事だって、知っていた。
だから、伯爵は僕までも父さんと同じような行動をするのではないかと不安だったんだ。だから、あんなにも表情が険しかったんだ・・・。
「まぁ、状況を説明すればイーオならどのような危険があるかを悟ると思っていたよ。そして、イーオの答え方次第で、無理矢理にでも行かせないようにし、この件から手を引こうとも考えていたのだが・・・、イーオはきちんと自らの意思を示した。ならば、私もキミに応える為の務めを果たすとしよう。」
「あ、ありがとう・・・御座います。」
「だからさっき、キミの勝ちだって、そう言っただろう?」
自分がやりたい事を正確にでは無いにしろ、伯爵に伝える事が出来た安心感と、僕の事を心から心配してくれている伯爵の想いが伝わり、言いようの無い感情が僕の中に溢れた為、思わず泣きそうになるのを堪えながら何とかお礼の言葉を口にすると、伯爵はやや困ったような表情で口を開いた。
「私に礼を言うのは、まだ早いのではないかな?何せ、里の者達をこちらに連れて来なければ、全てが終わったとは言えないからね。」
「はい!」
そうだった。伯爵の言う通り、今はまだ何も達成してはいない。
何もかもが、まだこれからなのだ。
伯爵の言葉に、僕は気を引き締めつつ短く答えると、伯爵は満足そうな笑みを浮かべながら口を開く。
「いい返事だ。これで漸く、話が進められる。・・・ところでイーオ、何か具体的な考えはあるのかな?」
「少しですが、あります。」
「聞かせてくれるかい?」
実は、さっき伯爵に助力を頼んだ時に本当に少しだけれど、思い付いた事がある。それは、あの討伐戦の時に訪れた洞窟の付近に、里の人達を移住させる事だ。
まだ時間はかかるけれど、騎士団の駐屯地がその辺りに作られる予定で、鉱石の研究施設も併設される事になるだろう。取扱いを間違えると暴走してしまう危険な代物らしいから、こんな街中で研究をするなんて事はあり得ない。
なので十中八九施設はそこに作られる。それなら、その研究施設で匿う事が一番安全なのでは?
恐らく、実績からもシュウさんがその研究施設を取り仕切る事になるだろうし、尚の事都合が良いのでは?と、そう感じたんだ。
だから、僕はさっき思い付いた事を伯爵に伝えると、概ね伯爵も同意見らしかった。尤も、伯爵の考えの方がより具体的で、街道の警備を強化する事や、村に連絡所を兼ねた不審人物が紛れて居ないか調査をする部署の設置等等、ある程度の方針は既に固めていたようだ。
それを聞き、自分の思考が誘導されていて、実際は伯爵の手の平の上だったのだと思いもしたが、それと同時にやはりこの人の力が無ければ、今回の件を成し遂げる事は出来ないのだと、僕は改めて実感もした。
それを聞き、自分の思考が誘導されていて、実際は伯爵の手の平の上だったのだと思いもしたが、【それと同時に】やはりこの人の力が無ければ、今回の件を成し遂げるー
【】内の部分を加筆致しました。7/18