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いつか、どこかで  作者: 眠る人
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63 帰還 2

「ノア様の姿を真似た・・・?通りで見覚えがあると・・・。いや、しかし・・・」


 マナの発言を聞き、伯爵はぶつぶつと独り言を呟いている。どうやら酷く混乱しているようだ。まぁ、突然他人の姿になる事が出来ると言われれば無理もない。


 それよりノア様って・・・。確か、ディランが会いに行くと言っていた第一王女様の事だよね?一瞬、神様の事かとも思ったけれど、伯爵は御伽噺の神様が実在している事は知らない筈だから、姫様の事で間違いはないだろう。


「以前は人の前に姿を表す際、その人物が受け入れやすい姿に見えるようになって居ましたから、わたしには固有の姿と呼べるものはありません。そのせいで女神様や神様等と勘違いされた事もありますね。・・・今、この姿をお借りしているのは、旦那様に受け入れて頂きやすいかと思ったからですよ。」


 なるほど・・・。サリーナさんがマナに料理を教えている姿を見た時、何処か懐かしく感じて、微笑ましく思いながらも胸が締め付けられるような、そんな気持ちになった事があるのだけれど、それは彼女の姿が原因だったのかもしれない。


「俄には信じられないが・・・、今姿を変える事は可能なのかい?」


「えぇ、出来ますよ。ですが、声はこのままでも構いませんか?声は多少調整が必要で、お時間を頂く必要がありますので。」


「あぁ、構わない。」


 伯爵が頷くと同時に、僕の隣に座っていたマナの全身が淡く光を放ちながら、徐々にその輪郭が変えていく。これを見るのは三度目なのでもう驚きはしないけれど、とても不思議な光景だと思う。


 伯爵は自ら問いかけたものの半信半疑だったようで、予想もしていなかった光景に、思わず呆然としているようだ。


 そうして、執務室に光が溢れてから数十秒が経過した頃、段々とマナが発つ光が収まり、その姿がはっきりと確認出来るようになる。


 これは、サリーナさん・・・だな。

 髪の色は黒いままだけど・・・。


「また、あたしですか・・・。」


「明確に思い描く必要がありますので、咄嗟に浮かぶのは貴方達姉妹ともう一人ぐらいなのですよ。勿論、旦那様にもなれますが、わたしとしては旦那様の姿はなるモノではなく、側で見て居たいのでお姿をお借りする事はありません。旦那様も女性がお好みでしょうから。」


 その理由は、どうかと思うよ?

 それに、男性の姿だろうが女性の姿だろうが、僕にはマナをそんな風に見る事は出来そうにもないのだけど・・・。


 いや、それよりも、今は話を進めないといけない。マーサさんとの約束の件もあるのだから。


「ま、まぁ・・・、叔父上、これでマナの事はわかって頂けましたか?」


「いや、よくわからないな。キミは一体何者なんだ?何故、こんな事が出来るんだい?繭の中にあった核が人の姿をとったものだと言うのは聞いているし、イーオに会いに来たというのも聞いてはいるよ。だが、私にはどうしても納得出来ない。繭がイーオやキース達に襲いかかったのは、紛れも無い事実なんだろう?暴走していたから、中の核は関与していない・・・なんて都合のいい話、信じられると思うかい?」


 伯爵は不信感を隠そうともせずに、マナを真っ直ぐに見据えながらそう告げる。

 ・・・キランさん達の報告を聞いてそう思ってしまうのは、仕方ないのかもしれないな。


 マーサさんを交えた話についても報告は受けているかもしれないけれど、僕だって記憶の事や、サリーナさんの話がなかったら、信じる事は出来なかっただろう。伯爵にどう説明するのが正解なんだろうか?


「わたしはマナです。それ以上でも、それ以下でもありません。それに、信じて頂く必要もありませんね。わたしは、旦那様の側にいる為に来たのですから、旦那様にだけ信じて頂ければ、それで充分です。」


 ・・・その答え方は不味いと思う。マナは伯爵が言っている事を額面通りに受け取ってそう答えたのだろうが、今の状況でその返答はかなり不味い。


 伯爵が言いたいのは、恐らく素性云々の事では無いし、信じる信じないでもなく、諸々について納得がいく説明をしろって事だ。


 しかし、どうする?このまま拗れると、マーサさんとの約束の件についても許可が貰えなくなってしまうかもしれない。なんとかしなければ・・・。


「伯爵様、差し出がましいとは存じておりますが、私から説明をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


「サリーナ・・・、キミが?イーオかこの娘に答えて欲しかったのだが、仕方ない・・・。言ってみなさい。」


 僕がどうするべきかと頭を悩ませていると、サリーナさんが丁寧な口調で口を挟む。どうやら、僕達の様子を見兼ねたらしい。


「では、僭越ながら・・・。恐らくではありますが、今回の討伐でイーオさん達が襲われた件につきましては、どうやら仕組まれたもののようです。」


「誰に?」


「それはわかりません。その事を調べるためにも、マナの協力が必要なのです。」


「この娘が操っていたのだろう?」


「いえ、それは有り得ないと思われます。何故なら、討伐後に私が観察していた限り、そのような素振りが全く無いどころか、私達の疑問にきちんと答えておりましたので、寧ろ協力的だとすら思えるからです。」


「演じているのではないかな?」


「それは否定しきれませんが、少なくとも演じたり隠したりする理由がありません。伯爵様はイーオさんだけが狙われたという事についてはご報告を受けておられますか?」


「あぁ、聞いているよ。それがどうしたんだい?」


「その狙われていた理由が、イーオさんの持つ特異な体質によるものだとしたら、如何でしょう?」


「・・・どう言う事かな?」


「私もその場を見ていた訳ではありませんが、マナ曰く、特異な体質を持つイーオさんを狙い仕組まれたものだそうです。彼女があの村の近くに現れた理由が、イーオさんに会う為ですので、間違いないかと思います。」


「・・・それを、キミ達は信じたのかね?」


 あれ?なんか違和感があるな・・・?でも、なんだろう?・・・まぁ、いいか。


 サリーナさんの言葉で伯爵は僕とマナを交互に見ながら尋ねたので、僕は頷きながら答えた。


「はい。事実、僕以外の人物が近づいても、そちらには見向きもせずに、ひたすら僕だけを狙い続けていたので、そこに嘘は無いと思います。父さんがああなったのは、破壊された繭が損傷を補う為、無差別に襲い始めた時に僕をかばったからです。」


「なるほど。だが、それを行ったのがその娘では無いという根拠は?」


「父さんが無数の触手に貫かれた時、明確に触手達の動きが止まったんですよ。そして、その直後に彼女が僕に止めてくれと頼んで来たんです。僕にしか出来ないから、と・・・。父さんと二人で食い止めているから、今のうちに・・・と、そう言われました。根拠としては薄いかもしれませんが・・・。」


「ふむ・・・。それで、イーオは彼女の指示に従ったのだね?」


「はい。結果、僕がそう命令したのもありますが、核だったマナ以外は崩壊しました。」


「では、繭と核は別の存在、なのかね?繭の中に核があったのだとしたら、彼女だけが残るのは不自然だと私は思うのだが。」


 あれ?伯爵は、僕が命令したって所を追及したりしないのかな・・・?キランさん達にも確か同じように伝えたけれど、この話の流れなら聞かれてもおかしくないと思ったのに・・・。


 そう言えば繭と核の事については、マナから正確には聞いていなかった気がする。あの時、僕は核以外停止するようにしか命令していなかったけれど、もし核も停止させていたら、彼女は崩壊していたのだろうか?


「それについては、わたしが説明致しましょう。あの時、旦那様がわたし以外停止する様に命令を下したのもありますが、旦那様達が繭と呼ぶモノは、同じく核と呼ぶモノを作る為の・・・つまり、わたし達の依代となるこの身体を作る為の装置であって、わたしとは別の存在ですよ。あの装置そのものは、役目を終えると自壊するように調整してありましたしね。」


 うーん?マナの説明は、いつもわかりにくいな。要するに、核があったから繭が作られたのではなく、繭が核を作り出した・・・って事か。崩壊したりもしなかったらしいし。


 ・・・あれ?それなら、マナが僕の近くに居ても暴走しないのは何故だ?

 彼女の意思?それとも、アレは繭だけの話で、生み出された核にそのように仕組まれてはいなかった・・・とか?


 この事は後で、マナに確認しておいた方が良さそうだ。

 他にも、何故黒化した獣を取り込んでいたのかについても聞いていないし。


「つまりは、苗床という事かね?」


「そのような認識で構いません。」


 伯爵の問いに、マナが即答すると伯爵は少し考えるような仕草をする。もしかして、伯爵は報告の足りていない部分を補う為に聞いているのかな?納得がいっていないのとは何か反応が違う気がする。


「キミ自身には少なくとも、敵対する意思は無いのだね?」


「わたしにそんな意思はありませんよ。尤も、旦那様と敵対する人間には、容赦をする気はありませんけれども。」


 これは、間違いないな。伯爵はマナ自身の意思の確認をしたかったようだ。キランさんとマーサさんの報告を聞いていて、協力的なのはわかっていた上で、敢えて足りない部分を色々聞いてきたのだろう。


 さっき、わたし達ってマナが言ったのに、そこに触れていない事からもマーサさんとのやり取りも報告されているのは間違いないだろうし、そもそも最初にマナが不味い言い方をしたのに、怒ってすらいなかった。


 流石に、意地の悪いやり方な気がしなくもない。


「叔父上・・・、もう少し、穏便に聞く事が出来たのでは・・・?」


「いや、何者なのかは本当に気になって居たから聞いたのだが・・・。報告ではわからなかったからね。まぁ、マーサの報告通り、自身が何者なのか把握していないようだったし、イーオの側に本当に居たいのかわからなかったから、ついキツくなってしまったよ。・・・兎にも角にも、キミ達が今後何をしようとしているのかも知ってはいるから、とりあえず今日は一日休みなさい。話は明日、する事にしよう。」


 この様子だと、マーサさんがあらかじめ色々話してくれて居たらしく、殆どの事情を伯爵は把握していたようだ。


 ・・・余り心臓に良くないから、僕もマナに色々教えた方がいいかもしれないな・・・。

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[一言] 良かった……。 主人公の違和感とかいいことあまりないからヒヤヒヤしました。 まあ、思ったよりも早く回収されて安心です!
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