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いつか、どこかで  作者: 眠る人
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62 帰還

「まだ二週間ぐらいしか経って居ないのに、随分と久しぶりな気がするよ・・・。」


 クラマールの街の手前にある村を馬車で通過した時、僕は思わずそんな言葉を漏らす。


 討伐の際に起きた出来事だけでなく、父が昏睡したまま目を覚さない事や、マナとの出会い等色々な出来事が起こりすぎて、正直まだ僕の理解が追いついていない為に余計にそう感じるのだろう。


「色々とありましたからね・・・。」


「うん。・・・ねぇ、サリーナさん。少し聴きたい事があるんだ。この間マナと話をしている時、キミは内容を理解しているように感じたんだけど、一体何時思い出したの?」


「一気に、では無いんです。・・・イーオさんがあたしをサオリって呼んだ日から、少しずつ・・・ですね。最初は、あたし自身がまだ思い出してなかった貴方との思い出からで、双子の赤ちゃんの名前を二人で考えてる場面とかでしたけれど、何日かしてから指輪を渡しに行った時の事を夢で見たんですよ。」


「指輪を渡しに?誰に?」


「ノアに、です。その時の事もまだまだ抜け落ちてる部分があるんですけどね。そして、その夢から覚めた時に・・・あたしは与えられていた役割の一つを思い出しました。」


「役割って?」


「あたし達は・・・、まだ顔をはっきりとは思い出せてはいませんけどあたし達姉妹は、船に何かがあったらノアの再起動を行うのが役目なんですよ。なので、船にある扉の開け方や、構造等も記憶に刷り込まれて居たんです。勿論、ノア自身の事についても。」


 再起動・・・と言うのが僕にはイマイチ解らないのだが・・・。なるほど・・・、だからサリーナさんはマナの話が全部では無いにしろ理解出来たのか。

 だが、役割の一つと言う事は、他にも役割があったのだろうか?


「そっか・・・。なら、やっぱりサリーナさんの協力は必要だって事なんだね。」


「えぇ・・・。ディラン様も出来る筈、ですけどね。」


 やっぱりサリーナさんはその事は理解していたらしく、無理に僕に着いてこようとした事を気にしている様子で、不安げに僕を見つめてくる。だが、僕は今更サリーナさんにダメだと言うつもりは無いので、怒っていない事を示す為に出来るだけ穏やかな口調で告げた。


「ディランにはディランのやりたい事があるかもしれないから、無理強いは出来ないよ。勿論、サリーナさんにも無理はして欲しくはないんだけどね。・・・あ、それでさっき役割の一つって言ってたけど、他にも役目があったの?」


 僕の言葉に彼女は少し安心した表情になるが、直後の僕の問いかけで、今度は顔を真っ赤にしてモジモジとし始める。・・・変な事を、聞いてしまったのだろうか?


「えっと・・・。あの、ありましたけど・・・、それをあたしの口から説明するのは・・・恥ずかしいというか・・・、何というか・・・。」


「彼女達は、旦那様の子供を産む為に産まれたのですよ。生殖に最適となる肉体年齢にまで数年で育つように、ノアによって調整され作られた個体、それが彼女達です。」


「・・・え?」


 つくられた・・・?人を、作り出したって事?そんな事が出来る、のか?それよりも、子供を産む為って・・・。

 僕はそれを甘んじて受け入れたって事、なのか?


 マナの発言に、僕は大きな衝撃を受ける。僕になる前の僕は、それを知っていたのだろうか?知っていたのだとしたら、そんな冒涜的な行いを受け入れたのだとしたら、僕は・・・まともな人間ではなかったのではないだろうか?


「・・・ちょっとマナ!そんな言い方はやめてよ!あたし達は、最初はそうやって産まれたかもしれないけど、強制なんて一切されてなんかいないの!前のあたしは、たった17年しか生きられなかったけれど、それでも精一杯生きたの!精一杯、この人を愛したの!その気持ちまで作り物みたいに言うのはやめてよ!」


 信じられないような話がマナの口から語られた為、僕は思わず呆然としてしまうが、そんな僕を他所にサリーナさんはマナに対して怒りを露わにする。


 このサリーナさんの口振りだと・・・少なくとも、彼女達の自由意思を縛ったりはしていなかったらしい。だが、人を作り出すような超技術があるのだとしたら、それも怪しく思える。


「申し訳ありません・・・。サリーナ達を否定するつもりはありませんでした。人類を存続させる一つの手段、でしたね。」


「はい。詳しい話はノアに聞いてみないとわかりませんけど、あたしは間違いなく自分の意思で行動していましたし、この人はあたし達が自分の為に作られた存在だって事に、ずっとずっと悩んでいたんですよ。・・・丁度、今と同じような表情をしながら・・・。本当・・・貴方も変わっていませんね・・・。・・・大丈夫ですよイーオさん。あたし達は、自分達の意思で側に居ましたから。それは間違いないです。」


 マナと話をしている最中ふいに僕へと視線を向けたサリーナさんは、僕の表情を見て少し困った顔をして何かを呟き、その後少し間を空けてから僕に向き直ると、笑顔でそう告げた。


「・・・そっか。サリーナさんが言うなら、信じるよ。」


「あたし達が作られた方法だって、基本的には女性が妊娠する過程を体外で行っただけですから、一から人間を作ったって訳でも無いので、厳密には作られたって表現も間違っていると、あたしは思います。」


 なるほど。と言う事はマナの言い方が悪かっただけ、かな?ちょっと引っかかる部分がない訳じゃないけど、当人がそれで納得しているようだし、今のサリーナさんの話って訳でもないから、僕もこれ以上考えるのはよそう。


「サリーナ、本当にごめんなさい。貴方の思いを踏み躙るつもりはなかったのです。・・・わたしはもっと人の感情について学ばないとなりませんね。」


「あたしこそ、急に怒鳴ったりしてゴメン。これから一緒に行動するなら、知る機会は沢山あると思うよ。ノアも、そうやってあたし達に色々教えてくれたから、今度はあたしがマナに教える番、かな?」


「ありがとうございます。では、サリーナはわたしのお母さん・・・ですね。」


「せめて・・・お姉さんにして・・・。」


 マナにお母さんと呼ばれ、イヤそうな表情をするサリーナさんが珍しくて、僕はつい吹き出してしまう。

 すると、サリーナさんも釣られて笑い、マナは不思議そうな表情で僕達を見つめる。


 なんか、久しぶりに笑ったような気がするな。





「ある程度の話はキランやマーサから聞いているよ。まずはイーオ、今回の遠征ご苦労だった。」


「叔父上、僕は何もしていません。寧ろ、皆さんに迷惑ばかりかけてしまいました。」


「初陣で浮き足立つのはよくある話だから、余り気にする必要はないよ。次は気をつければいい。」


 午後になり、眠り続ける父と共に館へと無事到着した僕達は、詳しい報告の為に到着後すぐに伯爵の執務室を訪れていた。


 父の状況は事前に話が通っていたため、館にたどり着いて早々に自室へと運び込まれており、今頃は伯爵によってあらかじめ手配されていた医者の診察が行われている筈だ。


「キースの事についてある程度は聞いているが、本当に目を覚ます事はないのかな?」


「・・・今のままでは、ずっとあの状態が続くそうです。」


 現状は、言うなれば小康状態といった所だろう。黒化の進行がただ止まっているだけで、その影響を取り除かない限りは恐らく父はあのまま眠り続ける。


 生命の維持は、ある程度はどうにかしてくれるらしいけれど、それもいつまで持つのかがわからない。決して楽観視出来るような状況だとは言えないだろう。


「そうか・・・。」


 伯爵は目を閉じながら一言呟く。その表情からは何を考えているのか読み取れないが、きっと送り出した事を後悔しているのかもしれない。


「僕の所為なんです・・・。あの時、指示に従ってさえいれば・・・、僕が飛び出したりなんかしなければ・・・。」


 僕が漏らした言葉に、伯爵は目を開け、優しげな表情を浮かべながら真っ直ぐ僕を見つめつつ口を開く。


「その時の状況は聞いているよ。だが、私はイーオの判断が間違って居たとは思わない。キミの能力は、守りに特化しているからね。それに、マーサから聞いた話ではキースがそうしたからこそ、他の者に被害がなかったのだろう?」


「それは・・・そうかもしれませんが・・・。頭ではその事を理解していても、納得が出来ないと言うか・・・。」


「あの時、旦那様がとりこまれてしまっていたら、正直何が起きていたかわたしにも想像がつきませんので、余り悔やまないで下さい。その事は、あの時わたしからお父様にもお話しましたし、お父様ご自身も自分でよかったとおっしゃっておられましたよ。」


 そう言えば、マナは父が貫かれた時に直接話をしたと言っていたっけ?

 額にも触手の後が残っていたから、僕と同じように頭の中へ直接語りかける事で会話していたのかもしれないが・・・。伯爵にはどう説明するべきなのだろう。


「キミは、確かマナ、だったかな?マーサから話は聞いているよ。私はイーオの叔父で、エリアスという。尤も、イーオは私の子供でもあるのだがね。紹介が遅れてすまない。キースの事で頭がいっぱいになってしまっていたよ。」


 どうやら、事前にマナの事についてマーサさんから説明を受けていたらしく、伯爵は彼女へ視線を向けながら挨拶をした。・・・しまった、本来なら僕が紹介しなければいけないのに・・・。父の事で頭がいっぱいになっていたのは、伯爵だけではなかったらしい。


「こちらこそ、ご紹介が遅くなり申し訳ありません。わたしはマナと申します。旦那様にはお父様がお二人もいらっしゃるのですね。」


「・・・一つ気になったのだが、キミはどうしてイーオを旦那様と呼ぶのかな?」


 伯爵は両眉を中央に寄せながら、マナに尋ねる。もしかすると・・・、また僕が何かしでかしたとでも思っているのかもしれない。解せない・・・。


「わたしは、この方にお会いする為だけに来たのです。言うなれば、しもべのようなものですね。どう扱うかは旦那様次第ですが、わたしは伴侶として扱って欲しいと思っております。・・・尤も、わたしには性別等は存在しませんので、子を成す事は出来ませんけれども。」


「性別が、存在しない?見た目は女性にしか見えないが・・・?いや、それよりも気のせいでなければキミの容姿に私は見覚えがあるのだが・・・?これは一体どういう事だ?」


 マナのこの姿に、伯爵は見覚えがある?性別については、実のところ本人から聞かされていて知ってはいたし、姿を自由に変えられる事も出会ってすぐに、サリーナさんに変身した事があったので今更驚きもしないけれど、この姿には元になった人物がいる、という事か。


 伯爵は説明を求め僕に視線を向けてくるけれど、僕にわかる筈もなく、返答に困ってしまう。


「この姿に・・・見覚え、ですか?この姿は、昔旦那様の側にいた女性の姿を借りておりますので、あり得なくはないでしょうね。確か、今は・・・この国の姫・・・でしたでしょうか?」

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[一言] 感情を知らない人が主人公たちと過ごすうちに感情を知っていく……うん、完全にヒロインですね。 新たな嫁!
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