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いつか、どこかで  作者: 眠る人
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幕間

 朝、ボクは従者を一人伴い学院へ向かう為に、学院の隣にある貴族用の寮を出て歩いて行く。寮に入るのは強制ではなく、学院に通う貴族の大半は王都にある別宅から馬車で通っているのだが、ボクは学院時代の父上に習い、寮に入る事を選んだ。


 別宅から通う事も出来るけれど、貴族街と呼ばれる場所は学院から距離があるため、馬車が無ければ安全面での懸念がある。何故貴族が通う学院が貴族街に無いのかと言うと、此処に通うのは貴族だけでは無く、ボク達と違い学費はかかるらしいけれど貴族との繋がりを求める商人の子弟もいるので、貴族とその従者、それと紹介状を持つ商人は立ち入れない貴族街は都合が悪い為らしい。


 ボクは念のため、別宅から毎朝護衛を出して貰っている。治安が悪い訳では無いけれど、誘拐等が無い訳ではないので、それを心配した父上が、ボクが目の前だからと断ったにも関わらず、手配をしたんだ。


 でなければ、別宅から馬車で通う以外認めないらしい。ボクの身体を心配しての事だとも思う。本当なら、多分寮にも入れたくはないのだろう。にもかかわらず、ボクの意思を尊重してくれる父上と母上には感謝しかない。


 まぁ、馬車で通うのは購入や整備、馬の維持費等で諸々の費用が護衛より遥かに掛かるので、ボクには躊躇われたというのも大きかったりする。


 確かに、お金を使う事で経済を回すのは貴族の役割ではあるが・・・。それならば、ボクなんかに使うより領民に還元する形で使って欲しいと思う。

 なんせボク達貴族は、領民あってこそなのだから。


 理由は、他にもあるけど・・・。


「シーホーちゃーん!」


 次々と学院正面の門を出入りする馬車を見送りながら歩き、門を潜る前に従者兼護衛を伯爵家の別宅へ帰らせてから一人で学院の敷地へ足を踏み入れた時、突然後ろから声をかけられ、直後に背後から何者かに抱きつかれる。きっと、護衛が居なくなるのを待っていたのだろう。


 シホ・・・、か。その名前は、確かに以前のボクの名前だ。正しくは、ボク「だった」小さな女の子の、名前だけど。


 二ヶ月程前に初めて話をした翌日から、もう何度も同じ事をされているので誰がやっているかはわかっているけれど、正直やめてほしい。


 彼女のこの行動の所為で、ボクと彼女が恋仲だって変な噂が立っているし、近頃だと略奪愛だとかの話も追加されていて、他人のボクを見る目が好奇に満ちており、居た堪れない。


「姫様、公衆の面前でその様に振る舞われるのは控えて頂けると助かります。それと、何度も説明しておりますが、ボクの名前はディラン、ですよ。」


「えー?妹にやっと会えた姉の楽しみを奪うんですか?こんなに柔らかくて抱き心地もいいのにー。後、私からするとシホちゃんをディランと呼ぶ事の方が、違和感があるんですよ。」


「妹って、今のボクは男として生きているのですが・・・。この間のように二人だけで話をする時は構いません。ですが、人の目がある時は本当に慎んでください。噂になっているので・・・。」


「んー・・・。でも、歩いて通う貴族って、私やシホちゃんぐらいですよ?事実、今だって私達以外は歩いていませんから大丈夫でしょう。噂については、シホちゃんのお兄さんが私の婚約者だって、私自身が言いましたからそのうち変わると思います。」


 話が微妙に食い違っている気がする・・・。馬車からもこうして歩いていると見えるから、やめてほしいのだけど・・・。

 いや、そんな事より最近、三角関係だとかの話が追加されたのって、もしかして姫様自身の所為だったの?兄上がもう暫くしたら王都に来るのに・・・本人の知らない内に、婚約者に祭り上げられちゃってるよ・・・。


「姫様は、ボクが歩いて通っていると知ってからではありませんか。以前は寮から馬車で通われておられましたよね?それと、兄上が知らない所で勝手に巻き込むのはやめてあげてください・・。兄上は、目立つのが苦手なんですから。」


「私はシホちゃんと一緒に登院したいんですよ。私には護衛は必要ありませんし、寮からなら馬車が必要な程距離がある訳でもありませんからね。それと、あの人との婚約については私が勝手に言っている、という訳でもないんですよ。ですが、そうですねぇ・・・。んー・・・、それについては、後で話したいので時間を貰えますか?ちょっと、人に聞かれてはいけない話なので・・・。」


 ボクだって、本当なら記憶の中のねぇさまと全く同じ容姿をもつ姫様とは、昔のように仲良く手を繋いだりしたい。だけど、そうする訳にはいかない理由がある。

 それは、今のボクの生き方だけが原因という訳ではなく、姫様の側にも「とある問題」があるから、だ。


 まぁ、その事については今は置いておこう。それよりも聞かれてはいけない話の方が気になるし。


「わかりました。では、講義の後でもよろしいですか?」


「えぇ。場所は・・・そうですねぇ・・・。寮だと生徒以外の目もあるので、王族が利用する場所に招き入れる訳にはいかないでしょうから、学院の一室を用意させましょう。それで構いませんか?」


「はい。」


「では、まだお話をしていたいとは思いますが、このままでは講義に遅れてしまいますので、参りましょうか。話については準備が出来たら、後で呼びに行きますね。」


「そうですね。それについてはわかりましたので・・・とりあえず、離しては頂けませんか?このままでは歩きにくいです。」


「仕方ありませんね・・・。」


 ボクの言葉に姫様は心の底から残念そうな口調で呟きながら腕の力を緩めたので、漸くボクは拘束から解放される。女性とは言えボクよりも30センチは身長が高い姫様に抱きつかれると、彼女の力の強さもあり全く身動きが取れない上に、正直ちょっと苦しかった。


 そう言えば、あの人も・・・兄上も、ボク達に抱きつかれて居た時、同じ様に苦しかったのかな?

 以前のボクも今と同じで身長は大分低かったけれど、筋力に関しては成人している男性よりは強かった筈だから、無邪気に抱きついてくるボク達の相手をするのは、相当大変だったのでは・・・?


 ・・・いや、今更そんな事を考えても仕方ないのかもしれない。今のボクには、兄上にそんな事をしていい資格がないし、それどころか貴族としての義務も果たせないのだから、こうして学院にまで通わせて貰っている事自体が申し訳なくすら思う。


 それこそ本当に、今更考えた所で仕方がない事、なんだけれどね・・・。


「シホちゃん?どうしました?具合が悪いのですか?」


「いえ、大丈夫です。参りましょう。」


 心配した様子で、ボクに目線を合わせるように屈みながら姫様は問いかけてくるが、体調が悪い訳では無いので問題無い事を伝えて、建物へと二人で向かう。名前は、まぁ・・・いいや。幾ら訂正しても変える気はないようだし。


 そう言えば、兄上は今頃、討伐とやらに出かけている頃なのかな?

 手紙では三月の半ば近くに計画されているとあったから、今頃は無事に終えているのかもしれない。


 そうだ、まだ手紙の返事を書いて居なかったんだ。確か方舟が止まった位置についてと、兄上が鉱石を使った時に現れる鎧の意匠について、だったかな?サリーナはそこまでは思い出せてはいないようだったから、ボクに聞くのは仕方ないかもしれない。自分が頼りにされているんだって考えると、凄く嬉しいな。


 でも、方舟がどういうものかはどうにも説明しづらいし、鎧の意匠も実際見てみないとわからないから、直接会って説明するとだけ書いて返信した方がいいだろう。姫様の事についても、少し説明しにくいし。


 今日の話で姫様が何を話そうとしているのかはわからないけれど、兄上の事についてだろうから、それについては書ける内容なら書いておかないと。



 ちゃんと兄上の役に立てたら、昔名前をちゃんと書けた時みたいに、また喜んでくれるかな?よくやったって頭を撫でてくれる、かな?


 この間は、兄上とねぇさまがイチャイチャしている事に耐えられなくて、挨拶もしないで逃げるようにして王都に戻っちゃったし・・・。


 もっと、話をしていたかったな・・・。次に会えたら、遠慮なんかしないで、一緒に出掛けたりしてみようかな?


 次に会えるのは五月か・・・。兄上・・・、早く会いたいな・・・。


ご意見等がありましたらコメントにてお待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[一言] 文章としては恐らく問題ないですよ~。 ただ、精神的に不安定な様子は伝わってきませんでした……。 それよりも気になる情報がありましたので……。 この「姫様」って人イオリだよね……?
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