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いつか、どこかで  作者: 眠る人
59/86

58 声 2

 それは、聞いた事のない声だった。


 ノアの声とは明らかに違う。女性というよりは、女の子のような幼さの残る声だ。


 誰なんだ?一体、何のために?いや、今はそんな事はいい!


 確かに声は気になるが、核に纏わりついていた管がうねうねと先程の触手のように蠢きだし、その矛先を僕ではなく父達に向けている事が此処からでもわかった。父と核との間は恐らく数メートル程なので、あの位置から襲われると迎撃する暇はないだろう。


「父さん!」


「待て!イーオ!」


 後ろから僕を静止するアルの声が聞こえる中、必死に核の方へと走りながら、父を呼ぶ。

 それと同時に父達も管の動きに反応し核から離れようと動き出すも、アレでは触手の速さを考えると回避は間に合わないように思える。


 だが、僕がこのまま全力で走りさえすれば、父達まで残り5メートル程なので何とか間に割り込めるかもしれない。


 でも、そうすると・・・。

 いや!迷っている猶予はない!やるしかないんだ!


 そう決意を固め、核から離れようとする父達の前に飛び出そうとした時・・・


(お願い!逃げて!貴方が近づいてから、わたしの意思じゃ抑えられないの!)


 何故か、先程よりもハッキリと少女だとわかる声が頭の中に響く。

 逃げろ、だって?父達を見捨てて?


「そんな事、出来る訳がないだろ!」


(ダメっ!)


「イーオ!?」


 そう叫びながら、父達を狙い動き始めた核との間に僕は踊り出る。間一髪、間に合った!


 後は鎧を展開しさえすれば、ある程度の迎撃が出来るだろう。また僕に攻撃が集中するかもしれないが、その時はその時だ。


 そう考え、迫り来る触手を前に鎧を発現させる為、鉱石に意識を集中しようとしたその刹那―――


「この、馬鹿者がー!!」


 突然、怒声と共に横方向から物凄い勢いで吹き飛ばされ、僕は地面を転がる。

 痛いとか感じるよりも先に、何故?という疑問が僕の脳裏に浮かんだ。誰の声だとか確かめるまでもなく、怒声の主が父だとわかっていたから・・・。



 僕の意思とは関係なく何メートルか地面を転がった後、もたつきながらも立ちあがろうとした僕の耳に、悲鳴が聞こえた。


「・・・いやぁぁぁぁ!!!」


「キーースーー!!」


 派手に地面を転がったため酷い頭痛に襲われてはいたが、なんとか声の方向に顔を向けると・・・


 そこには、核から伸びた細い無数の管が、父の身体の至る所を貫いている光景があった。


 その余りの出来事に酷く混乱してしまった為なのだろう。どうなっているのかが理解出来ず父を真っ直ぐに見つめたまま、まるで縛りつけられているかのように動けなくなっている僕の頭に、再度謎の声が響く。



(聞こえていますか!?今ならまだ、間に合います!彼とわたしで抑えている間に早く!)


 間に合う?どういう事?僕に何をしろと?


(貴方がわたしに触れ、その石を使うように止まれと命じてくれさえすれば、この暴走は収まるはずなんです!)


 僕が?キミに触れる?それに、暴走って・・・。


(貴方達が核だと認識しているものがわたしです!さぁ、早く!)


 無理だよ。僕にそんな力はない。


(いいえ!上位権限を付与されている貴方にしか出来ないのです!早くしないと、彼の身体が私を構成する機械達に塗りつぶされてしまいます!)


 権限?なんの事だ?

 それに彼って・・・、まさか、父さんが!?・・・本当に僕にしか、出来ないんだね?


(はい!早く!)


 ・・・わかった!やってみる!


(お願いします!)



 無意識の内に謎の声と頭の中で会話をしていた事に多少の違和感が湧くけれど、その声の必死な様子から今はそんな事に気を取られている時間はないようだ。


 ほかにも色々気になる部分はあるが、父を貫いている触手だけでなく、マーサさん達にも襲い掛かろうとしていたモノまでも眼前で動きを止めている以上、今はあの声を信じてやってみよう。


 微かではあるが希望が湧いた事で気力が戻ったのか、僕はなんとか痛みを堪えながら立ち上がって、言われた通りに核へと近づく。


「イーオ!ダメだ!逃げろ!」


「イーオ君!近づくんじゃない!」


 アルやキランさん達はしきりに僕に逃げるよう伝えてくるが、そんな声を無視して僕は核へと歩み寄ると、その表面に手を置いた。


 ・・・暖かいな。


 核は見た目と違い人の体温のような温もりがあり、少し驚いてしまう。だが、今はそんな事を考えている暇はない。



 確か、命令すればいいんだよね?


(はい。活動を停止しろと命じて下さい。)


 そうすると、キミはどうなるの?


(・・・恐らく、わたしも強制終了すると思います。)


 死ぬって事?


(再起動は出来ると思いますから死ではありませんよ。そんな事はどうでもいいので、早く!わたしは貴方達に危害を加えたくは無いのです!)


 再起動?さっきから意味がわからないんだけど・・・。でも、キミには聞かないといけない事が沢山あるから、僕は違う命令を下す事にするよ!


(えっ?)


 核以外はその動きを止めろ!


 そう強く念じた瞬間、胸に仕舞っていたお守りのある辺りから火傷するかと思うほどの熱を感じ、それと同時に核と半壊した繭が強い光を放つ。


「うわっ!?」


 狭い空間の中に突然とてつもない量の光が溢れた為に僕は思わず目を瞑ると、後ろからキランさん達の驚きが籠った声が聞こえてきたので、どうやら全員が同じような状態になったようだ。


「なんだ!?何が起きている!?」


「イーオ!?これは一体なんなの!?まぶしすぎて何にも見えないよ!」


 これでもし触手達がその活動を止めなかったら、恐らく全滅だろうな。

 ・・・でも、多分大丈夫。


 なんとなくだけど、そう確信出来た。




 時間にすると、10秒程だろうか。


 目蓋を閉じていても感じていた光が、急に収まったらしく恐る恐る目を開き、なんとか目を凝らし核と外殻を確認する。


 一瞬ではあるが強い光にさらされた為にまだハッキリとは見えないものの、父達へと伸びていた細い管がボロボロと砂のように崩れ落ちていくのが見えた。


 どうやら、成功したようだ。


 僕が安堵のため息を漏らすと、後ろからドサリという重い音が聞こえ、音の方へ振り向く。


「父さん!」


 どうやら、父が地面に倒れ込む音だったらしく、振り向いた僕は慌てて父に駆け寄り、怪我の様子を確認する為防具を取り外し、服を脱がせ、怪我の程度を確認する。すると、無数の針に貫かれていたにも関わらず、出血はしていないと分かり、僕はホッと胸を撫で下ろした。


 ・・・しかし、よくよく見ると突き刺さっていたと思われる場所の皮膚が小さく黒く変色しており、まるで父の身体に無数の漆黒の穴が空いているようにも見える。


 もしかして、これは・・・黒化しかけていたのか?


(・・・申し訳、ありません。侵食は止まっていますが、影響は避けられなかったようです。)


「そんな!?父さんはどうなるの!?」


(正直、わかりません・・・。貴方が命令を出した後すぐに接続が切れましたけれど、死は免れたとは思います。)


 死という言葉を聞き、思わず僕は言葉が出なくなる。

 ・・・そうだった。黒化してしまうと生き物としては、絶命してしまう。


 この声の主曰く侵食は止まったらしいけれど、このままの状態はまずいのではないだろうか?


 どうにかして、彼女の言った機械とやらを取り除かないと・・・。


「キミの身体の一部だったんだよね!?どうにか出来ないの!?」


(わたしでは、その影響を取り除く術がありません・・・。もしかすると、貴方なら出来るかもしれませんが、出来なかった場合はこれを作った者でなければ、その跡は消せないでしょう。)


「僕なら消せるかもしれないって事!?やってみる!」


 彼女の発言を聞き、僕は先程核に触れた時のように父に手を当てながら、父の身体から消えるようにと強く念じる。


 だが、先程とは違い光はおろか、何の反応も起こりはしなかった。


「くそっ!どうしてっ!」


(一度細胞と融合してしまうと、権限を持っていたとしても不可能なようですね・・・。幸い、命令は受け付けるようですから、これ以上は進行する事は無いでしょう。)


「さっきからなんなんだ!?命令だとか、権限とか、機械だとかって!僕にもわかるように説明してくれよ!」


(・・・ごめんなさい。てっきり知っているものだとばかり・・・。説明は後で必ず致しますので、今はどうか落ち着いて頂けませんか?)


「この状況で、落ちついていられるかよ!?」


 落ち着けと言われて、落ちつける筈が無いだろう!?どこの誰ともわからない声に冷静な口調で言われた為、つい声を荒げながら、核へと振り向き睨みつける。




「ね、ねぇ、イーオ?さっきから誰と話してるの?それより・・・ねぇ、キースは?キースは大丈夫なの?」


「えっ?」


 訝しむような表情で僕に問いかけるマーサさんの声に、頭にのぼった熱が一気に覚めるのを感じた。


 まさか、この声は僕にしか聞こえていないのか?

 先程はいつの間にか頭の中で自然に会話をしていたけれど、何故突然この声が聞こえるようになったんだ?


(彼が今すぐ命を落とすような事はありませんから、どうか落ち着いて下さい。謝罪は幾らでもします。わたしに協力出来る事だったらなんでも致しますから、お願いします。)


 だが、心を読まれているのとは違う気がする。眉唾物ではあるが第六感とかの話は僕も知ってはいるけれど、本当にそれなら今の僕の思考が読める筈。


 でも、まるで怒鳴られた子供のように、怯えを含んだ言い方で懇願する声の主の様子からして、そういった類いではないのだろう。


「わかった。怒って、ごめん。」


「ね、ねぇ、イーオ・・・本当に大丈夫・・・?」


(ありがとう、ございます・・・。)


 父が倒れた事で、気が動転したと思われているような視線を幾つも受けながら、声の主に返事を返すと、今にも泣き出してしまいそうなくらいか細い声が聞こえた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 機械……だと? まさか……黒化の原因ってナノマシン……? 暴走しちゃった……? 展開が進みそうですね!
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