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いつか、どこかで  作者: 眠る人
58/86

57 声

 アルと共にキランさん達の元へ合流した僕に、父は渋い顔をしながら口を開く。


「イーオ、無茶は余りするものではないぞ。」


「はい・・・。」


「まぁまぁ、貴方もよく一人で無茶をしようとしていたではありませんか。」


「いやニール、だからこそだ。私と同じ事を繰り返して欲しくはないからな。」


「言いたい事はわかりますよ。ですが、今回は彼だけが狙われた時点で私達が助けに入るべきでしたから、彼が悪い訳ではありません。なので、その辺にしてあげてください。」


「兄さんの言う通り、至近距離で攻撃し続ければその矛先がこちらにも分散するかもしれないと判断したのは僕達だし、寧ろ一人でよくやったと褒めるべきじゃないかな?しかもあの状況にも関わらず、攻撃が効いている事にまで気付いたんだからね。。」


「しかしだな・・・。自らを危険に晒す行為は、立場もあるのだから慎まなければならないだろう?」


「それを貴方が言いますか・・・。そのように言うのであれば・・・」


 どうしても僕が引かなかった事に納得のいかない父と、ニールさん達が言い合いを始めてしまい、どう止めたらいいのも分からずアルに肩を借りた状態で呆然としながらその様子を眺めていると、心配そうな表情でマーサさんが僕達に近づいてきた。


「助けに入るのが遅れてごめんね、イーオ。」


「そんな・・・。マーサさん達の援護が無ければ、僕はどうなっていたかわかりませんから、謝らないでください。」


「ううん。もっと早く援護してあげるべきだったのは間違いないから。それより、ケガしたの?」


「大丈夫です。ちょっと音のせいで頭がフラフラしていたので、アルに肩を借りていたんですよ。」


「そっか・・・。なら、よかった。」


「そんな事より、アレは止めなくていいんですか?」


「大丈夫だよ。第一、私が言っても聞かないし。それに、もうそろそろ・・・。」


 僕がチラリと益々過熱する父達の言い争いの様子を見ながら告げると、マーサさんは困ったような表情で軽く首を横に振りながらそう呟く。その時・・・。


「お前達、いい加減にしないか!攻撃はやんだが、まだ奴は完全にはその動きを止めていないんだぞ!」


「・・・ほらね?」


「なるほど・・・。」


 マーサさんが何かを言い掛けた直後、キランさんの怒声が響くと父とニールさんは言い争いを止め、少し気まずそうな表情を浮かべながら黙り込む。


 どうやら、口喧嘩は終わったらしい。


「あの四人って、誰かが言い争いを始めると、必ず誰かが止めに入るからほっといても大丈夫。いつもはキースが止める側なんだけど、今回はイーオ絡みだったから珍しく熱くなっちゃったみたい。」


「そう、ですか。」


「・・・ねぇ、イーオ。キースの事嫌わないであげてね。ああなるのは、キミが大事だからなんだよ。」


「はい。嫌ったりなんて・・・あり得ませんよ。」


「うん!イーオ、ありがとうね!」


 何故かお礼を言われてしまったけれど、僕の返事を聞いて嬉しそうに微笑むマーサさんにその意味を問う事はしなかった。

 多分、僕と父が仲違いする事を心配していた為なのだろうから。




 それから少し経ち、目眩も収まってきたのでアルにお礼を伝えてから、僕は改めて蛹の方へと視線を向けると先程僕が転んだ場所からではわからなかった蛹の状態が、この最初に攻撃を仕掛けた位置からだとよくわかる。


 ・・・確かにこれは、まだ終わってはいないようだ。


 蛹はアルの四度目の攻撃により外殻が半分程吹き飛ばされ、核と思しきモノが半分剥き出しになっていたのだが、それは獣達の核とは比較にならない程大きく、やや暗めな紫色の光を放つ球体で、その表面にはまるで血管のようにも見える脈打つ黒い管が這うように絡みついていた。


「・・・蛹、蛹と言っていたが・・・どちらかと言うと繭だったらしいな。」


「そのようですね。」


 説教を終えたキランさんが、核の様子を観察していた僕と並びながら呟いた言葉に返事を返すと、少し間を置いて再び口を開いた。


「・・・当初、獣達が取り込まれているとの報告を聞いた時は、複数の核を使い巨大な生物を何者かが生み出そうとしているのではと考えた。故に、何度も何度も偵察を出し、その正体を確かめようとしたのだ。」


「そう言う事だったんですね。」


「あぁ、これは伯爵様や、キース、更にシュウ殿にも後から報告を聞いて貰ったが、同様の意見だったよ。・・・しかし、幾ら捜索をしてもその正体は突き止める事は出来なかった。」


 普通であれば、そう考えるのが道理だろう。

 人の黒化の話が本当にあるとしたら、それに関わっていた人間が犯人と言う可能性すらあり得たかもしれない。・・・まぁ、それは流石に飛躍しすぎかもしれないけれど。


 だが、アレを見てしまった今なら、それらは違うと断言出来る。


「見つからないのも当然だな。・・・間違い無く、アレ自体が原因だったからだ。」


「えぇ、僕もそう思います。」


 僕が核を見つめながら返事を返すと、キランさんは僕へと身体を向け、言葉を続けた。


「だが、あの状態ではヤツも攻撃は出来ないだろう。外殻の表面も先程までとは違い動いてはいないようだからな。しかし、念のためイーオ君はタイロンやジーナ、そしてバーナード達と共に、ここで待機していてくれ。」


「狙われたから、ですか?」


「そうだ。突入前、アルが忠告していたにも関わらず、気のせいだと一蹴した事を今は後悔しているよ。すまなかった。」


「いえ、謝らないでください。何より僕自身がアルから警告されたのに、ちゃんと聞いて居ませんでしたし。」


「・・・私も心根がまだまだ未熟、と言う事だ。」


「キランさんが未熟なら、僕は卵ですかね。」


「ふむ・・・。では今度こそ、その金の卵達が傷付かないよう、しっかり守らないといけないな。」


 僕の冗談に、キランさんはニヤリとしながら返すと再び父達の方へ歩いていく。



 それから少しして、僕が合流する前の指示により外に居る兵士を何名か呼びに行っていたタイロンさんが戻ったので、改めて接近して核を調査する事となった。


 実のところ、遠距離から攻撃を仕掛け破壊後に調査する事も提案されたらしいが、これ以上は地盤が破壊されかねないとの懸念から却下になったようだ。


 アレがどういったものかはまだわからないのが不安なところではあるが、そのままにしておくわけにもいかない。


「では、これより核の調査を行う。皆、充分に気をつけろよ。」


 準備が整い、僕とアル、それにタイロンさん達を残し、父やキランさん達は兵士を連れて核に近づいて行く。

 この場に残った僕達は、触手が再び動き出した際に警告と迎撃をする役目だ。


 僕達が見守る中、先程僕が近づいた時よりも父達は繭に近づいたのだが、全く反応を示さない。


「大丈夫みたいだな。」


 いつ襲い掛かられても対処出来るように、アル達は籠手を構えていたのだが、近寄っても動く気配がない為か籠手を繭に向けたままではあるが、アルはやや安堵したような口調で呟く。


 どうやら、アルの言うように大丈夫のようだ。


「そうみたいだね。」


 ・・・げて・・・


 アルの呟きに返事を返した直後、僕のすぐ近くから微かに声が聞こえた気がした。


「アル、僕の後に何か言った?」


「いや?お前が返事をしてからは誰も喋ってないぞ。」


「うーん?」


「それより、こんな会話師匠達に聞かれたら怒られるぞ。まだ気は抜くなよ。」


「う、うん。ごめん。」


 そうだった。どうも僕はさっきまで気を張っていたせいか、緊張感が抜けてしまっているようだ。


 これは、よくない。


 そう思い、気持ちを切り替えようとして頭を振った時―――


 にげて!


 今度は、さっきよりはっきりと聞こえた。一体どこから?

 いや、それよりも・・・逃げてって・・・、そう聞こえなかったか?


 ・・・まさか!?


 唐突に湧いてきた嫌な予感に、僕は思わず核へ向け走り出していた。


 何故かはわからない。

 だけど、その予感はどうやら正しかったらしい。


 僕が走り出した直後、核を前にした父達の背中越しに核の周りを覆っていた管が、突然動き出すのが見えたから・・・。



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― 新着の感想 ―
[一言] 果たして、イーオは守る事が出来るのか!? 次話がどうなるか楽しみです! あと、修正良かったです。 毎度ありがとうございます。
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