54 遭遇
本来なら、前話でここまで書く予定でした。分割になってしまい申し訳ありませんm(_ _)m
奥に進むにつれ、壁から鉱石が露出し始めた為か入り口付近より明るいように感じる。
よくよく考えれば、この鉱石も不可思議な存在だな。
名称については利用させたくない勢力が存在しているようで、その妨害もあってどうやらまだ決まっていないらしい。恐らく、人の意思に反応して様々な超自然現象を引き起こす事について、その原理が未だに不明な為なのだろう。暴発の危険がある為当然と言えば当然なのだが、話によると表立って反対はしていないものの、王家も鉱石の利用には否定的な事も影響しているようだ。
確かに、安定して利用出来ない事は問題だと思う。しかし、使用出来る出来ないの条件についてはシュウさんなりの仮説はあるそうで、その仮説を元に制御装置を作りだしたと言っていた。技師達の間で電気と呼ばれるモノが関わっているのだと説明を受けたけれど、詳しくはわからない。
そう言えば、以前僕のお守りの検証を終えた時、怒りで酷く顔を歪ませながらも小さな声である事を教えてくれた。実のところ、かなりの危険は伴うらしいけれど、現段階でも鉱石を全ての人が扱えるようにする事自体は理論上可能らしい。だが、その方法についてまではその時教えてはくれなかった。
僕自身、彼の表情からも余り深く聞くべきではないと感じたのだけれど、それから暫くしてふとした考えが浮かんだ事で、その方法に思い至る。いや、至ってしまった、と言うべきか。
恐らく、人が鉱石を取り込めば、それが可能なのでは、と・・・。
偶々、動物が黒化するのなら、人もひょっとすると黒化してしまうんじゃないかと思った事が切欠だったけれど、その通りなのではないだろうか。
だとすれば・・・。シュウさんの様子からも黒化したヒトを見た事があるという話になるのだが、それについて尋ねる機会は無く、今に至る。
いや、聞かなくてよかったのかもしれない。黒化した獣を見た直後だから言えるのだろうが、ヒトが鉱石を取り込んだとしてヒトのままで居られるとは、とてもじゃないが思えないからだ。
門外漢の僕がここまで思い付くのだから、もしかすると・・・、既に実験が行われている可能性すらある。今の所想像の域は出ないけれど、もしそんな事が行われているのだとしたら・・・。
背筋が薄ら寒くなるような考えに僕が行き着いた頃、唐突にキランさんが停止を指示する。
どうやら、僕が思考を巡らせている間に深部の手前にまで到達したらしい。幾ら何も起きないからと言って、流石にボーっと考えるのは不味いと思い、とりあえずこの事は心の奥に止めておき、会話に加わった。
「そろそろ最奥だ。何が居るかわからないから、注意して進め。」
「わかりました。ここまで、何もありませんでしたからね。気を引き締めて行きましょう。」
「奴らの目的がわからないからな。念のために確認するが、突入後はすぐさま陣形を組む。イーオ君、私、タイロンを先頭に、マーサやニール、トマスが中衛、残り四人が後衛だ。質問はあるか?」
「奥は広いと聞いていましたけれど、どの程度なのですか?」
鎧を展開している僕に近づくのはかなり危険な為。どれくらい距離を空けられるかを確認しておかなければと思い聞き返すと、キランさんは顎に手を当てながら答える。
「大凡だが・・・、数十メートル四方はあるな。薄々気づいているとは思うが、恐らく自然に作られた空間では無いだろう。」
「そんなに・・・ですか・・・。」
広いとは聞いていたけれど、そこまで巨大な空間があるとは思わずに驚いている僕を他所にキランさんは続けた。
「崩落の心配は無いらしい。報告によれば相当強固な岩盤をくり抜いたような状態だそうだ。」
「では、イーオ君の力でも崩落する心配は無さそうですね。」
「あぁ、以前私が鉱石で仕掛けた時も、壁はビクともしなかったからな。先程のような力だとわからんが、壁を破壊しなければ大丈夫だろう。」
さっきの獣の件は僕の力では無いと思うけれど、そんな事を言っても信じては貰えないだろうと考え、どう返事を返すか悩んでいると、父が突然何かに気付いたような様子で口を開いた。
「・・・そう言えば、キラン。以前匂いで獣を誘き寄せていると言う話を聞いた事があるのだが、今その匂いは漂っているか?」
「ん?あぁ・・・、洞窟の外にまで漏れ出していたあの匂いか。・・・言われてみれば、全く感じられんな。以前ははっきりと、甘い香りがしていたのだが・・・。」
僕もその報告を父と共に聞いていたけれど、匂いの事は今の今まで忘れていた。確か、独特の匂いで動物を操り、鉱石を取り込ませ黒化させた上で、蛹がそれを吸収している・・・だったか?何故そんな回りくどい事をするのだろう?
「となると・・・、猪供が見当たらなかった理由はそれかもしれんな。」
「何が言いたい?」
「もう、誘き寄せる必要がなくなった、とは考えられないだろうか?」
「どう言う事だ?」
「言葉の通りだ。ヤツは黒化した獣を取り込んで居たのだろう?なら、その必要がなくなった。つまり、もう充分に食事を終えた・・・と言う事なのではないか?」
「なんだと・・・。では・・・。」
「あぁ・・・。我々は、間に合わなかったのかもしれん・・・。」
父の推測が正しければ、既に用意が整ったと言う事か?しかし、それでは洞窟の前に獣達が居たのは不自然だと感じ、その事を父に言おうとすると、同じ事を思ったのかキランさんが先に口を開いた。
「ならば、入り口にいた獣達はなんだ?」
「ひょっとして・・・時間稼ぎ、ですか?」
「あぁ、ニールの言う通り、時間稼ぎだと私は思う。理由まではわからんがな。」
「・・・それならば、尚更その正体を確かめる必要があるな。」
「えぇ・・・。ここまで来たのですから、憶測だけで逃げ帰る訳にもいきません。・・・しかし、こうなると相手に知性があるのは明らかでしょう。」
「そうだな。今は状況の確認を最優先にして、先に進もう。だが、各々撤退を意識しながら行動してくれ。キース、後衛にいるお前が危険だと判断したら、即撤退の指示を頼む。本来は私が出すべきだが、先程の例もあるからな。」
キランさんの言葉に全員が頷き、父が短くわかったと返事を返した所で、再び前進を開始する。
相手の目的もその正体も含め、何もかもが不明の為ニールさんの言った通り、尚更確かめるために進まなければならない。
だが頭ではそう思いながらも、言いようのない恐怖と不安に襲われ足が竦みそうになる。しかし、彼女が見ているのだから恥ずかしいところは見せられないと、なんとか自分を奮い立たせつつ、父達の後に続いた。
そして、狭い通路を抜け、違和感を感じる程広い空間に入った僕達の視界に、ソレは現れる。部屋の中央に鎮座しているソレは、高さだけで5メートル以上はあり、想像していたより遥かに大きい。
なにより、光る天井や壁に照らし出さているにも関わらず、獣達と同様にそこだけが黒く塗り潰されたように見えるのに、心臓の鼓動のように定期的に脈打っているのが確認出来る。
とても生物だとは思えないのに、コイツは確実に生きているのだ。
以前、龍のような生き物だとか聞いた気がするけれど、確かに巨大な蛇がトグロを巻いているような姿に見えなくもない。蛹の黒さのせいで正確な形はわからないけれど・・・。
「・・・キースの、言う通りやもしれんな。獣供も見当たらん。」
この空間へ入ってすぐに陣形を整えた後、キランさんが辺りを見回しながら独り言のように呟くと。それを聞いた父は問いかける。
「キラン、以前と違う所はあるか?」
「・・・いや、見た所変化は無いように思うが・・・。」
「我々の考えすぎだったのでしょうか?」
「一体、なんなのだろうな・・・コレは。」
「だが、やるしかあるまい。ここにこんなものが居たのでは、安心して村を離れる事もできん。」
「そうですね。あの村から徒歩でたかだか4、5時間しか離れて居ない以上、いつ被害が出てもおかしくはありません。まずは相手が動かないのであれば、遠距離から仕掛けましょう。」
「そうだな。イーオ君はその場で待機だ。・・・構えっ!」
確かに、一度発現させると効果を切り替えられない僕は、動きがあるまで展開は控えるべきだろう。
今度こそ、冷静に対処しなければ。
そう自分に言い聞かせていると、全員の攻撃準備が整った事を確認したキランさんが戦闘の開始を告げた。
「これより、目標の討伐を開始する!・・・放てっ!」




