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いつか、どこかで  作者: 眠る人
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5 旅立ち

 翌日の朝、僕に朝食を食べさせに来た父へ、自らの決意を伝える。


「ならば、私が旅支度を整えておくから、出発までは気にせずゆっくり休んでいなさい。」


 そう告げる父の表情は、どこか寂しそうに見えた。


 朝食の後暫くすると、昨日居た人達に聞いたのだろう沢山の人達が僕の元へ訪れ、僕が目を覚ました事を喜んでくれる。

 一緒に狩りに行った猟師の人達は一番最初に来て、僕が目を覚ました事を喜んでくれた後で、あの日以降獣達が再び姿を見せるようになったと教えてくれた。


 やはり、あの猪が原因だったのだろうか。


 昼頃になり、訪れる人も一旦落ち着き父が昼食を運んできてくれた時、気になっていた事を父に尋ねてみた。


「父さん、昨日猪が焼け焦げていたって言ったけれど、父さんもあの場所に来たの?」


「いや、頭領達が運んできたものを見ただけだ。真っ黒な猪だったらしいが、私が見た時は黒くはなかった。ただ・・・。」


「真っ黒ではなかった・・・?父さん、他にも何かあったの?」

「調べるために解体をすると、心臓の辺りから真っ黒な石なのか金属なのかわからない物が出てきたんだ。・・・そして、猪の身体は既に腐っていた。私には、ずっと前から死んでいたようにしか見えない状態だったな。」


「本当ですか!?」


「流石に気味が悪かったから、死体は既に燃やしてしまったのだが、間違いはない。頭領達が嘘をついているとは思えないし、お前のその驚きようからも本当なのだろう?それに、私もそう言った類いの生き物を一度見た事がある。」


 あんなものが他にも居るという事を考えただけで、身震いがした。


「どうも変異というより現象に近いものらしいが、私にはなんとも言えないな。昨日言った私の名代と言ったのは他でもない、その事を兄に・・・領主に報告をしてきて欲しいからだ。」


「わかりました。・・・父さん、最初から僕が行く前提で話をしていたんだね。」

「聡いお前なら、理由を話せば必ず行くのはわかっていたからな。」


 流石、僕の父さんだよ。例え血は繋がって居なくても、こんなに僕を理解してくれるのは、父さんしか居ない。

 僕はちゃんと帰ってくるから、そんなに悲しそうな顔をしないで。


 僕が昼食を終えると、父は仕事に戻る。それから暫くして、アルが親父さんを連れてやってきた。


「おじさん、この度は大変ご迷惑をおかけしました。」

「いや、無事に目を覚ましてくれて本当によかった。しかし・・・、本当に見える場所にある傷はもう治っているのだな。」


「・・・はい。」

「いや、すまない。ここに運び込んだ時は、正直ダメかと思っていたから、生きていてくれて嬉しいのだが・・・。あれからたった数日で、ここまで回復するとはな。代官様の言う通り、暫く村から離れた方がいいだろう。」


「僕もそう思います。だから先程、父には行く事を伝えました。」

「そうか・・・寂しくなるな。ワシも詳しく事情を聞いた時は驚いたが、色々納得する部分もあった。アルを村の外に出すのは正直思う所はあるが、冬の間は何もする事はないからな。外を見てくるのもいいだろう。」


「おじさん、僕もちゃんと帰ってきますよ。アル、改めて僕からもお願いするよ。キミが居ると心強いから、一緒に来て欲しい。」


「あぁ、任せろ。親父、済まないが暫く留守にする。」

「イーオ、息子を頼んだぞ。」

「はい!でもこんな状態なので、僕の方がアルの世話になる気がしますけどね。」

「違いない。」


 このやり取りが可笑しくて、つい笑ってしまうと、つられてアル達も笑い出した。


 それから、領主の兵が到着するまでの約1週間、僕は期待と不安を抱えながらベッドの上で過ごす。


 たった1週間で、腕は今まで通り動かせるようになったのだけれど、父とアル以外には黙っていた。これ以上、気味悪がられたくはなかったから。


 出発の日の朝、朝食を取り終えると父が荷物と剣を持って僕の部屋を再び訪れる。


「父さん、それは?」

「これは、私がウィンザー家の者だと言う証の剣だ。私の名代であるという証拠になる。それに領主宛の手紙と、例の猪から出てきた石もここに用意した。これらを持って行きなさい。」


「わかりました。お借りします。」


 父から剣と手紙を渡され、剣を見ると紋章のような物が施されている事に気付いた。これが家紋なのだろう。


「間違っても、その剣を振るおうとはするなよ。儀式用の物だから、簡単に折れるぞ。お前の力は強すぎるしな。」

「は、はい。」


 この間折った剣、父さんの愛用の物だったからな・・・。

 代わりを探さないと。


「猪の脳天を貫通しているのを見た時は、どんな力で突き刺させばこんな事になるのかと、驚いたのだからな?」

「あれは・・・飛び降りながら突き立てたからで・・・。」


「それにしてもだ。幾ら勢いをつけてたとしても、獣の脂肪や頭骨を貫通するなんて普通じゃあり得ない。腐敗はしていたが、完全に腐り切ってはいなかった。結果、その力に勢いがついたせいで、身体が耐えきれずに腕の骨が折れたのだろう。」


 やはり、自分の身体の事は調べた方がいいな。

 よくよく考えると、弓もかなりの数を壊している。ここ何年かで加減出来るようになっていたので、忘れていたけれど。


「まぁ、道中は護衛もいるし、安全だからそんな事は無いだろうがな。」

「はい。」


「おーい!代官様ー!イーオー!何処にいるんだー!?」


 玄関から僕達を呼ぶアルの声が響く。

 どうやら、アルも準備が終わり僕を迎えに来たようだけど、玄関に呼び鈴置いてあるよね?


 父が返事をすると、僕の部屋にアルが入ってくる。


「代官様、さっき馬車が到着して、親父がこっちに兵士を案内してるよ。」

「おぉ、来たか。イーオはもう松葉杖があれば歩けるだろうが、あれから1週間しか経ってないし、村を出るまではこのまま移動させるしかないな。先触れの兵には伝えてあるから、用意をしてこちらに来るはずだ。」


 父の言う通り暫くそのまま待っていると、足音が聞こえてきて数人の兵士と共に一際豪華な鎧を纏い、父と同じぐらいの歳に見える人物が部屋に入ってきた。


「お久しゅうございますキース様。キラン隊、只今到着致しました。」

「久しぶりだなキラン。変わりないようで何よりだ。」


「はっ!キース様も、御壮健で何よりです。して、領主様より護衛するよう仰せつかった御子息と言うのは、其方の方でございますか?」

「キラン、もう私の部下ではないのだから、そんなかしこまった言い方はやめないか?」


 父にキランと呼ばれた人物は、連れて来た兵士に一度家の外で待つように伝え、兵士達が退出すると突然ニヤりと笑い父と向き合った。


「いや、済まない。兵達の手前昔のようにするわけにもいかないんだ。」

「判るが、それなら1人で来ればいいだろう。」


「私も隊を預かる身だから、そう言う訳にもいかないんだよ。それより、彼がキミの息子かい?」

「あぁ、そうだ。」


「そうか。イーオ君だったかな?私はキランと言う、昔キミの父君の部下だった者だ。今回、領主様よりキミの護衛として遣わされた。宜しく頼む。」


 キランさんは僕に向かって手を差し出すが、僕の両腕や足を固定されている状態を見て、しまったという顔をしている。


「初めまして。僕がイーオです。この度はご迷惑をお掛けしますが、宜しくお願いします。手はもう動くので大丈夫ですよ。」


 そう言ってから、握手をする為にキランさんの手を握った。


「どう言う事だ?かなりの重傷と聞いていたのだが?」


 キランさんの疑問は最もで、父は事情を話す事にしたようだ。説明を聞き終えたキランさんは、神妙な顔をしている。


「なるほど、それならここに居る訳にはいかないだろう。にわかには信じがたいが、キースが嘘をつくとは思えないしな。わかった、私からも領主様へ伝令を出しておこう。先に知らせて置いた方がいいだろうから。」


「すまないが、世話になる。」


「気にするな。領主様もかなり心配なさっていたからな。人が乗るための馬車まで用意させたぐらいだ。」


「兄上は家族には甘いから・・・。」

「昔からそうだったな。おっと、済まない。イーオ君、これから馬車に運ぶから、暫く我慢していてくれ。」

「頼んだキラン。」


「任せておけ。・・・そう言えば、もう1人付き添いの者が居ると聞いていたが、そちらのキミの事か?」


「は、はい、猟師の頭領の息子でアルドと言います。」

「そうか、アルド君か。宜しく頼む。」


 流石のアルも緊張しているが、無理もない。話を聞いている限りだとかなり偉い人のようだから。

 一通り話を終え、僕は先程の兵達に運ばれて家の前まで来た馬車に乗せられる。


 アルが僕の荷物を運び込み、アルの荷物も載せて準備は完了した。

 後は、税を乗せる馬車の準備が出来次第、出発となる。


「多少揺れるだろうが、我慢していてくれ。」


 小声でキランさんは僕に伝えて、再び父と話を始めた。


「なぁ、イーオ。」

「どうしたのアル?」


 僕と一緒に馬車に乗せられたアルは、不安そうな表情をしながら僕に尋ねる。


「俺、貴族に会う事になるなんて、思いもしなかった。」

「僕もだよ。」

「大丈夫かな?」


「さぁ?僕にもわからないよ。」

「だよな。」


 そんな僕達の不安を他所に、荷物の積み込みは終わったらしく僕達を乗せた馬車は動き出す。


 寝かされているため、景色もわからない僕と不安げなアルを乗せ、馬車は領主様の居る町へ出発した。


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