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いつか、どこかで  作者: 眠る人
45/86

44 独白

今回ちょっと短いです。

 昼食を摂り終え、もう間もなく出発式が始まるため用意をし、サリーナさんと共に練兵場へと向かう。


 他の来賓については、どうやらマキと話している間に到着したために、僕が呼ばれる事は無かったようだ。

 数時間は話をしていたし、子供とは言え王族の縁者であるマキに呼ばれていたのだから、当然と言えば当然か。

 それに伯爵が言うには、一度ディランのお披露目の際に挨拶をしている貴族ばかりなので、事情を話したため問題はないらしく、失礼にも当たらないから安心していいと言っていた。


 ただ、残り二人の応援については今日の式に間に合わない為、現地にて合流するようで、練兵場に辿り着くや否やその事を聞かされたらしいマーサさんが、開口一番に何故か僕へとその怒りをぶつけてくる。


「ワタシとキースの弟子のお披露目の場なのに!なんで、あの二人は来ないのよ!」


「僕に言われましても・・・。それとやはり、僕は見世物なんですね・・・。この領地とは違って、戦争中の国と接している所から来ると聞いていますから、仕方ないと思いますよ。かなり遠いそうですし。」


「そんなのわかってるよ!でも、折角自慢しようと思ってたんだよ!こうなったら・・・、イーオ!キランなんかボコボコにしちゃいなさい!」


「えぇ・・・?そんな事、僕に出来る筈が無いじゃないですか。キランさんは、父さんと引き分けるぐらいに強いんですよ?」


「大丈夫!ワタシが保証する!イーオの方が間違いなく強いから!後は、その自信がない所さえどうにかなれば、キランなんか足元にも及ばないよ!」


 僕の腰辺りを気合いを入れるかの如くバンバンと叩きながら、大きな声でそう告げるマーサさんに、それを近くで聞いていたキランさんが困っている様子の僕を見兼ね、苦笑いを浮かべながら彼女を諫める。


「幾らマーサと言えど本人を前にして、随分な言い草だな・・・。私は仮にも団を預かっている身なのだから、余りそういう事を大声で言って欲しくはないのだが・・・。しかしまぁ、私から見てもそれが事実だとは思っているから、今日は本気でやらせて貰うとしよう。元より、そのつもりではあるが。」


「お手柔らかにお願いします・・・。」


「キミがそれを言うか・・・。善処はするよ。」


 絶対手加減なんかするつもりはないのだろうな・・・。だって、顔は笑っているけれど、目が真剣そのものだし。


「お、お二方共、あ、余り、無茶な事は、なさらないでください、ね?」


 僕と同じように感じたらしいサリーナさんが、焦ったような口調でそう告げると、キランさんは笑いながら何処かへと歩いていった。


 その後、兵舎の中にいるはずの伯爵の元へと僕達とマーサさんは共に向かう。どうやら父もそこに居るらしく、マーサさんは父と並んで出席するようだ。父も援軍の一員という扱いなのだろうか?




 それから伯爵達と合流をした後少し打ち合わせをし、会場の用意も整ったため来賓を案内しつつ、今回の会場であり普段は練兵場として使われている広場に行くと、そこには騎士団員が整然と並んでいて、いつもとはまるで違う雰囲気に包まれていた。


 今回参加する人数は、村に獣が来ないようにするための後方支援や、洞窟内に余計な獣が入らないよう周辺の警戒の為の人員、その他僕達実行部隊や給仕等等の人員も合わせると、大凡百名程の派兵となる。


 これでも、騎士団全体の人員からすると五分にも満たないらしい。

 その大半は各町の警備等にあてがわれているため、この街を守護している人数からすると三分の一程だそうだが、過去の戦争において派兵した際には、1500程の団員を派遣していたのだとか。


 マーサさん曰く、ウィンザー家騎士団はこの国の中で見た場合、現在はかなり大きな軍事力を持つらしいのだが、それでいて規律が厳しく、領民に対して横柄な態度を取っていたり狼藉を働こうものなら、即処分が下され、除籍や、降格になるとの事だった。

 領民あっての伯爵家だという、現在の伯爵の考えが反映された結果であって、昔からそうだった訳ではないのだと、思わず会場の雰囲気に気圧され立ち止まっていた僕に、そう教えてくれた。どうやら、この人数に驚いているのだと思われたようだ。


「ほらほら、キミは伯爵様の隣ね。ワタシとキースやキランは向かい側にいるから。」


 そう言うと、彼らの眼前にある登壇するための台の後方にある来賓や僕達がかける為に設けられている席を指差すと、団員達から見て、右手に父やキランさんが、左手には伯爵と少し離れて来賓が既に腰掛けていて、どちらにも一つずつ空席がある。

 ・・・どうやら、もう僕達以外は着席しているようだ。


「早く!」


「は、はい。」


 マーサさんに急かされ、僕は慌てて伯爵の隣に腰掛けると、伯爵は笑いそうになるのを堪えながら、小声で僕に話しかけてきた。


「この人数に、驚いたのかい?」


「え、えぇ・・・。」


「その内慣れるよ。・・・イーオがこれからどうするのか、本当はキミに決めさせてあげたかった。でも、私とキースの間で、勝手に決めてしまったんだ。その事は本当に、すまないと思っている。」


 伯爵はこちらには顔を向けずに、真っ直ぐ前を向いたまま突然そんな事を言い出す。


「そんな・・・。謝る必要なんてありませんよ。」


「イーオはそう言うだろうね。・・・人はね環境によって、どう生きるのかが決まってしまう事は、往々にしてある事だとは思う。だが、私は決してそれが全てだとは思わない。・・・だから、イーオ。やりたい事があるのなら、必ず、私に相談しなさい。」


「叔父上・・・?」


 その発言に思わず、ドキリとした。僕が何をしようとしているのかは、わからないのかもしれないが、何かをしようとしている事には気付いているのだろう。


 だが、僕の反応を無視するかのように、伯爵は続けて口を開く。


「私がこれから言う事は独り言だ。・・・恐らくは、今回マキ様がイーオに会いにきた事は、彼女の意思だけではない筈だ。多分、イーオがどういう人間か探る為なのだろう。・・・イーオは、王に託された。そして、私にはどうして託したのか、その理由について伝えられてはいないが、その出自に関して実のところ、心当たりが・・・ある。」


 やはり・・・王家が関わっているのか。だが、続く言葉はどう言う意味なんだろう?

 伯爵の言った心当たりについて、すぐにでも問いかけたかったけれど、今は聞くなと、伯爵の怖い程真剣な表情がそう告げている。そこまで言っておきながら、何故そんな表情をするのか、僕にはどうしても理解出来なかった。



 その発言の後、伯爵は何も言わなくなり、それからすぐにファンさんが式を始める事を伝えに近づいてきた為に、その事について話す訳にもいかなくなる。


 伯爵に開始を伝えたファンさんの号令により、騎士団員全員が一糸乱れずこちらや来賓に向け敬礼をすると、伯爵は立ち上がり登壇したので、これから式が始まるのだろう。


 しかし、僕は先程伯爵が告げた言葉の為に、自分の出番が訪れ名前を呼ばれるまで、暫くの間考え込んでいた。

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