34 一歩前へ
前話を中途半端に更新してしまい申し訳ありませんでした。
現在、内容はちゃんと全文になってますので、お読みでない方は是非そちらからお読みいただければと存じます。
「よくお似合いですわ、お兄様。・・・今回はサリーナに譲りますが、次は私も連れて行ってくださいね。」
サリーナさんの誕生日の前日、僕の正装が出来たとの事で皆へのお披露目も兼ねて試着する。
採寸はしていないのに、大きさは丁度のようだ。どうやら普段着ている服から測ったのもあるようだが、背丈が伯爵とほぼ同じなため特に必要もなかったらしい。
「わかったよ。色々落ちついたらね。」
自分と出かける時が初めて着用する機会ではない事に、リズは最初不満を漏らしていたのだが、伯爵にまだ僕が貴族の一員である事を公表していないのだから仕方がないと諭され、渋々といった様子で納得していた。
噂の事もあるし、リズと二人でそういった場に赴くのは覚悟が必要ではある。
そんな事を考えながらリズへ返事をすると、それを聞いていた伯爵が含み笑いをしながら僕に問いかけてきた。
「イーオ、リズと二人でそういった場に赴くと、自らが婚約者だと証明する事になってしまうけれど、いいのかい?」
「叔父上が今更それを言いますか・・・。」
「なんの事かな?」
着実に外堀を埋められているようにも思えるが、伯爵に悪意はないのだろう。
父の意を汲み、僕が迷わないように順序を追って、段階的に貴族の一員としての意識を持たせようとしているのではないだろうか?
・・・正直、遊ばれている気がしないでもないが。
「アーネスト、キース様もお呼びしたのですよね?」
ノエリアさんは父がこの場に居ない事をアーネストさんに尋ねるのだが、どうやら調査隊の報告が入ったらしく、父はそちらの確認で忙しく行けないと断ったようだ。
「全く、そんなものは後で回せばいいだろうに・・・。一眼見るだけなら1時間とかかる訳でもあるまい。何故あそこまで頑固なのだ。」
「貴方のご兄弟ですし、仕方ありませんよ。」
「私はあそこまでではないぞ・・・。」
どっちもどっちかな。
流石に言わないけれど。
翌日、観劇は夕方からと言う事もあり部屋で一人のんびりとしているとリズとフィーが尋ねてきた。
今日はサリーナさんがお休みなのもあるし、父も報告書から討伐隊の編成や日程を組むらしく、伯爵やキランさん達と会議のため訓練もないので、リズ達と話をしながら午前中を過ごした。
昼食を摂り終え、午後からも特にする事もなかったので、身体が鈍らないよう一人で訓練をする為練兵場へ向かう。
ファンさんはいるものの、アルや父の姿は無く、ファンさんに声をかけてから動きを確かめながら一人剣を振るっていると、突然声をかけられる。
「あ、あの!イーオ様!訓練中、失礼致します!」
声に振り向くと、僕と同世代だと思われる男性が三人立っていた。
「えっと・・・。僕に何か御用でしょうか?」
「はい!宜しければ、剣を教えて頂きたいと思いまして、お声をかけさせて頂きました!・・・実は私達、鉱石を扱えるため、イーオ様と共に討伐に参加する事が決まっているのです。調査隊には選抜されませんでしたが、ご挨拶を兼ねてと思いまして。」
「なるほど、そう言う事でしたか。僕の名前はご存知のようですし、どうか宜しくお願いします。でも、僕に剣を教わりたいと言われましても、僕は人に教えられる程熟達している訳では・・・。」
突然声をかけられた理由はわかったけれど、僕は人に教えられる程ではない。
「貴方様程扱える人物はいらっしゃらないと団長が日々仰っておられますので、稽古の様子を見させて頂くだけでも構いません。申し遅れましたが、私タイロンと申します。」
「私はバーナードと申します。」
「私はジーナです。」
少し、引っかかるような口調でそう告げられたのだが、そんな事より、男性三人かと思ったら一人女性がいる?
そんな風に考えた事が顔に出ていたらしく、ジーナさんは苦笑しながら続けた。
「やはり驚かれますよね。よく言われるんですよ。見た目が男性っぽいと。」
「なんかすみません・・・。」
「大丈夫です。慣れてますから。それより、私達に剣を教えては頂けませんか?不躾な願いだとは存じておりますが、宜しくお願いします。」
うーん、どうしたものか。
人に教えた事なんてないから、どうしたらいいかもわからないし・・・。
そんな風に迷っていると、こちらの様子に気付いたファンさんが近づいて話しかけてくる。
「お前達イーオ様に何か御用なのか?」
「これは副団長。イーオ様に剣を教えて頂きたいとお願いしていた所であります。」
「イーオ様に?なるほど、お前達は討伐隊にも内定しているからな。しかし、その熱意は認めるがイーオ様の訓練の邪魔は良くない。」
タイロンさんの答えにファンさんは納得したような表情になるが、すぐ三人を嗜める。
三人はそれを聞いた三人は残念そうにその場を去ろうとするも、僕は慌てて引き留めた。
「待ってください!邪魔ではありませんよ!教えられる程僕は剣を扱える訳では無いので、迷っていただけです!」
「そうでしたか、困っておられたように見えましたので、私はてっきりお邪魔なのかと・・・。でしたら、この三人を同時に相手をするのは如何ですか?この者達はこう見えて、小隊を預かる身ですので三人同時なら不足は無いと思いますよ。肩を並べる者達を知る機会にもなるでしょう。」
「三人同時・・・ですか?」
「えぇ、私の見立てでは一人一人はあの女中の娘程ではありませんが、将来大きな部隊を率いるに足る者達だと思っています。ですから、お願い出来ませんか?・・・無論、貴方は手を抜いてはなりません。彼らの為にも。」
ファンさんの少し冷ややかな声に、驚いた。
もしかして、前に父とファンさんの会話を聞いていたのがバレていたのか?
最後の方は僕にしか聞こえないよう言っているし。
「わ、わかりました。」
「お前達、イーオ様がお相手してくださるそうだ。よかったな。」
「あ、ありがとうございます!」
三人の嬉しそうな表情とは裏腹に、僕は複雑な心境だった。
何故なら、以前盗み聞きしてしまった内容を思い出してしまっていたから。
僕には訓練中も手を抜いているつもりはない。でも、父やファンさんにそう言われてしまうのであれば、側から見るとそう見えるのだろう。
でも、どうしたらいいのだろうか?よくわからない。
そんな迷いを抱えながら、木剣を構えタイロンさん達と向かい合うが、彼らの構えを見て、三対一なのだから余計な事を考えている余裕は無いと思い、どう対応するかにのみ集中する事にした。
三人ともサリーナさん程では無いが、構えに淀みや迷いがない。気を抜くと、あっさり負けてしまうだろう。そうなっては、ファンさんに認められる事は二度とない気がする。
これからここで生きるなら、それはよくない。
前衛にジーナさん、やや後方にタイロンさんとバーナードさんが控えている所を見ると、連携も訓練しているのだとは察しがつくため、どう崩すかが重要だ。
剣を受け止められると、その時点で詰みとなるので初撃で前衛をねじ伏せ、残り二人を相手にするのが確実に思えるのだが、僕の力では木剣は簡単に折れるだろう。どうするべきか。
・・・そうだ、こういう時に体術を使えばいいのか。父の動きの見よう見真似ではあるが、足払いや手刀で武器を払ったりすればいい。
ぶっつけ本番ではあるが、やってみよう。
考えがまとまった直後、僕が動かない事に痺れを切らしたジーナさんが切り掛かってくる。
僕は剣を受ける事はせず、父の動きを思い出しつつ半身になりながらそれを躱し、すれ違い様に足払いをかけ彼女を転ばせた。
そしてそのまま僕の動きに驚いているタイロンさんの懐に飛び込み、剣を握っている手を捻り上げながら彼を投げると、反応が遅れていたバーナードさんがこちらへ切り掛かってきたので、武器を弾くように切り上げ、彼の胴へと蹴りを放つ。
どれもこれも、父が僕相手に何度もやってきた動きだったので、大体想像通りに実行する事が出来、最後に起き上がろうとしているジーナさんに木剣を突きつけると、ファンさんが声を上げた。
「そこまで!・・・イーオ様、お見事です。よもや、一瞬でカタをつけるとは・・・。」
「打ち合うと僕の力では木剣はすぐ折れてしまいますし、これしか無いかなと思いまして。」
「仰る通りです。それに、タイロン相手の投げはお見事でした。捻りながら投げているので受け身も取れず、まだノビていますよ。」
「副団長・・・バーナードも失神してます。鎧を付けていなければ、骨が折れていたかもしれません。」
「・・・なんか、すみません。」
結局、ジーナさん以外の二人に脱臼と、肋骨にヒビが入るという怪我を負わせてしまった事がその後わかった。
医務室へと運び込まれ、暫くして目を覚まし怪我の程度が判明した二人に謝ったのだが、このくらいの怪我は日常茶飯事だと笑いながら言われてしまい、逆になぜか侮っていた事を謝罪される。
その後、今回の事はファンさんが仕組んだのだと本人の口から告げられ、ファンさんからも謝罪される事になった。
「試すような真似をしてしまい、申し訳ありません。隊長格の中には貴方の力量に疑問を持つ者も多く、特にあの三人に関してはキース様の話を碌に存じ上げないため、態度も目に余るものがありました。そこで、一度痛い目に合わなければわからないと思い、私が彼らを扇動したのです。・・・ですが、貴方は見事にその実力を示され、証明なされました。以前の発言、どうか取り消させて頂きたく存じます。」
まぁ、突然現れてみんなから持ち上げられていたら、それを面白く思わない人もいるだろう。それとやはり、盗み聞きしていたのはバレていたらしい。
「やはり、気づいていたのですか・・・。」
「えぇ、貴方の性格からすると盗み聞きするつもりが無かった事もわかりますから、敢えては言いませんでした。ですが、イーオ様の場合は手加減しながら訓練を行う方が丁度いいのかもしれませんね。バーナードが着けていた鎧の破損具合を見れば分かりますよ・・・。下手をすると死人が出るかもしれません・・・。」
大袈裟だと思わなくもないけれど、確かにまともにあの蹴りが入っていたら、重傷になっていたかもしれない。足の形に凹みが出来ていたからね・・・。手加減の暇がなかったとは言え、少し反省しなければ。
僕の様子に、ファンさんは仕方ないと言わんばかりの顔になるも、すぐに何かを思い出したように表情を変え、僕に用件を伝えた。
「それより、先程アーネスト様が探されておられましたので、至急館にお戻りください。」
「あっ!わかりました!」
気付けばかなり時間が経っていたらしい。
急いで館へと帰る途中、アーネストさんに会ったので謝罪をして支度にかかる。
サリーナさんは自宅に戻っている為、これから手配した馬車で迎えに行く事になっており、その事もあって僕を探していたのだろう。
僕は準備を終えると、到着した馬車に乗り込み彼女の自宅へと向かった。
トレントン商店の前に辿り着くと、店主自ら出迎えてくれた。
「イーオ様、ご無沙汰しております。」
「トレントンさん、お久しぶりです。サリーナさんを迎えに来ました。」
簡単に挨拶を済ませ、サリーナさんが粗相をしないかと心配するトレントンさんに、僕の方が緊張している事を伝える。
すると、トレントンさんは穏やかな表情になりながら、娘を宜しくお願いしますと頭を下げた。
寧ろこちらがお世話になっているのだが、わかりましたとだけ伝えると、満足そうな表情で彼女を呼びに行ったのでその場で待つ。少ししてトレントンさんに手を引かれながら、色々と装飾のついたドレス纏ったサリーナさんが現れる。
「如何ですか・・・?似合いますでしょうか?今日父から頂いた物なのですが・・・。」
恥じらいながら僕に尋ねる彼女の普段と違う姿に、これまでにない程、心臓の鼓動が早くなる。
何時もと違い美しい緑の髪は後ろで纏められ、普段は身につけていない耳飾りをつけている為か、彼女の凛々しい顔立ちも相まって更に大人びて見え、思わず言葉が出なくなってしまう。
「あ、あの・・・イーオさん?そんなに見つめられると恥ずかしいですよ。」
ついつい彼女に見惚れて居ると、じっと見つめられた所為か現れた時よりも顔を赤らめながら、か細い声で抗議された。
「あ、あぁ、ごめん・・・。サリーナさんが凄く・・・綺麗だから、つい・・・。ドレス・・・よく似合ってるよ。」
思わず口をついて出てしまった僕の言葉に、彼女は耳まで真っ赤になりながらも嬉しそうに微笑む。その笑顔がいつもより美しく感じてしまい、痛いくらい僕の心臓の鼓動は早くなってしまった。
「イーオさんもよくお似合いですよ。こうして見ると、やはり貴族なんだなって実感してしまいます。」
「そうかな?僕は僕のままなんだけど・・・。それより、そろそろ行こうか。」
彼女の言葉に少し複雑な気持ちになりながらも手を差し出すと、彼女もそれに応えるように手を重ね、そのまま僕が先導しながら歩く。
そう言ったやり方はリズから昼間に聞いて練習させられていたのだけど、大丈夫だったらしい。
そうして二人で馬車に乗り込むと、劇場へ向かった。
劇場に辿り着くと出迎えがあり、特に何かを提示する事もなく席へと案内される。
だが、席へ向かう途中すれ違う人達に、彼女だけではなく僕まで凄く見られたのは気のせいだろうか?
全体的に加筆修正。
指摘のあった箇所も修正しました。